洗剤、紙おむつ、トイレットペーパー。景気が良くても悪くても毎週買うものを売っている会社で、売れ方がはっきり変わりました。
アリエールやパンパース、SK-IIを持つ、世界最大級の日用品メーカーです。年間の売上はおよそ880億ドル。1ドル150円で約13兆円の会社が、1年かけて少しずつ速度を上げてきて、この四半期でもう一段上がりました。
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※この記事で扱うのは、2026年10月22日に行われた、2026年7〜9月期(同社の会計年度では2027年度の第1四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、僕の予測ではありません。次回の決算日は会社の発表待ちです。
💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣がアナリストに向けて説明し、質問に答える電話会議。発言はそのまま記録に残ります。
ただ、同じ説明会で、財務責任者は何度も熱を冷ましにかかりました。「舞い上がらないでください(Don’t get too excited)」。売上の話と利益の話が、逆の方向を向いた決算です。
その前に——日用品の会社の「売上の伸び」は、3つに割れます
日用品の会社の決算では、売上の伸びをそのまま見ません。「オーガニック売上」という数字を使います。
💡オーガニック売上=為替の換算の差や、会社の買収・売却の影響を取り除いた売上。会社そのものの「素の伸び」です。
このオーガニック売上は、さらに3つに分けて説明されます。
- 数量=売れた個数が増えたか
- 価格=値上げで1個あたりが高くなったか
- 構成(ミックス)=高い商品の比率が上がったか
スーパーのレジで考えると分かりやすいです。売上が4%増えた店でも、「お客さんのカゴに入る品数が増えた」のか、「同じ品数で値札が上がった」のかで、意味がまったく違います。値上げだけで伸びた売上は、お客さんが離れ始めた瞬間に止まります。個数で伸びた売上は、その会社の商品が棚の上で選ばれているという意味です。
この会社の今回の決算で大事なのは、まさにここでした。
3ヶ月前は「横ばい」、今回は「加速が続いている」
数字で見ると、値上げに頼っていないことがはっきりします。
- オーガニック売上 +4.0%(前年同期比)
- 内訳は 数量 +2.4ポイント、価格 +0.4ポイント、構成 +1ポイント超
- 10ある製品カテゴリーのすべてでオーガニック売上が成長
- 調整後の一株利益 2.00ドル(前年同期比 +1%)
💡調整後の一株利益(コアEPS)=会社が一時的だと考える費用を除いて計算した、1株あたりの利益(non-GAAP)。会計基準どおりの数字とは別物です。
値上げはわずか0.4ポイント。伸びの大半は、売れた個数から来ています。
3ヶ月前の言い方と並べると、変化がよく分かります。
3ヶ月前:「オーガニック売上は小幅に増加し、四捨五入すると前年並みでした」
今回:「第1四半期の売上は、加速が続いていることをうれしく思います」
前の年度は、上半期がおよそ+1ポイント、下半期がおよそ+2ポイント。そして今回が+4.0%。半年ごとに一段ずつ上がっています。
アメリカの店頭でも同じ向きです。会社は「アメリカの主要な小売先のうち、自社のシェアを維持か拡大できている先の割合」を毎回出しています。
💡シェア=その売り場で、同じ種類の商品の売上のうち自社が何割を取っているか。
この割合が、前の年度の上半期は10%未満、下半期は約50%、今回は70%超。会社は年末(暦年)までに80%超を目標に置いています。主要な「製品カテゴリー×国」の上位50の組み合わせでも、シェアを維持・拡大できた数が前の四半期の23から、今回は29に増えました。
それでも、利益の見通しは1つも上がっていません
ここからが、冒頭の一言の理由です。
通期の見通しは、すべて据え置きでした。 オーガニック売上は+1〜3%、調整後の一株利益は6.89〜7.11ドル(前年比0〜3%増)。第1四半期が+4.0%でスタートしたのに、年間の幅は動いていません。
💡ガイダンス=会社が自分で出す業績の見通し。
アナリストたちの予想の平均は、通期の一株利益で6.98ドル。会社の見通しの中心(7.00ドル)とほぼ同じ場所にいます。予想を追い越す材料は、今回の見通しには出てきませんでした。
さらに、上半期の売上は「約3%」と示しました。第1四半期が4.0%なら、第2四半期は減速する、という意味になります。
変わったのは、利益の見通しに対する言葉の温度です。
3ヶ月前:「原油と中東情勢が想定どおりなら、ガイダンスの中央値に届く自信があります」
今回:「すみません、質問をはぐらかしたいわけではないのですが、私が持っている自信はレンジ内に収まるということです。レンジのどこか? まだ1四半期ですから」
「中央値」から「レンジのどこか」へ。売上の言葉が一段上がった同じ日に、利益の言葉は一段下がりました。
原因ははっきりしています。原油です。 洗剤の容器や紙おむつの素材には石油からつくる材料が多く使われ、商品を運ぶ燃料も原油です。会社が見込む通期のコスト増(税引き後)は、こう変わりました。
- 3ヶ月前:約10億ドル(原油1バレル90ドルの想定)
- 今回:約14億ドル(同100ドルの想定)、ほかの項目も合わせると19億ドル=1株あたり79セント
19億ドルは、1ドル150円で約2,850億円です。利払いの見込みも1億5,000万ドルから3億ドルへ倍になっています。そのうえ財務責任者は、足元の原油が113ドルであることに触れて「第3四半期と第4四半期に、もっと来る」とも言いました。想定の100ドルを、もう上回っています。
それでも年間の見通しを下げずに済んでいるのは、売上の加速がコスト増を吸収しているからです。ただ、吸収しきれるかどうかについて、会社は今回、自信の言葉を引っ込めました。
第1四半期の数字を押し上げたもの、と答えが出なかったこと
正直に書いておきます。第1四半期の好数字には、繰り返さないものが混ざっていました。しかも会社は、それを準備された説明と質疑の中で、自分から認めています。
- 中国のベビーケアが約50%伸びた。財務責任者は「競合の問題によるもの」と認め、中国の伸びのうち約3ポイントがこの要因
- 欧州で行事前の先行出荷があり、第2四半期の分から約1ポイントを前倒しした形
- 原材料の値上がりは、この四半期には一部しか反映されていない(年間8%の逆風に対し、第1四半期は5%)。本人の言葉で「ちょっとした一回限り」
- 関税の還付が約9,000万ドル。アメリカの最高裁がIEEPA(国際緊急経済権限法=緊急時に大統領が経済取引を規制できる法律)を根拠にした関税を無効とした件で、戻ってきたお金です
会社は事前に、第1四半期の一株利益は「5%以上の減少」になると言っていました。実際は+1%です。前年の比べる相手が弱かったことも効いています。上振れは、この文脈で読む必要があります。上振れの中身を、経営陣自身が一つずつ分けて差し出した決算でした。ここは誠実だと思います。
一方で、答えが出なかったこともあります。コストと利益の質問は、5人のアナリストが別々に繰り返しました。中央値に届くのかと聞かれた答えが、さきほどの「レンジ内」です。値上げの予定については「将来の価格については、これ以上お伝えできません」。第2四半期がなぜ減速するのかも3人が聞き、答えは「動いている要素が多すぎて、いま自信を持っては言えません」でした。
売上の心配は、この説明会でほぼ消えました。利益の心配は、残ったまま次の四半期に持ち越されています。
3ヶ月前に語っていた新製品の話が、今回は出てきません
言わなくなったことも1つあります。
前の四半期、経営トップは洗剤の新製品についてこう言っていました。
「Tide Evoの全米展開は計画どおりで、今年度中に本格的な発売の支援を予定しています」
今回、この製品は準備された説明の中から消えました。出てきたのは質疑応答で一度、名前に触れただけです。AIを使った開発の仕組みについての詳しい説明も、同じく消えています。
なお、今回の説明会で話したのは財務責任者で、経営トップは登壇していません。
消えたことが悪い知らせだとは限りません。ただ、3ヶ月前に「今年度中」と期限をつけて語った話です。次に出てくるときに、どの言い方で戻ってくるかを見ます。
なぜ、いまこの会社の売上が戻ってきたのか
会社が説明する道筋は、派手ではありませんが具体的です。
ひとつは、小売先ごとの立て直しです。主要な小売先を1社ずつ診断し、行動計画を毎週回している、と説明しました。シェアを守れている先が10%未満から70%超まで来たのは、この地道な積み上げの結果です。紙製品(トイレットペーパーやキッチンペーパー)はまだシェアが戻っておらず、会社は「下半期にシェアの伸びに戻る」と見込んでいます。
もうひとつは、価格帯の両側を同時に攻めていることです。競争環境について経営陣は「変わらず、そう、激しい」と認めたうえで、手頃な価格帯の商品を強化しながら、高価格帯でも新製品を出しています。価格の上げ方も「新製品と一緒に値上げする」と説明しました。値札だけを書き換えるのではなく、中身を変えた商品で値段を上げる、という意味です。ベビーケアは世界で売上+5%、シェア+0.8ポイント。新しいベビー向け製品のAmoreは、初年度に売上1億ドルを超える見通しです。
そして、中国です。6四半期連続で好調で、販売代理店の網とソーシャルメディア中心の売り方を作り直したと説明しました。ベビーの競合要因を除いても、中国は一桁台半ばで伸びているとのことです。
ただし、規模を忘れてはいけません。年間13兆円の会社にとって、1億ドルの新製品は誤差の範囲です。この会社の売上が伸びるといっても、数%の世界です。会社自身が示した道筋も「上半期3%、そこから下半期に加速」が上限でした。さらに、全社で見たシェアは「すべての期間で前年並み」と会社自身が言っています。アメリカの店頭では取り戻しつつあっても、世界全体ではまだ横ばいです。
原油高は、利益だけでなく、ガソリン代を払う消費者の財布も圧迫します。財務責任者が第2四半期の揺れの要因として真っ先に挙げたのも、ガソリン価格でした。「強さは本物です。でも、一直線にはなりません」。この一言が、今回の決算をいちばん正確に要約していると思います。
次の四半期に見ること
今回の読みは、「売上の立て直しは本物で、利益は原油に握られている」です。
これが外れたと分かるのは、第2四半期のオーガニック売上が2%を割ったとき、または通期の一株利益の見通しの下限(6.89ドル)が引き下げられたときです。どちらかが起きれば、売上の加速は原油に負けたことになります。
逆に、年末に「アメリカの主要な小売先の80%超」を達成し、紙製品のシェアが戻ってきたら、売上の立て直しは店頭の一部ではなく会社全体に広がったと言えます。
そして、消えたTide Evoがどう戻ってくるか。財務責任者が「中央値」という言葉を、いつ取り戻すか。
ここに書いたのは、2026年10月22日の説明会までに分かっていることです。原油の値段は、この記事を読んでいる間にも動いています。
毎日の買い物かごの中身を売る会社の決算は、地味に見えて、景気と原油と消費者の財布が全部映る鏡です。3ヶ月ごとに前の回と並べると、その鏡の曇り方が少しずつ見えてきます。この会社については、利益の言葉が戻るかどうかを、僕は次の回で確かめます。
※この記事は、決算説明会の原文をAIで読み解いて書き、複数の検査(事実照合・表現・法務)を通したうえで公開しています。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。