AIの半導体と聞くと、多くの人はエヌビディアの名前を思い浮かべると思います。でも、そのチップを実際に工場で作っているのは、台湾の1社です。
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※この記事で扱うのは、2026年10月15日に行われた、2026年7〜9月期(第3四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、僕の予測ではありません。次回の決算日は会社の発表待ちです。
💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストに向けて説明し、質問に答える電話会議。発言はそのまま記録に残ります。
今回の決算は、数字だけ見れば文句のつけようがありません。売上は会社自身の予想の上限を超え、通期の見通しも引き上げました。それでも僕は、読み終えたあと少し考え込みました。3ヶ月前に経営陣がはっきり言い切っていた1文が、今回はどこにも無かったからです。
その前に——「ファウンドリ」って、何でしょう
TSMCは、自分の名前のついたチップをほとんど売っていません。お店で「TSMC製」と書かれた商品を見かけることも、まずありません。それでも世界で最も重要な半導体企業の1つに数えられます。
理由は、この会社がファウンドリだからです。日本語にすると「半導体の受託製造」。チップの設計図を描くのは顧客の会社で、TSMCはその設計図どおりに、実物のチップを工場で焼き付けます。
本で言えば、出版社と印刷所の関係に近いです。どんな本を出すかは出版社が決める。でも、どれだけ売れそうな本でも、印刷所の機械が空いていなければ書店には並びません。いまAI向けの最先端チップで起きているのは、この「印刷所が足りない」状態です。
ふつうの製造業なら、売上は「どれだけ売れたか」で決まります。TSMCの場合は少し違って、いまは「どれだけ作れたか」が売上の上限になっています。注文は、作れる量より多いからです。経営陣自身が今回、需要は「いまの私たちの供給能力を、まだはるかに上回っている(far above our capability today to supply)」と言っています。
だからこの会社の決算では、売上の数字と同じくらい、工場をどれだけ速く増やせるかについての言葉が重要になります。今回、引っかかったのもそこでした。
売上7兆円、予想の上限を超えました
- 売上 467億ドル(前の四半期から+16.2%。台湾ドル建てでは+17.6%)
- 粗利率 66.4%、営業利益率 58.7%
- 一株利益 29.43台湾ドル
- 最先端の2ナノの比率:ウエハー売上の8%(前の四半期は3%)
💡ナノ(nm)=チップの世代を表す呼び名。数字が小さいほど新しく、同じ面積に多くの回路を詰め込めます。ウエハーは、チップを焼き付ける円い板のことです。
💡粗利率=売ったお金のうち、製造の原価を引いて残る割合。66%は、売上100円につき66円が原価を引いた後に残る、という水準です。
467億ドルは、1ドル150円で計算すると約7兆円。3ヶ月前に会社が示していた見通しは446億〜458億ドルだったので、上限を約2%上回りました。
伸びを引っ張ったのは、AIやデータセンター向けを含む高性能計算(HPC)の分野です。この分野の売上は前の四半期から+22%で、全体の68%を占めるまでになりました。スマートフォン向けも+10%です。
粗利率だけは前の四半期から1.3ポイント下がっています。ただ、主な理由は会社が自分で説明していて、最先端の2ナノを立ち上げたばかりで、まだ作るのにお金がかかっているから。新しい工程は、量が増えるほど安く作れるようになるのが普通です。
会社の見通しは、また上がりました
次の四半期(10〜12月)の売上見通しは523億〜543億ドル。中央値で前の四半期から+14%、前年同期からは+58%です。中央値の533億ドルは、1ドル150円で約8兆円になります。
💡ガイダンス=会社が自分で出す業績の見通し。TSMCは毎四半期、次の3ヶ月分を数字で出します。
2026年の通期の売上成長率も、言い方が変わりました。
3ヶ月前:「2026年通期の売上成長率は、米ドル建てで前年比40%をわずかに上回ると見込んでいます」
今回:「2026年通期の売上成長率は、米ドル建てで前年比約44%と見込んでいます」
約4ポイントの引き上げです。今回の実績と次の四半期の見通しを足し上げると、アナリストたちの通期の予想平均(コンセンサス)も2%前後上回る計算になります。
💡コンセンサス=その会社を調べているアナリストたちの予想の平均。周りがすでに強い数字を期待している会社では、「前回より良い」だけでは足りず、その期待を超えたかが問われます。
念のため、数字を一時的に動かしているものも見ておきます。これは少ないです。主に2ナノの立ち上げで、粗利率は今期1.3ポイント、次の四半期の見通しでも0.4ポイント下がります。あとは為替の前提(次の四半期は1ドル=31.8台湾ドル。前の四半期は32台湾ドル)くらいで、売上の中身はAIの演算用チップ、AIエージェント向けのCPU、通信用チップと、構造的な需要が中心です。
ここまでは、どこを切っても強い決算です。
消えたのは「ボトルネックは見当たらない」という1文
3ヶ月前、財務責任者は生産能力の増強計画について、こう締めくくっていました。
「したがって、私たちの生産能力の拡張計画に、ボトルネックは見当たりません」(Thus, we do not foresee any bottlenecks to our capacity expansion plans.)
今回、この1文は出てきませんでした。同じ場所に置かれていたのは、別の言い方です。
「装置の供給は逼迫していますが、私たちは常に、装置メーカーと十分前もって緊密に連携しています」(while the tool supply is tight, we always collaborate closely with our tool suppliers well in advance)
💡装置=チップを焼き付ける露光装置などの製造機械。高価なうえに、注文してから届くまでに長い時間がかかります。
「見当たらない」から「逼迫しているが、連携している」へ。後半は安心させる言い方ですが、前半は3ヶ月前には無かった認識です。質疑応答では、財務責任者がもう一言足しています。「装置価格のインフレは実在します(The tool price inflation is real)」。
同じ向きの変化が、あと2つありました。
設備投資は「引き上げ」から「据え置き」へ。
3ヶ月前:「2026年通期の設備投資予算を、600億〜640億米ドルに引き上げることを決めました」
今回:「2026年通期の設備投資予算は、600億〜640億米ドルで変わりません」
この予算は、年初の520億〜560億ドルから、4月には「560億ドル寄り」、7月には600億〜640億ドルと、2回続けて引き上げられてきました。今回、初めて止まりました。
💡設備投資=工場や製造装置に使うお金。TSMCは「設備投資の多さは、翌年以降の成長機会の大きさと連動している」と、今回も説明しています。
2027年について、慎重な一言が入りました。
3ヶ月前:「先を見ると、消費者向けと、価格に敏感な最終市場が苦戦しているのが見えます」
今回:「消費者向けと、価格に敏感な最終市場が苦戦しているのが引き続き見えます。そのため、2027年に向けた事業計画は慎重に立てています(prudent)」
需要の話としては、3ヶ月前と同じことを言っています。変わったのは「だから2027年の計画は慎重に」という結論が付いたことです。
3つを並べると、僕にはこう読めます。AIの需要が落ちたという話ではなく、工場を増やす側の制約が、言葉の上に出てき始めた。 需要については、同じ説明会の中で「需要は供給を上回っている」と繰り返しているからです。
ほかにも、3ヶ月前に具体的に語っていたのに今回は出てこなかったものがあります。成熟した世代の工程(電源管理用のチップやカメラのセンサーなど)が逼迫しているという話と、2ナノの次の世代にあたるA14の試作で示していた歩留まりの数字(記憶用の回路で「90%近く」)です。
💡歩留まり=作ったチップのうち、良品として使える割合。新しい工程ほど低いところから始まり、上がっていくほど量産に近づきます。
それでも工場は、前より速く増えている
言葉が慎重になった一方で、工場の計画そのものは前に進んでいます。ここは公平に書いておきます。
- 3ナノの工場を台湾・台南にもう1つ追加することを決定。量産は2028年前半の予定(3ヶ月前は「3つの工場を追加する計画を順調に進めている」)
- アリゾナの第2工場は建設が終わり、装置の搬入中。量産は2027年第3四半期で、「以前の予定より少し早い」
- 2ナノ系の年間生産能力は、2027年に2倍を超える見込み
- 次世代のA14は、顧客の動きが「2ナノのこれまでの動きより多い」。会社は「A14は、いまの2ナノより大きな世代になる」と見ています
前の四半期にはなかった強い言葉も出ています。社長はこう言いました。
「ほかの誰かのために取り分を残しておくつもりはありません。取れる仕事は、すべて取りにいきます」(We have no intention to leave food on the table for others, and we want to capture every piece of business possible.)
アメリカで工場を立ち上げるコストも、想定より軽く済んでいます。海外工場による粗利率の押し下げは、3ヶ月前は「立ち上げ初期に2〜3%」と言っていたのが、今回は2026年通期で「2%近く」に縮まりました。ただし会社は、アメリカの工場が増えていくので、今後数年で3〜4%に広がるとも言っています。
経営陣が答えなかったのは、2027年の大きさ
今回の質疑応答で、機関投資家がいちばん知りたがっていたのは2027年以降の規模感でした。そして、そこには最後まで数字が出ませんでした。
J.P.モルガンのアナリストが「2027年の供給不足は2026年より大きいのか、ウエハーの生産能力を年10%以上伸ばせるのか」と聞くと、社長は「この質問には、いまはお答えできません」。顧客が需要の数字を引き上げ続けているから、というのが理由です。財務責任者も「生産能力の伸び率を話すには少し早すぎる」と続けました。UBSのアナリストが2027年以降の設備投資を聞いたときも、「今年より先の設備投資の数字をお伝えするには少し早すぎます」。
出てきたのは方向だけです。2026〜2028年の設備投資は過去3年を「大きく上回る」、売上の伸びは設備投資の伸びを上回る見込み。AI向けの売上の長期的な伸び率も、数字の更新はなく、「おそらくもっと高くなる」という言い方にとどまりました。長期の利益率について聞かれた社長の答えは、この会社らしいものでした。
「TSMCの収益性に天井はありません。ただ、劇的な上昇が一夜にして起きることもありません」
需要が強いと言い続ける会社が、来年の大きさだけは言わない。生産能力がどれだけ増やせるかを、会社自身もまだ固められていない、という意味に僕は取っています。
次の決算で確かめたいこと
需要は強いまま、変わったのは工場を増やす側の言葉だった——この見方が間違っていれば、次の3つのどれかが起きます。
- 10〜12月期の売上が、見通しの下限523億ドルに届かない
- 「2ナノ系の生産能力が2027年に2倍を超える」という見通しが取り下げられる
- 2026年の設備投資予算600億〜640億ドルが引き下げられる
1つ目と2つ目が起きれば、需要か生産のどこかで計画が狂ったことになります。3つ目は、どちらにも読めます。装置が届かないから使えないのか、使う必要がなくなったのか。だから3つ目が起きたら、理由の言い方を一番注意して読みます。
逆に、僕の慎重な読みが外れる形もあります。次の説明会で、2027年の設備投資か生産能力の伸びを数字で言い切った場合です。そのときは、今回の「慎重に」は計画を固めるまでの間の言葉だった、ということになります。
売上も見通しも、上に抜けた回でした。その強い数字の陰で、TSMCは3ヶ月前に言い切っていた「ボトルネックは見当たらない」という1文を、そっと引っ込めました。
次の説明会では、2027年について、何を数字で語り、何を語らないかを見ます。その回も書くので、続けて読みたい方はブックマークしておいてください。
※この記事は、決算説明会の原文をAIで読み解いて書き、複数の検査(事実照合・表現・法務)を通したうえで公開しています。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。