AIのデータセンターの中では、いま「光の部品が足りない」という話がずっと続いています。
その不足の、ちょうど根元にあたる材料を使わずに部品を作ろうとしている会社があります。従業員は1年前に14人、いまは30人を超えたところ。年間の売上は450万ドルです。カリフォルニア州サンタバーバラ近郊(ゴリータ)に本社を置く、Aeluma(エルーマ)という小さな半導体の会社です。
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※この記事で扱うのは、2026年9月16日に行われた、2026年4〜6月期(同社の会計年度では2026年度の第4四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、僕の予測ではありません。次回の決算日は会社の発表待ちです。
💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストに向けて説明し、質問に答える電話会議。発言はそのまま記録に残ります。
その前に——「インジウムリンの基板」って、何でしょう
名前に「リン」と付いていますが、肥料の話ではありません。インジウムリン(InP)は、光の部品を作るための土台になる、薄い円盤(ウエハー)の材料です。
データセンターの中では、サーバー同士が膨大なデータをやり取りしています。距離があるところは、電気のままだと遅くて熱くなるので、いったん光に変えてケーブルで送り、受け取った側でまた電気に戻します。家の光回線の機器が、壁から来た光を電気に戻しているのと同じことを、データセンターはとてつもない数でやっています。
💡レーザー=電気を光に変えて送り出す部品。受光素子=届いた光を受けて電気に戻す部品。この2つが、光通信の入口と出口です。
その入口と出口の部品は、これまで主にインジウムリンの円盤の上に作られてきました。ところが会社はこの円盤について、今回こう言っています。
「インジウムリンの基板は供給が不足していて、小さく、高価で、割れやすい」
普通のシリコン半導体なら、直径300ミリの大きな円盤の上に一度に大量のチップを作ります。生地が大きいほど、1枚からたくさんクッキーを型抜きできるのと同じです。インジウムリンはそれができません。会社によれば、6インチ(約150ミリ)のインジウムリンへの投資は始まっているものの、認定(量産に使ってよいという合格判定)に時間がかかり、値段も上がっている。
Aelumaのやり方は、インジウムリンを使わずに、ガリウムヒ素(携帯電話の部品などにも使われる半導体の材料)やシリコンという、もっと大きく作れる円盤の上に同じ働きの部品を載せることです。150ミリから始めて、将来は200ミリ、300ミリまで視野に入れていると言っています。
ここが記事の背骨になります。不足は本物で、それを避ける作り方にも理屈がある。だから問題は「需要があるか」ではなく、「その需要が、この会社の売上として、いつ届くのか」です。 今回の決算は、ちょうどそこを試す回でした。
評価中から交渉中へ。装置も自分で買う側に回りました
まず、前に進んだほうから書きます。
お客さんとの関係について。
3ヶ月前:「お客さんは、この段階ではおもに性能の数値を評価しているところです」
今回:「商用のお客さんと、数百万ドル規模のNRE契約を複数、交渉しています」
「評価中」から「交渉中」へ。一段、前に出ています。ただし「交渉中」であって「署名した」ではありません。お客さんの名前も、金額も出ていません。
💡NRE(非経常的エンジニアリング)契約=量産の前に、お客さん専用の開発をお金をもらって請け負う契約。量産の注文そのものではなく、その手前の段階です。
製造のやり方について。 ここがいちばん大きく変わりました。
3ヶ月前:「(大きな案件が来ても)本社に、数台とか5台とか10台とかの製造装置を据え付けるつもりはありません」
今回:「将来の量産規模に向けて、最新型の製造装置を複数台、調達しています」
結晶を積む装置(MOCVD)を、自分で買う側に回りました。2027年度の設備投資は約1,000万〜1,200万ドルの見込みで、そのうち中心がこの装置2台だと説明しています。財務責任者は「身軽な経営モデルからの転換ではない」と付け加えましたが、3ヶ月前の言い方と並べると、向きははっきり変わっています。
ほかにも、新しいものが3つ出てきました。
- 日本の住友化学グループの米国子会社と、ウエハーの生産能力を増やすための新しい契約を結んだ(金額は非開示)
- 米国商務省のCHIPS研究開発部門(半導体を米国内で作るための政府の補助制度)と、最大3,000万ドルの資金について基本合意書(LOI)を交わした。ただし確定契約に向けて交渉中の段階
- 社長が「これまでになく商用に集中しています」と言い切った
語彙だけを並べれば、3ヶ月前より確実に商売に近づいています。
数字のほうは、支出だけが大きくなりました
次に実績です。
- この四半期の売上 58万2,000ドル
- 通期の売上 450万ドル(前年度は470万ドル=ほぼ横ばい。3ヶ月前に示した見通し420万〜460万ドルの上のほう)
- この四半期の純損失 400万ドル(一株あたり0.22ドル)/通期の純損失 920万ドル(前年度は300万ドル)
- この四半期の調整後EBITDA マイナス290万ドル(前の四半期はマイナス91万1,000ドル)
💡調整後EBITDA=会社が「本業の稼ぐ力」として示す、会計基準どおりではない数字(non-GAAP)。ここでは赤字の幅を見るための目安です。
売上は、ほぼすべてが米国政府の研究開発契約からです。海軍、NASA、そして国防総省の部局。この会社はこれまで、政府のお金で技術を育ててきました。
損失が広がった理由を会社は「人員の増加と、その他の営業費用」と説明しています。従業員が14人から30人超へ倍以上になったのですから、筋は通っています。
そして、現金は増えました。手元の現金は5,600万ドル(1ドル150円で約84億円)で、3月末の3,780万ドルから増え、借金はありません。増えた分の大きな部分は、この四半期に株式を約83万株、平均24.87ドルで市場で売り出し、手取り2,010万ドルを得たことによるものです。3ヶ月前の時点では「この枠ではまだ1株も売っていません」と言っていた枠です。
お金を集め、人を増やし、装置を買う。体は大きくなっています。ただ、その体を動かす売上は、まだ来ていません。
「30件超」も、提携先の名前も、今回は出てきませんでした
前の四半期に具体的に語っていたことのうち、今回の説明会で触れられなかったものが4つあります。
1つ目は、お客さんとの接点の数です。 3ヶ月前、社長はこう言っていました。
「パイプラインの中の数は、いまおそらく30件を超えています」
今回、件数は一度も出てきません。お客さんとの関係は「数百万ドル規模のNRE契約を複数、交渉しています」という言い方で語られましたが、相手の数は出てきません。
💡パイプライン=商談につながりそうな見込み客の一覧。
2つ目は、提携先の名前です。 3ヶ月前は、住友化学グループの米国子会社と並べて、イスラエルの半導体受託製造会社タワー・セミコンダクターとの提携を名前つきで語っていました。今回、住友化学のほうは新しい契約として前に出てきましたが、タワーの名前は一度も出てきません。
3つ目は、量子の分野です。 3ヶ月前は「量子(Quantum)分野の見込み客からの引き合いが、目に見えて増えている」と言っていました。今回は、その話が出てきません。
4つ目が、いちばん重いものです。 3ヶ月前、2026年度の売上が見通しに届かなかった理由を聞かれて、財務責任者はこう答えていました。
「(政府との契約手続きが遅れたので)それらのプログラムはより長く続くことになり、その売上は来年に入ってくるでしょう」
「来年」は、いま始まった2027年度のことです。では今回、その2027年度の見通しはどうだったか。
「今年は、公式な見通しは出しません」
代わりに示されたのは、すでに受注済みの政府契約から2027年度に計上する見込みの売上が約230万ドル(約3億4,500万円)、協議中の追加分が最大200万ドル、という数字だけでした。2026年度の450万ドルのほぼ半分です。
💡受注済み(booked)=契約が決まっていて、作業が進めば売上になる分。協議中の分は、まだ決まっていません。
3ヶ月前の「来年に入ってくる」と、今回の「受注済みは約230万ドル」。この2つは、素直には繋がりません。しかも社長は、こうも言いました。
「これは、目先の政府契約の売上を犠牲にすることを意味するかもしれません」
政府の仕事を絞って、商用に人とお金を回す、という宣言です。方向としては分かります。ただ、それは今の売上の柱を自分で細くしていくという意味でもあります。
NREの中身を聞かれて、社長は数字を出しませんでした
質疑応答の冒頭の質問は、まさにこの「来年に入ってくるはずだった売上」でした。答えは「公式な見通しは出さない」「いくつかの契約次第でレンジが大きく変わり得るので、現時点ではそれ以上の見通しを示す準備ができていない」。
交渉中のNRE契約について、どの段階まで来ているのかを聞かれた場面では、社長は「詳しいことを明かさずに言えば、何に関係しているかは想像がつくと思います」と答えています。受光素子とレーザーで、それぞれどれくらいの案件と金額があるのかを聞かれた場面では、「この場で正確に数字にすることはできません」。
答えが具体的だったのは、費用の話だけでした。第4四半期に営業費用が膨らんだのは年末の計上と人件費が通年分になったためで、次の四半期は大きくは増えない。装置2台の設備投資は「今年かぎりの性格が強い」。
そのうえで、数字の出どころについて押さえておきたいことが3つあります。
- 現金が増えたのは、本業の稼ぎではなく株式の売り出しによるもの
- CHIPSの最大3,000万ドルは、確定しても売上ではなく、米国政府による出資として扱われる可能性が高いと会社自身が説明
- 売上の実体は政府の研究開発契約で、契約の時期や政府の閉鎖に左右される(前回の説明会で、財務責任者は売上の遅れの理由に政府の閉鎖を挙げていました)
2つ目の点は大事です。CHIPSの3,000万ドルは、この会社の規模からすれば大きな数字に見えます。でも会社の説明どおりなら、決算書の売上の行には1ドルも載りません。 政府が株主になる、という話です。
なぜ、この会社の話は「2028年」になるのか
では、需要の話は嘘なのか。そうではないと思います。
会社が語る背景は一貫しています。3ヶ月前は「大手のレーザーの供給元は売り切れている」、今回は「インジウムリンの基板は供給が不足している」。住友化学グループとも何年も前から一緒に動いていて、今回それが契約になりました。不足の話も、それを避ける作り方の話も、四半期をまたいで同じことを言い続けています。
ただ、社長自身が、主力に据える受光素子の用途について、需要の山がいつ来るかをこう言っています。
「お客さんとの議論と市場予測に基づけば、2028年から2030年にかけて展開の規模が大きくなるにつれ、相当な数量の機会になると考えています」
2028年から2030年。いまから見て、早くても1年以上先です。そして3ヶ月前の時点で、お客さん個別の品質認定(量産に使ってよいという合格判定)は「まだ受けていない」と言っていました。今回、認定がどこまで進んだかの話は出てきていません。
💡品質認定(qualification)=お客さんが「この部品なら量産品に組み込んでよい」と判断するまでの試験。光の部品では、ここを通らないと注文になりません。
つまり、この会社に起きていることを一行で言うと、こうなります。言葉と体制は量産の準備に入ったが、商用のお客さんとの契約は、まだ1本も署名されていない。 2027年度の売上として見えているのは、受注済みの政府契約約230万ドルと、「2027年度に追加の売上をもたらすかもしれない」と会社自身が控えめに言う、交渉中のNRE契約だけです。
次の決算で、「交渉中」が署名に変わるか
今回の僕の読みは「準備の言葉は本物だが、売上の到着はまだ遠い」です。
良い方へ外れるのは、次の決算説明会までに、商用のお客さんとのNRE契約が署名され、金額が示されること。そしてCHIPSの基本合意が確定契約になること。この2つが揃えば、「交渉中」という言葉は過去形になります。
悪い方へ外れるのは、2027年度の売上が受注済みの約230万ドルの水準のまま、次の回も「交渉中」が続くこと。その場合、今回増えた人と装置の費用が、売上の無いまま積み上がっていきます。
もう1つ、静かに見ておきたいものがあります。今回消えた「30件を超えるパイプライン」が、次の回に戻ってくるかどうかです。数が増えていれば、また言うはずです。
いまの見立ては、9月16日の説明会の時点のものです。小さな会社ほど、1本の契約で話が変わります。
※この記事は、決算説明会の原文をAIで読み解いて書き、複数の検査(事実照合・表現・法務)を通したうえで公開しています。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。