3ヶ月前、この会社の財務責任者(社長も兼ねています)は「5億ドルくらい良くなると見積もっています」と言っていました。
今回、同じ話を最高経営責任者(CEO)がこう言い直しました。「10億ドルを超える改善になるはずです」。しかも今回は、半分を超える客ともう契約を結んだうえでの見積もりです。
アメリカの鉄鋼メーカー、クリーブランド・クリフスの話です。日本では、USスチールの買収をめぐって日本製鉄と競った会社として名前を聞いた方もいると思います。自動車向けなどの薄い鋼板が中心で、鉄鉱石を掘るところから鉄を作るところまで、自前で抱えています。
日足チャート(価格/出来高/RSI(2)/ニュースセンチ/RSランク)。毎日自動更新。
※この記事で扱うのは、2026年10月19日に行われた、2026年7〜9月期(第3四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、僕の予測ではありません。次回の決算日は会社の発表待ちです。
💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストに向けて説明し、質問に答える電話会議。発言はそのまま記録に残ります。
この会社の鉄は、1年分をまとめて売られています
鉄の値段と聞くと、毎日上がったり下がったりする相場を思い浮かべるかもしれません。それも正しいのですが、この会社の鉄の大半は、そうやって売られていません。
鋼材を加工して配る流通業者や、鉄を使う工場とは、1年分をまとめて契約します。値段を1年間固定する契約と、相場の指標に連動させる契約があり、こうした契約は毎年1月1日に切り替わります。だから秋の今の時期は、来年1年分の値段と数量を決める交渉の真っ最中です。
日本の家庭に置き換えると、電気料金に近いと思います。固定の単価で契約するプランもあれば、燃料の値段に合わせて毎月変わる「燃料費調整」付きのプランもある。そして固定の契約は、一度決まると1年間は動きません。
これがこの決算の結論に直接効きます。1月1日に切り替わる契約の交渉が、もう半分以上終わっている。 つまり、来年の売上のかなりの部分は、今の時点でほぼ決まり始めているということです。今回の決算説明会で一番大きく変わったのは、まさにこの交渉の話でした。
3ヶ月前は「機会がある」、今回は「もう結んだ」
CEOは冒頭で、自分から3ヶ月前の言葉を言い直しました。
「3ヶ月前、私たちは、クリーブランド・クリフスの利益の回復が見え始めていると言いました。今日、その回復はしっかりと進行中です」
契約の話は、言葉がもっとはっきり動いています。
3ヶ月前(財務責任者):「今後数ヶ月で、固定価格の契約の大部分を大幅に高い水準へ改定する機会があります。年間で5億ドルのEBITDA改善になると見積もっています」
今回(CEO):「全体として、これらの改善は、指標価格の変動を勘定に入れる前の段階で、前年比10億ドルを超えるEBITDAの改善を生むはずです」
見積もりの金額が2倍になりました。1ドル150円で計算すると、約750億円から1,500億円超です。理由を聞かれたCEOの答えは短いものでした。
「前の四半期、私たちは保守的でした。でも今は、もっと現実的です。もう契約がまとまっているからです」
そしてもう一つ、前の四半期には無かった契約の形が出てきました。
「顧客が契約する最低数量は、今はテイク・オア・ペイになっています。最低は最低です。引き取らなければ、払ってもらうことになります」
聞き慣れない言葉なので、ここだけ補足します。
💡テイク・オア・ペイ=約束した最低数量を引き取らなかった場合でも、その分の代金を払う契約。スポーツジムの月会費に近く、行かなくても会費はかかります。
CEOによると、この新しい契約に署名した顧客は「55%から60%を超えています」。断った顧客は「1社もいない」。残りは11月末の感謝祭までに全部終わらせる見込みだと言いました。
鉄を売る側が、買う側に「引き取らなくても払ってもらう」と言えて、相手が受け入れている。3ヶ月前のこの会社は、ここまでは言っていませんでした。
調整後EBITDAは前の四半期の2倍を超えました
契約の話が口先だけでないことは、この四半期の稼ぎにも出ています。今回の説明会で経営陣は、売上や一株利益ではなく、調整後EBITDAで業績を語りました。
- 調整後EBITDA 6億1,200万ドル(会社の予想5億7,500万ドルを上回る/前の四半期は2億8,600万ドル)
- 平均販売単価 1トン1,177ドル(前の四半期比+53ドル)
- 1トンあたりのコスト 17ドル減(会社の予想は10ドル減)
- 鋼材の出荷量 420万トン(前の四半期は400万トン)
💡調整後EBITDA=本業でどれだけ稼いだかを見るための利益で、借金の利息・税金・設備の減価償却を差し引く前の数字。会社が一時的とみなす項目も除いた「調整後」で、会計基準どおりの数字(GAAP)ではありません(non-GAAP)。
6億1,200万ドルは、1ドル150円で約918億円。財務責任者は「3年ぶりに最も強い四半期」と言っています。値段が上がり、出荷が増え、コストが下がった。3つが同じ向きに動いた四半期でした。
販売単価は、前の四半期に+76ドル、今回+53ドル、次の四半期も+45〜55ドルの見込みで、3四半期続けて上がっています。
来年の数字には「今の相場が続けば」が付いています
見通しも数字になりました。3ヶ月前、10〜12月期については「さらに改善を見込む」としか言っていませんでした。今回は調整後EBITDA 7億1,500万ドル。10〜12月期は設備の定期点検による停止があってコストが少し上がる季節ですが、それでも今回より約1億ドル上と言っています。
2027年については、こうです。
「今の市場環境のもとで、2027年は1四半期あたり平均10億ドルを超える調整後EBITDAに、現実的に届きうると考えています」
年間で40億ドル超。過去最高だった2021年以来の、最も良い年になると言いました。
ただし、この文には前提が2つ付いています。「今の市場環境のもとで」と「先物の価格曲線を値段の目安にして」です。先物の価格曲線とは、数ヶ月先の鉄の値段を、いまの取引で決まっている相場で並べたものです。つまり、鉄の相場が今の水準で続くことが前提です。
顧客とCEOで、相場の見方が逆です。CEO自身がこう言っています。
「固定価格は終わりです。みんな指標連動に移ります。値引きはわずか、あるいは無しで。顧客の多くは、価格はもう天井を打ったと考えているからです。一方で私は、まだ天井ではないと思っています」
顧客は「もう下がる」と思って指標連動を選び、会社は「まだ上がる」と思って指標連動を受け入れた。固定価格が消えるということは、来年の数字が鉄の相場に、今まで以上に素直に連動するということでもあります。
前に進んだ言葉の横で、下がった言葉もありました
ここまでが良い話です。同じ説明会の中で、3ヶ月前より後ろに下がった言葉も並んでいました。
出荷量は、会社自身の予告に届きませんでした。 3ヶ月前、財務責任者は「7〜9月期の出荷は430万トンを超える」と言っていました。実際は420万トンです。アナリストに「30万トン増えるはずが、12万5,000トンしか増えなかった」と聞かれたCEOは、自動車メーカーの生産計画の乱れを理由に挙げました。「私たちのせいではない。いつもではないが、たいていは向こうの事情です」。10〜12月期に解消するかは、数字で答えていません。
カナダの子会社の話が、悪い方へ進みました。 3ヶ月前、カナダの子会社ステルコについてCEOは「まだ決めていない。様子を見ている」と言っていました。今回は、カナダで亜鉛めっき鋼板の輸入制限が強まらなかったため、ステルコで「限定的な一時解雇」に至ったと説明しました。
労働組合との交渉は、期限を越えました。 3ヶ月前は「建設的で生産的な滑り出し」。今回は「当初の期限を越えて延びています。珍しいことではありません」。
そして、3ヶ月前に語っていたAIの話が消えました。 前の四半期、財務責任者は、データ分析会社パランティアと組んで進めているAIの取り組みで「さらにコストを下げる機会がある」と言い、CEOも「パランティアとの仕事のおかげで」と口にしていました。今回、パランティアの名前は一度も出てきません。AIに触れたのは、オハイオ州の製鉄所の改修計画に「AIを使った工程制御」が含まれる、という一言だけでした。前の四半期に語っていた、還元鉄(HBI=高炉を使わずに作る鉄の原料)の事業の売却の話も、今回は出てきませんでした。
買い手が値段より先に鉄を欲しがる理由
それでも言葉が強くなった背景にあるのは、輸入の減少です。CEOによると、アメリカの鉄鋼輸入は、50%の関税が始まる前と比べて今も35〜40%少ない水準にあります。関税そのものに加えて、輸送費、納期の長さ、為替の変動、注文した市場とは別の市場に届いてしまうリスクも、輸入品を選びにくくしていると説明しました。
輸入が減ると、国内の買い手は値段の交渉より先に、まず鉄を確保しなければならなくなります。CEOはそれをこう表現しました。「今この瞬間の一番の論点は、鉄を手に入れることで、値段の交渉ではありません」。顧客が最低数量を下げるどころか、引き上げてほしいと言ってくる。テイク・オア・ペイが受け入れられる理由も、ここにあります。
自動車向けも同じ方向を向いています。7〜9月期の自動車向けの出荷は、北米の自動車生産が前の四半期より減ったにもかかわらず、2023年7〜9月期以来の高さでした。CEOは、アメリカで作る車の鋼板をもっと増やせる余地として、韓国で生産されている車種を米国に戻すこと、アルミの外板を使っている大型ピックアップが鋼に戻ることを挙げています。ただ、これは顧客の判断で、時期は示していません。
つまり、この会社の言葉が強くなった理由は、会社の中より、アメリカの通商政策の側にあります。それが、僕が心配も半分抱えて読んだ理由です。
「細かいことには立ち入りません」と、追い風の正体
いちばん大きな数字の中身は、説明されていません。5億ドルの見積もりが10億ドル超に変わった内訳——値段が上がった分なのか、数量が増えた分なのか、改定の対象になったトン数が増えた分なのか——を正面から聞かれて、CEOは「細かいことには立ち入りません」と答えました。契約の進み具合は4人のアナリストが繰り返し聞き、そのたびに「半分以上」「拒否はゼロ」とは答えています。ただ、顧客の名前も、契約ごとの金額も出ていません。2027年への橋渡しに入っている2億5,000万ドルのコスト影響の中身も、説明がありませんでした。
今回の回復を押し上げているものの多くは、会社の努力の外側か、一度きりのものです。
- 米国の指標価格は今年、ほぼ毎月1トン約40ドルずつ上がっていた(相場の循環)
- 鉄鋼の輸入にかかる50%の関税(政策が変われば前提が崩れる)
- 10〜12月期に完了予定の資産の売却(一度きりの現金)
- 高炉の改修を2028年へ延ばしたことで2027年に生まれる約50万トンの追加生産(タイミングの話)
構造的に変わったと言えるのは、テイク・オア・ペイへの移行と、契約価格の水準そのものが上がったことです。逆に言えば、それ以外は、相場と関税が今のまま続くことに乗っています。
それでも、会社側の手当ても確認できました。原料で最も大きい石炭の2027年の契約は、前年と同じ値段のまま決着しています。値段が上がる側だけが動いて、コストの大物は止まった形です。借金についても、増資はしないとCEOが明言し(「株は出しません」)、営業で稼いだ現金で返していくと言っています。
感謝祭と1月1日で答えが出ます
言葉は一段進みました。崩れるとすれば、こういう形だと見ています。
- 感謝祭までに終えると言った年次契約の改定が、次の決算説明会の時点で終わっていない
- 10〜12月期の調整後EBITDAが、7億1,500万ドルを大きく下回る
- 鉄鋼の50%の関税が引き下げられる
3つ目が起きたら、2つ目より先に、2027年の40億ドルの前提そのものが変わります。
逆に、良い方へ転ぶ形もあります。財務責任者は、1月1日に契約が切り替わった後の1〜3月期の改善を「さらに大きな段差」になると言っていました。それが本当に数字で出て、しかも相場が落ち着いた中でも崩れなかった場合です。そのときは、相場ではなく契約の形が利益を支え始めた、と言えるようになります。
ここに書いたのは、2026年10月19日の説明会までに分かっていることだけです。契約の交渉も、組合との交渉も、まだ途中です。
3ヶ月前に「機会」と言っていたものを、今回は過半の客について「契約済み」と言えた。その差は本物です。ただ、契約の多くは相場に連動する形に変わったので、来年の数字は鉄の値段に、前よりはっきりついて動きます。言葉の強さと、その言葉が立っている足場は、分けて見ておきたいと思っています。
1月1日をまたいだ後の決算で、この会社が「10億ドル」をどう語るのか。それが出たら、続きを書きます。
※この記事は、決算説明会の原文をAIで読み解いて書き、複数の検査(事実照合・表現・法務)を通したうえで公開しています。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。