3ヶ月前、テスラの経営陣は自社の大型蓄電池について「値段が下がってきている」と言っていました。
今回は「2027年の分は、ほぼ売り切れた」です。同じ事業の話とは思えないほど、言葉が逆を向きました。車のほうも「部品の調達が足かせ」から「作るのが追いつかない」に変わっています。
ただ、この決算でいちばん大きく跳ねた数字を分解すると、主に一時的な追い風でした。良い話と、割り引くべき話が、同じ事業の中に並んでいます。両方を書きます。
日足チャート(価格/出来高/RSI(2)/ニュースセンチ/RSランク)。毎日自動更新。
※この記事で扱うのは、2026年10月21日に行われた、2026年7〜9月期(第3四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、僕の予測ではありません。次回の決算日は会社の発表待ちです。
💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストに向けて説明し、質問に答える電話会議。発言はそのまま記録に残ります。
その前に——テスラが車の横で売っている「巨大な電池」って、何でしょう
テスラと聞くと電気自動車を思い浮かべると思います。ただ、この会社にはもう一つ、エネルギー事業があります。そこで売っているのが「メガパック」という大型の蓄電池です。
まず誤解を解いておくと、これは車に積む電池ではありません。電気を作る装置でもありません。 作られた電気を、いったん貯めておくための箱です。
電気は本来、作った瞬間に使わないといけないものです。発電所は、その時々の使われ方に合わせて出力を上げ下げし続けています。間に大きな電池を挟むと、余った時間に貯めて、足りない時間に出せるようになります。
日本の家で言えば、太陽光パネルと一緒に置く家庭用の蓄電池があります。あれを、発電所や電力会社やデータセンターが使う大きさにしたもの、と考えると近いです。
会社は今回、データセンターからの需要が「極めて強い」と言っています。 AIのために電気を大量に使う施設が、電気の出し入れを調整する箱を欲しがっている、ということです。だから会社が「2027年分はほぼ売り切れた」と言えば、それは来年の売上の一部がもう見えている、という意味になります。
3ヶ月前は「値段が下がる」、今回は「ほぼ売り切れ」
エネルギー事業の言葉が、いちばん大きく変わりました。
3ヶ月前(財務責任者):「産業用蓄電池の販売単価は、競争の激化の中で下がってきています。長期的には、エネルギー事業の粗利率は20%台前半から半ばに落ち着くと考えています」
今回(CEO):「実は、2027年分のメガパックは、ほぼすべて売り切れています」「その粗利率も、意味のある幅で上がると見ています」
財務責任者も、今回は「販売単価の改善と、さらなる利益率の改善が見えてくる」と言いました。3ヶ月前の「単価が下がる」が、そのまま「単価が上がる」に入れ替わっています。
💡粗利率=売ったお金のうち、原価を引いて残る割合。ここが上がると「高く売れている」「安く作れている」のどちらかが起きています。
ひとつだけ、引用の言い方どおりに読んでおきます。「ほぼ売り切れ(almost sold out)」には、顧客の名前も、金額も、契約の量も付いていませんでした。言葉としては強いのですが、裏づける数字はこの説明会には出ていません。
車も「部品が足りない」から「作るのが追いつかない」へ
車の受注の言い方も変わりました。
3ヶ月前:「第2四半期は、2023年以来で最大の受注残で終えました」「生産の伸びは、サプライチェーン(部品の調達網)に制約されます」
今回:「この四半期は、4年ぶりの高水準の受注残で終えました。納車を縛っているのは、主に生産です」
「2023年以来」が「4年ぶり」へ。そして足かせが「部品の調達」から「自社の生産」に移りました。
💡受注残=注文はもらったが、まだ届けていない分。たまっていくほど、将来の売上の待ち行列が長いことになります。
CEOは冒頭でこう言っています。「車への需要は急速に伸びています。生産を大きく上回っています」。車両の技術責任者も「工場はこの四半期、過去最高のペースで動いている」と付け加えました。
この四半期の納車は、会社の言い方では「初めて、2四半期続けて48万台を超えた」。モデルYは、会社が集めた速報値の段階で、欧州の電気自動車で販売1位、韓国では乗用車全体で1位だったと説明しています。
CEOの総括は、これでした。
「何年も地道な作業が続き、ほとんど横ばいの時期が続きました。そこから、ずっと面白くて、大きな成長の時期に向かっていると思います」
車の粗利18%、電池の粗利33%
この四半期の売上高と一株利益は、説明会の中で経営陣の口からは語られませんでした。ここでは、説明会で実際に出てきた数字を並べます。
- 自動車の粗利率(他社に排出規制の枠を売った収入を除く):16.3% → 18.1%
- エネルギーの粗利率:20.4% → 33.1%/蓄電池の設置量は 13.7ギガワット時(会社いわく「過去2番目に良い四半期」)
- フリーキャッシュフロー:15億ドル超(1ドル150円で2,250億円超)。現金と投資の残高は450億ドル超
- 自動運転ソフトの有料顧客:世界で150万人 → 170万人超。そのうち月額契約が初めて半分に
💡フリーキャッシュフロー=本業で入ってきた現金から、設備などへの投資を引いて手元に残った現金。
💡FSD=テスラの自動運転ソフト。車とは別に、買い切りか月額で代金を払います。
自動運転ソフトについては、説明会の中でアナリストが「年間の継続収入は10億ドル近いのでは」と自分の試算を示し、財務責任者が「その数字は正しいと思います」と認めました。会社が自分から出した数字ではなく、他人の試算を追認した形です。
数字の見通しは、今回も出ていません
会社は売上・利益・納車台数のどれについても、数字の見通しを出していません。
💡ガイダンス=会社が自分で出す業績の見通し。テスラは今回もこれを数字で出していません。
数字で動いた見通しは、1つだけでした。今年の設備投資です。前回の「250億ドル超」が、今回は「約200億ドル」(1ドル150円で約3兆円)へ下がりました。会社は理由を「資本の使い方を効率的に管理した結果」と説明しています。手元の現金には追い風ですが、売上の見通しではありません。
一方で、財務責任者は今後数年の設備投資は増え続けると言い、最大300億ドルまで借りられる枠を確保したことも明かしました。今年は使う予定が無いとのことです。また、研究開発などの費用は「新製品を商業化するまで増え続ける」とも言っています。
新製品の時間軸も、今回はっきり出ました。
- 無人タクシー:財務責任者「2027年には売上と利益の大きな部分になる」
- 人型ロボットのオプティマス:CEO「顧客への納品はおそらく来年の終わり頃」
- 自社の半導体工場(TeraFab):CEO「本格的な生産は2028年後半」
オプティマスについて、3ヶ月前は「まもなく生産を始める」でした。今回は「フリーモントの量産ラインで、初期の生産と呼べるものを始めた」。一歩進んだ言い方です。ただ同じCEOが、目標の週2万台のペースに届くまでは「おそらく少なくとも1年、もう少しかかるかもしれない」と付け足しました。進んだ分だけ、時間の幅も広がっています。
無人タクシー専用車のサイバーキャブは、テキサス州オースティンで投入から約1ヶ月で台数が10倍になった、と説明されています。
3ヶ月前に語られて、今回消えたもの
前の四半期に具体的に語られていたことが、今回はいくつか出てきませんでした。
半導体工場については、前回「場所はまもなく発表する」と言っていました。工場の話は今回も出ていて、必要な資本は2028年初めまでに数百億ドル、長期では1,000億ドル超という規模感まで語られています。それでも、場所の発表についての一言は消えました。前回名前の出ていたメモリーや半導体の取引先(マイクロン、サムスン、TSMC)も、今回は出てきません。自社のAIコンピューターを積んだ「megapod」という設計の話も同じです。
もう一つ。前回CEOは「今年はテスラにとって素晴らしい年になる。過去最高の年の一つだ」と、年単位で言い切っていました。今回は「大きな成長の時期に向かっている」です。方向は強気のままですが、「今年」という期限が外れています。
なお、SpaceXとの合併の可能性については、会社は質疑応答に入る前に、今日は扱わないと断りました。
33%の中身と、3回聞かれた無人タクシーの採算
エネルギーの粗利率が20.4%から33.1%へ跳ねた理由を、財務責任者は自分から説明しています。主な要因は、この四半期に計上した関税の還付と、保証の引当金の戻し入れでした。後者は、電池セルにかかる一部の費用を仕入れ先が負担することで合意し、その分を戻したものです。
3ヶ月前に「20%台前半から半ばに落ち着く」と言っていた事業が、33%です。僕もここで、数字を二度見しました。ただ中身は、主に事業の外側から来たお金です。CEOの「粗利は上がる」という見通しが本物かどうかは、この追い風が無くなった後の四半期を見ないと分かりません。
ほかにも、数字をそのまま受け取れない点があります。
- 自動車の粗利率の改善は、会社の説明ではアジア太平洋地域への納車が増えた地域の構成によるもの
- 純利益には、ビットコインの評価益(約2億9,000万ドル)と、SpaceX株の評価損(1億4,200万ドル)が入っている
- 北米の自動運転ソフト申込率「75%超」(前回の説明では約55%)は、全車に1ヶ月の無料体験が付いた状態での数字。財務責任者が自分で注記した。欧州でも一部の車を特典付きで販売している
- 設備投資の引き下げは、その年のフリーキャッシュフローを押し上げる
この注記は誠実でした。申込率の数字だけを言って済ませることもできたはずです。ただ、最初に質問したアナリストは「有料ベースで計算すると、北米の装着率は30〜40%では」と指摘していました。数え方で、数字の見え方はかなり変わります。
質疑応答では、答えが出なかった論点が繰り返されました。他社が同等の運転支援を出せば自動運転ソフトの値段は下がるのでは、という質問に、経営陣は「非常に難しい問題だ」と答えるだけで、値段への影響は語りませんでした。月額契約が何ヶ月続くかは「解約率などの指標は今後出す」と先送りです。
無人タクシーの採算については、別々の質問者が3回聞いています。有料の1マイルあたりのコストを聞かれた財務責任者は「今日、30セントの目標に届いているか。いいえ」と答え、そこへの道筋は見えている、と続けました。メガパックの需要の大きさは、CEOが「今はどれくらいの潜在力か言いにくい」と答えています。
車は工場の速さで、電池は会社いわく来年の注文で伸びる
車は、作った分がそのまま売上になる形になりました。 受注残は4年ぶりの高さで、足かせは需要ではなく生産です。工場は過去最高のペースで動いていて、技術責任者は「この先の四半期もそれが続く」と見ています。需要の側が詰まっていない以上、生産を上げた分だけ納車が増えます。
電池は、会社の言葉どおりなら、来年の分の注文がもう埋まりつつあります。 この四半期の設置量は13.7ギガワット時(家庭用の蓄電池を10キロワット時とすると、約137万台分)で、会社はデータセンターからの「極めて強い需要」を受けて生産を急いで増やしていると言っています。自社製のリン酸鉄リチウム電池を積んだメガパックの出荷も始まりました。
💡リン酸鉄リチウム電池=リチウムイオン電池の一種。コバルトやニッケルを使わない種類で、据え置きの蓄電池によく使われます。
一方、無人タクシーとオプティマスと半導体工場は、収益化が2027年以降です。説明会で長く語られたのはむしろこちらでしたが、売上の上ではまだ先の話です。
次の決算で、僕の読みが外れたと分かる形
今回の読みは「車と電池の需要は本当に強くなった。ただ、電池の利益率の跳ね上がりは、主に一時的なお金によるもの」です。これが違っていたと分かる形を書いておきます。
- エネルギーの粗利率が20%台前半に戻り、販売単価の改善という言葉が消える
- 「納車を縛っているのは主に生産」という言い方と、受注残への言及が消える
- 納車が48万台を割る
良い方へ外れる形もあります。関税の還付が入らない四半期に、エネルギーの粗利率が30%前後を保った場合です。そのときは、CEOの言う「粗利が上がる」が、追い風ではなく事業そのものの話だったことになります。
ここに書いたのは、2026年10月21日の説明会までに分かったことです。電池の受注が本当に埋まっているのかも、無人タクシーの採算も、まだ数字で確かめられていません。
3ヶ月で、同じ会社の同じ事業について「値段が下がる」が「売り切れ」に変わりました。言葉がここまで動く回は多くありません。だからこそ、次の回に数字がその言葉に追いつくのかを見ます。来年の分が本当に埋まっているなら、それは次の回以降の販売単価と粗利率に出てきます。そこで答えが出ます。
※この記事は、決算説明会の原文をAIで読み解いて書き、複数の検査(事実照合・表現・法務)を通したうえで公開しています。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。