僕が引っかかったのは、売上2倍超の決算から消えた「日付つきの約束」でした【SEALSQ(LAES)2026年1〜6月期決算】

量子コンピュータの話題になると、たいてい主役は「量子コンピュータを作る会社」です。

でも、量子コンピュータが本当に実用になったとき、真っ先に困るのは別の人たちです。いまの暗号で守られている、電力メーターや軍の通信機器や工場の制御装置を持っている人たちです。その人たちに「量子コンピュータでも破れない鍵」を、小さなチップの形で売ろうとしている会社があります。スイスに拠点を置くWISeKeyグループの半導体会社、SEALSQです。

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日足チャート(価格/出来高/RSI(2)/ニュースセンチ/RSランク)。毎日自動更新。

※この記事で扱うのは、2026年9月15日に行われた、2026年1〜6月期(上半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、僕の予測ではありません。次回の決算日は会社の発表待ちです。

💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストに向けて説明し、質問に答える電話会議。発言はそのまま記録に残ります。

その前に——「耐量子暗号」って、何でしょう

名前に「量子」と付いていますが、量子コンピュータそのものではありません。量子コンピュータが出てきても破られないように作り直した、普通のコンピュータ用の暗号のことです。

いまネットや機械の世界で使われている暗号の多くは、「とても大きな数を素因数分解するのは、どんな計算機でも何千年もかかる」という前提の上に立っています。鍵が強いのではなく、解くのに時間がかかりすぎるから安全、という作りです。量子コンピュータは、この種の計算をまったく別の近道で解けると考えられています。前提が崩れれば、鍵ごと役に立たなくなります。

だから、量子コンピュータが実用になる前に、鍵の方式そのものを入れ替えておく必要があります。

身近な実物で言うと、クレジットカードの金色のICチップや、Windows 11のパソコンが必須にしている「TPM」というセキュリティ用のチップです。どちらも、鍵を外から盗めないように閉じ込めておく小さな金庫の役をしています。SEALSQが作っているのは、この小さな金庫を、量子コンピュータでも開かない鍵に入れ替えたものです。

💡セキュアエレメント=鍵を閉じ込めておくための専用チップ。ICカードの中にあるのと同じ種類のもの。同社の新製品はQS7001。
💡TPM=パソコンやサーバーに載っている、鍵の保管と本人確認のためのチップ。同社の新製品はQVolt TPM。

この入れ替えは、流行で起きるのではありません。規制で起きます。アメリカでは2026年6月に、耐量子暗号への移行を求める大統領令が出ました。期限が直接かかるのは連邦政府の機関で、鍵の方式は2030年末、署名は2031年末までに入れ替えることになっています。民間の重要インフラには、義務ではなく移行計画を後押しする形です。経営陣は質疑の中で、この大統領令を「2029年までに耐量子対応」と説明していましたが、大統領令の本文にある期限とは年が違います。政府から先に、期限つきの置き換えが始まっています。

ただし、ここに時間の壁があります。チップは政府機関などの認証を取らないと採用されず、採用が決まってからも、相手の製品に組み込んで量産に入るまで時間がかかります。会社自身が前回の説明会で、設計への採用から本格量産までは通常6〜18ヶ月と言っています。この記事の話は、ほとんどがこの「時間の壁」をめぐる話です。

上半期の売上は+131%、ただし2割は買収した会社の分です

まず実績です。

  • 売上 1,120万ドル(前年同期は480万ドル、+131%)
  • 粗利 540万ドル(前年同期比 +233%)、粗利率は約48%
  • 営業損失 3,220万ドル(前年同期は2,120万ドル)、純損失は2,780万ドル(同2,000万ドル)

💡粗利率=売ったお金のうち、原価を引いて残る割合。ここでは約半分が残っています。

売上が2倍を超えた、というのは本当です。ただ中身を分けると、景色が少し変わります。

上半期の売上のうち約250万ドルは、買収したIC’Alps(半導体の設計を請け負う会社)の分で、前年同期にはありませんでした。会社自身がそう分けて説明しています。これを除いた元からの事業は480万ドルから870万ドルで、+81%です。それでも大きな伸びですが、2倍超ではありません。

しかも会社は前回、2025年の出荷は、顧客が手元の在庫を先に使い切ろうとして注文を絞っていた時期(在庫調整)の後に戻ってきた、と説明していました。比べている前年の上半期は売上480万ドルと低く、今回の旧来の製品の伸びには、その沈んだ分の反動も混じっている可能性があります。

粗利率も、前の年度の47%から48%へ、ほぼ横ばいです。高い粗利の源は、IC’Alpsの設計サービスです(前回の説明会では、この部門の粗利率を88%と言っていました)。案件ごとに入るお金なので、毎期同じだけ入る保証はありません。

そして、肝心の新製品、QS7001とQVolt TPMの製品としての売上は、今回もまだゼロです。前回の説明会では、QS7001の「サンプル出荷にかかわる小さな売上」があると言っていましたが、今回はそれにも触れていません。

経営陣の言葉は、2つの方向に同時に動きました

前回(2025年通期決算)の説明会から今回までで、経営陣の言い方ははっきり変わっています。ただし、向きが2つありました。

ひとつは、本当に前に進んだ話です。

前回:「先月、Miraexの100%を取得する基本合意書に署名しました」
今回:「Miraexの買収を完了しました」

量子コンピュータ同士を光でつなぐ技術の会社(Miraex)の買収は、合意から完了へ。スペイン政府と組んだ4,000万ユーロの合弁事業は、署名の段階から「初めての上半期の売上を出した」へ。関心を示している相手の数も、前回は質疑でアナリストが「非常に活発な段階にある顧客が10社ある、とおっしゃっていたと思いますが」と触れていた程度だったのが、今回は150社超の顧客・見込み客のうち、30社超がQS7001かQVolt TPMを評価中または組み込み中になりました。

💡評価中・組み込み中=相手が自社の製品にこのチップを載せて試している段階。注文が決まったわけではありません。

もうひとつは、本命の売上が始まる時期の話です。 ここが今回いちばん動いたところです。

前回:「QS7001とQVolt TPMからの最初の量産売上は、2026年の下半期を見込んでいます」
今回:「QS7001とQVolt TPMの最初の売上は2026年下半期の終盤、意味のある規模の寄与は2027年からと見込んでいます。顧客が組み込み、品質認定、製品計画を終えるにつれてです。正確な時期は、引き続き認証、顧客の検証、調達の周期に左右されます」

「下半期に量産売上」が、「下半期の終盤に最初の売上、意味のある規模は2027年から」へ。後ろに3つの条件も付きました。言葉を足すたびに、時期が後ろへずれています。

同じ動きが、ほかにもいくつかあります。前回「下半期に契約化を見込む」と言っていた耐量子のカスタムチップ(ASIC)の案件は、今回「可能性のある」設計案件という言い方に変わりました。インドで「拠点を立ち上げている」と言っていた話は「交渉を進めた」に、アメリカで「鍵を書き込む拠点を2026年に立ち上げる」と言っていた話は「アメリカでもおそらく同じ拠点を作ることになる」になっています。

前回、日付を付けて言っていたことが、今回は出てきません

変わったのは言い方だけではありません。前回の説明会で、期限や名前を付けて語っていたことが、今回は出てきませんでした。

1つ目は、アメリカの拠点の場所です。 前回、質疑の中で経営陣はこう答えていました。

「ごく近いうちに発表できるはずです。6月末までには、どこに置くのかを発表できると思います」

今回の説明会は9月15日です。場所も、州も、組む相手の会社の名前も、一度も出てきませんでした。自分で置いた6月末の期限は、何も言われないまま過ぎています。

2つ目は、アメリカでの製造・流通のパートナーです。 前回は、アメリカ政府の信頼認定を持つTrusted Semiconductor Solutions(TSS)を「アメリカでの製造・流通パートナー」として名前を挙げ、アメリカ製の耐量子チップを共同開発すると話していました。今回、TSSの名前は一度も出てきません。

3つ目は、新製品の本認証の期限です。 前回は、QS7001などの製品が政府調達に必要な認証(CC EAL5+、FIPS 140-3など)に向けて「2026年第4四半期まで予定どおり(on track)」と言っていました。今回は「正式な認証に近づいた」と言うだけで、第4四半期という期限を繰り返していません。

💡認証=政府機関などが「このチップの鍵の守り方は基準を満たしている」と認めるお墨付き。これが無いと、政府や重要インフラ向けにはまず採用されません。

今回、認証の話は確かにありました。QS7001は、乱数を作る部分という部品の一部について、アメリカの標準機関(NIST)の検証を取っています。そしてFIPS 140-3の検証も取りました。ただし、FIPS 140-3を取ったのは新製品のQS7001ではなく、旧来の製品(VaultIC 408)のほうです。新製品の本認証は、まだです。

ほかにも、前回「最初の顧客」として名前を挙げていたスマートメーター大手のランディス・ギアとの提携は、今回は言及がありませんでした。

見通しは1ドルも動いていません

会社は、2026年通期の売上見通し2,700万〜3,600万ドルを「再確認」しました。2025年の実績1,830万ドルに対して+50〜100%で、前回の説明会で出したものと同じです。

💡ガイダンス(業績見通し)=会社が自分で出す業績の予想。今回は「前回の予想をそのまま維持する」と言いました。

数字だけ見れば、据え置きは悪い話ではありません。気になるのは、その中身の配分です。

上半期が1,120万ドルなので、通期の見通しに届くには、下半期だけで1,580万〜2,480万ドルが要ります。上半期の1.4倍から2.2倍です。そして、その下半期を担うはずだった新製品の売上は、今回「下半期の終盤に、最初の分」へ後ろにずれました。見通しの数字は同じなのに、それを支えるはずの柱は前回より細くなっています。

この下半期のつなぎ方を、今回は誰も質問せず、経営陣も自分からは説明しませんでした。

質問は2つで終わりました

この決算には、確かめられていない点が多く残っています。

今回の説明会で質問したアナリストは1人、質問は2つだけでした。

1つ目は、耐量子暗号の外側、量子コンピュータ関連の事業全体で、顧客との会話は起きているのか、いつ商売になるのか、という質問です。経営陣は金額も時期も出さず、代わりにこう答えました。

「量子産業は、まだあまり売上が出る産業ではありません。(中略)これはまだ、科学の仕事であり、研究開発の仕事です」

自分の事業領域の未熟さを自分で認めたので、ここは誠実だと思いました。ただ、質問への答えにはなっていません。

2つ目は、スペインで作った鍵の書き込み拠点を、1〜2年後にどこまで広げられるのか、という質問です。答えは「中東、アジア、韓国、インドに行くと、どこもこれこそ欲しいモデルだと言ってくれる」という先方の反応と、「アメリカでもおそらく同じ拠点を作る」まででした。拠点の数も、開く時期も、売上も出ていません。前回の「6月末までに場所を発表」についても、質問で触れられることはありませんでした。

数字を飾ったものも、いくつかあります。

  • 売上の約2割は買収したIC’Alpsの分で、前年にはゼロ
  • 前年の上半期は売上が低かった=比べる相手が低い(在庫調整の影響が残っていた可能性)
  • スペインの合弁事業の売上は政府プロジェクトなので、毎期一定には入らない
  • 純損失が営業損失より小さいのは、本業ではなく手元の現金に付く金利の収入のおかげ

損失の側は、逆の方向に大きく動きました。営業損失は2,120万ドルから3,220万ドルへ、一般管理費は1,380万ドルから2,310万ドルへ(うち約300万ドルは買収した3社の分)。研究開発費も470万ドルから870万ドルに増えています。

手元の現金は、前回の説明会の時点で約5億3,000万ドルと言っていたものが、今回は4億8,600万ドル超(1ドル150円で約730億円)。同じ説明会の中で、4億8,600万ドル、4億8,850万ドル、4億9,500万ドルと3つの数字が出てきます。どれで見ても、年間の売上見通しの10倍を超える現金を持っている会社です。資金が尽きる心配をする段階ではありません。問題は時間のほうです。

日付は後ろへずれ、物語は宇宙まで広がりました

今回の説明会で、いちばん言葉が増えたのはここでした。

「SEALSQを、安全な半導体とデジタル信頼の会社から、量子セキュリティの主要なプラットフォームへと変えていきます」

経営陣は、チップの根っこから量子ビット(量子コンピュータの計算の最小単位)までを自前でそろえる「root to qubit」、さらに宇宙まで広げる「root to space」、その中心に置く「quantum highway」という言葉を使いました。実際に、量子関連の会社への投資枠2億ドルのうち、6,000万ドル超を8社にコミットしています(前回は約3,000万ドル・6社)。投資先のひとつWeCan Groupは、持ち分を55.5%に上げて支配下に置きました。

この会社が攻めている場所が、規制で需要が決まる場所であることは本物です。量子コンピュータの実用化を待たずに、鍵の入れ替えの期限のほうが先に来ます。期限が直接かかるのは連邦政府の機関ですが、そこへ機器を納める防衛や政府の調達先、移行を後押しされる重要インフラの機器メーカーやスマートメーターの事業者も、同じ入れ替えの流れの中にいます。商談の積み上げも続いています。耐量子関連の商談は、2024年末に約1,140万ドル、2025年末に6,000万ドル、今回は1億ドル超です。

💡商談パイプライン=まだ契約になっていない、これから取れるかもしれない案件の見込み額の合計。

ただし、会社自身がこの数字に念を押しています。総額2億2,500万ドル超(約340億円)の商談パイプラインは、2029年までの見込みの積算で、「売上の見通しではなく経営の見積もりであり、認証、顧客の検証、商談、調達の判断、実行のリスクに左右される」。

そして、今回出てきた顧客の名前は、ありません。前回はランディス・ギアという名前が出ていました。

需要の側は、政府の期限つきで確かに来ています。供給の側の会社は、その需要に応えるための認証と量産の手前にいて、そこに至る日付だけが少しずつ後ろへ動き、同時に物語の範囲は宇宙まで広がりました。本命の日付が後ろへずれながら、語る範囲は宇宙まで広がる。今回の説明会でいちばん気になったのは、その組み合わせです。

次の決算で、僕の読みが外れていたと分かる形

今回の読みは「需要は本物だが、本命の新製品はまだ売上の手前にいて、そこへ至る日付が後ろへ動いている」です。

これが悲観に寄りすぎていたと分かるのは、次のような形です。

  1. QS7001かQVolt TPMについて、顧客の名前と金額のついた契約が発表される
  2. QS7001の本認証(CC EAL5+かFIPS 140-3)が、2026年のうちに取れる
  3. アメリカの拠点の場所と相手の会社が、名前つきで出てくる

逆に、僕の読みが甘かったと分かる形もあります。2026年通期の売上が見通しの下限、2,700万ドルに届かないこと。そして2027年の説明会でも、新製品の売上が金額で分けて示されないことです。「2027年から意味のある寄与」と言った以上、それは数字で出てくるはずです。


ここに書いたのは、2026年9月15日の説明会までに分かっていることだけです。認証の結果も、拠点の場所も、これから出てきます。

量子コンピュータに備える需要は、規制の期限があるぶん、他の量子関連よりずっと現実的です。ただ、チップの会社にとっては、需要があることと、売上が立つことのあいだに、認証と組み込みという長い道があります。その道のどこにいるのかは、会社が出す日付でしか分かりません。だから、日付が動いたか、消えたかを毎回確かめています。

次の説明会で、6月末に出るはずだった場所の名前が出てくるか。そこから見ていきます。


※この記事は、決算説明会の原文をAIで読み解いて書き、複数の検査(事実照合・表現・法務)を通したうえで公開しています。

※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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この記事を書いた人

圧倒的な熱量で世界の相場を毎日14時間以上監視している専業トレーダーです。トレード、バックテスト、調査で得た学びを初心者の方にもわかりやすく発信しています。