日本で売っている、あのピンク色の容器の万能クリーナー。「ザ・ピンクスタッフ」を持っている会社の話です。
その会社が、6〜8月期として売上も利益も過去最高を出しました。売上は22.2億ドル(1ドル150円で約3,330億円)、前年同期比+4.8%です。それなのに、決算説明会の言葉は3ヶ月前よりはっきり下を向いていました。
会社の名前はRPMインターナショナル。さび止め塗料のラストオリウム、コーキング材のDAP、下塗り材のジンサーといった家庭向けのブランドと、学校や病院、データセンターの屋根・防水・床といった建物向けの材料を、両方作っています。
日足チャート(価格/出来高/RSI(2)/ニュースセンチ/RSランク)。毎日自動更新。
※この記事で扱うのは、2026年10月6日に行われた、2026年6〜8月期(同社の会計年度では2027年度の第1四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、僕の予測ではありません。次回の決算日は会社の発表待ちです。
💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストに向けて説明し、質問に答える電話会議。発言はそのまま記録に残ります。
その前に——塗料の会社にとって「石油が上がる」とは、どういうことでしょう
塗料や防水材と聞くと、化学の会社というより「ペンキ屋さん」を思い浮かべるかもしれません。でも中身は、石油からできた原料をたくさん買って、混ぜて、缶に詰めて売る商売です。
なので、石油や化学原料の値段が上がると、まず原価が上がります。会社は値上げで追いかけますが、値上げは店や顧客との交渉が要るので、いつも少し遅れます。
もう一つ、時間差を生む仕組みがあります。
💡FIFO(先入れ先出し)=先に仕入れた原料から順に使ったとみなす会計のやり方。高く仕入れた原料の影響が、数ヶ月遅れて損益に出てきます。
日本の家計で言えば、ガソリン代が上がった月より、少し後で家計簿がじわじわ苦しくなる感じに近いです。
この会社の今回の決算は、ほぼ全部がこの「追いかけっこ」の話でした。3ヶ月前、会社は「値上げで追いつける」と言っていました。今回、その言い方が変わりました。
「取り戻せる」が、「通年で圧迫される」に変わりました
3ヶ月前、経営陣は粗利率についてこう約束していました。
3ヶ月前:「年度が進むにつれて、消費者向けを含む値上げが、第1四半期に失った粗利率を取り戻すと見ています」
今回:「すべてのセグメントで追加の値上げを実施しました。このインフレを相殺する助けにはなりますが、通年で粗利率は圧迫されることになります」
「取り戻す」から「圧迫される」へ。向きが反対になっています。
💡セグメント=会社が決算で分けて報告する事業部門のこと。
💡粗利率=売ったお金のうち、原料や製造の原価を引いて残る割合。今回は前年同期より1ポイント(100bp)下がりました。
原因は原料の見通しです。
3ヶ月前:「第2四半期のインフレは、6〜8%に達する可能性があります」
今回:「第2四半期のインフレは9〜11%と見ています。前回の6〜8%から引き上げました。第3四半期は7〜9%を見込んでいます」
3ヶ月前は「ピークからは下がってきた」「下半期には落ち着く」と言っていました。今回は「ここ数ヶ月の石油などの上昇が続いたことで、ほかの原料でもインフレの見通しが上がった」。落ち着くはずの山が、もう一段高くなりました。
供給の話も同じ向きです。3ヶ月前は「調達チームが別の供給元を見つけて、影響を抑えた」。今回は、ポリオール(防水材やシーリング材の原料)の不足が「想定より大きくなり、売上を押し下げた」と認めています。
建物向けの事業が、買収を除くと減っていました
この会社でいちばん大きいのは、建物向けの材料の部門です。3ヶ月前、この部門はこう語られていました。
3ヶ月前:「建設製品の部門の売上は、コンクリート混和剤を先頭に、幅広く強く、過去最高になりました」
今回:「建設製品の部門の売上は、CalZip(建物向けの材料の会社)の買収によって増えました。買収を除くと、売上は減少しました。教育と医療の市場の減速を反映しています」
教育と医療は、この部門の4分の1超を占める市場です。会長兼CEOのフランク・サリバンは数量について「この数年で初めて、建設製品の部門で小幅なマイナス」と言いました。理由として挙げたのは、学校の予算が州や自治体のレベルで遅れていること、そして屋根の事業と施工の事業で受注残が縮んでいることです。
💡買収を除いた(オーガニック)成長=その期に買った会社の売上を足さずに比べた伸び。買収で増えた分は「中身が伸びた」とは数えません。
💡受注残(バックログ)=受注したけれど、まだ工事や出荷が終わっていない仕事の量。これが縮むと、数ヶ月先の売上が細ります。
通年見通しは引き下げ——内訳は「当て推量」
通年の見通しは引き下げられました。
- 売上:前回「+3〜7%」→ 今回「1桁台半ばの成長」に狭める
- 調整後EBITDA:前回「+5〜10%」→ 今回「1桁台半ばの成長」
- 次の四半期(9〜11月):売上もEBITDAも「1桁台前半〜半ば」の伸び(3ヶ月前は「全セグメントが1桁台半ばで伸びる」と言っていた)
💡ガイダンス=会社が自分で出す業績予想。
💡調整後EBITDA=利息・税金・減価償却などを足し戻し、会社が一時的と考える項目を除いた利益(non-GAAP)。会計基準どおりの利益とは別物です。
EBITDAの見通しは、レンジの中心で見ると約7.5%から約5%へ下がった計算です。質疑でアナリストの一人が「中心値でおよそ2,500万ドル(1ドル150円で約38億円)下げたのでは」と聞き、CEOはその数字を否定しませんでした。ただ、内訳を聞かれた答えはこうです。
「ちょっとした当て推量(a little bit of a swag)です」
続けて「通年の見通しの作り方として、いま出せるのはこれが精一杯だと思います」。正直な答えではあります。ただ、何がどれだけ下がったのかは、最後まで出てきませんでした。
引き下げた後の水準は、市場の予想とほぼ並ぶところです。予想を上回る方向の修正は、今回どこにもありません。
3ヶ月前に数字つきで語ったことが、今回は出てきません
言い方が変わっただけではありません。前の四半期に具体的に語っていたことが、今回は消えていました。
1つ目は、記録の連続です。 3ヶ月前はこう言っていました。
「この第4四半期は、直近18四半期のうち16回目の、調整後EBITの過去最高です」
今回も「第1四半期として過去最高」とは言っています。消えたのは、何四半期続いているかを数えて見せる言い方です。
2つ目は、社内の改善プログラムの数字です。 3ヶ月前は「620人を育成した」「3,000万ドルを超える追加の削減の候補がある」と人数と金額で語っていました。今回は、このプログラムそのものが一度も出てきません。
3つ目は、データセンターです。 3ヶ月前は「データセンターは明らかにリストの先頭にある」「会社全体の1〜2%」と、規模まで説明していました。今回は準備された原稿に無く、質問への答えの中で「データセンター建設の恩恵はまだ受けている」と一言あっただけです。
4つ目は、計画の名前です。 3ヶ月前は「新しいMAP 3.0の、手付金のようなもの」と呼んでいた計画が、今回は「MAP 2030」に変わりました。中身の説明は、11月9日の投資家向け説明会に回されています。
「いつ戻るか」を5人が聞き、数字は最後まで出ませんでした
質疑応答の中心は、ほぼ1つでした。建設製品の部門の落ち込みは、いつ戻るのか。 これを5人の別々のアナリストが、角度を変えて聞いています。
答えは毎回、「一時的」「春以降」でした。CEOは「この秋に動きが見えなければ、来年の春まで活動として出てこない」と言い、学校の予算は「この選挙のサイクルを過ぎれば、おそらく解放される」と見ています。どれくらいの案件が、どの地域で、受注残のどこにあったのかを踏み込んで聞かれると、答えは「簡単に言えば、すべてイエスです。競争上の詳細は出さずに」。数字は出ませんでした。
価格の弱さと次の四半期の粗利率を正面から聞いた質問にも、答えは工場の稼働と移行のコストの話にとどまり、価格にもマージンの幅にも触れていません。いくつかの答えは、11月9日の説明会に先送りされています。
一方で、数字を下から支えたものもあります。
- 建設製品の部門の増収はCalZipの買収だけ。欧州の伸びも、会社自身が「主に買収による」と説明
- 会社が負担する医療費(処方薬のコスト)が下がり、本業の外の費用が軽くなった
- 自社株買いと配当で9,050万ドル(前年同期比+10.2%)を株主に戻している。株数が減れば、一株利益は押し上がります
- 原料不足で出せなかった分の積み残しを、次の四半期に取り戻す。運賃の追加料金は、会社自身が「一時的」と言っている
逆向きの一時的なものもありました。欧州の1事業の閉鎖に絡む保証費用と、防衛関連の顧客の倒産による貸し倒れです。貸し倒れについては「かなりの額を取り戻せる機会がある」と言っていますが、金額は出していません。
売上22.2億ドル(前年同期比+4.8%)と、調整後の一株利益1.98ドル(前年同期比+5.3%、non-GAAP)が「過去最高」なのは事実です。ただ売上の伸び4.8%のうち、買収を除いた伸びは3.1%。その上、利益には、買収と費用の削減と株数の減少も入っています。どれがいくらかは、説明会では分けられていません。
家庭用は数量で伸びた。ただCEOは「需要は良くなっていない」
悪い話だけ並べると、この会社の半分しか書いていないことになります。
家庭向けの事業は、久しぶりに数量で伸びました。 消費者向けの部門の売上は過去最高で、買収を除いても+5.2%。CEOは「この数四半期で初めて、数量も、買収を除いた売上もプラスになった」と言いました。3ヶ月前は「数量が2〜3%のマイナス」でした。中身は、研磨材や下塗り材、カー用品店での棚の獲得、食品スーパーやネット通販といった新しい売り場です。棚の拡大は次の四半期も続くと言っています。
ただし、CEOは同じ答えの中でこうも言っています。
「大きく見れば、その下にある需要の状況は、正直に言って良くなっていません」
店の来客も住宅の売買も戻っていない。伸びたのは、取り合いに勝った分です。ここを自分から言うところに、僕は好感を持ちました。
新興国が、着実に大きくなっています。 中東・アフリカ・アジア太平洋・南米をまとめた部門は20%を超える伸びで、CEOによれば「2年近く、売上も利益も高い2桁で伸びている」。全社の売上に占める割合は、5年前の5%弱から、この四半期は8%になりました。ただ、今期から南米の事業もこの括りに加わっているので、伸び率には範囲が広がった分が含まれます。
借金が減っています。 総債務は2億6,300万ドル減り、有利子負債はEBITDAの「2倍を大きく下回る」水準。手元の流動性は約12億ドルです。
💡有利子負債がEBITDAの2倍未満=借金を、本業で稼ぐ利益の2年分弱で返せる計算。借金の重さを測る代表的な目安です。
原料と学校予算——どちらも会社の外で決まっています
今回の決算を動かしたのは、この会社の外側にあるものでした。
石油と原料の値段。 塗料も防水材も、原料の多くは石油からできています。ここ数ヶ月の石油と運賃の上昇、そして中東の情勢が、そのまま原価に乗りました。値上げは次の四半期に2.5〜3.5%を見込み、CEOは「第1四半期はドル単位でインフレを相殺した。第2四半期はもう少し良くなるだろう」と言っています。前回のインフレ局面では、最初から最後まで通すと粗利率は改善した、とも。ただそれは、インフレが「来春か、1年後か」のどこかで下がることが前提です。
学校と病院の予算。 建物向けの事業の顧客は、学校・病院・データセンターなどの施主です。屋根の改修や防水は、予算がつかなければ始まりません。会社自身も、建設製品の部門が買収を除いてプラスに戻るのは「年度の終わりごろ」、つまり来年の春と見ています。
どちらも、会社の努力で動かせる種類のものではありません。だから経営陣の答えに「当て推量」という言葉が出てくるのだと思います。
次の決算で、何を見れば僕の読みが外れていたと分かるか
今回の読みは「過去最高の数字の下で、原料と建物の需要の両方が向かい風に変わった四半期」です。外れていたと分かる形を書いておきます。
- 次の四半期の原料インフレの実績が、会社の見通し(9〜11%)を下回る
- 建設製品の部門が、会社の言う「年度の終わり」より前に、買収を除いてプラスに戻る
- 通年の見通しが、「1桁台半ば」から再び引き上げられる
逆に、悪い方へ外れる形もあります。次の四半期の「1桁台前半〜半ば」のEBITDA成長に届かないこと、あるいは学校と病院の回復が「春」よりさらに後ろへずれることです。
もう1つ、11月9日の投資家向け説明会があります。今回先送りされた見通しの内訳、MAP 2030の中身、閉鎖する事業の詳細は、そこで出てくるはずです。11月9日に内訳が出なければ、それも書きます。
ここに書いたのは、2026年10月6日の説明会までに分かっていることです。原料の値段も、学校の予算も、まだ動きます。
「過去最高」という言葉は、決算の見出しに必ず残ります。でも同じ説明会の中で、3ヶ月前の約束が反対向きに言い直されていることは、見出しには出てきません。この会社がその約束をどこまで取り戻すのか、次の回も前の回と突き合わせて読みます。
※この記事は、決算説明会の原文をAIで読み解いて書き、複数の検査(事実照合・表現・法務)を通したうえで公開しています。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。