決算そのものは、会社の想定どおりに着地しました。それなのに、先の見通しだけが下がった四半期でした。
そして今回、前の決算では何度も出てきた再建策の名前が、一度も出てきません。
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※この記事で扱うのは、2026年10月1日に行われた、ナイキの2027年度 第1四半期(2026年8月31日締め=暦の6〜8月)の決算説明会です。ナイキの会計年度は5月末で終わるので、年度の数字は暦年と1年ズレます。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、僕の予測ではありません。次回の決算日は会社の発表待ちです。
その前に——ナイキの半分は、スポーツ用品ではありません
ここが分からないと、この決算は正反対に読めます。
ナイキ(NIKE)を「運動靴メーカー」だと思って読むと、競技用の性能が上がれば売れるはずということになります。実際、今回そちらは伸びていました。
でもナイキの売上の半分近くは、スポーツの道具ではありません。街で履く普段着です。ダンクやジョーダンは、駅前で見かけるあの靴で、買っている人の多くは走りません。
💡 会社はこの2つを別の事業として語っています。競技向けが「パフォーマンス」、普段着が「スポーツウェア」と「ジョーダン」。前者は性能で売れる商売で、後者は流行で売れる商売です。
性格がまるで違います。流行商売は、当たれば一気に売れますが、飽きられたら一気に止まる。しかも厄介なのは、会社が自分で止めることもあるという点です。安く大量に出回りすぎたブランドを立て直すには、供給を絞って品薄に戻すしかない。実際ナイキは今回、ダンクの売上を意図的に半分近くまで減らしました。
💡 つまり減収の一部は、事故ではなく手術です。ただし手術でも、売上が減ることと痛むことは同じです。
ここを押さえると、今回の決算の構造が見えます。 性能で売る側は伸びた。流行で売る側は二桁減った。そして流行側のほうが大きい。だから会社全体はマイナスになります。
これは僕の読みではなく、CEO自身がそう説明しています。
Despite that progress, our Nike performance business is not yet large enough to offset the pressure we’re seeing in Nike Sportswear, Jordan brand, and Greater China.
(その進展にもかかわらず、ナイキのパフォーマンス事業は、スポーツウェアとジョーダンブランド、そして中国で見えている圧力を打ち消せるほど、まだ大きくはありません)
数字は「想定どおり」でした
2027年度 第1四半期の実績
- 売上 112億ドル(報告ベースで −4%、為替の影響を除くと −5%)
- 粗利益率 42.8%(+0.6ポイント)
- 販管費 39億ドル(−3%)
- 1株利益(希薄化後) 0.48ドル
- ナイキブランドの売上 110億ドル(−4%)。北米は+2%、一方で中国と欧州が落ちた
中身の分解も、会社が自分で出しています。
- スポーツウェアは、この四半期の売上の半分弱を占め、低二桁の減少
- ジョーダンは全社の13%で、売上は十数%の減少
- ダンクの売上をほぼ半減させ、それがスポーツウェアで約2億ドルの逆風になった
- 中国は報告ベースで22%減(11.8億ドル)、為替の影響を除くと26%減(CEOが説明会で挙げたのは、為替を除いた26%減のほうです)
- 一方でパフォーマンスは、前年度に160億ドルまで育てた土台の上に、この四半期さらに高一桁%の成長
- ランニングは再び二桁成長。中国のランニングは6四半期連続の成長
- ワールドカップのチームキットの売上は、2022年大会の2倍
悪くない中身です。 想定どおりに着地した、という会社の説明と矛盾しません。
ひとつ添えておくと、粗利益率の改善には為替の追い風が入っています。 会社自身が改善要因として挙げていて、営業外の損益も前年から約4,200万ドル好転しました。全部が事業の力というわけではありません(為替は、会社が一時的な項目として開示したものではありません)。
下がったのは、先の見通しだけでした
ここが今回の本体です。ただし、ここは比べる期間を間違えると話が合わなくなるので、丁寧に書きます。
3ヶ月前に会社が出していたのは、通年の見通しではありませんでした。 当時のCFOが示したのは、2026年度の第4四半期から2027年度の第2四半期までの、3四半期をまとめた見通しです。
We reiterate our expectation for earnings to be flattish over that time period, excluding the benefit from tariff recovery.
(関税の回収による効果を除いたベースで、その期間の利益はほぼ横ばいという見通しを、あらためて確認します)
その3四半期について、売上は低〜中一桁%の減少、粗利益率の改善は第1四半期から始まる、という見通しも付いていました。
今回、会社は初めて通年(2027年度)の売上と利益の数字を出しました。 こうです。
for fiscal 27, we currently expect revenues to decline in the high single-digit range
(2027年度については、現時点では売上が高一桁%の減少になると見ています)we currently expect EBIT to decline by a greater percentage than revenue
(営業利益は、売上よりも大きな率で減少すると見ています)we currently expect fiscal 27 adjusted earnings per share to be in the range of $1.15 to $1.35
(2027年度の調整後1株利益は、1.15ドルから1.35ドルのレンジになると見ています)
この1.15〜1.35ドルという数字の意味は、前年度と並べると見えます。 前のCFOは、2026年度の1株利益について「関税回収の効果を除けば1.58ドルだった」と言っています。つまりレンジの上限(1.35ドル)でも約15%減、中点(1.25ドル)なら約21%減です。
💡 ここは正確に書きます。3ヶ月前の「ほぼ横ばい」は3四半期分の話で、今回の通年ガイダンスとは同じ土俵ではありません。 並べて意味があるのは、前年度の実績(関税回収を除いて1.58ドル)と、今回初めて出た通年の1.15〜1.35ドル。その差が15〜21%の減益です。
売上も、通年として高一桁%の減少が示されました。そして改善の時期が後ろへ動いています。前期はスポーツウェアとジョーダンのストリートウェアについて「年度の後半に改善が見込まれる」と言っていましたが、今回は——
We expect those actions will create pressure on reported revenues for the remainder of fiscal 27 and into 28.
(これらの施策は、2027年度の残りと2028年度にかけて、報告売上に圧力をかけると見ています)
「後半に改善」が消えて、圧力が翌年度まで延びました。 中国についても、前期は「直近の実績と同程度の推移」だったものが、今回は「この先、中国は売上の面でさらに悪くなることを前提にしている」に変わっています。
そして、消えた言葉がありました
ここが、この記事のタイトルにした部分です。
- 「Win Now」が、今回は一度も出てきません
- 代わりに「Pace」という新しいプログラムが出てきました(会社はこれを「オペレーティングモデルの変革」と呼んでいます)
- 「二桁の利益率へ戻る」という言い方も、今回はありません
- 「年度後半の改善」「十数の新型シューズ」「直営店の半分を高級化する」といった前期の約束も、進捗に触れていません
ひとつずつ。「Win Now」は前期の決算で、CEO自身が「この暦年の終わりまでに Win Now の施策を終える予定であることは変わりません」と、終了時期まで名指しで管理していた再建策です。それが今回、言葉ごと消えました。 代わりに置かれたのが Pace で、こちらは約25億ドルのコスト削減を狙うプログラムです。
💡 終わらせると言った再建策について何も語らず、別の名前のプログラムが出てくる。これは「終わった」とも「失敗した」とも言っていない状態です。 だから僕は、沈黙として記録します。
Pace の中身も見ておく価値があります。削減額は約25億ドル。ただし実行コストが約10億ドルかかり、2026年度には約3億ドルの人員削減費用も別に出ています。そして肝心の時期が——
We have begun taking actions and expect the majority of the program savings to be realized in fiscal years 29 and 30
(施策はすでに始めていますが、削減効果の大部分は2029年度と2030年度に実現すると見ています)
効果の大半は3〜4年後です。 新しい組織体制への移行も2028年度。いま下がっている業績を、来年に戻す類の施策ではありません。
さらに、答えが出なかったものが2つあります。中国の下げ幅と期間は、3人の別々のアナリストから繰り返し聞かれ、定量の回答は最後まで出ませんでした(会社は「地域別のガイダンスは出さない」と明言)。粗利益率の通年見通しも、出さないと明言されています。FY28に増収へ戻れるかという最も大きな問いは、11月の投資家向けイベントへ先送りされました。
新しいCFOが自信の根拠として示したのも、公開された数字ではありませんでした。
we’ve really performed over the past several weeks, a bottoms up, comprehensive business plan review and a financial plan review.
(この数週間、ボトムアップで包括的な事業計画のレビューと、財務計画のレビューを実施しました)So I sit here today feeling very confident the teams are focused against this.
(ですから今日この場で、各チームがこれに集中していることに、非常に自信を持っています)
自信の対象は、業績の数字ではなく、レビューを終えたことと各チームの集中度でした。 続けて「これらの財務指標は事業側に落とし込まれていて、全員が結果に責任を持つ」と言っています。悪意ではなく、CFOが交代した直後の回だからという事情もあります。ただ、聞いている側が受け取れる数字にはなっていません。
今回は、利益を嵩上げした特別な項目の開示がありません。 税率は前年の21.1%から22.7%へ上がっていて、理由は海外の税務調査の決着——つまり税は逆風です。Paceやリストラの費用も当四半期には計上されていません。上にも下にも振れていない、素の四半期でした。
そのうえでPaceの影響(約15セント)はガイダンスのレンジから除かれ、第2四半期については「2つの要因で売上に約4%の逆風がかかる」と先に言っています。都合の悪い数字を先に出す回でした。そこは評価しています。
女性向けも、明るい数字のひとつでした。ただし会社が挙げる括りが回ごとに変わります。CEOは冒頭で「女性向けシグネチャー事業は、FY22からFY26でほぼ500%成長した」と述べ、質疑では「女性向け事業は、ここ数年で600%超だ」と述べています。括りと期間が揃わないので、この事業の伸びを四半期ごとに追いかけることはできません。
なぜ、いまスニーカー屋にこれが起きるのか
「売れていないから」ではありません。
ひとつは、自分で絞っていること。 ダンクを半減させたのは意図で、会社は「市場の主要な部分で供給を減らす施策を続ける」と明言しています。流行で売れすぎたものを、安売りの山から引き戻す作業です。これは効けば効くほど、当面の売上を減らします。
もうひとつは、伸びている側がまだ小さいこと。 性能で売る側は、前年度に160億ドルまで育ちました。ランニングは二桁成長が続き、中国のランニングも6四半期連続で伸びています。大型シューズの新作は5,000店舗で発売され、これはナイキのバスケットボールのシグネチャーモデルの平均の2倍の規模です。上海の旗艦店は10ヶ月連続で成長しています。
それでも全社の半分近くを占める流行側の二桁減を埋められない——というのが、さきほどのCEOの一文の意味です。
💡 うまくいっている事業が小さいうちは、うまくいっていない事業の縮小のほうが数字に出ます。 順番が逆転するのがいつかは、まだ会社も数字で示していません。
これは「今この瞬間」の見立てです
当四半期の着地は想定どおり。下がったのは見通しだけ。そして前の再建策の名前が消えた。 これが今回のナイキでした。
この見方が外れていたと分かる条件を、先に書いておきます。
- 通年の調整後1株利益のレンジ(1.15〜1.35ドル)が、下に動いたとき
- 「Win Now」の終了について、次も何も語られなかったとき(語らないこと自体が答えです)
- 中国が「さらに悪くなる前提」から、定量の見通しに変わらないままもう一期過ぎたとき
- パフォーマンス事業の伸びが、高一桁%から減速したとき(ここが止まると、埋める側がいなくなります)
悪い決算でした。そのうえで僕が見るのは、消えた言葉が次に戻ってくるかどうかです。だから毎回、全部の決算説明会を読み続けています。
11月の投資家向けイベントで何が出るかも、出たら書きます。
※この記事は、決算説明会の原文をAIで読み解いて書き、複数の検査(事実照合・表現・法務)を通したうえで公開しています。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。