テンパスAI決算の内容:調整後EBITDAは3ヶ月で3倍、通期見通しは下限を500万ドル上げただけ【TEM・2026年7〜9月期】

がんの患者さんの遺伝子を調べる検査を売りながら、その検査で集まったデータを製薬会社に売っている会社があります。アメリカのテンパスAI(Tempus AI)です。

この四半期、社長はこう言いました。

「粗利の伸びが投資を上回れば、いずれ角を曲がり、意味のある EBITDA を生めるようになると、ずっと考えてきました。この四半期、私たちは曲がりました(we made the turn)」

■ テンパスAIの決算説明会の内容(要点)

  • 次回の決算:2027年2月上旬ごろの見込み(会社の正式発表待ち)
  • 今回:2026年7〜9月期・決算説明会は2026年11月2日
  • 3ヶ月前より、言葉ははっきり強くなりました
  • 数字も、同じ向きを向いています
  • 見通しは、上がったとは言いにくい
  • 3ヶ月前に言っていて、今回言わなかったこと
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※この記事で扱うのは、2026年11月2日に行われた、2026年7〜9月期(第3四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、予測ではありません。次回の決算は2027年2月上旬ごろの見込み(会社の正式発表待ち)です。

💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストの質問に答える電話会議(カンファレンスコールとも呼びます)。発言は記録に残ります。

角を曲がったのは本当です。ただ同じ説明会で、会社は1年の売上の見通しを、下限だけ500万ドル上げました。売上16億ドルの会社で、0.3%です。この記事は、その2つの間に何があるのかを書きます。

目次

その前に——がんの検査のデータが、なぜ製薬会社に売れるのか

社名にAIと付いていますが、売上の4分の3は検査です。この四半期の売上4億1,150万ドルのうち、検査の事業が3億350万ドル、データの事業が1億810万ドルでした。

ふつうの検査会社は、検査をして結果を医師に返したところで仕事が終わります。1回の検査から入るお金は1回分です。

テンパスAIは、そこで終わらせません。検査で読み取った遺伝子の情報と、提携する病院から入ってくる治療の記録を、個人が分からない形に加工して貯めています。患者数にして約5,000万人分にのぼると会社は言っています。新しい薬を作る製薬会社にとって、「どんな遺伝子の人に、どの薬が効いたか」の実例は、自分では集めきれない材料です。そこにお金を払います。

日本でも2019年から、がんの遺伝子をまとめて調べる「がん遺伝子パネル検査」が保険で受けられるようになりました。テンパスAIは、あの検査をアメリカで大量にこなし、その結果を2度目の商品にしている会社だと考えると近いです。

この形の効き方は、利益に出ます。データは一度貯めれば、何社に売っても検査のように1件ごとの原価がかかりません。社長の言う「粗利の伸びが投資を上回る」とは、この2本目の売上が育ってきたということです(粗利=売上から、検査の原価など直接かかった費用を引いた残り)。

3ヶ月前より、言葉ははっきり強くなりました

利益の言い方が変わりました。 3ヶ月前の説明会では、社長は数字を読み上げるだけでした。

3ヶ月前:「調整後EBITDAは800万ドルでした」
今回:「この四半期、私たちは曲がりました」

調整後EBITDAは800万ドルから2,560万ドルへ、3ヶ月で3倍強になっています。

💡EBITDA=本業で稼いだお金に近い利益の見方(利払い・税金・設備の目減り分を引く前)。「調整後」は会社が一時的と考える項目を除いた数字(non-GAAP)で、会計基準どおりの利益とは別物です。

データの買い手が、がん以外に広がりました。 3ヶ月前に挙げていた大型契約は、がんの領域のものでした。今回、会社は製薬大手ブリストル・マイヤーズ スクイブ(BMS)との提携を発表しています。中身は2つあります。

  • BMS のがんのデータとモデルを使う契約が、5年で最大1億3,750万ドル
  • BMS と、別の会社 Pathos と3社で組む、アルツハイマー病のデータとモデルづくり。Pathos がテンパスAIに5年で5,500万ドルを払う

合わせて約5年で1億9,250万ドル、1ドル150円で約289億円です。社長は後者について、こう言いました。

「がん以外で初めての、本当に大きな契約です。それで突然、とても大きなアルツハイマー病のデータセットを作ることになりました」

会社の手元のデータは、実は8割以上ががん以外の患者さんのものです。それが初めて大きな金額で売れました。

契約の数も、言い方が強くなっています。

「以前から言ってきたように、こうした大型の協業を1件でも結べれば満足だと考えていました。今年だけで3件結びました」

1〜3月期のメルク、4〜6月期のビオンテック、そして今回の BMS/Pathos。3四半期続けて大型契約が出ています。

数字も、同じ向きを向いています

  • 売上 4億1,150万ドル(前年同期比 +23%、前の四半期は3億8,250万ドル)。1ドル150円で約617億円
  • がんの検査の件数 +32%(前の四半期は+31%)、売上は1億7,260万ドル(+28%)
  • データの事業の売上 1億810万ドル(+33%)、前の四半期の+28%から加速
  • 手元の現金と有価証券 8億5,440万ドル

もう1つ、日付が決まっている追い風があります。主力の検査について、アメリカの食品医薬品局(FDA)の承認範囲が広がり、1月1日から新しい価格が適用されます。財務責任者は、これで2027年のがん検査の平均単価が「約8,000万ドル」押し上げられると言いました。

💡平均単価(ASP)=検査1件あたりに受け取る金額の平均。件数が同じでも、ここが上がれば売上は増えます。

データの契約がどれだけ離れにくいかも、社長は具体的に話しています。製薬会社はテンパスAIの環境に、8台から64台の GPU(計算用の半導体)をつないだ計算機を3年契約で借り、その中でモデルを作ります。作ったモデルは環境の中に置いておくか、持ち出すなら持ち出し料金がかかります。社長の言葉では「まったく粘着しない状態から、とんでもなく粘着する状態へ」変わりました。

見通しは、上がったとは言いにくい

これだけ材料がそろっても、1年の見通しはほとんど動きませんでした。

3ヶ月前:2026年の売上「15億9,500万〜16億500万ドル」
今回:「16億〜16億500万ドルに引き上げます」

上がったのは下限の500万ドルだけで、上限は同じです。市場の予想(アナリスト21人の平均)も約16億ドルで、ほぼ並んでいます。調整後EBITDAの通期見通しも、約6,500万ドルのまま据え置きです。

💡ガイダンス=会社が自分で出す業績の見通し。比べる相手は前回の自分だけでなく、周りの予想です。周りが16億ドルと見ているところに16億ドルを出しても、驚きにはなりません。

2027年の数字は出していません。質疑では2人のアナリストが、2027年の伸びや利益率について尋ねました。返ってきたのは「長い目で見て、25%を超える成長は達成できる」という長期の言葉と、利益の配分の方針でした。

3ヶ月前に言っていて、今回言わなかったこと

言葉が強くなった一方で、前回は具体的に語っていたのに、今回は出てこなかったことがあります。

  • アストラゼネカ向けの基盤モデル。前回は「最初のバージョンを納品した」と語り、契約の延長も長く説明していました。今回、アストラゼネカの名前は他社と並ぶ一覧の中に出てくるだけです
  • 年末までのフリーキャッシュフロー(本業で入ったお金から設備投資を引いた残り)の黒字化。前回は「年末までに黒字にできる」と言っていました。今回、言い直していません
  • がんの再発を見る検査(MRD)の件数。前回は「4〜6月期に約9,000件、前の四半期比+38%」と自分から出していました。今回の説明の原稿に件数はありません
  • 価格改定の上乗せ額。前回は「年約8,500万ドル」、今回は「約8,000万ドル」と、少し小さくなりました

💡MRD=手術や治療の後、血液の中にがんの痕跡が残っていないかを調べる検査。再発の兆しを早く見つけるために使われます。

データの事業の言い方も、少し平らになっています。前回の社長は「データの事業はとにかく絶好調で、おそらくこれまでで最高の3〜4四半期の流れ」と言いました。今回は「2027年には、長い間でいちばん強い位置で入っていける」と言ったあと、自分でこう続けています。「2026年に入るときも、同じことを言いました」。データの事業のうち、データを貸し出す部分の伸びは、前の四半期の+36%から+29%へ落ちています。

答えが定まらなかったこと、数字に混ざっているもの

いちばん大きいのは MRD です。質疑で、2つの証券会社が続けてこの検査を取り上げました。1社は、いつ営業の全員にこの検査を売らせるのかを。もう1社は、競合の状況とシェアの見通しを。営業の範囲についての社長の答えは、検査1件あたりで粗利がプラスになったら本格的に踏み込む、というものでした。その時期はこうです。

「年の半ばかもしれないし、第2四半期かもしれないし、第3四半期かもしれない。誰にも分かりません(who knows)」

そのうえで、2027年後半から2028年に強い伸びを見込むと言っています。2社が続けて取り上げても時期は定まらなかったので、ここは未解決です。

数字に混ざっているものは2つです。

1つ目は遺伝性のがんを調べる検査です。前の年に競合の1社が経営の問題を抱え、その分の件数が一時的に流れ込んでいました。その上乗せが一巡したところで、前年との比較が歪んでいます。会社は9〜10月に件数の伸びが10%台前半に戻ったと言っています。

2つ目は、買収を予定している Personalis(がんの再発を見る検査などを手がける会社)です。完了は10〜12月期の見込みで、財務責任者は相手の赤字を再投資の枠の中で「吸収する」と言っています。会社はそれでも EBITDA は改善すると見ていますが、来年の利益の数字には、この赤字が入ってきます。

それ以外の伸び、つまり検査の件数、日付の決まった価格改定、5〜6年の長期のデータ契約は、一度きりのものではありません。財務責任者は、粗利の増えた分の約3分の2を再投資に、約3分の1を利益に回す方針も変えていないと言いました。

なぜいま、この会社でこれが起きているのか

理由は、会社の手元に10年分のデータが溜まったところに、製薬会社の使い方が変わったことが重なったからです。

以前の製薬会社は、データを借りて分析し、結果やファイルを自分の側に持ち帰っていました。いまは、テンパスAIの環境に計算機をつなぎ、その中で自分たちのモデルを作っています。だから契約が3年、5年と長くなり、財務責任者は2027年だけでなく2028年、2029年の見通しも立つと言えるようになりました。BMS の契約もその形です。

もう1つは検査の側です。がんの検査の件数は+32%と、前の四半期からさらに加速しました。血液を使う検査の注文は前年比+25%だったと、アナリストが会社の資料から引いています。社長は10〜12月期にこの流れが続けば、血液の検査の伸びが組織の検査の伸びを上回り始めると話しています。検査が増えるほどデータが増え、データが増えるほど製薬会社に売れるものが増えます。2本の売上は、同じ患者さんから生まれています。

一方で、契約1件の大きさは冷静に見ておく必要があります。BMS/Pathos の1億9,250万ドルは、5年で割ると年に約3,850万ドルです。1年の売上16億ドルに対して、数%にあたります。

次の説明会で、確かめること

今回の決算は、利益の形が整ったことをはっきり示しました。同時に、見通しは動かず、前回自分から出していた数字のいくつかが消えました。

次に見るのは3つです。1月1日からの価格改定が、2027年1〜3月期の数字に実際に出てくるか。データの事業の伸びが、25%を下回らずに続くか。そして MRD の「年の半ば」が、もう少し狭い時期に変わるか。

アルツハイマー病のデータが初めて大きな金額で売れたことが一度きりなのか、がん以外の2件目、3件目に続くのかも、まだ分かりません。ここに書いたのは、2026年11月2日の説明会までに分かっていることだけです。1月からの価格改定が数字に出る、2027年1〜3月期の説明会でもう一度並べます。


※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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この記事を書いた人

圧倒的な熱量で世界の相場を毎日14時間以上監視している専業トレーダーです。トレード、バックテスト、調査で得た学びを初心者の方にもわかりやすく発信しています。

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