エヌビディア(NVIDIA)が、1年先の売上の見通しを数字で示しました。これまでやってこなかったことです。ジェンスン・ファンCEO自身が、コールの中でこう言っています。
「我々は通期を予想したことも、ガイドしたこともありません」
その会社が、今回は「来年度の売上は、およそ70%伸びる」と言い切りました。市場のプロが見ていた予想を、2割ほど上回る水準です。
ただ、同じ日に、下がった数字と、消えた数字もありました。そこまで含めて見ておきたい決算です。
日足チャート(価格/出来高/RSI(2)/ニュースセンチ/RSランク)。毎日自動更新。
※以下で扱うのは、2026年8月26日に発表された四半期決算です(Hugging Faceの節だけは、9月の正式発表まで反映しています)。会社の開示と決算説明会での発言に基づく事実で、僕の予測ではありません。
💡NVIDIAの会計年度は1月末で終わります。だから会社が言う「2028年度」は、ほぼ2027年の1年間にあたります。ニュースで年がずれて見えるのは、このためです。
まず、上がったほう
言葉の変化が、はっきりしていました。
- 次世代品「Vera Rubin」:前の四半期は「出荷開始に向けて予定通り」→ 今回は「今月、量産出荷を開始した。すでに主要なハイパースケーラー全社から発注を受けている」
- 新型の「LPX」:前の四半期は「当面はニッチな製品だろう。顧客数は多くない」→ 今回は「フル生産に入り、すでに記録を更新している」
- AWS:前の四半期は「今年から100万個以上を追加」→ 今回は「さらに200万個を、今四半期から」
- 当四半期の売上は960億ドルで前年比2倍超。伸びは4四半期連続で加速
💡ハイパースケーラー=世界規模で巨大データセンターを運営する、ごく少数の巨大IT企業のことです。
面白いのは、70%という数字が、需要の上限ではないことです。経営陣の説明はこうでした。
「顧客の予測を積み上げると、来年の成長は倍になります。ただ、供給の制約があるので、約70%の成長を見込みます」
売れないのではなく、作れない。だから70%だ、と。
同じ日に、粗利の見通しは下げられました
ここからが、もう半分です。
前の四半期、会社は粗利率について「通期で70%台半ばを見込む」と言っていました。今回、こうなりました。
「多くの方が粗利率を懸念されています。本日、期待値をリセットします」
新しい見通しは、第3四半期が74%、第4四半期に71〜72%で底を打ち、来年度は72〜73%。従来の想定より、はっきり低い水準です。
💡粗利率=売上のうち、原価を引いたあとに残る割合。ここが下がると、同じ額を売っても手元に残る利益は減ります。
理由は、メモリの価格高騰です。そして経営陣は、こう認めました。
「価格上昇の大きさは、当社の従来の想定を超えており、来年に向けてさらに上がる見込みです」
自分たちの読みが外れた、と言っています。 ここは誠実でした。しかも質問される前に、自分から数字つきで出しています。「未解決の問いとして放置するのではなく、率直に申し上げたい」と前置きして。
結果として、質疑応答で粗利率についての質問は1本も出ませんでした。
その前に——「循環取引」と呼ばれるものが、なぜ問題になるのか
ここから先を読むために、ひとつだけ言葉の準備をさせてください。
「循環取引」というと、不正のような響きがありますが、ここで話題になっているのはもっと単純な形です。お金が、ぐるっと回って戻ってくるという話です。
普通、売上は「他人のお金」で立ちます。お客さんが自分で稼いだお金で、商品を買う。 これが健全な状態です。
ところが、売り手が、買い手にお金を出すことがあります。出資したり、借入の保証をしたり。すると、そのお金で自社の製品が買われます。売上は確かに立ちますが、その元手は自分が出したものです。
パン屋にたとえます。隣に開店するカフェに、パン屋が開業資金を貸したとします。カフェは毎朝、そのパン屋からパンを仕入れてくれる。パンは本当に売れているし、カフェにもお客さんは来ています。 それでも、もしカフェの経営が傾けば、パン屋は売上と、貸したお金の両方を同時に失います。
だから投資家は、売上を見るときに分けて考えたがります。その売上は、外から来たお金で立ったのか。それとも、自分が出したお金が戻ってきたのか。
来期の売上の4分の1について、経営陣は先回りで弁明しました
今回のコールで、経営陣はこう言いました。質問される前に、自分からです。
「これを循環取引と呼ぶ人もいるだろうと、我々は承知しています。我々は違う見方をしています」/「我々のリスクは限定的です」
その上で、こう認めています。
「自社のバランスシートを活用することになるAI研究所からの需要が、来年のビジネスのおよそ4分の1を占めると見込んでいます」
数字も出ています。フロンティアAI研究所には、すでに約500億ドル(1ドル150円で約7兆5,000億円)を投資済み。加えて、約2ギガワット分の計算資源について、信用の裏付けを提供する予定だとしています。
会社の言い分も、公平に書いておきます。 出荷する計算資源は「投資適格の顧客か、その裏付けのある顧客に消費される」ので、リスクは限られている——これが経営陣の説明です。加えて、アポロ、ブラックロック、ブラックストーン、ブルックフィールド、ゴールドマン・サックス、KKRという6社と組み、5,000億ドル超の第三者資本を調達する枠組みも作っています。自分のお金だけで回しているわけではない、という主張です。
どちらが正しいかは、僕には断言できません。 ただ、経営陣が質問される前に弁明したという事実は、この論点の重さを物語っています。
答えなかったことと、消えた数字
質疑応答の冒頭、最初の質問はこれでした。「70%という数字の中身と、その確信の根拠を教えてください」。
答えは、すべて定性的なものでした。「必要とされる計算量は途方もない」「上流と下流の両方で、以前よりずっと見通しが利く」。受注残の金額も、製品別の内訳も、出てきませんでした。
💡受注残=もう注文は受けているが、まだ届けていない分の金額です。将来の売上の「予約分」にあたります。
そして同じ論点を、3人のアナリストが別々に聞いています。それでも、こうです。
- 「供給の制約がなければ何%成長するのか」→「かなり高いだろう」(数字なし)
- 「70%のうち、値上げの寄与は何%か」→ 触れられず
- 「制約要因(電力・メモリ・製造)を、影響の大きい順に並べてほしい」→「面白いことが言えるんですが、やめておきます」→「答えは、サプライチェーン全体が逼迫している、です」
- 「来年度のキャッシュの支出額はいくらか」→ 金額の回答なし
質疑応答は、8問で終了しました。
さらに、前の四半期には出ていたのに、今回は出てこなかった数字があります。
エッジ向けの売上(前回は64億ドル)と、その中の個人向け製品についての説明、ウーバーとの自動運転の話、フリーキャッシュフローの実額(前回は490億ドル)。そして、前回まで掲げていた「3年で1兆ドル」という枠も、説明から消えました。あるアナリストが「以前の見通しと突き合わせると2,000億ドルほど増える計算になる」と橋渡しを求めましたが、数字での回答はありませんでした。
💡エッジ向けの売上=データセンター以外の売上です。ワークステーション、ゲーム用などの個人向けPC、車やロボットといった「現場の機械」向けを含みます。
💡フリーキャッシュフロー=本業で稼いだ現金から設備投資を引いた、会社が自由に使える現金です。
新しい悪い数字が出たわけではありません。 ただ、消えた数字の多くは、弱いかもしれない側のものです。 メモリ価格の高騰は今期さらに悪化していると会社自身が言っているのに、その影響が出るかもしれない側の開示が無くなった——ここは、意識して見ておくところです。
細かい点をもうひとつ。売掛金の回収日数が45日から60日へ延びました。前の四半期に会社は「50日台半ばに戻る見込み」と言っていたので、自社の見通しより悪化しています。理由は「複数四半期にわたって出荷する大口顧客への支払条件の延長」だと説明されています。
💡売掛金の回収日数=商品を売ってから、代金が実際に入ってくるまでの日数です。延びるほど、売上が現金になるのが遅くなります。
決算と同じ日に出てきた、もうひとつのニュース
決算と同じ日(8月26日)、NVIDIAが Hugging Face を買収するという報道が出ました。そして9月3日、NVIDIAは正式に買収を発表しました。金額は約129億ドル(1ドル150円で約1兆9,000億円)。規制当局の承認を経て、2027年に手続きを終える予定です。Hugging Faceは、これまでどおり誰でも使えるオープンな場所として残す、とされています。
💡Hugging Face=オープンソースのAIモデルが集まる、世界最大級の置き場です。研究者や企業が作ったAIモデルを、誰でも公開したり、ダウンロードして使ったりできる。AI開発者にとっての「共有倉庫」のような場所だと思ってください。2023年の資金調達時の評価額は45億ドルでした。
なぜ、これを決算の記事に書くのか。同じ決算コールの質疑応答で、まさにこの論点が聞かれていたからです。
あるアナリストが、こう質問していました。「オープンソースのモデルが広がるのは、NVIDIAにとってプラスですか、マイナスですか」。ファンCEOの答えはこうでした。
「世界にはクローズドなモデルとオープンなモデルの両方が必要になります。そして、ほぼすべてのオープンモデルは、NVIDIAの上で動いています」
その日のうちに、そのオープンモデルが集まる場所そのものを買うという報道が出て、翌週の9月3日に正式発表されたわけです。オープンモデルが広がるほど自分の得になる、と言った会社が、その集まる場所ごと持ちに行った。コールでの発言が、あとから違って読めてきます。
もうひとつ、引っかかる点があります。同じコールで、あるアナリストが「来年度のキャッシュの支出額はいくらになるのか」と聞き、金額の回答は出ませんでした。そこへ、約129億ドルの話が加わったことになります。
(なお、NVIDIAは以前にも Hugging Face へ出資を持ちかけ、70億ドルの評価額で5億ドルという条件が断られた経緯があると報じられています。今回の金額は、その時の倍近い評価です。)
ただし、買収はまだ完了していません。 承認が予定どおり下りるのか、条件が変わるのか。ここは、次に確かめるべき点のひとつです。
それでも、需要そのものは本物です
ここまで弱点を並べましたが、土台が揺らいでいるわけではありません。
- 「我々が提供するすべてのクラウドで、NVIDIAの計算資源は完全に使い切られている」
- 上位5社のIT設備投資は、2026年に約8,000億ドル、2027年に1.3兆ドルに達する見込み
- クラウド業界全体の受注残は2兆ドル超
- 中国向けは、今後の見通しに一切算入されていません(当四半期の中国向けはデータセンター売上の1%未満)
最後の点は、地味ですが重要です。政治で一夜にして消える売上が、すでにゼロとして計算されている——つまり、そこが崩れても見通しは崩れません。
そして、1ギガワットあたりの単価が上がり続けている、という話もありました。従来型の汎用計算では1ギガワットあたり30〜50億ドル。それがHopper世代で180億ドル、次で250億ドル、Vera Rubin世代で400億ドル。同じ電力の枠に、より高価なものが詰まっていく構造です。
需要は強い。単価も上がる。ただ、作れる量と、原価と、そのお金の出どころに、注釈がつく。 それが今回の決算でした。
最後に——これは”今この瞬間”の見立てです
ここに書いたのは、この決算コールの時点での見立てにすぎません。テーマ株の話は、時間とともに必ず変わります。メモリの価格が落ち着けば、粗利の話は変わります。消えた数字が次回また出てくれば、その時はまた別の読み方になります。買収が予定どおり完了するかどうかも、まだ分かりません。70%の中身と消えた数字が、次の決算でどちらに転ぶか。僕がいちばん見たいのはそこです。
だから僕は、こういう決算の分析を回し続けています。今日の結論そのものより、変化を追い続ける姿勢のほうを信じてほしい。それがいちばん大事なところです。
同じやり方で、他の会社の決算も毎回追いかけています。
※この記事は、決算説明会の原文をAIで読み解いて書き、複数の検査(事実照合・表現・法務)を通したうえで公開しています。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。