AIが賢くなると、金融データを売る会社は要らなくなるのか。今回の決算説明会でも、アナリストが形を変えて何度もこの問いを投げていました。
その真ん中にいる会社の決算を読みました。世界中の運用会社や投資銀行に、株や債券のデータと、それを分析する画面を売っている会社です。アナリストが朝いちばんに開く、あの画面を作っている側です。
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※この記事で扱うのは、2026年9月30日に行われた、2026年6〜8月期(同社の会計年度では2026年度の第4四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、僕の予測ではありません。次回の決算日は会社の発表待ちです。
💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストに向けて説明し、質問に答える電話会議。発言はそのまま記録に残ります。
その前に——「MCP」って、何でしょう
この決算の主役は、MCPという3文字です。製品の名前のように聞こえますが、製品ではありません。AIとデータをつなぐための「共通の差し込み口」の規格です。
これまで、この会社のデータは人間が使うものでした。運用会社のアナリストが専用の画面を開き、数字を見て、表に貼る。だから値段の付け方も「画面を何席使うか」でした。社員が10人なら10席ぶんです。
MCPは、そこに別の通り道を作ります。日本の身近なものでいえば、USB-Cの端子に近いと思います。どのメーカーの充電器でも同じ形で挿さる。同じように、どの会社のAIでも、同じ形でデータを引き出せるようにする決まりごとです。人が画面を開かなくても、顧客のAIが直接データを取りにいけます。
これが決算にどう効くか。値段の付け方が「席の数」から「使った量」へ移っていくということです。社長自身、この移行を「業界のサブスクリプションから『サブスクリプション+従量課金』への移行は、まだ本当に、本当に初期です」と言っています。
だから、この会社でいちばん大事なのは「何社がMCPを試しているか」ではなく、「何社が、お金を払って使っているか」です。そして今回、その数字が出てきませんでした。順に書きます。
過去最大の四半期で、1年を締めくくりました
まず実績です。
- 四半期に新しく積み上がった年間契約額 8,600万ドル(1ドル150円で約129億円)。会社は「過去最大の四半期」と言っています
- 年間契約額の残高 25億6,000万ドル超(約3,840億円)、前年同期比 +7%
- 通期の売上 24億7,600万ドル(前年比 +6.7%)
- 調整後の一株利益 四半期 4.52ドル(+11%)、通期 18.01ドル(+6%)
💡年間契約額(ASV)=いま結んでいる契約を、このまま1年続けたらいくら入ってくるか。サブスクの会社にとって「来年の売上の予約票」にあたる数字で、会社も「今後12ヶ月の売上の最良の先行指標」と呼んでいます。
💡調整後=人員整理の費用など、会社が一時的だと考える項目を除いた数字(non-GAAP)。会計基準どおりの数字(GAAP)とは別物です。
通期の契約純増(1億6,800万ドル)、売上、一株利益は、どれも会社が出していた見通しの上限を超えて着地しました。契約の継続率も95%超を保っています。
ひとつだけ割り引いて読む数字があります。四半期の一株利益+11%に対して、四半期の売上の伸びは+6.3%です。差の多くは自社株買いで、会社はこの1年で約6億4,400万ドルの自社株を買い、発行済み株数をほぼ7%減らしました。財務責任者も「利益の増加と、株数の減少」と、2つを並べて説明しています。利益が増えたのも本当で、割る数が減ったのも本当です。
伸びてはいる。でも、伸び方は遅くなっています
AIの話に入ります。3ヶ月前と並べると、増えているものと、遅くなっているものがはっきり分かれます。
増えているもの。
3ヶ月前:「MCPサーバーは…契約とトライアルを合わせて、450社超の顧客が積極的に利用しています」
今回:「年度末時点で、650社超の顧客が、契約またはトライアルのもとでMCP経由のデータ利用に積極的に関わっています」
AIを使う顧客とそれ以外の顧客の差も、言い方が強くなりました。
3ヶ月前:「当社のAIソリューションを使う顧客の契約額の伸びは、それ以外の顧客より50%高い」
今回:「当社のAIソリューションを使う顧客は、それ以外の顧客の2倍の速さで契約額を伸ばしました」
もうひとつ、段階が進んだ話があります。3ヶ月前は「上位100の銀行顧客のうち30社超で、トライアルが進行中またはその手前」という言い方でした。今回は「銀行向けAIを出してわずか3ヶ月で、ある大手投資銀行が、世界の拠点全体で当社のエージェント一式を採用しました。その後も追加の契約を結んでいます」(エージェント=AIが人の代わりに、調べものから作業まで進める仕組み)。試している、から、署名した、へ。 ここは前に進んでいます。
遅くなっているもの。 これは、競争について聞かれた答えの中で、社長自身が口にした数字です。
「(MCP経由のデータの呼び出し量は)この四半期に前の四半期比で7倍になりました。前の四半期は、その前から13倍でした」
13倍から7倍。社内のコーディング支援でAIが使ったトークン(AIの処理量)も、前の四半期の「5倍」から今回は「80%超の増加」です。どちらも伸びてはいますが、加速ではありません。
そして3ヶ月前の決算説明会には、決め台詞がありました。「年間契約額の伸びが5四半期連続で加速した」。今回、この言い方は出てきません。伸び率は+7%で、3ヶ月前の7.1%とほぼ同じ所に止まりました。
「有料で使っている割合」を、今回は言いませんでした
ここがタイトルの話です。
3ヶ月前、社長はこう言っていました。
「現時点で、上位100顧客の20%超が、MCPを有料で使っています」
冒頭で書いたとおり、この会社にとってMCPで大事なのは「試している数」より「払っている数」です。その、いちばん知りたい数字が3ヶ月前には出ていた。
今回、あるアナリストがわざわざ前回の数字を引いて、「前回、上位100顧客の約20%が有料でMCPを使っていると言っていましたね」と聞きました。社長の答えはこうです。
「ええ、その指標そのものは個別には出していません。ただ、いくらか雰囲気をお伝えすることはできます」
僕がいちばん驚いたのは、3ヶ月前に自分で出した数字を、今回は自分で「出していない指標」と呼んだことでした。650社という「関わっている」数は増えて出てきて、「払っている」割合は引っ込んだ。 前者が良いニュースで後者が悪いニュースだ、とまでは言えません。ただ、出す数字と出さない数字が、この3ヶ月で入れ替わったのは事実です。
消えたのはこれだけではありません。
- 3ヶ月前に「今週発表した」と言っていたグーグル・クラウドとの提携、3月に発表したフィンスターとの提携が、今回は一言も出てきません。AIの会社の固有名は1社も無く、「フロンティア・ラボ」(最先端のAIモデルを作る大手AI企業のこと)という総称だけです
- 「コーディング用のAIエージェントが、コミットされたコードの27%を書いている」という生産性の数字も消えました
- 銀行の「30社超でトライアル」の件数は更新されず、「追加の契約を結んだ」という数の無い言い方に置き換わりました
顧客の名前も同じです。3ヶ月前は、全米最大の独立系証券会社のLPLファイナンシャルを名指しで紹介していました。今回出てくるのは「ある大手投資銀行」「大手の地方銀行」「欧州のクオンツファンド」「英国の大手ウェルス・マネジャー」。全部、名前がありません。
来年度の見通しは、今年より遅い
会社は2026年9月〜2027年8月の1年間(同社の2027年度)の見通しを出しました。
- 年間契約額の伸び 5〜6.5%(今年度の実績は7%)
- 売上の伸び 5〜6%(今年度の実績は6.7%。事業撤退と為替などを除いた同じ物差しでは約1ポイント高い、と会社は説明)
- 営業利益率の改善 0.25〜0.75ポイント(営業利益率=売上のうち、本業の儲けとして残る割合)
- 一株利益の伸び「高い一桁台」(税率の上昇と、借り換えに伴う利払いの増加で約2%の逆風を含む)
💡ガイダンス=会社が自分で出す業績の見通し。
💡コンセンサス=その会社を調べているアナリストたちの予想の平均。たとえば、年収が毎年9%ずつ上がってきた人が「来年も高い一桁台は上がる」と言っても、周りが「9.5%は上がるだろう」と思っていたなら、少し物足りなく聞こえます。
まさにその形です。来年度の一株利益について、アナリスト18人の予想の平均は19.72ドル。今年度の18.01ドルから+9.5%にあたります。会社は決算発表の資料で、調整後の一株利益の見通しを19.25〜19.65ドルと数字の幅でも出しています。僕が引っかかったのは、その上限でも予想の平均に届かないことです。売上のほうは、予想の平均とほぼ横並びです。
さらに会社は、こうも言っています。
「顧客のAI変革がまだ初期段階であることを踏まえ、2027年度について、加速は一切織り込んでいません」
財務責任者は「この見通しは、過去2年に出したものより高く、幅が狭い」と強調しました。幅が狭いのは事実です。ただ、中身は今年の実績より低い伸びです。
見通しと競争。3人ずつ聞いても、数字は返りませんでした
この決算には、確かめられていない点と、一時的なものが混ざっています。
見通しの減速について、3人のアナリストが別々に聞きました。 来年度の伸びが5%寄りで終わるか6.5%寄りで終わるか、それを決める要因は何か。最初の四半期に、前年より多くの契約額を積めるのか。答えは「まだ年度の初め」「データに基づいた、慎重な見通し」というものでした。何が上限と下限を分けるのかは、最後まで並びませんでした。
一方で、はっきり答えた質問もあります。「今年度に契約を前倒しで取り込んだのではないか」と聞かれて、社長は「今年度に何も前倒ししていないことを確認できます」と一言で否定しました。ここは曖昧にしていません。
競争についても、3人が聞きました。 アナリストの1人は、決算説明会の前日にブルームバーグがMCPの提供を始めたことに触れ、「MCPでは乗り換えのコストが下がった」と指摘しました。冒頭のUSB-Cのたとえで言えば、差し込み口が共通になれば、挿し替えも簡単になるという話です。社長の答えは、自社の採用が伸びている数字(顧客数+40%、呼び出し量7倍)と、データと分析を束ねて提供する強みの説明でした。大手のAI企業との競合については、こうも言っています。
「時間とともに、私たちの仕事の一部と競合しうるか。可能性はあります。ただ、それを心配してはいません」
可能性は否定していません。乗り換えコストが下がったという問いそのものへの、数字での答えはありませんでした。
一時的なものも、整理しておきます。
- 人員整理の一時費用が、今四半期のフリーキャッシュフロー(本業で入ってきた現金から設備投資を引いた、手元に残るお金)に乗っています。9月に入ってさらに人員を減らし、次の四半期にも同じ一時的な影響が出ると予告しています
- 社長は今年度のクラウドの複数社化などを「繰り返さない、大きな一時的投資」と呼びました。来年度の利益率の改善は、その一部がこの投資が消えることから来ます
- 来年度の一株利益には、税率の上昇と、2027年3月に満期を迎える5億ドル・金利2.9%の社債の借り換えで、約2%の逆風が乗ります
最後の2つは方向が逆です。片方は来年度の利益率を押し上げ、もう片方は一株利益を押し下げる。どちらも、事業の実力とは別のところで動く数字です。
それでも、AI製品の1割と長い契約は積み上がっています
遅くなっている話を並べたので、同じだけ具体的に、積み上がっているほうも書きます。
AI製品の比率が、2四半期続いて1割を超えています。 財務責任者によると、四半期に新しく積んだ契約額のうち10%超がAI関連の新製品から来ていて、これは前の四半期も同じでした。8,600万ドルの1割強、900万ドル前後です。
契約が長くなっています。 更新した契約の平均期間は約30%延び、しかも価格はほぼ維持されています。これも2四半期続いています。
MCPを足した顧客は、払う額が増えています。 社長は「平均すると、私の感触では」と前置きしたうえで、MCPを追加した画面利用の顧客の過半は、この会社に払う額が20〜50%多く伸びていると話しました。席の課金の上に、データの利用が積み上がっている形です。
社内のAIが、仕事を実際に引き受けています。 顧客からの問い合わせに答えるAIエージェントを全顧客に展開し終え、利用者からの問い合わせの30%超を、人を介さずに解決しています。
利益率についても、言い方が変わりました。3ヶ月前は「今後の四半期に利益率が改善する道筋がはっきり見えている」。今回は「2026年度の営業利益率は、底だったと考えています」。見通しの話から、断定に変わっています。
なぜ、データを売る会社が「席」の値段に「量」を足そうとしているのか
この会社の売り物は、もともと「人が見る画面」でした。席の数で値段が決まる商売は、顧客の社員が増えるほど伸び、減れば縮みます。
AIがアナリストの仕事の一部を引き受けるようになると、その前提が揺れます。画面を見る人は増えないかもしれない。でも、データを取りにいくAIは増える。だからこの会社は、データをAIに直接流す通り道(MCP)を急いで作り、席の課金に量の課金を足そうとしています。新規の契約額の1割がAI製品から来て、MCPを足した顧客の払う額が2〜5割増える。動き自体は、もう数字に出ています。
ただ、社長自身が「本当に、本当に初期」と言うとおり、量の課金がどこまで育つのかはまだ誰にも見えていません。同じ差し込み口を、ブルームバーグも、AIの会社も持てるようになっています。
「払っている割合」は戻ってくるか
有料で使っている割合が数字で戻ってくるか、それとも650社という「関わっている」数の開示まで止まるか。次の回は、そこで分かれます。良いほうへ分かれる形は、次の3つです。
- 「有料で使っている割合」が、再び数字で出てきて、3ヶ月前の20%超から伸びている
- MCPに関わる顧客数(650社超)が引き続き開示され、増えている
- 新規の契約額に占めるAI製品の比率が、10%超から明確に上がる
逆に、悪いほうへ分かれる形もあります。顧客数の開示も止まる、AI製品の比率が1割を割ったと言う、あるいは年間契約額の伸びが見通しの下限5%を割る。そのときは、AIの話が数字の外へ退いていくことになります。
その前に、もうひとつ材料が来ます。社長は、新しい製品の中身を11月10日の投資家向けの説明会で見せると言いました。「人が指示し、エージェントが実行する」仕事の形への移行だそうです。今回の決算説明会で語られなかったことの一部は、そこで出てくるかもしれません。
決算書の数字は、どれも予定どおりか、予定より少し良いものでした。変わったのは、会社が何を数字で語り、何を語らなくなったかです。今回は「試している数」が増えて、「払っている割合」が消えました。
この会社が売り物を作り替えられるかどうかは、この並びに最初に出ると思っています。11月10日の説明会で、社長がその割合に一言でも触れるか。僕はまず、そこを見に行きます。
※この記事は、決算説明会の原文をAIで読み解いて書き、複数の検査(事実照合・表現・法務)を通したうえで公開しています。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。