僕は少し拍子抜けしました。上方修正の中身は、政府から戻ってきた関税でした【ヘレン・オブ・トロイ(HELE)2026年6〜8月期決算】

通期の1株利益の見通しが上がり、手元に残る現金の見通しは4割も引き上げられました。見出しだけ並べれば、立ち直りの決算に見えます。

ところが、引き上げた分の数字を1つずつ割っていくと、ほぼ全部が同じ場所に行き着きました。商品が売れた分ではありません。一度払った関税が、政府から返ってきた分です。

ヘレン・オブ・トロイは、アメリカの家庭用品メーカーです。社名は日本ではほとんど知られていませんが、扱っているブランドは見たことがあるはずです。

💡 水筒のハイドロフラスク(Hydro Flask)、キッチン道具のOXO、登山用ザックのオスプレー(Osprey)、体温計のブラウン(Braun)、加湿器のヴィックス(Vicks)など。いくつものブランドを束ねて、アメリカの大型スーパーやネット通販で売る会社です。

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日足チャート(価格/出来高/RSI(2)/ニュースセンチ/RSランク)。毎日自動更新。

※この記事で扱うのは、2026年10月8日に行われた、ヘレン・オブ・トロイの2027年度 第2四半期(2026年6〜8月期)の決算説明会です。この会社の会計年度は2月末で終わるので、年度の数字は暦年と1年ズレます。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、僕の予測ではありません。この記事の公開時点では、これがこの会社の最新の決算です。

その前に——「関税の還付」は、稼いだお金ではありません

今回の決算は、この一語が分からないと全部が明るく見えてしまいます。

関税は、海外で作った商品をアメリカに持ち込むときに払う税金です。この会社は海外で作った商品を輸入して売っているので、2025年にアメリカがかけた関税を、輸入のたびに払ってきました。そのうち、緊急時の経済権限を根拠にかけられた分(IEEPA関税と呼ばれます)が、払った企業に返されることになりました。

名前に「利益」の響きはありませんが、決算書の上では利益を押し上げる形で入ってきます。だから誤解が起きます。

ふつう、会社の利益は商品を売って、原価と経費を引いた残りです。売れる量が増えるか、1個あたりの儲けが厚くなるかでしか増えません。還付はそのどちらでもありません。過去に出ていったお金が、一度だけ戻ってくるだけです。

日本でいえば、年末調整や確定申告の還付金に近いものです。12月の給与明細で手取りが増えても、それで「昇給した」と考える人はいません。来年の給料は、還付があってもなくても同じだからです。

この会社の場合、通期で戻ってくる関税は総額8,050万ドル(1ドル150円で約121億円)。会社自身も、この分を本業とは分けて開示すると決め、こう念を押しています。

We have not been made whole from the cumulative tariff impacts to our business. (関税が事業に与えてきた累計の打撃を、我々はまだ埋め合わせてもらえていません)

つまり還付は、取られすぎた分の一部が戻っただけで、得をしたわけではない。今回の見通しの引き上げを読むときは、この還付を外した残りが動いたかどうかを見る必要があります。

引き上げられた分を割ると、還付とほぼ同じ大きさでした

会社は今回、見通しを2本立てで出しました。還付を含めた「連結」と、還付を外した「基礎事業(ベース事業)」です。この開示の仕方そのものが、今回はじめてのものです。

💡 調整後1株利益=一時的な損益を除いて会社が自分で整えた1株あたりの利益。会計基準どおりの数字ではありません。この記事の1株利益は、断りがない限りすべてこの調整後の数字です。

並べると、こうなります。

  • 連結の1株利益の見通し:3.60〜4.15ドル(前回 3.25〜3.75ドル)
  • 基礎事業の1株利益の見通し:3.30〜3.70ドル(中央値は3.50ドルで前回と同じ)
  • 還付が1株利益に足す分:0.30〜0.45ドル
  • 通期の売上見通し:17.68億〜18.22億ドル(範囲を狭めただけで、中央値は前回と同じ17.95億ドル)

連結の中央値は0.375ドル上がりました。還付が足す分の中央値も0.375ドル。上がった分は、ほぼそのまま還付です。

還付を外した基礎事業の3.50ドルは、この会社を追っている少数のアナリスト(4人ほど)の予想平均3.55ドルを、わずかに下回っています。次の四半期も同じ形で、基礎事業の1株利益の見通しは1.39〜1.63ドル。中央値1.51ドルは、市場の予想1.66ドルに届いていません。

💡 市場の予想(コンセンサス)=この会社を追っているアナリストたちの予想の平均。今回でいえば、会社は「3.50ドル」を前回から動かさず、周りは3.55ドルを見ていた、の「3.55ドル」のほうです。

現金の見通しも同じ形でした。フリーキャッシュフロー(本業で入った現金から設備投資を引いた、手元に残るお金)の見通しは8,500万〜1億ドルから1.2億〜1.4億ドルへ引き上げ。ただしCFO自身が、借金の返済が予定より進んでいる理由を「強いキャッシュフローと、関税還付による現金の恩恵」と説明しています。

この四半期の明るさも、多くは還付から来ています

2027年度 第2四半期の実績

  • 売上は 4.41億ドル、前年同期の4.32億ドルから +2.1%(前の四半期は+8.2%)
  • 家庭・アウトドア部門は +9.2%、美容・ウェルネス部門は −4.5%(前の四半期は+7%)
  • 粗利率は 52.2%、前年より 8.0ポイント改善
  • 調整後1株利益は 0.79ドル、前年同期の0.59ドルから +33.9%。会社の見通しも上回って着地

💡 粗利率=売上から商品の原価だけを引いた残りが、売上の何%か。今回の52.2%は、100ドル売って約52ドルが原価の外に残った、ということです。値上げや原価の低下で上がり、値引きで下がります。

粗利率の8.0ポイントのうち、約5.6ポイントは関税還付(関税の負担増と相殺した後の正味)によるものだと会社は開示しています。改善の7割は、還付でした。

見出しの明るさを1枚めくると、同じ還付がまた出てくる。僕が拍子抜けしたのは、ここです。

1株利益はどうでしょう。0.79ドルのうち約0.12ドルは、この四半期に戻った還付から再投資に回した分を引いた正味の押し上げだと、会社は試算しています。その試算どおりなら、還付を外した0.67ドルでも前年の0.59ドルは上回っています。ここは正直に、本業の側も前年より良かった、と読むところです。付け加えると、ひとつ前の四半期には物流施設を売った5,500万ドルの売却益(税引前)が会計上の利益に入っていました。本業の外から来たお金が決算の見た目を変える、という点では、直近2四半期は同じ形が続いています。

売上も、値段も、ハイドロフラスクも。3ヶ月前と言葉の向きが変わりました

数字の裏で、経営陣の言い方は3つの場所で一段ずつ下がっています。

売上の達成度。 前の四半期のCEOはこうでした。

Our quarter one sales results came in ahead of our expectations across both our business segments. (第1四半期の売上は、両方の事業部門で我々の想定を上回りました)

今回は、こうです。

Our Q2 sales were in line with our outlook, and our adjusted diluted EPS came in ahead. (第2四半期の売上は見通しどおりで、調整後の希薄化後1株利益は見通しを上回りました)

「両部門とも想定以上」から「見通しどおり」へ。上回ったのは利益だけになりました。

値段。 前の四半期はCEOが、値上げは「市場でおおむね維持されている」と述べ、CFOも「価格の状況には手応えがある」と話していました。今回のCFOはこうです。

We are looking at our price in a few areas to see if we need to recalibrate, and I think we will probably make some adjustments there. (いくつかの領域で、価格を調整し直す必要があるかを見ています。おそらく何らかの修正をすることになると思います)

特にヘアケア家電のレブロン(Revlon)で、価格の見直しを検討していると名指ししました。

水筒。 ここが一番はっきりしていました。3ヶ月前、ハイドロフラスクはスポーツ用品の大手チェーンに売り場を広げている話の中にいました。今回のCFOの言葉はこうです。

The beverage wear category as a whole is a little bit saturated, and we see that environment becoming promotional. (飲料容器のカテゴリー全体がやや飽和していて、値引き合戦の環境になりつつあると見ています)

続けて、店頭に積まれた在庫を減らす調整も要ると言いました。だから下期は値引き合戦にあまり付き合わず、その分、家庭・アウトドア部門の通期売上の見通しを引き下げています。下げた理由を聞かれて「ハイドロフラスクが原因です」と即答しているので、ここは隠していません。

前回いちばん誇っていた血圧計の話が、今回は一度も出てきませんでした

言葉が変わった場所より、言葉が消えた場所のほうが気になりました。

3ヶ月前、この会社がいちばん具体的に誇っていたのは、昨秋から大型スーパーで売り始めた血圧計でした。計画を上回って売れていて、アメリカを本拠とする世界最大のマス小売(食品から日用品まで、何でも安く大量に売る大型チェーン)で、

the only products in the category gaining share (そのカテゴリーで、シェアを伸ばしている唯一の製品)

だと言っていました。範囲はあくまで、その1社の売り場での話です。それでも、この会社が出した中で一番手触りのある材料でした。今回、血圧計にも、このシェアの話にも、一度も触れていません。

ほかにも2つ、具体が抜けています。前回は「ブランド部門ごとの責任者を5人、地域の責任者を3人置いた」と人数つきで語っていた組織の話が、今回は「その役職を埋めていく中で」という言い方になりました。人数は出てきませんでした。まだ埋まりきっていない、と僕は読みます。前回は大手スーパーやスポーツ用品店の名前を挙げて語っていた売り場の拡大も、今回は「売り場の純増」という集計の言葉だけでした。

良くなっているのは、お金の出入りの側です

ここまで暗い話を続けましたが、本当に前に進んでいる場所もあります。どれも売上ではなく、財布の中身のほうです。

借金は、この四半期末で6.73億ドル(1ドル150円で約1,010億円)。1年前より2.21億ドル減りました。借金の重さを測る比率(純レバレッジ)は、前の四半期末の3.5倍から3.0倍へ下がり、今期末までに2.7倍以下にすると言っています。会社はこれを「何四半期も続いている借金減らしの流れ」と表現しています。

💡 純レバレッジ=借金から手元の現金を引いた額が、本業で1年に稼ぐ現金の何年分にあたるか。3倍なら「本業の稼ぎ3年分の借金」。小さいほど身軽です。

倉庫の中身も軽くなっています。在庫は4.80億ドルで前年より4,900万ドル少なく、動きのある在庫(アクティブ在庫)が占める割合は上期だけで7ポイント上がりました(通期では12ポイントを目指すと、今回はじめて目標を置きました)。ただしこの改善には、動きの遅い在庫を値引きで処分した分が入っていると、会社自身が書き添えています。

本業の中にも、明るい場所はあります。家庭・アウトドア部門は2四半期続けて3ブランドそろって伸び、オスプレーが今期も伸びを引っぱりました。海外売上の伸びも+1.1%から+3.7%へ上がり、オーストラリアでは新しい販売代理店と組みました。

美容部門の底はいつか。3社が聞いて、時期は返ってきませんでした

質疑応答は4社のアナリストから7問。そのうち美容・ウェルネス部門がいつ安定して伸びるのかを、3社が別々に聞いています。

CEOの答えは、人・戦略・新製品の前倒し・販路の4点を挙げたうえで「どれも作っている最中です」。そして、こう言いました。

we definitely want to do better with our beauty business, but we expect this year to continue to be a challenging business. (美容の事業はもっと良くしたいと強く思っていますが、今年は引き続き厳しい事業になると見ています)

いつ底を打つのか、と直接聞かれても、時期は出てきませんでした。CFOは店頭の販売データには改善の兆しがあると話していますが、数字は付いていません。

家庭・アウトドア部門の伸びが、新しい売り場・新製品・海外のどこから来ているのかと聞かれたCFOは、「分けた数字を持っているか分かりません」と答えています。いちばん伸びている部門の、伸びた理由の内訳が出ていないことになります。

還付の使い道には、珍しく数字が出ました。通期で戻る8,050万ドルのうち、6,650万〜7,050万ドルを再投資に回す。そのうち今期中に効果が出る分は約25%で、残りは「すぐには効かない土台づくりと長期の投資」だとCFOは説明しています。目線は、来期(2028年度)に置かれています。

次の決算で、何を見るか

今回のヘレン・オブ・トロイは、外から入ってきたお金で数字が明るくなり、その間に借金を返し、倉庫を片づけ、本業の立て直しを来期に向けて仕込んでいる、という四半期でした。片づけは進んでいて、本業の言葉は一段下がっています。

次の決算説明会(2027年1月ごろの見込み)で見るのは、還付が終わった後に残るものです。「本業の言葉は一段下がった」という今回の読みが外れるのは、たとえばこういうときです。

  • 還付を外した基礎事業の1株利益の見通し(3.30〜3.70ドル)が、引き上げられる
  • 美容・ウェルネス部門の通期売上の見通し(9.17億〜9.46億ドル)が据え置かれたうえで、立ち直りの時期が数字つきで語られる
  • 今回消えた血圧計の売り場の話や、責任者の人数の話が、具体つきで戻ってくる

反対に、基礎事業や美容の見通しがまた引き下げられれば、今回の読みは数字のほうでも裏づけられます。片づけは別の物差しで見ます。2.7倍以下の借金比率とアクティブ在庫の12ポイント改善は今期末(2027年2月)の目標なので、次回の説明会では途中経過を見ます。借金比率が3.0倍から下がり続けていて、在庫の改善幅が上期の7ポイントから積み上がっていれば、約束どおりに進んでいることになります。

還付は次の四半期で残り5,180万ドルが入り、そこで一巡します。そのあとに見えてくる本業の素顔を、僕は3ヶ月後の説明会で確かめます。決算は一回読んで終わりではなく、次の回と並べたときに意味が出るので、毎回の説明会を読み続けています。


※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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この記事を書いた人

圧倒的な熱量で世界の相場を毎日14時間以上監視している専業トレーダーです。トレード、バックテスト、調査で得た学びを初心者の方にもわかりやすく発信しています。