僕が一番驚いたのは、受注の額ではなく、工場の「5倍」という数字でした【タレス(THLLY)2026年7〜9月期決算】

ヨーロッパの防衛予算が増えている、という話はもう聞き飽きたかもしれません。

ただ、予算が増えても、それを受け取って実際に物を作れる会社は限られています。注文が来ても、作れなければ売上になりません。今回読んだのは、その「作れるか」に数字で答えた会社です。フランスの防衛・航空宇宙・サイバーの大手、タレスです。米国では THLLY というティッカーの預託証券(ADR)で取引されています。

※この記事で扱うのは、2026年10月22日に行われた、2026年7〜9月期(第3四半期)の受注・売上の説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、僕の予測ではありません。次回の決算日は会社の発表待ちです。

💡決算説明会=決算の発表に合わせて、経営陣が投資家やアナリストに向けて説明し、質問に答える電話会議。発言はそのまま記録に残ります。

その前に——防衛の「受注」は、なぜすぐ売上にならないのか

「受注が増えた」と聞くと、そのまま儲かりそうに聞こえます。でも受注は、まだ売上ではありません。注文を受けた、という約束の段階です。

身近な例でいうと、行列のできるラーメン店の整理券です。整理券を100枚配っても、厨房が1時間に20杯しか作れなければ、その時間の売上は20杯分です。残りの80枚は、明日以降の売上として待っています。

防衛の装備は、この差がとても大きい世界です。レーダーもミサイルも、注文が来てから作り始める部分が多く、何年もかけて納めます。だから防衛会社の決算では、受注の多さより先に「厨房を何倍に広げたか」が、次の1〜2年の売上を決めます。

今回、タレスはその厨房の広さを、自分から倍率で語りました。今回の決算で一番大事なのは、そこです。

9ヶ月で受注は+15%、売上は+8.1%でした

今回は受注と売上だけを出す回で、利益や一株利益の実績はまだありません。だから見るのは、注文がどれだけ積み上がったかです。

  • 1〜9月の受注高 191億ユーロ(前年同期比 +15%・有機ベース)
  • 1〜9月の売上の伸び +8.1%(有機ベース)
  • 1億ユーロを超える大型受注 29件(うち7〜9月だけで11件。2025年は1年間で28件)
  • 防衛部門 受注113億ユーロ(+14%)、売上94億ユーロ(+13%)

💡有機ベース=買収や為替の影響を除いた、もともとの事業だけの伸び。

191億ユーロは、仮に1ユーロ170円で計算すると約3.2兆円です。大型受注は、9ヶ月の時点で去年1年分の件数をもう超えました。しかも会社によると、受注の6割超は1億ユーロ未満の小口です。大きな1件に頼った数字ではありません。

「近く」が「署名した」に変わりました

3ヶ月前と今回で、経営陣の言い方がはっきり進んだところが3つあります。

1つ目は、IRIS²(イリス・スクエア)です。 EUが進める、低軌道に330基の通信衛星を並べる独自の衛星通信網で、会社は「欧州の主権に関わる旗艦プログラム」と呼んでいます。

3ヶ月前:「待っているところです。契約の下にある、あるいは契約に続く段階、と言えばいいでしょうか。近く、と言っておきます」
今回:「タレス・アレーニア・スペースは9月、330基のIRIS²通信衛星向けの政府用ペイロードを供給する合意書(letter of agreement)に署名しました」

「近く」が「署名した」になりました。ペイロードとは、衛星に載せる「仕事をする機器」のことで、通信衛星なら電波を送受信する装置の部分です。グループの衛星部門が受け取る総額は約30億ユーロ(同じく1ユーロ170円で約5,100億円)です。ただし、ここには条件が一つ付きます。署名したのは「合意書」で、受注として計上済みなのはそのうち約3分の1です。残りの約20億について、財務責任者は「今後数四半期にわたって」入ってくると言い、時期は明言しませんでした。

2つ目は、通期の売上見通しです。

3ヶ月前:「2026年の売上の有機成長率6〜7%という目標を確認します」
今回:「売上は、有機成長率+6〜+7%という見通しのレンジの上端が、いまや確実視されており、それを上回る可能性もあります」

「確認します」から「上端が確実、上回る可能性も」へ。一歩前に出ました。

3つ目は、防衛の伸びです。

3ヶ月前:「今年の見通しは、売上の一桁台後半の成長から、二桁台前半の成長の可能性へと移りました」
今回:「防衛については、二桁台前半の成長を確認します」

「可能性」が「確認」になりました。実数も同じ向きで、防衛は前の四半期も今四半期も二桁成長でした。

レーダー工場は4倍、5倍。ここが本題です

アナリストに「生産能力の増強はどこまで進んでいるのか」と聞かれて、財務責任者は倍率で答えました。

「フランスのレーダーの生産能力は、2021年からおよそ4倍にしました。ドイツのレーダー生産は5倍にしている途中で、2026年末にはその5倍の水準に達します」
「エフェクターは2024年から2026年にかけて5倍になり、2026年から2028年にかけてさらに3倍にするための投資をしています」

エフェクターとは、ミサイルなど実際に目標に当てる側の装備です。レーダーが「見つける」役なら、エフェクターは「当てる」役です。

最初の節のラーメン店でいえば、厨房を4倍、5倍にしたという話です。しかも「当てる」側は、5倍にした後でさらに3倍を狙っています。掛け算すると、4年で15倍の計画です。受注の額より、僕はこの数字で手が止まりました。

これがなぜ大事か。受注が積み上がっている会社は他にもあります。でも受注を売上に変える速さは、作る能力で上限が決まります。 会社自身も、防衛の売上が伸びた主な理由として「生産能力の継続的な立ち上げ」を最初に挙げました。整理券が増えたことより、厨房が広がったことの方が、次の1年の売上に近い数字です。

伸びているのは防衛だけではありません。もう一本が宇宙です。航空宇宙部門は1〜9月で受注50億ユーロ(+29%)、売上は42億ユーロ(+4%)。上半期は宇宙で一時的な要因(静止軌道〈地上から見て空の同じ位置に止まって見える高い軌道〉の通信衛星2機の取り消し)があり、そのぶん7〜9月期の売上は+7.8%と高く出ています。ここにIRIS²の残り約20億が、これから受注として乗ってきます。

もう一つ、地域の話があります。中東の受注は1〜9月で19億ユーロと、前年同期のおよそ3倍。売上は約13億ユーロ(+49%)ですが、まだ売上全体の8%です。受注に比べて、売上がまだ追いついていない地域です。

弱くなった言い方と、答えなかったこと

進んだ言葉ばかりではありません。後ろに下がった言葉もありました。

防衛の利益率の言い方が、一段弱くなりました。

3ヶ月前:「13.5%を上回る利益率を維持できると考えています」
今回:「通期は13%を上回り、おそらく13.5%前後にとどまると考えています。ですから変わっていません」

会社は「変わっていない」と言っています。上半期の実績は13.8%でした。それでも、下限の言い方が「13.5%超」から「13%超」へ下がったのは事実です。売上が伸びるほど利益率は上がる、という素直な形にはなっていません。

サイバーは、加速しませんでした。 3ヶ月前、会社は「さらなる加速」を見込むと言っていました。今回のサイバーの伸びは7〜9月期で4.3%、前の四半期は4.5%で、ほぼ横ばいです。財務責任者の答えは「第3四半期は第2四半期を裏づけるもの」。新しい暗号鍵の保護装置(HSM)の寄与は「2027年の中の話」と先送りしました。この点は3つの証券会社が別々に聞き、そのうち1社には「サイバーについて、これ以上は立ち入りません」と答えています。

デジタル(決済カードなど)も、3ヶ月前の「下半期に数量は改善するはず」から、今回は「数量の面では、いくらか圧力があります」「前年比で横ばいに近い」へ変わりました。

数字を飾っているものも、いくつかあります。

  • 7〜9月期の宇宙の高い伸びは、上半期に静止軌道の通信衛星2機の取り消し(約1.5億ユーロ)があった反動を含みます
  • 中東の受注の伸びは、地域の戦争という地政学に支えられています
  • フランスの予算には政治のリスクがあり、財務責任者は「個人的な見解」として楽観を述べただけです

そして、2027年のことは語りませんでした。「第4四半期より先の話は、いまはしたくありません」。中期計画の見直しは来年3月初めの通期決算まで持ち越しです。3ヶ月前に強調していた買収計画(Exail)にも、今回の説明では触れていません。

次の決算で確かめること

今回の読みは「受注を売上に変える厨房は、本当に広がっている。ただし利益率とサイバーは、まだそれについてきていない」です。

来年3月の通期決算で、この読みが外れたと分かる形は3つあります。

  1. 2026年の有機売上成長率が+7%に届かない(会社は「上端、上回る可能性も」と言った)
  2. 受注を売上で割った比率(book-to-bill)が1.1を下回る
  3. IRIS²の残り約20億ユーロが、2027年中に受注として計上されない

💡book-to-bill=受注額÷売上額。1を超えていれば、売った分より多く注文が積み上がっている状態です。

逆に、防衛の利益率がまた「13.5%超」の言い方に戻れば、能力増強の費用を越えて利益が出始めた合図になります。


工場を5倍にした、という言葉は、一度言えば次の回で数字に出るしかありません。ドイツのレーダー工場が「2026年末に5倍」に届いたかどうかは、来年3月の説明会で分かります。その回を、同じように前の回と並べて読むつもりです。


※この記事は、決算説明会の原文をAIで読み解いて書き、複数の検査(事実照合・表現・法務)を通したうえで公開しています。

※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

この記事で扱ったような内容は、ブログでは一部しか公開していません。

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この記事を書いた人

圧倒的な熱量で世界の相場を毎日14時間以上監視している専業トレーダーです。トレード、バックテスト、調査で得た学びを初心者の方にもわかりやすく発信しています。