光の部品を、ふつうの半導体の工場で作っている会社があります。自分では製品を設計せず、顧客の設計どおりにウェハーを焼く受託生産の会社、タワーセミコンダクターです。
この会社の経営陣は、今回の説明会でこう言いました。年末から2027年7〜9月期にかけて増やしていく生産能力について、です。
「重要なのは、この生産能力はもう埋まっている(spoken for)ということです」
■ タワーセミコンダクターの決算説明会の内容(要点)
- 次回の決算:2027年2月上旬ごろの見込み(会社の正式発表待ち)
- 今回:2026年7〜9月期・決算説明会は2026年11月2日
- 売上は過去最高の5億2,600万ドル、次の四半期は6億ドルを見込みます
- 3ヶ月で変わった、4つの言い方
- 工場は、増やす前から売れている
- 今回、言い直さなかった数字
日足チャート(価格/出来高/RSI(2)/ニュースセンチ/RSランク)。毎日自動更新。
※この記事で扱うのは、2026年11月2日に行われた、2026年7〜9月期(第3四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、予測ではありません。次回の決算は2027年2月上旬ごろの見込み(会社の正式発表待ち)です。
💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストの質問に答える電話会議(カンファレンスコールとも呼びます)。発言は記録に残ります。
工場を建てる前から、作る分の買い手が決まっている。顧客との約束は2029年まで延びました。一方で、3ヶ月前に金額で示した「2027年の契約」は、今回一度も金額で語られていません。この記事は、その両方を並べます。
その前に——「シリコンフォトニクス」って、何でしょう
名前に「フォトニクス(光)」と付いていますが、光る電球やレーザーの話ではありません。光で信号を送るための部品を、シリコンの半導体と同じ作り方で作る技術です。
データセンターの中では、サーバーどうしが休みなくデータをやり取りしています。近い距離なら銅の電線に電気を流せば足ります。ただ、送る量が増えて速度が上がるほど、電線は熱と損失で苦しくなります。そこで、電気の信号をいったん光に変えて光ファイバーで送り、受け取った側でまた電気に戻します。この変換をする部品が、光トランシーバーと呼ばれる小さな装置です。
日本の家庭にも同じものがあります。光回線を引くと、壁の近くに小さな箱(ONU)が置かれます。あれが、光ファイバーの光を、パソコンが使える電気の信号に変えています。データセンターでは、あの役目をする部品が何万個という単位で並んでいます。
この部品の心臓部を、ふつうの半導体工場の設備で大量に作れるようにしたのがシリコンフォトニクスです。だから、データセンターの通信量が増えるほど、この会社の工場の空きが先に埋まっていきます。 今回の決算は、まさにその「工場の空き」の話でした。
💡ファウンドリ=自社ブランドの製品を持たず、顧客が設計した半導体を受託で作る工場。タワーセミコンダクターはこの形の会社です。
売上は過去最高の5億2,600万ドル、次の四半期は6億ドルを見込みます
- 売上 5億2,600万ドル(前の四半期の4億6,000万ドルから14%増。前年同期は3億9,600万ドル)
- 純利益 1億2,000万ドル(前年同期は5,400万ドル。純利益率は23%で、前の四半期は20%)
- 一株利益 1.05ドル(希薄化後・会計基準どおりの数字。前年同期は0.47ドル)
- うちシリコンフォトニクスの売上 約2億4,000万ドル
💡純利益率=売上のうち、最後に利益として残った割合。100円売って23円残った、ということです。
売上はこの会社の歴史で最高でした。3ヶ月前に会社が示していた見通しの中心は5億2,000万ドルだったので、実績はそれを約1%上回っています。
次の10〜12月期の見通しは、中心が6億ドル(1ドル150円で約900億円)。今回からさらに14%の上積みです。
💡ガイダンス=会社が自分で出す業績の見通し。ここでは次の四半期の売上の予想を指します。
6億ドルを4倍すると年24億ドル。会社はこれを「年率24億ドル」と呼び、2027年の出だしはそれより高い水準を目標にしていると言いました。
3ヶ月で変わった、4つの言い方
前の四半期と今回で、経営陣の言い方がはっきり変わった箇所が4つあります。
顧客との契約の長さ。
3ヶ月前:「2028年まで続くとても強い契約があり、追加の生産能力が立ち上がるのに合わせて、その先まで契約を維持するための、強い働きかけと話し合いがあります」
今回:「生産能力の契約を2029年まで延ばしました」
「その先まで話し合っている」が、「延ばした」に変わりました。
設備投資の進み具合。
3ヶ月前:「この投資は、発注の面では予定どおり(on track)です」
今回:「これらの投資は、予定より前倒しで(ahead of schedule)進んでいます」
日本の12インチ工場の増強(会社の呼び方でTrack 1)も、前は「2027年10〜12月期に本格生産の準備が整う見込み」だったのが、今回は「装置はすべて発注済みで据え付けの枠も確保し、2027年7〜9月期に本格生産の開始を目標にする」になりました。
シリコンフォトニクスの目標。
3ヶ月前:「2026年10〜12月期に、年率10億ドルを目標にしています」
今回:「2026年10〜12月期のシリコンフォトニクスの年率は、11億ドルを超える見込みです」
11億ドルは、1ドル150円で約1,650億円です。
💡年率(ランレート)=その四半期の売上が1年続いたら、いくらになるかという換算。四半期の数字を4倍したものです。
年明けの落ち込み。 これは前の四半期には無かった発言です。
「私たちの需要と投入の計画には、業界でふつう見られる1〜3月期の季節的な落ち込みが表れていません。むしろ、成長が続くと見ています」
半導体の受託生産は、年明けの四半期に売上が下がるのがよくある形です。それを会社のほうから先に否定しました。
工場は、増やす前から売れている
なぜこの会社に、いまこれが起きているのか。答えは経営陣の次の言葉に詰まっています。
「今四半期に大きな生産能力が立ち上がるため、年末の生産能力は、7〜9月期のシリコンフォトニクスの売上を支えた水準の約2倍になる見込みです。これにより、新しい投入量が工場を通って出荷されるにつれ、2027年の1〜3月期と4〜6月期に大きな売上の伸びが見込めます」
工場にウェハーを投入してから、製品として出荷されるまでには時間がかかります。だから、年末に増える生産能力は、そのまま翌年前半の売上として表に出てきます。 そしてその能力の買い手は、冒頭の言葉のとおり、もう決まっています。
さらに先の数字もあります。2027年7〜9月期には、生産能力を今の約3倍にする計画です。どのくらいの売上に当たるかを聞かれて、経営陣は「年率28億ドルを少し上回るあたり」と答えました。今のシリコンフォトニクスは四半期で約2億4,000万ドルです。
買い手が本気だという裏づけも、口約束だけではありません。
- 顧客からの前受金が入っている(2026年1〜3月期に受け取った2億9,000万ドルを含み、大半は2027年の生産枠の予約)
- 長年の取引先セムテック(Semtech)と、今四半期に大きな生産能力の契約を結んだと発表
- 別の主力技術(電源向けの半導体)でも、2027年の平均価格が2026年より20%高くなる長期契約を複数の主要顧客と結んだ
- 9億2,000万ドルの設備投資は、約65%が支払い済み(前の四半期は50%)
💡前受金=商品を渡す前に、先にもらっておくお金。顧客が「この枠は必ず使う」と先に払っている、ということです。
日本の工場の拡張には、経済産業省の支援も入っています。
今回、言い直さなかった数字
ここまでは言い方が強くなった話でした。逆に、3ヶ月前に言っていたのに、今回出てこなかったものがあります。
3ヶ月前、経営陣はこう言っていました。
「2027年のシリコンフォトニクス売上として、約13億ドルに当たる顧客との契約を発表しました」
今回、この13億ドルは更新もされず、言及もされませんでした。代わりに出てきたのは「生産能力は2倍、3倍」「もう埋まっている」という言い方です。契約の期間(2029年まで)は語ったのに、2027年の契約の金額は語らなかった。
そのうえ、2029年までの約束の中身にも、但し書きがあります。
「署名済みの契約と、交渉が最終段階にある契約を合わせて、200ミリと300ミリの両方の生産について顧客の需要の確約を得ました」
200ミリ・300ミリはウェハーの直径です(300ミリ=12インチ)。
つまり「確約」の中には、まだ署名に至っていない契約が混ざっています。今回、金額つきの新しい署名済み契約は出てきていません。
もう一つ。3ヶ月前、経営陣は「2027年に入った最初の何四半期かのうちに、長期の財務モデルを更新する」と言っていました。今回はその予告を繰り返していません。2028年に売上36億ドル・純利益12億ドルという長期の目標はそのまま据え置きで、「保守的すぎないか」と聞かれた経営陣の答えは、「いや、意欲的な目標だと思います」でした。
答えが出なかったこと、一時的に良く見えた部分
この決算にも、答えが出なかった質問と、割り引いて読むべき数字があります。
いちばん大きいのは競争です。大手の競合が光の部品の生産能力を増やしている中で、シェアをどう守るのか。これを2つの証券会社が別々に聞きました。経営陣は「今のシェアは極めて高いと思う」と答えましたが、2027年以降のシェアを数字では言いませんでした。根拠として挙げたのは、顧客が2029年までの長期契約に署名していることです。同じ説明会の中で、さらに先の増強(Track 2)を前倒しできるかという質問は「可能性はありますが、私たちが本当に考えているのは」で答えが途切れ、レーザーを一体化した新製品の規模については「本当に、はっきりした答えを持っていません」と答えています。
一時的なものも3つあります。
- 売上の増加分に対する粗利の割合(売上が1増えたうち、粗利として残った割合)は今四半期62%でしたが、財務責任者は「まだすべての装置が減価償却を始めていない」と説明し、長期では55〜58%と繰り返した
- スマートフォン向けの無線通信の部品の事業は、日本の工場の1つを光の部品に振り向けるための移管と、それにともなう再認定(顧客が新しい工場の品質を確かめ直す手続き)で一時的に落ち込んだ(経営陣は、来年4〜6月期には過去最高になる見込みと説明)
- 前年同期比の伸びは、最高経営責任者が33%、財務責任者が36%と言っていて、説明会の中で数字が揃っていない(前年同期の3億9,600万ドルから計算すると約33%)
💡減価償却=高い装置の代金を、使う年数に分けて少しずつ費用にしていく会計の仕組み。新しい装置の費用がまだ始まっていない分、今の利益は少し軽く見えています。
62%という数字は、会社自身が「長くは続かない」と言っている数字です。ここを今後の水準として読むと、向きを間違えます。
次の決算で確かめること
今回の決算から読めるのは、「工場の能力が先に売れていて、その能力が来年前半の売上に変わっていく途中」という姿です。これが崩れる形は、はっきりしています。
- 2027年1〜3月期の売上が、今回の見通し(6億ドル)を下回る。会社は自分から「季節の落ち込みは無い」と言っているので、下回れば言葉と数字がずれたことになります
- 10〜12月期のシリコンフォトニクスの年率が、11億ドルに届かない
- 2029年までの契約の延長が、取り消されたり縮んだりする
そして、言い直さなかった13億ドルが次にどう語られるか。金額つきで戻ってくるのか、それとも「倍率」の言い方のまま進むのか。そこも次の説明会で見ます。
ここに書いたのは、2026年11月2日の説明会までに分かっていることだけです。生産能力の数字も、契約の中身も、四半期ごとに動きます。次の決算説明会でも、今回の言葉と並べて確かめます。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。