僕がいちばん引っかかったのは、売上ではなく「いつ」が消えたことでした【スティッチ・フィックス(SFIX)2026年5〜7月期決算】

体型が変わって、服を一から買い直す人がアメリカで増えています。肥満症の治療にも使われるようになった薬、GLP-1の広がりが背景にあります。

💡GLP-1=もともと糖尿病の治療に使われてきた薬の種類。体重が大きく減ることがあるため、肥満症の治療にも使われるようになりました。

その需要を、自社の顧客の声で語れる会社があります。スタイリストが選んだ服を箱に詰めて自宅へ送る、アメリカのスティッチ・フィックスです。今回の決算説明会では、新しく入ってきた顧客の20%が「体型が変わっていくので、スタイリングの手助けがほしい」と答えたと明かしました。

ただ、この決算で僕の手が止まったのは、そこではありませんでした。3ヶ月前に経営陣が自分で置いた「期限」が、今回は静かに外されていたからです。

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日足チャート(価格/出来高/RSI(2)/ニュースセンチ/RSランク)。毎日自動更新。

※この記事で扱うのは、2026年9月23日に行われた、2026年5〜7月期(同社の会計年度では2026年度の第4四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、僕の予測ではありません。次回の決算は2026年12月3日の予定です。

💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストに向けて説明し、質問に答える電話会議。発言はそのまま記録に残ります。

その前に——箱で服が届く会社の売上は、「人数×1人あたり」でできています

「ネット通販の服屋さん」と思われがちですが、少し違います。客が商品を選ぶのではなく、スタイリストが客の好みやサイズを聞いて選び、箱に詰めて送ってきます。同社はこの箱を「fix(フィックス)」と呼んでいます。箱とは別に、自分で選んで買う売り場もあり、こちらは「フリースタイル」です。

普通の服屋さんは、店に来た人に売ります。この会社は、登録している顧客との付き合いそのものが商売です。だから売上は、ほぼ2つの数字の掛け算で決まります。

  • アクティブ顧客数=直近1年のあいだに買い物をした顧客の数
  • 1人あたりの売上=その顧客1人が1年間に落とすお金(同社は RPAC と呼んでいます)

日本で近いのは、スポーツジムです。会員の人数と、1人が払う月会費と追加のレッスン代。会費を上げても、会員が減っていけば、いずれ売上は頭打ちになります。

実際に掛けてみると、今回の数字は1人あたり592ドル×アクティブ顧客227.7万人で約13.5億ドル。通期の売上13.5億ドルとほぼ一致します。

この記事の結論は、この掛け算の片方だけが伸びているということです。1人あたりは記録を更新し続けています。人数のほうが、減りました。

3ヶ月前に置いた「2027年度」という期限が、今回は「将来」になりました

3ヶ月前の決算説明会では、経営陣は人数が戻る時期をはっきり言っていました。

3ヶ月前:「私たちの目標は変わらず、2027年度に顧客数の前年比成長へ戻ることです。今回の結果とガイダンスは、そこへ向けた明確な前進を、おおむね示しています」
今回:「将来、アクティブ顧客の成長に戻れる力については、引き続き自信を持っています」

「2027年度」が「将来」に置き換わりました。同社の2027年度は、もう始まっています。しかもこの言葉は、証券会社のアナリストに「年度内にアクティブ顧客の成長に戻る、という確信は変わりましたか」と名指しで聞かれた答えです。期限は再確認されませんでした。

同じ答えの中で、最高経営責任者(CEO)はこうも言っています。

「この半年、消費者への逆風が強まり続けていなければ、実はもうアクティブ顧客の成長に戻れていたはずだと考えています」

仮定の話で、原因は外にある、という言い方です。「何が必要か」という質問の後半には、答えていません。

背景の数字も、3ヶ月で向きが変わりました。前の四半期、アクティブ顧客は約230万人(会社は四捨五入した数字で話しています)で、前の四半期から2万1,000人増えていました。経営陣はそれを「変革の旅路における重要な節目」と呼んでいます。今回は227.7万人、前年比でも前の四半期比でも1.4%の減少です。理由は「新しい顧客を獲得するコストが上がり、想定より弱かった」と説明されました。

💡顧客獲得コスト=新しい顧客を1人連れてくるのにかかる広告費など。ネットの広告枠の値段が上がると、同じ予算で連れてこられる人数が減ります。

自分たちのことを語る言葉も、変わっています。

3ヶ月前:「私たちのモデルは強靭で、差別化されており、景気の不確実性と変化の大きい消費環境を乗り切るのに、他にない形で備えています」
今回:「消費環境が厳しいときに市場を上回るのに、とても良い位置にいます。同時に、消費環境が極端に厳しくなれば、私たちも無傷ではいられません」

「他にない形で備えている」から「無傷ではいられない」へ。財務責任者も今回は、ガソリン価格、インフレ、再び上がる住宅ローン金利、極めて低い消費者心理を並べて、「どれもが苦しい消費者を指している」と言い切りました。3ヶ月前の同じ人は「マクロの逆風があるとすれば、顧客獲得コストが少し上がっているかもしれない」と、二重に留保をつけて話していました。言い方の確かさが増したのは、悪い側の話です。

3ヶ月前に出していた数字が、あと2つ消えています

期限だけではありません。前の四半期にこの会社がいちばん具体的に語っていた数字が、今回は出てきませんでした。

1つ目は、AI機能「Vision」の効果です。

💡Vision=AIを使って、一人ひとりに合わせたコーディネートの画像を見せる機能。同社がいま最も力を入れている新機能の一つです。

使った顧客がどれだけ多く買うようになったか。その言い方が、こう変わりました。

3ヶ月前:「Visionを使った顧客では、90日間のフリースタイルでの支出に、引き続き100%を超える押し上げが見られます」
今回:「Visionを使った顧客では、90日間のフリースタイルでの支出に、引き続き大きな押し上げが見られます」

「100%超」が「大きな」になりました。質疑で浸透率と売上への影響の比率を聞かれたときも、数字は出ていません。「採用は、正直に言って期待を上回り続けています」「支出の伸びは引き続き安定しています」と言ったうえで、出てきたのは「サービス開始以来、2,200万枚を超える画像を顧客と共有した」という累計の枚数でした。枚数は増える一方の数字で、売上とは結びついていません。

2つ目は、新規顧客の伸びです。

3ヶ月前:「新規顧客は3四半期連続で伸び、第3四半期は前年比で10%を超える増加でした。新規顧客のLTVは11四半期連続で前年を上回り、3年前のほぼ2倍です」
今回:「新規顧客と男性のアクティブ顧客は、2026年度を通して前年比で伸びました」

LTVは、1人の顧客が付き合いの全期間でその会社に落とすお金の見込みのことです。四半期の伸び率と、LTVの連続記録が消えて、「年度を通して」という一年分まとめた言い方に変わりました。一年分にまとめれば、最後の四半期が弱くても「伸びた」と言えます。

同じ形がもう一つあります。売上から変動費を引いた利益率について、前の四半期は「9四半期連続」と回数まで数えていました。今回は「通年で30%超を維持」です。

第4四半期は、人数が減って、1人あたりが伸びた形でした

実績です。

  • 売上 3億2,440万ドル(前年同期比 +4.2%・6四半期連続の増収)
  • アクティブ顧客 227.7万人(前年比・前の四半期比ともに −1.4%)
  • 1人あたりの売上 592ドル(前年比 +7.8%・3四半期連続で過去最高)
  • 調整後EBITDA 1,080万ドル(売上比3.3%・前年比+0.5ポイント)

💡調整後EBITDA=本業のもうけを見るために、会社が定めた方法で利息・税金・減価償却などを除いた利益(non-GAAP=会計基準どおりの数字ではありません)。

592ドルは、1ドル150円で約8万9,000円。1人の顧客が1年でこれだけ買っている計算です。1回あたりの注文額も前年比+4.9%で、箱に入る点数と1点あたりの値段は、どちらも8四半期連続で伸びています。粗利率は43.6%で前年並みでした。

通期では、売上13.5億ドル(+6.4%)。最終損益は1,260万ドルの赤字(1株あたり−0.09ドル)です。手元の現金と投資は2億2,090万ドルで、借金はありません。

人数が1.4%減り、1人あたりが7.8%伸びて、売上が4.2%増えた。掛け算の形がそのまま出ています。

来期の見通しは、前年の実績にも、市場の予想にも届きません

2027年度(2026年8月〜2027年7月ごろ)の見通しは、こうです。

  • 売上 13.1億〜13.6億ドル(1ドル150円で約1,965億〜2,040億円)
  • 調整後EBITDA 2,700万〜4,200万ドル
  • 粗利率 43〜44%

💡ガイダンス=会社が自分で出す業績予想。
💡コンセンサス=その会社を調べているアナリストたちの予想の平均。

売上の中心は13.35億ドル。2026年度の実績13.5億ドルを下回ります。つまり会社の真ん中の見立ては、減収です。市場の予想は約14.1億ドル(通期予想を出している5人の平均)でした。中心の値は、それより約5%低い位置にあります。

利益の側はもっと大きく下がります。2026年度の調整後EBITDAは、会社の開示で約5,340万ドル(売上の約4%)。来期の中心は3,450万ドルで、約35%の減少です。

ここには会社の選択も入っています。広告費を売上の10〜11%へ増やし(2026年度は9〜10%)、AIへの投資も足すと説明しました。財務責任者は「その追加投資を除けば、EBITDAの利益率の見通しは昨年の4%前後とかなり近い水準だった」と言っています。利益の減少の一部は、自分で選んだものです。

ただ、売上の見通しが市場の予想を下回っていることは、この説明では埋まりません。 理由について、財務責任者はこう話しました。

「こうした高いコストは、2027年度の顧客数の伸びにとって逆風で、売上の伸びを抑えると見ています」
「弱かった顧客数は、通期の売上に積み重なって効いてきます」

原文は「compounding effect」。複利のように効く、という言い方です。掛け算の片方が減ると、その影響は1年かけて広がっていく、と会社自身が言っています。

3ヶ月前は逆でした。そのとき会社は「売上とEBITDAのレンジを狭め、どちらも中心の値を引き上げる」と言っていました。見通しの向きが、1四半期で反対になっています。

同じ質問が4回来て、答えは数字になりませんでした

質疑応答の最初の質問は、顧客獲得コストの上昇と広告の増額についてでした。答えは「広告の面では、まだ自分たちが決めた許容範囲(guardrails)の中に収まっていると、とても安心しています」。コストがどれだけ上がったのか、1人の顧客から回収できる額と比べてどうなのか、数字は出ていません。この「消費者の悪化と獲得コスト」の論点を、4つの証券会社が別々に聞きました。 4社目は「ここ数四半期より少し目立つように見えます。いつからその変化が起きたのか」とまで聞いています。同じ論点が4回聞かれるのは、まだ解けていないという意味です。

第4四半期の売上にも、前倒しが入っていました。会社は、本来は2027年度の第1四半期に送るはずだった箱の一部を、第4四半期に送るよう出荷のタイミングを変えています。財務責任者自身が「これらの要因を調整すれば、第4四半期の売上の伸びはおおむね2〜3%の範囲だった」と言いました。報告された+4.2%のうち、実力は2〜3%です。

逆向きの一時要因もあります。8月に、注文を終えた後の画面の流れを意図せず変えてしまい、次の箱を頼める顧客が限られた不具合です。会社は修正済みで、影響は第1四半期だけだと言っています。前倒しとこの不具合の2つで、第1四半期は押し下げられます。

では、それぞれいくらなのか。証券会社がはっきり「それぞれの売上への影響を数字で示し、両方を除いた第1四半期の伸び率を教えてほしい」と聞きました。答えは「そこから具体的な数字を逆算していただけるはずです」。金額は出ていません。別の証券会社が「第1四半期の売上は、通期の見通しどおりに進んでいるのか、保守的に見積もっているのか」と重ねて聞いたときも、CEOの答えは「10月の売上の伸びは、第2〜第4四半期の想定にずっと近くなると見ている」まででした。

第4四半期の調整後EBITDAが見通しを上回った理由も、会社は「主に固定的な営業費用が少なかったため」と説明しています。需要が強かったからではありません。

それでも、確かに伸び続けているもの

この会社には、顧客数とは関係なく続いている強さがあります。

残った顧客の離れにくさは、上がり続けています。 顧客の継続率は8四半期連続で前の四半期より改善し、ほぼ4年ぶりの高い水準を3期連続で更新しました。ただし、率そのものは開示されていません。

売れているものも、はっきりしています。 アクティブウェアとアスレジャー(運動着をふだん着として着る服)は前年比+21%、靴は+14%。男性向けは5四半期連続で2桁成長です。2026年度に入ってから、ビルケンシュトックやメレル、ナイキゴルフ、ジョーダンブランドなど80を超えるブランドを新しく扱い始めました。業界の調査データでは、アメリカの服・靴・アクセサリー市場は同じ期間ほぼ横ばいで、同社の伸びはそれを上回っています。

1人あたりを伸ばす余地については、枠組みで答えています。 CEOによれば、同社の顧客が服にかけるお金のうち、同社の取り分は次の小売店のおよそ2倍。それでも「天井に達するまでに、3〜4倍まで増やせる余地がある」と言います。

そして冒頭の話です。GLP-1で体型が変わっていく顧客に向けて、変化の段階ごとの服を詰めた専用の箱を用意し、スタイリスト全員にその支援の研修をしていると説明しました。新規顧客の20%が体型の変化に伴うスタイリングの手助けを求めていて、会社はこれを、アメリカの世論調査で示されたGLP-1の服用率の「ほぼ2倍」だと言っています。体型が変わるたびに、客が自分で何着も試すのは大変です。誰かに選んでもらう形の商売にとって、この需要は筋がいい。

なぜ、いまこの会社で「人数」と「1人あたり」が逆に動いているのか。入口と中で、別のことが起きているからだと僕は見ています。広告で新しい人を連れてくる費用が上がり、入口が細くなった。一方で、すでにいる顧客は離れにくくなり、1回の箱で買う量も値段も上がっている。入口の問題と、中にいる人の満足は、別々に起きています。 GLP-1の需要は入口を広げる材料になりえますが、今回の説明会では、それが売上の何%に当たるのか、金額では語られていません。

人数が戻れば、僕の読みは外れです

今回の僕の読みは、「中にいる顧客は強いが、入口が細くなっていて、会社自身もいつ戻るかを言えなくなった」です。これが間違っていたと分かるのは、次のような場合です。

  1. 2026年8〜10月期に、アクティブ顧客が前の四半期比でプラスに転じる
  2. 2027年度の売上見通しが、13.6億ドル以上に引き上げられる
  3. 「将来」が、また具体的な年度に戻る

逆に、読みより悪い方へ進むのは、8〜10月期の売上が会社の見通し(3億2,300万〜3億2,800万ドル)に届かない場合や、アクティブ顧客が227.7万人をさらに割り込む場合です。

もうひとつ、僕が個人的に待っているものがあります。Visionの「100%超」が、また数字で戻ってくるかどうか。3ヶ月前に自分から出した数字は、良いときにはまた出てきます。

ここに書いたのは、2026年9月23日の説明会までに分かっていることだけです。10月の売上の伸びがどうだったかは、まだ誰にも見えていません。

1人あたりが伸びる会社は、強い会社です。それでも人数が減り続ければ、掛け算は止まります。経営陣が「2027年度」を「将来」に言い換えた理由が、一時的な逆風なのか、入口そのものの変化なのか。答えは次の四半期の人数に出ます。この会社については、その回を待っています。


※この記事は、決算説明会の原文をAIで読み解いて書き、複数の検査(事実照合・表現・法務)を通したうえで公開しています。

※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。医薬品の効能・安全性を保証するものでもありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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この記事を書いた人

圧倒的な熱量で世界の相場を毎日14時間以上監視している専業トレーダーです。トレード、バックテスト、調査で得た学びを初心者の方にもわかりやすく発信しています。