AIに仕事を奪われる側だと言われてきた業界に、AIで自分の売上を削っている会社があります。
大企業のお客様窓口を丸ごと請け負っている、コンセントリックスです。この会社は今回、「売上の半分が、この3年で新しく作った事業になった」と発表しました。明るい話に聞こえます。ところが同じ説明会で、通期の売上見通しは下がりました。そして3ヶ月前に誇らしげに並べていた数字が、今回はひとつも出てきませんでした。
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※この記事で扱うのは、2026年9月29日に行われた、2026年6〜8月期(同社の会計年度では2026年度の第3四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、僕の予測ではありません。次回の決算日は会社の発表待ちです。
💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストに向けて説明し、質問に答える電話会議。発言はそのまま記録に残ります。
その前に——「お客様窓口の外注」に、AIが入ると何が起きるのか
クレジットカードの紛失や、家電の故障で問い合わせの電話をかけたことがあると思います。電話口で丁寧に対応してくれる人は、実はそのメーカーやカード会社の社員ではないことがよくあります。問い合わせ対応を、専門の会社にまとめて外注しているからです。日本にも、コールセンターを請け負う会社がいくつもあります。コンセントリックスは、その大手の1社です。年間の売上は100億ドル近くあります。
💡外注(アウトソーシング)=自社でやると手間のかかる業務を、専門の会社にお金を払って任せること。
この商売の基本は、人が対応した分だけ代金をもらう形です。問い合わせが多ければ、担当者が増え、売上も増える。ここまでは単純です。
そこにAIが入ると、話がねじれます。AIが一次対応を引き受ければ、同じ問い合わせを少ない人数でさばけます。お客の企業にとってはコストが下がる。でも請け負っている側から見ると、自分の売上がその分だけ減ります。 会社自身も3ヶ月前、「プラットフォームを最初に導入するときは、自動化と生産性の向上によって売上が減ることがある」と認めていました。
だからこの会社の決算は、ふつうの会社と読み方が逆になります。AIで新しい売上を作るスピードが、AIで古い売上が減るスピードを追い越せるか。 今回の数字も言葉も、全部この一点に集まっていました。
当四半期は、売上が横ばいで利益が上振れました
まず実績です。
- 売上 約24.5億ドル(為替の影響を除いて前年同期比 −0.5%)。1ドル150円で約3,675億円
- 調整後の営業利益 3億900万ドル(営業利益率 12.6%・前年同期比 +0.3ポイント)
- 調整後の一株利益 2.92ドル(前年同期比 +0.14ドル)
- 調整後のフリーキャッシュフロー 2億1,800万ドル
💡調整後(non-GAAP)=会社が「本業の実力を見るには外したほうがいい」と考える項目を除いた数字。会計基準どおりの数字(GAAP)とは別物で、この記事の利益の数字は、断りがない限り調整後です。
💡フリーキャッシュフロー=本業で入ってきた現金から、設備などへの投資を引いて手元に残る現金。借金の返済や配当の原資になります。
売上は、6月に会社が出していた見通しの下限をわずかに下回りました。一方で調整後の営業利益は見通しの上限を上回りました。売上は足りず、利益は出た。この会社のいまの姿が、そのまま数字に出ています。
フリーキャッシュフローは、2020年に親会社から独立して以来、第3四半期として最高です。前の四半期に続いて2四半期連続の記録で、この四半期に借金も2億1,100万ドル返しています。自社株買いはこの四半期はしていません。一株利益の伸びは、株数を減らして作ったものではありません。
ただし、会計基準どおりの数字には10.5億ドルののれん減損が入っています。
💡のれん減損=過去に会社を買ったとき、資産の額を超えて払った分(のれん)を「その価値はもう無い」と帳簿上で切り下げること。現金は出ていきませんが、昔の買い物が期待ほどの価値を生んでいないと会社が認めた、という意味になります。
新しい事業が、売上の半分を超えました
今回、会社がいちばん強く打ち出したのはこれです。
「この四半期に、売上の50%が、過去3年に私たちが生み出した事業から来るという節目を越えました」
中身も分けて示しました。
- 大きく作り変えた、またはAIが関わっている新規・既存顧客からの売上 30億ドル
- 自社のAI基盤「iX Suite」で従来型のサービスを圧縮した結果として生まれた純売上 13億ドル
- リスク管理・コンプライアンスのような、新しく出した高付加価値サービスの売上 7億ドル
合計で約50億ドル。会社はこの新事業について、今年度は前年比30%の成長を見込み、従来の事業より利益率が高く、売上の定着率は4倍だと言っています。2027年には60億ドルを超える見込みです。1ドル150円で約9,000億円になります。
しかも50%到達は、会社の想定より1四半期半早かったそうです。もともとは第4四半期の終わりか、次の年度の第1四半期の半ばを見ていた、と説明しています。
ここまでは、本物の前進です。問題は、この発表の陰で何が消えたかでした。
3ヶ月前に並べていた「iX Suite の手応え」が、ひとつも出てきません
3ヶ月前の説明会で、会社は自社のAI基盤 iX Suite がどれだけ売れているかを、具体的な数字で語っていました。
「iX Suite の契約の締結は過去最高で、件数で前年比400%増でした」「第2四半期に100件近くの案件を締結し、いまは導入の需要に追いつくことに注力しています」
ほかにも、こう言っていました。売上の11%が iX Suite の導入の影響を受けている。iX Suite を入れた顧客は全体平均よりかなり速く伸びて、利益率が3.5ポイント近く高い。導入済み顧客の新規ライセンス売上は前年比24%増。主要顧客の97%がAIを本番で使っている。
今回、このどれもが、一度も出てきません。
代わりに出てきたのは、別の物差しでした。「この四半期に61件の案件を稼働させ、3万人を超える担当者が iX Suite 上で業務を始めた」。「AIを含む新規顧客の受注が、前の四半期比で63%増」。そして先ほどの「13億ドル」。
どれも小さな数字ではありません。ただ、3ヶ月前と同じ物差しで、3ヶ月前を上回ったとは一度も言っていない。 締結件数は稼働件数に、前年比は前四半期比に、「売上の11%」はドルの金額に置き換わりました。これでは、前の回より良くなったのか悪くなったのかを、外からは比べられません。良くなっていれば、同じ物差しで言うのがいちばん簡単だったはずです。
💡前年比と前四半期比=去年の同じ時期と比べるか、3ヶ月前と比べるか。立ち上がったばかりの事業は前四半期比のほうが大きく見えやすい、という違いがあります。
言い方も、少しずつ後ろへずれました
消えた数字のほかに、残った言葉の側でも変化がありました。
借金の目標。
3ヶ月前:「2026年度末までに、純有利子負債を調整後EBITDAの2.6倍未満に下げることを約束します」
今回:「2026年度末までに、純有利子負債を調整後EBITDAの約2.6倍に下げることを約束します」
1語の違いです。でも「未満」は線の手前で止まる約束で、「約」は線の上でもいい言い方です。CEOも同じく「約2.6倍」と言い直しています。
💡純有利子負債÷EBITDA=手元の現金を差し引いた借金が、本業で稼ぐ1年分の現金のおおよそ何年分か。住宅ローンが年収の何倍か、に近い見方です。
成長が戻る時期。 3ヶ月前のCEOは「事業の構成が変わるにつれて、その先でより速い成長」と言っていました。今回、一桁台半ばの成長を安定して出すにはどこまで行けばいいのかと聞かれて、こう答えています。
「2027年について行間を読んでいただくと、その勢いが本当に出てくるのは年度の後半だと見ています。ですから、それはおそらく2028年の話に近いです」
大口顧客の影響。 巨大なクラウド事業者2社が、一部の顧客向けのサポートを打ち切る件です。3ヶ月前は、売上への影響を約1%と数字で示していました。当初は第3四半期から来年度の第2四半期にかけて少しずつ出る想定でしたが、2社は第4四半期末までに打ち切りを終えると決めました。CEOは今回、第4四半期の売上への影響は「以前の想定より大きい」と言っています。ただ、それが何%なのかは、説明会を通して一度も示しませんでした。
通期の売上見通しは、増収から減収に変わりました
💡ガイダンス=会社が自分で出す業績の見通し。
数字にすると、こうです。
- 通期売上:99.25億〜100.25億ドル → 98.27億〜98.77億ドル(中心で約1.2億ドル下)
- 為替の影響を除いた通期の伸び:+0.25%〜+1.25% → −0.8%〜−0.3%
- 第4四半期の売上:24.1億〜24.6億ドル(為替の影響を除いて −3%〜−5%)
3ヶ月前は「わずかに増収」だった1年が、「わずかに減収」の1年になりました。そして減り方は、第3四半期の−0.5%から、第4四半期は−3〜−5%へ深くなる見通しです。
利益の側は、上がってはいません。通期の調整後営業利益は中心で12.15億ドルから12.11億ドルへ微減。調整後の一株利益は10.83〜11.18ドルから10.97〜11.09ドルへ、幅が狭まっただけで、中心はほぼ同じです。フリーキャッシュフローの見通し(6.3億〜6.5億ドル)は据え置き。上がったのは配当で、一株37セントに増やしました。
アナリストの予想と比べると、売上の通期予想の平均は約99.7億ドルで、新しい見通しはそれを下回っています。一株利益は予想の平均10.97ドルに対して見通しの中心が11.03ドルと少し上ですが、前回の見通しの中心とほとんど変わりません。
💡コンセンサス=その会社を調べているアナリストたちの予想の平均。この会社の場合、通期の予想を出しているのは多くて4人で、平均と言っても母数はかなり小さいです。
説明会で答えが出なかったことと、数字に混ざっているもの
質疑では、焦点がはっきり1つに集まりました。2027年の減速が、どれだけの大きさで、いつまで続くのかです。
人件費の安い国へ業務を移すこと(オフショア化)による売上の向かい風は、3つの証券会社が続けて聞きました。財務責任者の答えは、今年は成長率を約3ポイント押し下げていて、2027年も「同じくらいの範囲。高くなるとは見ておらず、少し低いかもしれない」。3ヶ月前は「2027年はおそらく緩やかになる」と言っていたので、ここも少し後ろへずれています。
成長が戻るのに新事業の比率がどの水準まで要るのかという質問には、時期は答えましたが、水準そのものは答えていません。巨大クラウド2社の第4四半期の影響額も、最後まで数字が出ませんでした。
晴れた点もあります。オフショアへ移せそうな業務は、年度末で売上の10〜11%しか残らないと、数字で答えました。3ヶ月前の「11%前後」と合っています。向かい風が弱まるとすれば、理由は「もう移すものがあまり残っていないから」だと、会社自身が言っています。
数字に混ざっている、事業の伸びではないものも書いておきます。
- 来年のキャッシュ創出に自信を持つ根拠として会社が挙げた3つのうち、2つはリストラ費用の減少と利払いの減少。今年のリストラ費用は合計1.75億ドルの計画です
- 通期の売上見通しには、前年比で約0.8ポイントの為替の追い風が入っています
- 7億ドルの「新しい高付加価値サービス」の分野には、第4四半期に資金を出す買収(Castle Hill)が加わります
一方で、良い意味で混ざっていないものもあります。先ほど書いたとおり、この四半期は自社株買いをしていません。
なぜ、自分の売上を自分で削るのか
ここがこの会社の背骨です。
増える側は、新事業です。50億ドル規模で、今年30%伸びて、2027年に60億ドルを超える。
減る側は、3つ重なっています。自社のAIで従来の業務を自動化した分。巨大クラウド2社の打ち切り。オフショア化による約3ポイント。CEOは、自動化の導入が「当初の想定よりはるかに速く進んだ」とも言っていて、その分の減収が第4四半期と来年度の第1四半期に出ます。
差し引きについて、CEOはこう言いました。
「2027年は、新事業の売上の伸びが、私たちの自動化の取り組みの大部分を、あるいは全部を埋め合わせると現時点で見ています」
「全部」ではなく「大部分を、あるいは全部を(much, if not all)」。素直に読むと、2027年の売上は横ばい前後です。新しい事業がどれだけ伸びても、同じ会社の中で古い事業が同じくらい縮んでいく。
それでも会社が削るのをやめない理由も、説明会の中にあります。新事業は利益率が高く、顧客が離れにくい。CEOは減収を「伸びていて、離れにくく、利益率の高い売上と関係につながる、一時的な向かい風」と呼びました。売上の大きさより、売上の質を取りにいっている、という主張です。実際、利益率は前年同期比で上がり、キャッシュは記録を出し、来年度は借金をさらに5.5億ドル以上減らす計画を、3ヶ月前と同じ言葉で繰り返しています。
ただ、「一時的」と言ったのは会社自身です。それが一時的かどうかは、売上がいつ前年を上回るかでしか確かめられません。そしてその時期を、今回会社は「2028年の話に近い」と言いました。
僕の読みが外れていたら、こう出てくるはずです
今回の読みは「新事業は本物だが、会社全体の売上はまだ削る側が勝っている。しかも、それを測る物差しが変わった」です。違っていたら、次のどれかが起きます。
- 2027年1月ごろの第4四半期の説明会で、2027年度の売上見通しが、為替を除いてはっきり増収で出てくる
- その場で、新事業の「2027年に60億ドル超」が改めて確認され、巨大クラウド2社の打ち切りが終わったと明言される
- 3ヶ月前の物差し(iX Suite の締結件数や、売上に占める影響の割合)が、同じ定義のまま再び出てくる
逆に、年度末の借金が「約2.6倍」に届かなかったり、第4四半期の売上が−3〜−5%の範囲より悪かったりすれば、今回の読みよりもう一段厳しい話になります。
ここに書いたのは、2026年9月29日の説明会で分かったことだけです。
AIを売る会社の決算は、たいてい「AIでいくら稼いだか」を語ります。この会社は少し違って、AIで稼いだ分と、AIで失った分が、同じ決算書に並んでいます。そのどちらが先に大きくなるのかは、1回の決算では決まりません。だから僕は、次の回でも、3ヶ月前の言葉と今回の言葉を横に並べるところから始めます。
※この記事は、決算説明会の原文をAIで読み解いて書き、複数の検査(事実照合・表現・法務)を通したうえで公開しています。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。