売上は前年より17%増えました。食品の会社としては、目を疑うような伸びです。
ところが、中身を開くと、そのほとんどは別の会社を買ったぶんでした。そして経営陣の言葉は、3ヶ月前より一段ずつ下がっていました。
スパイスと調味料の会社、マコーミックの話です。日本でもスーパーのスパイス棚で名前を見かけることがあると思います。アメリカではスパイスのほか、ホットソースのCholula(チョルーラ)やFrank’s(フランクス)、マスタードのFrench’s(フレンチズ)といったブランドを小売店に売り、同時に食品メーカーや外食チェーン向けに、味付けの原料をオーダーメイドで作って売っています。
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※この記事で扱うのは、2026年10月1日に行われた、2026年6〜8月期(同社の会計年度では2026年度の第3四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、僕の予測ではありません。次回の決算日は会社の発表待ちです。
💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストに説明し、質問に答える電話会議。発言はそのまま記録に残ります。
その前に——「17%増収」と「オーガニック成長」は、何が違うんでしょう
売上が17%増えた、と聞くと、商品が17%多く売れたように聞こえます。ここがいちばん誤解されやすいところです。
会社の売上が増える道は、大きく2つあります。ひとつは、いまある商品がたくさん売れる、あるいは高く売れること。もうひとつは、別の会社を買って、その会社の売上を足すことです。決算書の「売上」には、この2つが混ざって入っています。
💡オーガニック成長=買収で増えた分や為替の影響を除いて、もともとの事業だけで売上がどれだけ伸びたかを示す数字。
駅前のパン屋を思い浮かべてください。隣町のパン屋を買い取れば、来月から売上は一気に増えます。でも、元の店のパンが1個でも多く売れたわけではありません。
マコーミックの今回の数字は、まさにこれでした。為替の影響を除いた売上の伸びが+17%で、そのうちオーガニック成長は+2%。残りの約15ポイントは、メキシコ事業(McCormick de Mexico)を買収して、自社の売上に合算するようになった(連結した)分です。
しかもその+2%の中身を分けると、主戦場であるアメリカの消費者向け事業は、値上げで2%を稼いで、売れた個数の減少でそれを帳消しにした「横ばい」でした。つまりこの会社のアメリカの本業は、この四半期、ほとんど前に進んでいません。 17%という数字の明るさと、この決算の中身は、別のものです。
売上は+17%、一株利益は+1%でした
実績を並べます。
- 売上の伸び(為替の影響を除く)+17%、うちオーガニック成長+2%
- 調整後の一株利益 0.86ドル(前年同期比 +1%)
- 調整後の粗利率 +1.8ポイント、調整後の営業利益 +22%
- 営業キャッシュフロー(年初来)約6億ドル(前年同期は約4億2,000万ドル)
💡調整後(non-GAAP)=会社が「一時的」と考える項目を除いて計算した数字。会計基準どおりの数字とは別物で、ここに並べた利益の数字はすべて調整後です。
💡粗利率=売上から、原料や製造にかかった費用を引いた残りが、売上の何%かを示す数字。商品そのものでどれだけ稼げているかの物差しです。
営業利益が22%伸びたのに、一株利益は1%しか伸びていません。差を食ったのは税金です。利益に対して実際にかかった税の割合(調整後の実効税率)が、前年同期の16.1%から22.6%に上がりました。前年の税率が特別に低かった反動で、会社の努力とは関係のないところで利益が削られています。前の四半期の一株利益は0.80ドルで、前年比+16%でした。+16%から+1%への減速です。
本業で実際に入ってきた現金(営業キャッシュフロー)は、年初来で約6億ドル。1ドル150円で計算すると約900億円です。前年より約1億8,000万ドル多く、現金を生む力そのものは落ちていません。
「第4四半期には数量を伸ばす」が、「より緩やか」に変わりました
3ヶ月前の決算説明会で、CEOは、アメリカの消費者向け事業についてこう言っていました。
3ヶ月前:「第3四半期には数量の前期比での改善を、第4四半期には数量の成長を見込んでいます」
今回、同じCEOの言葉はこうです。
今回:「消費者向けアメリカ事業の改善は、より緩やか(more gradual)になると認識しています。一部のカテゴリーで、需要環境がより厳しくなっているためです。ただ、私たちはこうした圧力を引き続き循環的なものと見ています」
「第4四半期に数量が伸びる」という期日つきの言い方が消えて、「より緩やか」と「循環的」という、時期を言わない言葉に置き換わりました。循環的とは、景気の波によるもので、いずれ戻るという見立てのことです。戻るとは言っていますが、いつ戻るかは言っていません。
💡数量(ボリューム)=売れた個数そのもの。売上は「個数×値段」なので、値上げで売上が増えても、個数が減っていれば中身は細っています。
回復の時期そのものも、後ろへずれました。米国の数量の足を最も引っ張っている商品群(レシピミックス=料理別の合わせ調味料)がいつ戻るのかと聞かれ、CEOは「回復は、想定していたより少し長くかかりそうだ」と認め、前年の値段と配荷(店の棚に置いてもらえる場所)の逆風を一巡するのは「2027年の早い時期に入ってから」と答えています。
もう一つの柱でも、向きが反転しました。 食品メーカーや外食チェーン向けに味付けの原料を売る事業(フレーバー・ソリューションズ)です。
3ヶ月前:「グローバルのフレーバー・ソリューションズでは、数量の成長が想定を上回りました」
今回:「グローバルのフレーバー・ソリューションズは力強いオーガニック成長を達成しましたが、数量は想定をわずかに下回りました」
3ヶ月前、会社は「フレーバー・ソリューションズの加速が、消費者向けの弱さを補って余りある」と説明していました。弱い事業を支えていた支え棒の方が、今回「わずかに下回った」側に回っています。
そしてCEO自身の評価も変わりました。3ヶ月前は、打った対策について「初期の結果を読み始めています。手応えは良いです」と言っていました。今回は、アナリストに対策の成果を正面から問われて、こう答えています。
「第3四半期については、私たちがやろうとしていることすべての実行のスピードが、望んでいたほど速くなかったのかもしれません」
悪い話を、自分の言葉で、言い訳を挟まずに言っています。この姿勢は信用できます。ただ、言っている中身は「思ったより遅い」です。
統合の上乗せ幅と、9月末に出すはずだった計画は、出てきませんでした
言い方が下がっただけではありません。3ヶ月前に数字や期日、手応えをつけて語っていたことの続きが、今回の説明会では出てきませんでした。 3つあります。2つは数字か期日のついた約束、3つ目は成長の材料として語っていた話です。
マコーミックはいま、ユニリーバの食品事業(Unilever Foods)との統合を進めています。存続会社も社名もCEOもマコーミック側ですが、統合後の株式の約65%はユニリーバ側が持つ形です。まだ手続きは完了していません。
1つ目は、その統合が一株利益をどれだけ押し上げるかの数字です。 3ヶ月前、CEOはこう言っていました。
「買収完了後の最初の12ヶ月で、調整後の一株利益に1桁台半ば〜後半の上乗せ、3年目には10%台半ば〜後半の上乗せを見込んでいます」
今回、この数字は一度も出てきません。財務責任者が「一株利益の上乗せを含め、約束したことを実現できる良い位置にいる」と、数字を外した言い方で触れただけです。
2つ目は、期日つきの約束です。
3ヶ月前:「9月末までに、運営モデル、コストシナジー、成長計画、移行サービス契約の範囲について、さらに詳しくお伝えする予定です」
このうち運営モデルと統合後の経営陣は、7月23日に発表されています。同じ日に、3ヶ月前に「7月末までに発表する」と言っていたヨーロッパでの二次上場の場所(ロンドン証券取引所)も発表済みです。ここまでは、期日どおりに果たされています。
残りは違います。説明会は10月1日。期日の翌日です。それでもこの説明会でコストシナジーの金額は更新されず(年6億ドルという目標は、統合の発表時に示されたものです)、移行サービス契約(統合後もしばらく、事務やITなどをユニリーバ側に代行してもらう契約)の中身を問われた財務責任者は、事務部門の支援を約2年という大枠は語ったうえで「その計画はまだお伝えできません」「今後数ヶ月で詳細をお伝えします」と答えました。自分で置いた期日を、この部分は自分で越えています。
💡シナジー=2つの会社が一緒になることで生まれる上乗せ。重複する費用を削る「コストシナジー」が代表的で、統合の条件が妥当だったかを測る物差しになります。
3つ目は、成長の材料の一つです。 3ヶ月前、会社は大手食品メーカーで「レシピの作り直し(reformulation)の案件が増えていて、その効果が市場に出始めている」と語っていました。今回、会社の側からこの言葉は出てきません。持ち出したのは質問したアナリストで、「前回の説明会では、作り直しの案件にとても自信があるように聞こえました」と聞かれたCEOは、業界全体で数量の減少が加速したことを理由に挙げ、作り直しの話には戻りませんでした。
3つとも、悪い数字を発表したわけではありません。言っていたことの続きを、言わなくなっただけです。決算の数字には何も表れません。
僕がいちばん戸惑ったのは、ここでした。
質問は同じところに集まり、答えは最後まで時期を言いませんでした
質疑応答では、アメリカの消費者向けの数量がいつ戻るのか、何がそれを直すのかを、5つの証券会社のアナリストが角度を変えて繰り返し聞きました。最初の質問がまさにそれで、終盤の質問者は「雑音をかき分けて、結局何がこれを直すのかを知りたい」とまで言っています。CEOの答えは「消費者がいまいる場所に、こちらから合わせにいく」というもので、目標の数字も期日も出てきませんでした。同じ問いが最後まで繰り返されたのは、最初の答えでは足りなかった、ということだと僕は読んでいます。
統合相手の食品事業の成長が、発表時の想定より鈍っているのではないかという質問には、CEOが「私たちが運営しているわけではないので、彼らの事業についてコメントするのは難しい」と答えています。
今回の粗利率の改善にも、一時的なものが多く混ざっていました。
- 関税の還付。通期の粗利率の改善約1.2ポイントのうち、約0.35ポイントが還付の分です。財務責任者自身が「還付を除いても大きな改善だ」と、差し引いて語っています
- 生産性向上の施策の一部を、第3四半期に前倒しした
- 費用の一部が第3四半期から第4四半期へずれた。財務責任者は「かなりの費用が第4四半期に回った」「第3四半期の追い風は、第4四半期の逆風になる」と説明しています
だから財務責任者は、第3四半期と第4四半期を合わせて見ると、粗利率の改善は約0.6ポイントだと言っています。この四半期単独の1.8ポイントの3分の1です。今回の利益の一部は、次の四半期から借りてきたものでした。
答えがはっきりしていた場面もあります。新しく出てきた包装材の供給制約については、冒頭の説明でCEOが第4四半期の全社の数量に最大1ポイント、財務責任者が通期のオーガニック成長に約0.3ポイントの影響と、数字で示しました。質疑では、CEOが影響は主に消費者向けアメリカ事業で、フレーバー・ソリューションズには及ばず、原料不足でも需要の問題でもないと切り分けています。アメリカの値段がまたマイナスに転じるのかという質問にも「いいえ、マイナスになるとは見ていません」と即答しています。具体で答えられるところは、具体で答えています。答えが具体にならなかったのは、数量の回復の時期だけです。
通期の見通しは下半分へ、コストの前提は6〜7%へ
💡ガイダンス=会社が自分で出す業績予想。たいてい「◯%〜◯%」という幅で示します。
通期のオーガニック成長は「ガイダンスの下限から中央の間」になると、財務責任者が言いました。包装材の制約の約0.3ポイントを含んだ数字です。幅の上半分は、事実上手放したことになります。営業利益と一株利益は「レンジの中央」。上振れをにおわせる言葉はありません。
コストの前提も悪くなりました。通期のコスト・インフレを、これまでの「1桁台半ば」から6〜7%へ引き上げています。第4四半期については「前年比である程度の利益率の低下を織り込んでいる」とも言いました。
唯一の格上げは粗利率で、通期の改善幅1.0〜1.2ポイントのうち「上限側になる」としました。ただ、これは幅の中での移動で、幅そのものは変えていません。先ほどの還付と前倒しを考えると、手放しでは喜べない格上げです。
市場の予想と比べておきます。通期(11月期)の調整後一株利益について、アナリスト13人の予想の平均は3.09ドル(3.05〜3.13ドル)でした。
💡コンセンサス=その会社を調べているアナリストたちの予想の平均。会社の見通しは、前回の自分ではなく、この数字と比べて初めて強いか弱いかが分かります。
ここまで3四半期の調整後一株利益を足すと2.32ドル(0.66+0.80+0.86)。予想の平均に届くには、第4四半期に0.77ドルが要る計算です。会社は「レンジの中央」と言い、第4四半期は前年の有利な税率がなくなる逆風があるとも言っています。市場の予想を上回りにいく言葉は、どこにもありませんでした。
翌年についても聞かれ、財務責任者は「インフレは来年も続くと見ている」とし、来年に向けて利益率と一株利益への逆風が強まると予告しました。来年の最初の見通しは1月に出すと言っています。
ホットソースの棚とヨーロッパの台所では、伸び続けています
悪い方向の変化を並べてきましたが、同じ説明会で、積み上がっているものもはっきり語られています。
ヨーロッパ・中東・アフリカの消費者向け事業は、11四半期連続で数量が伸びています(3ヶ月前は「10四半期連続」)。この四半期もオーガニックで+5%、うち数量+2%、値段+3%です。アジア太平洋の消費者向けも+4%でした。
アメリカのホットソースでも、Cholulaを中心に、金額と個数の両方で4四半期連続でシェアを伸ばしています(3ヶ月前は「3四半期連続」)。消費者向け全体では需要の厳しいカテゴリーを抱えながらも、ホットソースの棚では取り分を増やしています。
フレーバー・ソリューションズのアジア太平洋は、オーガニックで+8%、数量は+10%。 会社が「年度末まで圧力が続く」と言っているのは、南北アメリカとEMEA(欧州・中東・アフリカ)の一部の外食チェーンと、南北アメリカの大手食品メーカー向けで、アジアは別の顔をしています。
借金の水準を示すレバレッジ比率は約2.9倍で、3ヶ月前と同じ。統合の完了時には約4倍に上がり、2年で約3倍へ戻す計画を、金利が動く中でも達成できると財務責任者は言い直しました。
つまり、この会社が弱いのは「アメリカの家庭の台所」と「アメリカ大陸を中心とした業務用」で、海外の家庭とアジアの業務用は伸びています。ただ、売上の中心は弱い側にあります。
1月の説明会で、この3つが出てくるか
今回の僕の読みは、「アメリカの本業は横ばいで、回復の時期は2027年へ後ろにずれ、統合の数字は語られなくなった」です。次の決算(1月の予定)で、これが外れたと分かる形は3つあります。
- アメリカの消費者向け事業で、オーガニックの数量がプラスに転じたと財務責任者が明言する
- 通期のオーガニック成長が、「下限から中央の間」ではなく中央以上で着地する
- ユニリーバの食品事業との統合による一株利益の上乗せとコストシナジーが、金額で再び示される
1つだけなら偶然かもしれません。3つそろえば、今回僕が読んだ「言葉の後退」は、読みすぎだったことになります。逆に、1月の説明会でもこの3つが出てこなければ、言葉の後退は2四半期続いたことになります。
ここに書いたのは、2026年10月1日の説明会までに分かっていることだけです。速報に載るのは17%で、アメリカの本業が横ばいだったことは載りません。
マコーミックについては、1月の説明会で、上の3つと、9月末に出るはずだったシナジーと移行サービス契約の詳細を確かめます。読み終えたら、ここに書き足します。
※この記事は、決算説明会の原文をAIで読み解いて書き、複数の検査(事実照合・表現・法務)を通したうえで公開しています。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。