アメリカで、卵が余っています。
日本でも2023年に、鳥インフルエンザで卵が品薄になり、値段が大きく上がったことがありました。アメリカでも同じことが起き、そのあいだ卵の会社は大きく儲けました。そして今、その逆回転が来ています。
その真ん中にいるのが、アメリカで卵を作って売っている大手、カルメイン・フーズです。
日足チャート(価格/出来高/RSI(2)/ニュースセンチ/RSランク)。毎日自動更新。
※この記事で扱うのは、2026年9月30日に行われた、2026年6月〜8月期(同社の会計年度では2027年度の第1四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、僕の予測ではありません。次回の決算日は会社の発表待ちです。
💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストに向けて説明し、質問に答える電話会議。発言はそのまま記録に残ります。
その前に——卵の値段は、なぜこんなに上下するのか
卵は「物価の優等生」と呼ばれるくらいで、値段はいつもあまり変わらないもの、という印象があると思います。でもアメリカの卵の卸値は、毎日の相場で決まっています。魚市場のセリに近いものです。
ふつうの工業製品なら、売れなければ作る量を減らせば済みます。卵はそうはいきません。卵を産む鶏は、ひなから育てるのに時間がかかり、一度そろえた鶏は毎日卵を産みます。だから供給は急には増えず、急には減らせません。
ここに鳥インフルエンザが入ると、こうなります。発生した農場では鶏を処分するので、卵が急に足りなくなり、相場が跳ね上がる。各社は鶏を増やしにかかる。鶏がそろったころには、今度は卵が余り、相場が崩れる。この上下が、何年かおきに繰り返されます。
カルメイン・フーズの売上は、大きく3つに分かれます。
- ふつうの卵:多くが相場に連動して値段が決まる部分。上下の波をまともにかぶります
- こだわり卵:放し飼い・オーガニックなど。相場に連動する部分は一部にとどまります
- 調理食品:卵を使ったパンケーキやスクランブルエッグなど。工場で加工して売るもの
この記事の結論に効くのは、ここです。ふつうの卵の利益は、会社の努力ではなく相場の波で決まる。 だから、経営陣が「波がいつ底を打つか」をどう語るかが、そのままこの会社の見通しになります。
1年前の卵バブルから、営業赤字へ
まず実績です。
- 売上 5億3,960万ドル(前年同期比 −41.5%。1ドル150円で約809億円)
- 売上総利益 40万3,000ドル(前年同期は3億1,130万ドル)
- 営業損益 8,220万ドルの赤字(前年同期は2億4,920万ドルの黒字)
- 1株あたり損益 −1.26ドル(希薄化後。前年同期は+4.12ドル、前の四半期は−0.76ドル)
💡売上総利益=売ったお金から、作るのにかかった原価を引いた残り。5億ドル売って、残ったのが40万ドルだった、ということです。
前年同期は、鳥インフルエンザで卵が足りなかった時期です。比べる相手が山の頂上なので、前年比が大きく崩れるのはある程度当然です。会社も、そこははっきり言っています。
「ピーク時の利益が正常な稼ぐ力と見なされなかったのと同じように、谷の利益もそう見なされるべきではないと考えています」
筋は通っています。ただ、問題は前年比ではなく、前の四半期より悪くなったことです。ふつうの卵の部門は、営業赤字が4,060万ドルから7,100万ドルに広がり、営業利益率は−19.3%から−35.2%へ。会社全体の売上総利益も、前の四半期の3,410万ドルから40万3,000ドルへ縮みました。
しかも、相場の外側にある2部門も、そろって下がっています。
- こだわり卵:売上2億3,690万ドル(−14%)、営業利益率は前の四半期の7.3%から6.3%へ
- 調理食品:売上6,300万ドル(−13%)、営業利益率は前の四半期の14.6%から12.4%へ
コストも逆風でした。飼料費は前年同期比+4.3%、配送費は全部門で16%超の増加。営業キャッシュフローは、前年同期の2億7,860万ドルの流入から、1億140万ドルの流出に変わっています。
💡営業キャッシュフロー=本業で実際に出入りした現金。マイナスは、本業を回すだけで手元の現金が減ったということです。
「釣り合い始めている」が、「反転するとは言えない」になりました
3ヶ月前の決算説明会で、社長はこう言っていました。
「供給はまだ多い状態が続いていますが、初期の兆候は、市場が釣り合いを取り戻し始めていることを示しています」
今回、同じ社長の言葉はこうです。
「ふつうの卵の市場は供給過剰が続いており、卸値に下押しの圧力をかけ続けています」「これらの指標は、市場が反転することを示すものではありませんが、供給の向かう方向について重要な手がかりを与えてくれます」
「釣り合いを取り戻し始めている」から、「反転するとは言えない」へ。挙げているデータの種類は似ていても、そこから引き出す結論の強さが一段下がりました。
締めくくりの言葉は、もっとはっきり変わっています。3ヶ月前は、こうでした。
「需給のバランスが改善している初期の兆しが、秋に向けてより前向きな卵の価格環境を支えています。市場の改善と私たち自身の取り組みが合わさって、第1四半期以降、より力強い軌道に乗れると考えています」
今回は、こうです。
「短期の業績は、ふつうの卵の低い卸値、上がった投入コスト、現在の需給の不均衡を引き続き反映するでしょう」「ふつうの卵のサイクルの、正確な底を言い当てようとはしていません」
前回「第1四半期以降、力強い軌道に」と言った、その第1四半期の決算説明会で、底の時期を言うのをやめています。前回は「第1四半期は前の四半期より卵の値段がわずかに改善しうる」とも言っていましたが、実績は利益の面で上のとおり悪化しました。
ここで僕は、読む手を止めました。3ヶ月前に聞いた「秋に向けて」の明るさが、今回の社長の言葉のどこにも残っていなかったからです。
今回、社長は自分から「2つの時計」という言い方を持ち出しました。
「最終的には、時計が2つあります。1つ目は、卵のサイクルの正常化です。それがいつ起きるかを、正確には予測できません」
卵の値段の時計について、今回「いつ」は示されませんでした。
3ヶ月前に語っていた明るい材料が、5つ消えていました
言い方が変わっただけではありません。3ヶ月前に、明るい材料として具体的に挙げていたものが、今回は出てきませんでした。
1つ目は、値上がりの勢いです。3ヶ月前、社長は「最近は価格が強含み、わずか数週間で90%以上上がった」と言っていました。今回、この話は出てきません。代わりに財務責任者は、8月下旬の相場の急上昇を不利な材料として説明しました。相場が急に上がると、会社の販売価格が後から追いかける形になり、取り分が目減りするからです。
2つ目は、やせ薬(GLP-1)です。3ヶ月前は「アメリカの世帯の約22%にGLP-1の利用者がいて、卵のようなたんぱく質の多い食品の需要を後押ししている」と語っていました。今回、GLP-1という言葉は一度も出てきません。
💡GLP-1=食欲を抑える作用を持つ薬の仲間。肥満症の治療薬として広がっています。
3つ目は、米農務省の見通しです。3ヶ月前は「一人あたりの卵の消費量は2026年も2027年も増える見込み」と第三者の予測を引いていました。今回は触れていません。
4つ目は、調理食品の勢いです。3ヶ月前、財務責任者は調理食品について「業績は加速を続けた」と言い、出資先の会社も「力強い成長の勢いを示し続けている」と言っていました。今回は売上−13%、営業利益率12.4%という数字が並ぶだけで、「加速」という言葉は消えました。
5つ目は、家庭が卵を買う回数です。3ヶ月前は「97%を超える家庭が卵を買い、年に約19回買っている」と言っていました。今回は「97%」だけが残り、「年に19回」は消えています。
小さな訂正もありました。前の四半期の販売価格は相場の何%で売れたかについて、3ヶ月前の社長は「102%」と言っていましたが、今回の財務責任者は同じ四半期を「101%」と説明しています。今回の四半期は99%でした。
💡相場の何%で売れたか=99%なら、相場で100ドルの卵を99ドルで売った、という意味です。
鶏を増やす理由は語られず、夏の値上がりは韓国発でした
質疑応答では、同じ論点が角度を変えて何度も聞かれました。
こだわり卵の数量が、業界は伸びているのにこの会社は減っている理由を、ある証券会社が2問続けて聞きました。3ヶ月前の説明会でも、同じ論点が2人から出ていました。社長の答えは「前年同期との比較がとても厳しいところから始まっている」というもので、シェアの数字も、数量が戻る時期も出てきませんでした。収益性の見通しを聞かれても「時期は予測できないが、調整は必ず起きる」まででした。
相場の底がいつになるかは、別々の2社から聞かれ、財務責任者は「いつ起きるかの時期を示すのは本当に難しい」と答えています。調理食品の利益がいつ伸びるかも2社から聞かれ、調理食品部門の財務責任者は「通期の利益率について、ガイダンスは出していません」と明言しました。
💡ガイダンス=会社が自分で出す業績の見通し。今回、この会社は数字の見通しを一つも出していません。
いちばん痛い質問は、これでした。業界全体が鶏を減らしているのに、この会社の鶏の数は増えている。いまの水準で満足しているのか。 卵が余っている局面で、自分も供給を増やしているのではないか、という問いです。社長は「鶏の計画は常に2年先を見て立てている」「業界のことは話せない」と、計画の手順の説明で答え、是非には触れませんでした。
一時的なものも、いくつか混ざっています。
- 夏の値上がりの山は、韓国向けの輸出が作ったものでした。韓国で鳥インフルエンザによる品薄が起き、アメリカ産の卵を輸入したためです。社長は「比較的小さな量が、大きな影響を与えた」と言っています
- 販売価格が相場の何%で売れたかの上下は、会社自身が「相場のタイミングによるもの」と説明しています。「価格の決め方は変わっていない。変わったのは市場の向きとタイミングだ」
- こだわり卵の前年比の落ち込みは、前年同期が品薄の時期で、会社が顧客への供給を引き受けたため異例に強かった、という説明です
前年比の数字は相場の頂上と谷を比べていて、前の四半期との比較では一時的な追い風も逆風も混ざっています。どちらを取っても、会社の実力をそのまま映した数字ではありません。
底でも、会社の体力は残っています
赤字でも、この会社の財布はまだ厚いままです。
手元の現金と短期の投資は7億6,760万ドル(1ドル150円で約1,151億円)で、借金は実質ありません。前の四半期の9億2,410万ドルからは減りましたが、底の時期を乗り切る余力としては十分な水準です。
その現金で、四半期中に約500万ドル、四半期が終わった後にも1,490万ドルの自社株を買い戻しています。卵のブランド「エッグランズ・ベスト」の北東部の販売地域も、2,500万ドルで取得しました(3ヶ月前の説明会で、すでに取得を発表していたものです)。
一方で、配当は止まったままです。この会社は利益に応じて配当を出す方針で、累積の損失を取り戻すまで配当しないと決めています。その取り戻すべき損失は、前の四半期の3,590万ドルから9,450万ドルに増えました。
自分で動かせる時計=調理食品は、まだ動き始める前です
相場を自分で動かせない会社にとって、自分で動かせる唯一の時計が調理食品です。
会社は、調理食品の生産能力を2026年度末から2028年度前半までに60%以上増やす計画を示しています。パンケーキのラインで年約1,200万ポンド、スクランブルエッグで年約1,700万ポンド、出資先のクレープの会社で年約1,800万ポンドの追加です。
💡1ポンド=約0.45キロ。1,200万ポンドは約5,400トンです。
ただし、この数字は3ヶ月前とまったく同じです。5,400万ドルの追加投資も「前の四半期に発表した」ものでした。今回新しく出てきた顧客の名前や、契約の金額はありません。社長の言葉は「次の段階は、増やしている生産能力を、利益の出る成長に変えていくことです」でした。
時期も先です。調理食品部門の財務責任者によると、売上に効き始めるのは今年度の後半から。しかも次の四半期は、立ち上げの先行費用で利益が押し下げられると、自分から予告しています。
規模の話もしておきます。調理食品は今回の売上の約12%(3ヶ月前は10.9%)。こだわり卵と合わせると約54%で、前の四半期の53%から少しずつ上がっています。ただこれは、ふつうの卵の売上が半分以下になって分母が縮んだ結果でもあります。調理食品そのものは前年比−13%でした。
つまりこちらの時計も、今回の時点では「針が動く予定がある」という段階です。
「供給過剰」の言葉が消え、ふつうの卵が黒字に戻る日
今回の読みは「底の時期を会社自身が言えなくなり、自分で動かせる部分はまだ立ち上げの手前」です。
変わるとすれば、まず社長の口から「供給過剰が続いている」という言葉が消えること。そして、ふつうの卵の部門が営業黒字に戻ることです。この2つがそろえば、底を過ぎたと言えます。
もう1つの外れ方は、調理食品の側です。四半期の売上が7,500万ドルを超え、営業利益率が15%を超えて、調理食品部門の財務責任者が今回断った「通期の利益率の見通し」を出してきたら。そのときは、相場と関係のない時計が本当に動き始めたことになります。
逆に、こだわり卵の数量の質問に3回目もシェアの数字が出てこなかったら、それは2四半期続いた未解決が3四半期になった、ということです。
卵の会社の決算は、ほとんどが相場の天気予報です。晴れの年に大きく儲け、雨の年に赤字を出す。経営陣が変えられるのは、雨の年の過ごし方と、天気に左右されない部分を育てる速さだけです。
今回の決算説明会で分かったのは、天気にたとえるなら、3ヶ月前に雲が切れ始めたと言っていた人が、今回はいつ晴れるかを言わなくなった、ということでした。僕は次の回で、その言葉がどちらに動くかを見ます。
※この記事は、決算説明会の原文をAIで読み解いて書き、複数の検査(事実照合・表現・法務)を通したうえで公開しています。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。