オン・セミコンダクター決算の内容:AI向けの見通しは6億2,000万ドルに上がり、自動車の補充注文は後回しになった【ON・2026年7〜9月期】

売上の半分近くを自動車向けで稼ぐ半導体の会社が、7月からの2四半期、自動車メーカーの注文の一部を待たせています。

回した先は、AIデータセンターと産業向けです。電気を扱う「パワー半導体」を主力とする、オン・セミコンダクター(社名の表記はonsemi)の決算です。最高経営責任者は今回、こう言いました。

「自動車では、最終需要向けの納入はすべて支えていますが、在庫を補充するための受注残には対応していません」

■ オン・セミコンダクターの決算説明会の内容(要点)

  • 次回の決算:2027年2月上旬ごろの見込み(会社の正式発表待ち)
  • 今回:2026年7〜9月期・決算説明会は2026年11月2日
  • パワー半導体は、計算をしない半導体です
  • 売上は前年比+11%、AIデータセンターは今回から独立した区分になりました
  • 「2倍を超える」は金額に、「とても安定」は「補充には対応しない」に変わりました
  • 3ヶ月前に挙げた取引先の名前が、今回は出てきません
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※この記事で扱うのは、2026年11月2日に行われた、2026年7〜9月期(第3四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、予測ではありません。次回の決算は2027年2月上旬ごろの見込み(会社の正式発表待ち)です。

💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストの質問に答える電話会議(カンファレンスコールとも呼びます)。発言は記録に残ります。

3ヶ月前、同じ人物は自動車を「とても安定していて、見通しも良い」と語っていました。需要が消えたわけではない、と会社は言います。それなら、なぜ待たせることになったのか。AI向けの好調と自動車の後退は、1つの判断の表と裏です。

目次

パワー半導体は、計算をしない半導体です

半導体と聞くと、計算をするエヌビディアのチップを思い浮かべると思います。パワー半導体の仕事は、電気の電圧を変え、流れを切り替えることです。

身近な実物はスマホの充電器です。コンセントの100ボルトを、スマホが受け取れる低い電圧に変えています。あの小さな箱の中で働いている部品の仲間です。

AIデータセンターでは、同じ仕事を桁違いの電力でやります。会社の説明では、800ボルトという高い電圧から、ラックの中で必要な54ボルト、12ボルト、6ボルトへ変換します。電気の通り道が木の枝のように分かれていくので、この全体を「電源ツリー」と呼びます。計算の量が増えるほど、狭い場所で扱う電力が増え、そこに載る半導体の額も増える、と会社は説明しています。

💡炭化ケイ素(シリコンカーバイド)=高い電圧に強い半導体の材料。この会社は電気自動車のモーターを動かす部品にも、データセンターの電源にも使っています。

ここが今回の話の土台です。この会社の部品は、データセンターにも、電力網にも、自動車にも売れます。 そして一部の技術では、作れる量が足りていません。だから「どの客に先に渡すか」を、会社が選ぶことになりました。

売上は前年比+11%、AIデータセンターは今回から独立した区分になりました

  • 売上 17億2,000万ドル(1ドル150円で約2,580億円。前の四半期比+7%、前年同期比+11%)
  • 粗利率 41.2%(調整後。5四半期連続の改善)
  • 一株利益 0.90ドル(調整後。会計基準どおりの数字は0.79ドル)
  • フリーキャッシュフロー 4億8,900万ドル(売上の28%)

💡調整後=会社が一時的と考える項目などを除いた数字(non-GAAP)。会計基準どおりの数字(GAAP)とは別物です。
💡粗利率=売上から製造の原価を引いて残る割合。100ドル売ると41.2ドル残る、ということです。

売上は会社の見通しの中央より2,200万ドル多く、一株利益も中央の0.87ドルを超えました。財務責任者によると、調整後の一株利益は前年比で売上の4倍の速さで伸びています。

AIデータセンターは4つ目の区分になり、売上の内訳はこうなります。

  • 自動車 7億7,700万ドル(前の四半期比−1%、前年同期比−1%)
  • 産業 4億6,700万ドル(同+10%、+9%)
  • AIデータセンター 1億8,000万ドル(同+39%、+175%)
  • その他 2億9,900万ドル(同+11%、+10%)

計算すると、自動車は売上の約45%、AIデータセンターは約1割です。まだ小さい区分ですが、伸び方がまるで違います。

「2倍を超える」は金額に、「とても安定」は「補充には対応しない」に変わりました

AIデータセンターの言い方。

3ヶ月前:「2026年のAIデータセンターの売上は、2倍を超えると見ています」
今回:「2026年の売上は約6億2,000万ドル、前年比140%増を見込んでいます」

6億2,000万ドルは、1ドル150円で約930億円です。倍率が金額になり、さらに「年初に想定していたより速く伸びています」と続きました。2027年についても、質疑でこう念を押しています。

「ですから2027年は、ほんの90日前に見込んでいたよりも高い水準です」

自動車の言い方。

3ヶ月前:「全体として自動車は、なんと言いますか、とても安定していて、見通しも良いと見ています」
今回:「自動車では、最終需要向けの納入はすべて支えていますが、在庫を補充するための受注残には対応していません」

数字も同じ向きです。3ヶ月前、財務責任者は7〜9月期の自動車を「1桁台前半の増加」と見ていました。実績は−1%です。次の10〜12月期は「1桁台後半の減少」を見込んでいます。

産業は逆に動きました。 3ヶ月前の見通しは「ほぼ横ばい」でしたが、実績は前の四半期比+10%です。

3ヶ月前に挙げた取引先の名前が、今回は出てきません

前回、AIデータセンターの話で具体的に挙げていたのは取引先の名前でした。エヌビディアの「MGX」という仕様での役割の拡大、中国の電源メーカーであるグレートウォールからの2件の採用、アマゾンのクラウド(AWS)の電源とバッテリーバックアップでの採用。今回、この3つの名前は一度も出てきません。AIデータセンターの話で名前が出た顧客は、グーグルだけです。

「7〜9月期に、グーグルを含む複数の有力なプラットフォームへの量産出荷を始めました」

前回語られた数字も繰り返されませんでした。

  • 納品までの待ち時間(リードタイム)が約27週から約32週へ延びたこと
  • 一部の顧客が2028年の分まで注文を入れていること
  • 蓄電システム向けの売上が2026年に約40%伸びる見通し
  • 中国の電気自動車向け炭化ケイ素の売上が60〜70%伸びる見通し

話が消えたからといって、事業が消えたわけではありません。炭化ケイ素では中国が引き続き強い需要先だと質疑で答えていますし、蓄電も冒頭で需要の強い分野に挙げています。ただ、待ち時間は、供給が足りないという今回の説明と直結する数字です。それを語らなかったので、足りない度合いは前回より見えにくくなりました。

自動車の注文を待たせたのは、工場の順番の問題だと会社は説明します

自動車の話は、質疑の冒頭から出ました。ある証券会社が、自動車を軽く扱っていることでシェアを失わないかと聞くと、最高経営責任者はまず相手の言葉を直しています。

「私たちは自動車市場を軽視しているわけではありません」
「短期的なもので、供給の都合によるものです。戦略によるものではありません」

会社の説明を順に並べると、こうです。

足りない理由は時間差にあります。稼働率は83%まで上がりましたが、財務責任者はこう言いました。

「いまラインから出てきているのは、稼働率が77%だった2四半期前の分です」

パン屋にたとえると、今朝の棚に並ぶのは前の晩に仕込んだ分です。朝になって客が増えても、仕込みの量は変えられません。そこへ、産業とAIデータセンターの注文が想定を超えて入りました。

💡稼働率=工場の能力のうち、実際に動かしている割合。

そのうえで、会社は渡す先を分けました。分け目は、いま使われる分か、備えとして積む分かです。

産業向けは、設置が進んでいる分として説明されました。 電力網からデータセンターまでの「データセンターの壁の外側」の需要が想定を超え、在庫の積み増しではないかと聞かれると、最高経営責任者はこう答えています。現地に据え付けられていくもので、在庫の補充ではない、と。

自動車メーカー側は備えとして注文を入れている、と経営陣は説明しました。 すべてのメーカーが同じではないと断ったうえで、AIと産業の回復を見て、「渋滞に巻き込まれないように」注文を置いていると言います。この補充分は、今年の7〜12月に全部は作らないと決めました。

「その需要は消えてなくなるものではありません」
「供給が立ち上がる1〜3月期に、出荷を再開します」

これから新しく投資して待つ話でもない、と会社は言います。

「その生産能力も投資も、もう済んでいます」

済んでいると言うのは、1〜3月期の補充に使う分のことです。来年の設備投資そのものは、今年の売上の約2%から約5%へ増やす計画で、維持の投資に一部のラインの増強を足すと説明しています。

工場の時間差で説明はつきます。2027年の自動車は長期目標どおりの成長に戻す、と再び表明しました。ただ、自動車メーカーの需要が加速しているのかと聞かれると、「加速しているかどうかは分かりません」と答え、車の台数ではなく1台あたりに載る半導体の額の話へ移しています。

2027年の倍増は高くなった土台から、2030年の5億ドルは買収の分です

AIデータセンターの先の数字は2つ出ました。性格が違います。

1つ目は2027年です。

「2027年は、この高くなった水準から2倍になると見ています」

今年の約6億2,000万ドルの2倍なら、約12億4,000万ドルです。増える約6億ドルは、今年の全社売上の見込み(約66億ドル)の約9%にあたります。すでに売上が立ち始めている話だ、と会社は言います。

「設計に組み込まれる段階から、採用が決まる段階を経て、もう売上の段階に移っています」

2つ目は2030年です。 目標を5億ドル引き上げて30億ドル超にしました。既存の事業が伸びた分も含むのかと聞かれた答えは、一文でした。

「それは買収に紐づくものです」

買うと発表した相手はフェリック(Ferric)という会社で、価格は6億ドル、売上の達成に応じて最大1億7,500万ドルが追加されます(完了は10〜12月期の見込み)。

💡IVR(統合型の電圧レギュレーター)=電圧を調整する部品を薄いパッケージにまとめ、GPUのすぐ近くに置く技術。電気の通り道を短くして、ロスを減らします。フェリックの主力です。

会社は、これを「2030年をはるかに超える、複数年の機会」と呼びました。目先の業績への大きな影響は無いとし、この買収の2027〜2028年の売上の見通しを聞かれても、示しませんでした。つまり、2030年の目標の引き上げは、既存の事業の見通しが上がったことを示す数字ではありません。

10〜12月期の見通しを足した通期の数字は、市場の予想を少し上回る程度でした

会社が示した次の四半期の見通しです。

  • 売上 17億1,500万〜18億1,500万ドル(中央で前の四半期比+2.5%。会社は季節的な動きを上回ると説明)
  • 粗利率 41.5〜43.5%(調整後)
  • 一株利益 0.95〜1.07ドル(調整後)

💡ガイダンス(見通し)とコンセンサス=前者は会社が自分で出す業績の予想、後者はアナリストたちの予想の平均です。自己ベストを更新しても、周りの予想より1秒速いだけなら大きな驚きにはなりません。

今年の実績3四半期とこの見通しの中央を足すと、通期の売上は約65億9,500万ドル、調整後の一株利益は約3.29ドルです。市場の予想は売上が65億6,000万ドル、一株利益が3.21ドルでした。売上で約0.5%、一株利益で約2.5%上回っています。

AIデータセンターの話だけを聞くと、会社全体が大きく上振れたように感じます。全社の数字は、そこまでの上振れではありません。

自動車の補充の量は最後まで数字にならず、上振れには時期のずれが混ざっています

いちばん大きな未解決は、待たせている補充の量です。少なくとも5つの証券会社が、形を変えて自動車の話を聞きました。経営陣の説明の筋は一貫していましたが、補充の規模は最後まで数字になっていません。量が分からないので、1〜3月期に戻る分の大きさも外からは測れません。AIデータセンターの倍増についても、顧客別・製品別の数字は示さず、グーグルの案件にも金額は付いていません。

数字のほうにも、割り引いて読むべきものが4つあります。

  • その他の区分の伸び:10〜12月期に増える額は計算すると4,500万〜5,500万ドルほどで、全社の見通しの中央の増分(約4,500万ドル)とほぼ同じ額です。大口顧客の立ち上がりで10%台半ば〜後半の増加を見込むもので、財務責任者は「少し波があります」と言いました。2027年はこのペースを見込まない、と明言しています。この分は外部で製造するので、自社工場の取り合いには関係しないそうです
  • 産業とAIの上振れ:一部は自動車から回した供給によるものです。自動車の減少と合わせて見ると、時期のずれが混ざっています
  • 粗利率の改善:7〜9月期は、稼働率の上昇が遅れて効いたものと、新製品の構成によるものです。値上げはこれから効き始めます。稼働率1ポイントで粗利率0.25〜0.30ポイントという計算式は、稼働率が下がる局面では逆に働きます
  • 自社株買い:前の四半期の3億3,200万ドルから、今回は2,000万ドルに縮みました。理由はシナプティクス(Synaptics)の買収案件に関わる取引の制限で、今回の一株利益への寄与は小さくなっています。買収の完了後は負債の圧縮を最優先にする、とも言っています

自動車の数字が、次の説明会でどう語られるか

今回の決算から読めるのは、「足りない供給をAIと産業へ先に回し、自動車には来年戻すと説明した」という姿です。この読みが崩れるのは、次のような形です。

  1. 2027年1〜3月期の自動車の売上が、会社の言う「通常の水準」に戻らない
  2. 2027年のAIデータセンターの見通しが、約12億4,000万ドルを下回る形で修正される
  3. 来年上げると言っている稼働率が、83%のあたりから動かない

1番目は、シェアの話にもつながります。待たされた自動車メーカーが別の調達先へ動いていないか。「シェアは失っていない」という今回の説明が本当に試されるのは、補充の出荷が戻るはずの回です。

半導体の工場では、半年前の仕込みが今の売上になります。だから今回の決断の答えも、数字に出るまで時間がかかります。自動車メーカーを待たせたのが正しかったのかは、まだ誰にも分かりません。次の説明会でも、今回の言葉と並べて読みます。


※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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この記事を書いた人

圧倒的な熱量で世界の相場を毎日14時間以上監視している専業トレーダーです。トレード、バックテスト、調査で得た学びを初心者の方にもわかりやすく発信しています。

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