この秋、予定表がぎっしり埋まっている児童書の会社があります。
10月に『ハリー・ポッターと謎のプリンス』のフルカラー挿絵版。11月に、世界で7,000万部を超えた児童書シリーズ『ドッグマン』の新刊。同じ11月に『ハンガー・ゲーム』の新しい映画。そしてクリスマスには、HBOのハリー・ポッターの新しいドラマシリーズが始まります。そのハリー・ポッターを、アメリカで出版している会社です。
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※この記事で扱うのは、2026年9月24日に行われた、2026年6〜8月期(同社の会計年度では2027年度の第1四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、僕の予測ではありません。次回の決算日は会社の発表待ちです。
💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストに向けて説明し、質問に答える電話会議。発言はそのまま記録に残ります。
これだけ材料が揃った季節の入り口で、経営陣は3ヶ月前より数字を出さなくなっていました。
その前に——「ブックフェア」と、この会社が夏に赤字になる理由
この会社の数字を読むには、まず稼ぎ方を知っておく必要があります。
日本で「本を売る」と言えば書店です。この会社の中心は、そこではありません。アメリカの小学校・中学校の中に、期間限定の本屋を開く仕組みを持っています。これがブックフェアです。
子どもが選び、保護者がお金を出す。会社は本を箱で学校に届ける。日本の学校に業者が来て、体操服や上履きを売る日がありますが、あれの本屋版だと思ってください。前の決算では、この1年間に開いたブックフェアが10万3,000回を超えたと言っていました。
ここから分かることが1つあります。学校が夏休みの間は、この会社はほとんど稼げません。 6〜8月期は毎年いちばん小さい四半期で、前の年の同じ時期は、通期の売上のわずか14%でした。だから今回の赤字は季節どおりで、それ自体は驚く話ではありません。
逆に言うと、この四半期で大事なのは数字の大きさではなく、秋から先について経営陣が何を言ったかです。
夏の実績は、季節どおりの赤字でした
まず実績です。
- 売上 2億1,680万ドル(前年同期は2億2,560万ドル・−4%)。1ドル150円で約325億円
- 調整後の一株あたり損失 3.63ドル(前年同期は2.52ドルの損失)
- 調整後EBITDA 6,360万ドルの損失(前年同期は5,570万ドルの損失)
💡調整後=会社が「一時的だと考える項目」を除いた数字(non-GAAP)。会計基準どおりの数字とは別物です。
💡EBITDA=本業の利益に、設備や買収の償却費などを足し戻した数字。現金をどれだけ生む体質かを見るときに使います。
損失は前年より広がっています。ただし会社は、条件を揃えて比べ直すと調整後EBITDAは60万ドル改善だと説明しました。揃えた条件というのは、去年12月に行ったセール・アンド・リースバックの影響です。
💡セール・アンド・リースバック=持っている建物を売って、そのまま借りて使い続けること。手元に現金が入る代わりに、それまで入っていた賃料収入が無くなります。
報告どおりの数字では悪化、条件を揃えると誤差ほどの改善。どちらが正しいというより、この四半期の数字は、良いとも悪いとも言いにくい、というのが正確です。
「おそらく次回は」と言っていた発表が、来ませんでした
ここからが本題です。3ヶ月前、映像事業(自社の児童書キャラクターをアニメや実写にする事業)について、経営陣はこう言っていました。
3ヶ月前:「いま契約済みの収入だけで、すでに昨年の売上の100%を超えています」
3ヶ月前:「おそらく次にお話しするときには、大手スタジオや大手企業と制作にゴーサインが出た、新しい大型契約と新しい大きな機会について、お話しすることになるでしょう」
「おそらく」と前置きはついていました。それでも、次の説明会で何を話すかを自分から指定していたわけです。僕は、この一言の続きを待っていました。
その「次」が、今回でした。新しい大型契約の発表はありませんでした。 映像事業の見通しは、こういう言い方になっています。
今回:「2027年度のパイプラインは引き続き強く、追加の契約案件と機会で積み上がり続けており、事業の成長が加速するという私たちの見通しを支えています」
言葉そのものは、3ヶ月前より一段強くなっています。前回の言い方は「2027年度の制作の継続的な成長」、今回は「成長が加速する」。ところが、その強い言葉を支える数字が消えました。「昨年の売上の100%を超えている」という比率は、今回出ていません。 契約の本数も、相手の名前も、金額もありません。
質疑でアナリストが映像事業の調整後EBITDAの利益率(アナリストの計算で、前の四半期の1桁台半ばから約20%へ)の理由を聞いたときも、答えは「事業の構成による営業レバレッジ」「買収そのものに由来する固定の償却費」という一般論でした。営業レバレッジは、売上が増えても固定費はあまり増えないので、利益が売上より速く伸びる、という意味です。どこまで続く利益率なのかは、示されていません。
なお、この約20%は償却費を足し戻した後の物差しです。後で触れる映像事業の営業損失(160万ドル)とは別の数字で、両方が同時に成り立ちます。
前回あった数字が、ほかにも消えていました
消えたのは映像事業の比率だけではありません。前の説明会で具体的に語っていたことが、今回はいくつも出てきませんでした。
ブックフェアの回数。 前回は「10万3,000回を超えた」と実数でした。今回は「予約数と開催回数は、前年を上回っています」。上回っていること自体は良い知らせです。ただ、数字が言葉に置き換わりました。前回あった電子ウォレット(現金を持たずに支払う仕組み)の普及の話も、今回はありません。
大型の映画企画。 前回は、児童書『マジック・スクール・バス』を実写映画にする企画を、映画会社レジェンダリーと進めていて、主演にエリザベス・バンクスが決まっていると話していました。今回は、この企画にも、YouTuberのマーク・ロバー(CrunchLabs)との提携にも、一言も触れていません。
動画の全体の数字。 前回は会社全体の動画で「5億4,700万回再生、60億分を超える視聴時間」と言っていました。今回出てきたのは、看板キャラクター「クリフォード」のYouTube再生数が前年比+52%という、1つのキャラクターの伸び率だけです。
関税。 前回は見通しの前提として関税の扱いを段落で説明していました。今回は関税という言葉自体が出てきません。
1つずつなら、たまたま話さなかっただけかもしれません。並べると、前回の説明会で中身の詰まっていた部分ほど、今回は抽象的な言葉に変わっています。
教育事業の約束は、「売上を安定させる」から「コストを合わせる」へ
もう1つ、言葉がはっきり後ろに下がった場所があります。学校の授業で使う教材を学区に売る、教育事業です。
3ヶ月前:「私たちの優先事項は、売上を安定させ、営業の成果を強め、収益性を高めることです」
今回:「事業と業務の再構築が、顧客層の分散と、現在の厳しい市場環境にコスト構造を合わせることに役立っています」
売上を安定させる、という言葉が消えて、コストの話になりました。実数もその向きです。教育事業の売上は3,040万ドルで、前年同期の4,010万ドルから−24%。前の四半期の−13%(通期では−14%)より悪化しました。会社は、連邦政府の教育向け補助金(ESSER)が3月で終わったことを逆風に挙げています。前の四半期は「下半期に減少のペースが緩んだ」と言っていたので、その流れも今回で途切れました。
誰も聞かなかったこと、一時的に動いた数字
もう1つ気になったのが、質疑応答の短さです。
前回は2つの証券会社のアナリストが質問していました。今回は1社のアナリストが4問聞いて、質疑応答が終わりました。 その4問の中に、教育事業の−24%についての質問は1つもありません。経営陣は、用意した原稿の「コスト構造を合わせる」以上のことを聞かれないまま説明会を終えています。だから、誰かが聞いたうえで答えに納得した、ということではありません。聞く人が減っただけです。
その4問への答えも、半分は数字が出ませんでした。ブックフェアについて経営陣は「とても、とても強気です」「とても自信があります」と繰り返しましたが、同じ答えの中でこうも言っています。
「現時点では、正確な裏づけはまだ示せません。完全に自信を持つには、もう少しブックフェアの開催を見る必要があります」
1回あたりの売上がどうなるかは、保留です。新しく獲得した学校と、2回目の開催の内訳を聞かれた答えは「基本的には両方です」で、内訳の数字はありませんでした。
一時的に数字を動かしたものも、いくつか混ざっています。
- 海外事業の売上は6,050万ドルで前年の5,940万ドルから増えましたが、為替の追い風120万ドルを除くと前年並み。海外の増収は、ほぼ為替でした
- 一般流通(書店や量販店)の売上は7,050万ドルで前年の7,350万ドルから減少。会社は、前の年に海外の共同版の売上があり、それが今年は繰り返さなかったためだと説明しています(共同版=海外の出版社と組んで、同じ本をまとめて刷る版のこと)
- ブックフェアの売上は3,320万ドルで前年の3,410万ドルから小幅減。理由は「主に時期のずれ」
- 自社株買いで株数が減ったため、1株あたりの損失はそのぶん大きく見えています。この四半期は自社株買いに2,580万ドルを使いました
最後の1つは、普段なら株主に良い話です。ただ夏の赤字の四半期では、割る株数が減るぶん、1株あたりの損失の数字が大きくなります。損失の拡大の一部は、事業の悪化ではなく割り算の分母の話です。
見通しの数字は、3ヶ月前から1つも動いていません
通期の見通し(ガイダンス)は、据え置きです。
- 売上成長 約+2〜+4%
- 調整後EBITDA 約1億3,500万〜1億4,500万ドル(1ドル150円で約200億〜220億円)
- フリーキャッシュフロー 約3,500万〜4,000万ドル
💡ガイダンス=会社が自分で出す業績予想。
💡フリーキャッシュフロー=本業で入ってきた現金から、設備などへの投資に使った現金を引いた残り。会社が自由に使えるお金です。
3ヶ月前に出した見通しと、数字は1つも変わっていません。言い回しもほぼ同じで、海外事業の営業利益が小幅に下がる見込みという一文も残っています。違いは理由の並びだけで、前回は「インフレと燃料・運賃・人件費の上昇」、今回は人件費が抜けて「インフレと燃料・運賃の上昇」になりました。
市場の予想とも差がありません。通期の売上の予想は約16億3,000万ドルで、会社の見通し(+2〜4%)とほぼ同じ水準です。ただ、この会社の通期の利益を予想しているアナリストは2人しかいません。市場の予想と言っても、厚みのある数字ではないことは書いておきます。
据え置きの理由については、質疑で唯一はっきりした答えがありました。海外での燃料費の上昇が新しい逆風ではないかと聞かれて、財務責任者は「戦争の影響による燃料費」は海外市場に限った話で、「その一部はすでに予想に織り込んでいる」「だから見通しを据え置いている」と答えています。金額は示していませんが、論点ははっきり否定しました。
それでも、確かに前に進んでいるもの
この四半期で実際に良くなっているものも書きます。
映像事業は伸びています。 売上は2,010万ドルで、前年同期の1,360万ドルから+48%。営業損失は400万ドルから160万ドルまで縮みました。前の四半期も+42%で、2四半期続けて大きく伸びています。言葉と数字が噛み合っていないのは「次の大型契約」の部分で、足元の売上はきちんと増えています。
アメリカの一般流通は+4%。 連結では減っていますが、それは前年の海外の共同版がなくなった分で、アメリカの書店・量販向けは伸びています。会社は、秋のハリー・ポッター、ドッグマン、ハンガー・ゲームを背景に、9〜11月期と通期の一般流通の売上が強くなると見ています。
借金が減っています。 現金を差し引いた純有利子負債は8,680万ドルで、前年同期の2億4,280万ドルから大きく減りました。
ブックフェアの回数は前年を上回っています。 先に触れたとおり数字は出ませんでしたが、経営陣は質疑で「開催回数は想定どおりか想定以上で、昨年は確実に上回っている」「本当に増やしたい大きな学校での開催も増えている」と話しています。
ただし、秋のハリー・ポッターや映画の効果は、据え置きの見通し(+2〜4%)の中にすでに入っています。この秋に何冊売れても、それが見通しを上回る分になるかどうかは、まだ分かりません。会社はこれらの効果を金額で示していません。
秋のブックフェアの季節に、何が起きれば読みを変えるか
今回の読みは「秋の材料は揃っているが、それを語る言葉から数字が抜けた四半期」です。次の9〜11月期の決算は、ブックフェアの本番の季節です。ここで次のどれかが起きれば、この読みを考え直します。
- 9〜11月期の一般流通の売上が、前年同期を上回らない
- ブックフェアの売上が、前年同期を下回る
- 通期の見通し(売上+2〜4%、調整後EBITDA 1億3,500万〜1億4,500万ドル)が引き下げられる
- 教育事業の減少率が、今回の−24%より悪くなる
- 逆に、前回予告されていた大型契約が、相手の名前つきで発表される。こちらは良い方向に外れる形です
5つ目がいちばん知りたいところです。3ヶ月前に経営陣が自分で口にしたことなので、次の説明会で触れるのか、触れないのか。どちらでも、何かが分かります。
ここに書いたのは、2026年9月24日の説明会までに分かっていることだけです。季節の大きい会社なので、夏の四半期1回で言えることは多くありません。
それでも、言葉は四半期ごとに積み上がります。3ヶ月前に出ていた数字が、次の回にも戻ってこないのか。ハリー・ポッターの秋が終わった後の説明会を、同じ物差しで読みます。
※この記事は、決算説明会の原文をAIで読み解いて書き、複数の検査(事実照合・表現・法務)を通したうえで公開しています。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。