使い終わった電池を砕いて、中の金属を取り出す。それを売って稼ぐアメリカの会社があります。
この1年で売上は5倍を超え、調整後の粗利が初めて黒字になりました。説明会の前半は、ほぼその話です。ところが締めくくりの直前、経営陣はひとつの報告を足しました。会社のいちばん大事な製品が、国外に出せなくなっているという話です。その扉は、説明会から2週間あまり後に、上限つきで開きました。
アメリカン・バッテリー・テクノロジーという会社です。
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※この記事で扱うのは、2026年9月14日に行われた、2026年4〜6月期(同社の会計年度では2026年度の第4四半期、年度の締めの回)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、僕の予測ではありません。次回の決算は2026年11月5日の予定です。
💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家に向けて業績を説明する電話会議。発言はそのまま記録に残ります。
その前に——「ブラックマス」って、何でしょう
名前だけ聞くと、何かの黒い塊のように聞こえます。実際は粉です。リチウムイオン電池を回収して砕き、外側のケースや配線を取り除くと、黒い粉が残ります。この中に、リチウムやニッケル、コバルトといった電池の材料になる金属がまとめて入っています。
金属を手に入れる普通のやり方は、鉱山で鉱石を掘り、精錬することです。電池のリサイクルはその逆向きで、一度電池になった金属を、もう一度材料に戻す。この会社は、その最初の工程——電池を集めて、砕いて、ブラックマスにする——を自分の工場でやっています。
日本でも、家電量販店の入口に、使い終わった充電池の回収箱が置いてあります。あの箱の行き先を、電気自動車や大型の蓄電設備の規模まで大きくした商売だと思ってください。
この会社の業務の説明では、売り物はブラックマスと、砕く過程で出る副産物です。だから「ブラックマスが売れない」は、端の話ではありません。主力の製品が工場の倉庫に積み上がっていくという意味になります。この記事の後半は、ほとんどこの一点に向かっていきます。
1年で売上は5倍超、調整後の粗利は初めて黒字になりました
まず、年度の実績です(2025年7月〜2026年6月)。
- 通期売上 約2,170万ドル(前年度比 400%超の増加。1ドル150円で約33億円)
- 売上原価 前年度比 約67%増(売上の伸びよりずっと小さい)
- 調整後の粗利 約170万ドル(前年度は約620万ドルの赤字)
- 工場の運営に使った現金 前年度比 約16%減
💡調整後の粗利=売上から原価を引いた利益から、減価償却や株式報酬のような「現金が出ていかない費用」を除いた数字(non-GAAP)。会計基準どおりの粗利とは別物です。
処理量は4倍を超えたのに、工場で使う現金は減りました。社長はこれを「規模の経済と、運営の効率化の結果」と説明しています。小さな工場が、ようやく採算の取れる回転数に届いた、という形です。
財務の面も整っています。6月末の現金は約4,950万ドル(約74億円)、総資産は約1億3,300万ドル、長期の借入金はゼロ。社長は「事業会社になってから、どの年よりも強い財務結果」と言いました。ここは数字と言葉が揃っています。
ただ、この3ヶ月だけを切り出すと、伸びは止まりかけていました
3ヶ月前と今回で、売上の言い方が変わりました。
3ヶ月前:「この四半期は、記録的な売上を達成しました。約780万ドルで、前の四半期から64%増です」
今回:「年間で過去最高の売上になりました」
3ヶ月前は「この四半期の記録」でした。今回は「年間の最高」に切り替わり、4〜6月期だけの売上は口にしていません。
引き算はできます。前回の説明会で、年度の最初の9ヶ月の売上は約1,350万ドルと言っていました。通期が約2,170万ドルなので、残りの3ヶ月は約820万ドル。前の四半期の約780万ドルから、+5%ほどです(どちらも「約」の数字からの僕の計算です)。
前の四半期は+64%、今回は+5%前後。成長が止まったわけではありません。ただ、3ヶ月前に「年度の締めに向けて、さらに強い成績を見せたい」と言っていたことを考えると、その言葉どおりの3ヶ月ではありませんでした。
記録ではあります。8月20日に会社が出した速報(監査前)は、この3ヶ月を四半期として過去最高の売上だったと書いています。それでも9月14日の説明会で口にしたのは年間の最高のほうだけで、四半期の伸びが鈍ったことには触れていません。
粗利のほうは、説明会では年間の数字しか出ていません。8月20日の速報(監査前)では、4〜6月期の粗利が約130万ドル、前の四半期から約86%増と出ています。売上の伸びが鈍った3ヶ月でも、粗利の改善は続いていました。
3ヶ月前に言っていたことが、今回は3つ消えていました
1つ目は、ネバダのリチウム鉱山の「最終調査」です。 この会社はリサイクルとは別に、ネバダ州トノパーの近くに粘土質の岩からリチウムを取り出す鉱山計画を持っています。3ヶ月前はこう言っていました。
「昨秋に予備的な事業化調査を公表し、いまは確定的な事業化調査(DFS)に進んでいます」「DFSは、提携先や投資家に伝えるために必要な、工学と財務の分析の最終段階です」
今回、DFSには一言も触れていません。出てきたのは、昨秋の予備調査を振り返る話だけでした。
💡事業化調査=鉱山を本当に作るかを決めるための、技術とお金の計算書。予備調査(PFS)の次に、精度を上げた確定調査(DFS)が来ます。
2つ目は、2つ目のリサイクル工場の場所です。
3ヶ月前:「アメリカ南東部に置く次のリサイクル工場の詳細を、近く発表できることを楽しみにしています」
今回:「アメリカ南東部を拠点とする2つ目のリサイクル工場の開発を続けています。年間約10万トンを処理する設計です」
規模(年10万トン)と、それを支えるエネルギー省の1億5,000万ドルの助成金は今回はっきり出ました。1つ目の工場の設計能力が年約2万トンなので、5倍の大きさです。ただ、「近く発表」と言っていた立地の詳細は、今回も出ていません。
3つ目は、資金調達の話です。 3ヶ月前、会社はわざわざこう言っていました。
「この四半期は、市場での株式発行の仕組みや、ワラント・オプションの行使による資金調達をしていません」
今回、この一文はありません。代わりに出てきたのは「財務活動を通じて大きな額の資金を入れることができました」という年間の総括です。現金は3月末の約3,850万ドルから6月末の約4,950万ドルへ、3ヶ月で約1,100万ドル増えました。現金が増えたこと自体は事実です。ただ、会社が口にしたのは「年間で財務活動から資金を入れた」という総括までで、この3ヶ月の増加分がどこから来たのかは、説明していません。
前に進んだのは、役所との手続きでした
一方で、はっきり前進したこともあります。どちらも政府との話です。
鉱山の許認可が一段進みました。 3ヶ月前は「環境調査を全部終えて、土地を管理する土地管理局(BLM)に提出した」段階でした。今回は「BLMが私たちの事業計画書を受理したという証明を受けた」。これで事前の段階が終わりに近づき、本格的な環境審査(NEPA)の手続きに入れると言っています。
💡NEPA=国家環境政策法。連邦の土地で大きな事業をするときに通る環境審査の手続きです。ここを抜けて初めて、現地の工事の許可に進めます。
ここは正確に書いておきます。審査が終わったのではなく、本番の審査に入れるようになった、という段階です。鉱山の売上は、まだずっと先です。
取り消された助成金が戻りました。 昨秋、エネルギー省の助成金のひとつが取り消されていました。会社は異議を申し立て、数ヶ月かけて「取り消しを覆し、助成金を全額復活させた」と言っています。同じ事業、同じ金額、同じマイルストーンのまま続いている、という説明です。3ヶ月前の説明会では、この取り消しには触れていませんでした。
最後に一度だけ出てきた、いちばん大きな話
説明会の締めくくりの直前、社長はこう切り出しました。
「アメリカ商務省が、例外や調整を得ない限り、ブラックマスの輸出を事実上禁止する指令を出しました」
会社はすでに例外の申請を出していて、商務省からは追加の質問がいくつも返ってきている。そのうえで、こう続けています。
「現時点では、例外申請の状況について正式な回答はありません」「副産物の販売は続けていますが、当面は、ブラックマスを自社の施設で保管しています」
「その前に」の節で書いたとおり、ブラックマスはこの会社の主力の売り物です。それを、説明会の時点では売らずに倉庫に置いていました。説明会全体の中で、この話が出てきたのはこの一度だけでした。
ここが、この決算でいちばん大きな未解決です。 会社は事情を隠しませんでした。自分から話し、申請の中身と、回答が来ていないことまで言っています。ただ、売上にどれくらい響くのかの数字も、解決の見通しも、出していません。 次の四半期の業績の予想も、数字では出していません。代わりに「11月の年次株主総会で、来年度の道筋をもっと詳しく話したい」と言いました。
💡ガイダンス=会社が自分で出す業績の予想。この会社は前回も今回も、数字のガイダンスを出していません。
その後、状況は一部動きました。 説明会から2週間あまり後の10月1日、会社は商務省から、ブラックマスを最大1億ドル分(約150億円)まで輸出・販売できる許可を得たと発表しました。上限つきの許可ですが、上限の1億ドルは、この会社の年間売上(約2,170万ドル)の4倍を超える額です。倉庫の在庫がいつ、どれだけ売上になるのかは、まだ数字が出ていません。
この決算で、確かめられないことと、一度きりのもの
この説明会の記録は、経営陣が用意した原稿の読み上げだけで、質疑応答の部分がありません。 3ヶ月前の回も同じでした。だから、アナリストが何を問い詰めたか、経営陣が何に答えに詰まったかは、この記録からは分かりません。輸出の件も、誰にも聞かれていない状態で終わっています。
売上の中には、繰り返すとは限らないものが混ざっています。
- 系統用の大型蓄電池で事故を起こしたものを処理する、「国内史上最大級のリチウムイオン電池の処理案件」に選ばれたこと。事故の後始末なので、毎年来る仕事ではありません
- 売上が伸びた理由に、処理量だけでなく「販売している製品の価格の改善」が挙げられていること。金属の相場が動けば、ここは逆にも振れます
逆に、相場と関係なく積み上がっているものもあります。売上原価の伸びを売上の伸びよりずっと低く抑え込んだのは、工場の回し方の改善です。ここは一度きりではありません。
もう一つ。この会社の大きな計画——2つ目の工場も、鉱山の最初の処理ラインも——は、エネルギー省の助成金に支えられています。今回、その助成金が一度取り消され、戻ってきました。戻ったのは良い話ですが、取り消されうるものだということも同じ回に分かりました。
それでも、原料の入口は太くなっています
この会社に集まってくる電池の中身も、3ヶ月前と同じことを言っています。
「原料のかなりの部分は、いまや国内のデータセンターやAIの学習を支える、系統用の大型蓄電システムから来ています。電気自動車、電池セルの製造、家電からも大量に来ています」
データセンターの隣に置かれる巨大な蓄電池は、いずれ寿命を迎え、事故を起こしたものは処理が要ります。電気自動車の電池も、工場で出る不良セルも同じです。材料が入ってくる側は、この会社の努力とは別のところで太くなっています。
詰まっているのは、出口のほうです。砕いたブラックマスを、どこへ売るか。説明会の時点では国外への道が止まっていて、10月1日の許可で開きました。ただ、実際に売れたかはまだ分かりません。1つ目の工場の設計能力は年約2万トンで、稼働率を上げる余地はまだあります。ただ、作ったものが出ていかなければ、上げた分は倉庫に積まれるだけです。
次の決算で、何が分かれば読みが外れたと言えるか
今回の読みは「財務は本物の改善を見せたが、四半期の売上の伸びは鈍り、主力製品の出口は規制で詰まり、上限つきで開いたものの、実際に売れたかはまだ確かめられない」です。
これが外れていたと分かる形を書いておきます。
- 10月1日の許可(上限1億ドル)のもとで、保管していたブラックマスの販売が実際に再開し、売上の数字として出ている
- 4〜6月期の約820万ドル(僕の計算)から、四半期売上がはっきり再加速している
- 2つ目の工場の立地と、鉱山の確定調査の進み具合が、具体的に語られる
逆に、悪いほうへ外れる形もあります。輸出の件に触れずに売上の話だけが続いたら、そのときはこの記事の見立てより状況は重いと受け取ります。
輸出の扱いを決めるのは、会社ではなく商務省です。その判断は、明日にも変わりえます。
電池のリサイクルは、材料が入ってくる側の話と、作ったものを売る側の話が、まったく別の理由で動いています。今回は前者が太くなり、後者が詰まった回でした。この会社の次の回は、11月の株主総会と、その次の決算説明会です。どちらでも、まず倉庫の中身がどうなったかを確かめに行きます。
※この記事は、決算説明会の原文をAIで読み解いて書き、複数の検査(事実照合・表現・法務)を通したうえで公開しています。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。