3ヶ月前、この会社の経営陣は「Simply put, we’re growing(要するに、私たちは伸びています)」と言っていました。
今回、その言葉は出てきませんでした。代わりに出てきたのは「国内事業は私たちの想定を下回りました」です。
アメリカ・メキシコ・ブラジルに8,000店を超える店を持つ、オートゾーンという自動車部品の小売チェーンの話です。
日足チャート(価格/出来高/RSI(2)/ニュースセンチ/RSランク)。毎日自動更新。
※この記事で扱うのは、2026年9月22日に行われた、2026年5〜8月期(同社の会計年度では2026年度の第4四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、僕の予測ではありません。次回の決算日は会社の発表待ちです。
💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストに向けて説明し、質問に答える電話会議。発言はそのまま記録に残ります。
その前に——部品屋には、お客さんが2種類います
日本でいうと、オートバックスやイエローハットに近い店です。ワイパーやバッテリー、オイルを、車の持ち主が自分で買っていく。アメリカではこれを「DIY(Do It Yourself=自分でやる)」と呼びます。
ただ、この会社の売上にはもう1種類のお客さんがいます。町の整備工場です。工場は修理を受けたその日に部品が要るので、近くの部品屋に電話して、届けてもらいます。こちらは「DIFM(Do It For Me=やってもらう)」、会社の言葉ではコマーシャル(業者向け)と呼ばれます。国内の部品売上のうち34%がこちらです。
この2つは、伸びる理由がまったく違います。DIYは、家計に余裕がある人が自分で手を動かすかどうかで決まります。業者向けは、頼んだ部品が何時間で届くかで決まります。工場にとっては、部品を待っている間リフトに載ったままの車は、1円も稼ぎません。
だからこの会社は、メガハブと呼ぶ大型店を増やしています。
💡メガハブ=通常の店よりはるかに多くの品目を置く大型の在庫拠点。周りの普通の店や整備工場に、在庫を素早く回す役目を持ちます。
今回の決算は、この2種類のお客さんで、はっきり明暗が分かれました。そして、伸びている側の伸び方も、3ヶ月前より遅くなっていました。
売上は+5.6%、一株利益は+15.1%でした
まず実績です。
- 売上 66億ドル(前年同期比 +5.6%)。1ドル150円で約9,900億円
- 一株利益 56.05ドル(前年同期比 +15.1%)
- 業者向けの国内売上 19億ドル(+8.6%)
- 国内の既存店売上 +1.6%。うちDIYは −0.6%
💡既存店売上=1年以上営業している店だけで比べた売上の伸び。新しく開いた店のぶんを除くので、「同じ店で、前より売れたか」が分かります。
通年では売上203億ドル(+7.4%)、一株利益152.55ドル(+5.3%)。利益の伸びだけ見れば、この四半期は通年のほぼ3倍の勢いです。
ただ、この+15.1%は、中身を分けると話が変わります。
+15%の中身を分けると、追い風が4つ並んでいました
会社は、この四半期の利益に乗った特殊な項目を、自分から並べて説明しています。
ひとつ目は、関税の還付です。裁判で無効になった関税が企業に戻り始めていて、この会社の場合、この四半期に 9,600万ドル(約144億円)、一株あたり 4.43ドル の押し上げになりました。会社自身が「還付の大半はこの第4四半期に入った」と言い、来年度は「その恩恵を一巡させる」前提で、もう特記事項にはならないと話しています。
ふたつ目は、在庫の会計処理の差です。
💡LIFO(後入れ先出し)=在庫の原価を「最後に仕入れた値段」から計上する会計のやり方。仕入れ値が上がる時期は、それだけで原価が膨らみ、利益が減ります。現金は出ていきません。
この費用が、前年の同じ四半期は8,000万ドル、今回は1,500万ドルでした。前年が重かったぶん、今年は比べるだけで良く見えます。会社はこの差を除いた数字も出していて、営業利益(EBIT)は+4.4%、一株利益は+8.5%です(会計基準とは別に、会社が補足として示した数字です)。しかもこの+8.5%は、LIFOの差を除いただけで、関税の還付はまだ中に入ったままです。
みっつ目は、為替です。メキシコ・ペソがドルに対して約9%上がり、売上に7,000万ドル、一株利益に0.87ドルの追い風でした。海外の既存店売上は見かけ上+10.7%ですが、通貨の影響を除くと+1.3%です。
最後に、自社株買い。この四半期だけで6億9,700万ドル、年間で20億ドルを使い、株数は前年より3.3%減っています。利益の総額が同じでも、一株あたりの数字は株数が減るぶん大きくなります。
一つひとつは、隠された話ではありません。全部、会社が自分の口で説明しています。ただ、全部を足すと、+15.1%という見出しの数字は、商品が前より売れたぶんだけを表してはいません。 売れたぶんは、その一部です。
3ヶ月前の「伸びています」が、今回は出てきませんでした
数字の正体を分けたうえで、言葉を前の四半期と並べます。ここがいちばん変わっていました。
全体の伸びについて。
3ヶ月前:「売上の伸びは+8.4%で、2023年度第2四半期以来の大きさでした。要するに、私たちは伸びています」
今回:「総売上の伸びは+5.6%でした。第3四半期のペースよりは遅い伸びでしたが、四半期が進むにつれて勢いがついたと感じています」
業者向けについて。
3ヶ月前:「業者向けの売上が二桁成長したことを報告できてうれしく思います。この好調は続くと考えています。第4四半期は前年の数字が高く、比較が厳しくなりますが」
3ヶ月前の国内の業者向けは+10.4%。今回は+8.6%です。会社は前回、比較が厳しくなることまで承知のうえで「続く」と言っていましたが、二桁は切れました。
DIYについて。 ここは向きが逆になりました。
3ヶ月前:「国内のDIYの既存店売上は堅調で、+2.2%。第2四半期の+1.5%から加速しています」
今回:「国内のDIYの既存店売上は0.6%減少しました」「国内事業は私たちの想定を下回りました。その主な原因は、四半期の大半にわたるDIYの不振です」
3ヶ月前は「夏は平年並みか、平年より暑くなると見ていて、それは私たちにとって良い材料です」とも言っていました。今回は「四半期の前半は気温が穏やかだったことが、確実に影響しました」。前回の前提が外れたことを、自分で認めています。
新しく開いた店について。 小さな変化ですが、同じ向きです。
3ヶ月前:「売上の結果は、私たちの想定を上回っています」
今回:「売上と営業利益は、想定をわずかに上回っています」
3ヶ月前に二度言った「二桁成長」が、今回は消えていました
言い方が変わっただけではありません。前の四半期には具体的に言っていたことが、今回は出てきませんでした。
ひとつは、全国チェーンの大口顧客です。整備工場には、町の個人経営の工場と、全国に店を持つチェーンの2種類があります。3ヶ月前、会社は「町の工場も全国チェーンも、どちらも二桁成長しました」と言い、別の質問への答えでも全国チェーン向けの事業が「かなり力強く伸びている」と重ねていました。
今回、全国チェーン向けが二桁伸びたという話は出てきません。出てきたのは「事業の両方の区分に、シェアを取る機会があります。町の工場向けの事業は、明らかに伸ばしてきました」。伸びたという実績の話が、機会がある、という話に置き換わりました。
僕が少しがっかりしたのは、利益の伸びではなく、3ヶ月前に二度言った「二桁」が、今回は一度も出てこなかったことのほうです。
もうひとつは、出店の目標です。3ヶ月前は「2028年度に向けて言っていた目標の、ほぼ半分まで来ています」と言っていました。今回、その目標は初めて下がりました。
「2028年度の目標を、約500店から430店に引き下げます。海外の出店がそれほど多くならない見込みだからです。具体的には、ブラジルでの拡大のペースを落とします」
3ヶ月前の時点では、ブラジルの減速には一言も触れていませんでした。
来年度の見通しは、3ヶ月前の予告より低いところに置かれました
3ヶ月前、経営陣はこう言っていました。
「(それが)非常に力強い2027年度への、とても良い準備になります。そのことは第4四半期の説明会で、もう少しお話しします」
その「もう少し」が、今回の見通しです。
「国内の既存店売上は、横ばいから低い一桁の伸びを見込んでいます。客単価の約4%の伸びがその原動力です」
見通しを引っ張るのは、客単価だと言っています。
💡客単価=お客さん1回あたりの支払額。部品の値上がりがそのまま押し上げます。
客単価が4%伸びて、既存店の売上は横ばいから低い一桁。単純に引き算すると、来店の件数は来年度も減る前提に読めます。「非常に力強い」と予告した年の見通しとしては、控えめです。
市場の側は、来年度の売上をおよそ220億ドル、今年度から+8%台の伸びで見ています。会社は来年度の売上全体の数字を出していませんが、内訳(国内の既存店は横ばい〜低い一桁、業者向けは一桁後半から二桁前半、新店は約400店)を見る限り、会社はその水準を上回ると主張してはいません。
💡コンセンサス=その会社を調べているアナリストたちの予想の平均。会社が自分で出す見通しが前回より上がっても、周りが最初からもっと高く見ていれば、物足りない数字になります。
そのうえ、来年度の最初の四半期には、逆風も先に告げています。LIFOの費用が約4,000万ドル(一株あたり約1.85ドル)、税率は今回の20.3%から約22.7%へ上がる想定です。関税の還付は、もう乗りません。
DIYの客足がいつ戻るか、何度聞かれても数字は出ませんでした
質疑応答で、複数の証券会社のアナリストが、角度を変えて同じことを聞いています。DIYの来店件数の落ち込みは、いつ止まるのか。
会社自身の説明では、DIYの来店件数は5%を超えて減っています。この業界で普通なのは、マイナス1〜3%程度です。経営陣は「この業界では典型的ではない」と認め、「より通常の水準に戻っていくと考えています」と答えました。ただ、悪化しているのかどうか、いつ戻るのかは、質問が重なっても一度も数字では答えていません。財務責任者は、DIYのお客さんは燃料費を中心にかなり大きなインフレに直面していると話し、戻るのはインフレが落ち着き消費者心理が良くなったとき、という趣旨の説明をしています。回復の条件が、会社の外側にあります。
もうひとつ、答えなかった質問があります。ここ2年、会社は出店とメガハブへの投資を加速してきました。あるアナリストが、その投資のリターンを数字で示せるか、業界には既存店売上でこの会社を大きく上回っている同業がいる、と正面から聞きました。
「私たちの既存店売上が、望んでいたほど高くなかったことには同意します」
そう認めたうえで、示されたのは新店の計画の数字でした。1店あたり約290万ドルを投じ、初年度の売上が約170万ドル、4年目の終わりに投下資本利益率が約15%、6年目に売上が約270万ドルになる、というモデルです。同業との差がなぜ開いたのか、投資がすでにどれだけ返ってきたのかは、語られていません。
💡投下資本利益率(ROIC)=事業に投じたお金に対して、毎年どれだけの利益が返ってくるかの割合。会社は全社でこれを「30%台半ば」に保つと言いつつ、「近い時期は、出店を加速したことで圧迫されている」とも認めています。
経費の面でも、売上に対する販管費(店の人件費や家賃など、売るためにかかる経費)の比率は1.01ポイント悪化しました。その経費がどの売上水準で吸収できる設計なのかを問われた場面でも、数字は出ていません。
メガハブにつながった拠点は、16%多く売っていました
メガハブの効き目が、初めて数字で出てきました。
「メガハブ網とつながっている業者向けのプログラムは約2,000あります。これらのプログラムは、チェーン内の残りのプログラムより、年間で16%多く売っています」
同じ会社の中で、メガハブ網につながっているかどうかで、16%の差が出ている、ということです。
💡プログラム=この会社が業者向けに配達のサービスを行っている拠点のこと。いま6,443あり、国内の店の94%に置かれています。
メガハブは今回16店増えて172店。来年度は40店を超えて開き、3年で約300店を目指しています。在庫の近さが売上の差になっていることを、会社が自分の数字で示したのは、この回が初めてです。
四半期の終わりに向かって、勢いは戻っています。 会社によると、DIYの客足の落ち込みは四半期の後半、とくに8月に改善しました(最後の月に暑くなって夏物が戻った面もある、と会社は言っています)。業者向けも、四半期の終わりには「9%を十分に上回る」ペースで、それが続くと見ています。
現金はよく生まれています。 この四半期のフリーキャッシュフローは6億8,400万ドルで、前年の5億1,100万ドルから増えました。年間の設備投資を前年より1億6,900万ドル増やしたうえで、年間のフリーキャッシュフローは約18億ドルとほぼ横ばいを保っています。
💡フリーキャッシュフロー=本業で入ってきた現金から、店や設備への投資を引いて、手元に残る現金。
そして、経営陣は自分の不振を言い訳で包みませんでした。シェアに満足しているかと聞かれて、最高経営責任者(CEO)の答えは「答えはノーです。私たちは決して満足しません」。国内事業が想定を下回ったことも、同業に既存店売上で負けていることも、自分の口で認めています。
還付もペソ高もない四半期で、何が残るか
今回の読みは、こうです。業者向けとメガハブという柱は立っている。でも伸びる速さは落ちていて、DIYの回復は会社の外の条件待ち。そして+15%の利益の大半は、来年度には乗らない追い風だった。
これが違っていたと分かるのは、次の2つのどちらかです。
- 次の四半期で、国内DIYの既存店が再びプラスで着地し、業者向けが会社の言う「9%を十分に上回る」ペースを保つ
- 業者向けプログラム1つあたりの週の売上(今回+2.7%・前の四半期は+4.5%)の伸びが、減速をやめて上向く
逆に、DIYがまたマイナスで、業者向けが9%を割り込むようなら、四半期の終わりに「勢いがついた」という今回の言葉そのものが崩れます。
僕がいちばん確かめたいのは、もっと単純なことです。還付も、前年の重いLIFOも、ペソ高もない四半期で、この会社の一株利益はどれだけ伸びるのか。 来年度の最初の回が、その最初の答えになります。
ここに書いたのは、2026年9月22日の説明会までに分かっていることです。DIYのお客さんの財布も、燃料の値段も、来年度の天気も、まだ動きます。
利益が15%伸びた決算と、言葉が3ヶ月で一段下がった決算は、同じ1枚の紙に並んで出てきます。どちらがこの会社の本当の姿に近いのかは、1回では決まりません。来年度の最初の回が出たら、同じ物差しで並べ直します。
※この記事は、決算説明会の原文をAIで読み解いて書き、複数の検査(事実照合・表現・法務)を通したうえで公開しています。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。