AIの話になると、名前が出るのはいつも半導体の会社です。でも、半導体だけではデータセンターは1日も動きません。
電気を途切れさせない装置と、熱を逃がす装置。その両方をまとめて売っている会社があります。ヴァーティブです。
日足チャート(価格/出来高/RSI(2)/ニュースセンチ/RSランク)。毎日自動更新。
※この記事で扱うのは、2026年10月28日に行われた、2026年7〜9月期(第3四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、僕の予測ではありません。次回の決算日は会社の発表待ちです。
💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストに向けて説明し、質問に答える電話会議。発言はそのまま記録に残ります。
その前に——データセンターの「電源と冷却」って、何をしているんでしょう
「電源」と聞くと、コンセントを思い浮かべると思います。家のパソコンなら、コンセントに挿して、中の小さなファンが回れば、それで足ります。
AIのデータセンターは、そうはいきません。同じ建物の中で、何万台という計算機が一斉に電気を食べ、一斉に熱を出します。電気が一瞬でも途切れれば計算が止まり、熱を逃がせなければ機械が壊れます。
この会社が売っているのは、そのための設備です。日本の身近なものに置き換えると、こうなります。
- 停電しても電気を流し続ける大きなバッテリー装置(UPS)。病院やビルの非常用電源の、もっと大きなもの
- 建物の熱を外へ捨てる大型の冷却機(チラー)。エアコンの室外機を、工場サイズにしたもの
- 計算機に冷たい液体を直接回す仕組み(液冷)。車のエンジンを冷やすラジエーターに近い考え方
これがこの記事の結論にどう効くか。AIのデータセンターが1棟建つたびに、この設備は必ず要ります。 しかも注文を受けてから売上になるまでに時間がかかります。経営陣は、今の受注残が売上になるまでの期間を「12〜18ヶ月」と言っています。だから、今日の注文の数字は、1年先の売上の先触れになります。この記事の主役が「受注」なのは、そのためです。
💡受注残(バックログ)=注文はもらったが、まだ納品していない分。この会社は「正式な発注書があるものだけを受注残と呼ぶ」と説明しています。
3ヶ月前は弁明、今回は「噂は誇張されている」でした
3ヶ月前の決算説明会で、社長の話の中心は言い訳でした。
3ヶ月前:「第2四半期の売上には、小さなタイミングのずれがありました。主に、複数段階に分かれた案件の進め方と、一時的なサプライチェーンの事情によるものです」
今回、最初に口を開いた会長は、マーク・トウェインの言葉を借りてこう言いました。
今回:「私たちが死んだという噂は、ひどく誇張されています」
そして社長が続けます。
「第3四半期の受注は、買収分を除いて、前年同期比で100%を超えて伸びました」
注文が、1年前の2倍を超えたということです。ほかの言葉も、同じ向きに一段ずつ上がっています。
北米の案件の見込みについて。
3ヶ月前:「パイプラインは、実際に加速しています」
今回:「アメリカのパイプラインの、前の四半期からの伸びは、これまで見た中で最も速いものです」
「加速している」から「これまでで最も速い」へ。比べる相手が、自分の過去の全部になりました。
💡パイプライン=まだ注文にはなっていないが、商談が進んでいる案件の束。受注の一歩手前です。
ヨーロッパ・中東・アフリカについて。
3ヶ月前:「EMEAの勢いは、さらに強まっています」
今回:「第3四半期、EMEAのパイプラインは前年同期比でおおむね2倍になり、買収分を除いた受注はそれ以上に伸びました」
そして、3ヶ月前には無かった言葉が出てきました。 2027年についてです。
「2027年も、市場を大きく上回る、買収分を除いた売上の伸びが続くと見ています」
前の四半期、経営陣は2027年の成長には触れていませんでした。
数字も、言葉と同じ向きを向いていました
この四半期の実績です。
- 売上 約43億ドル(前年同期比 +61%。うち買収を除いた伸びが約55%、買収分が約6%)
- 調整後の一株利益 2.21ドル(前年同期比 +78%)
- 調整後の営業利益率 25.2%
- 調整後のフリーキャッシュフロー 6億5,200万ドル
💡調整後=会社が「一時的だと考える項目」を除いた数字(non-GAAP)。会計基準どおりの数字とは別物です。
💡一株利益(EPS)=会社の利益を、株1株あたりに割った数字。
1ドル150円で計算すると、売上は3ヶ月で約6,450億円です。
いちばん大きいのは、買収を除いた売上の伸びが、前の四半期の18%から約55%へ跳ねたことです。地域別では、北米が66%、アジア太平洋が48%、そして3ヶ月前に「下期に伸びが戻る」と予告していたEMEAが、予告どおり19%伸びました。
会社自身が出していた見通しとの差も大きく出ています。この四半期の売上の会社見通しは37.5億ドルで、実績は約43億ドル。見通しを1割以上上回りました。
設備の増強も、もう売上に効き始めています。社長は、増やした生産能力が「すでに第3四半期と第4四半期の伸びに寄与している」と言い、冷却機の生産能力を年末までに2倍にする計画も順調だと述べました。
顧客の名前も具体的に出てきました。複数の拠点でギガワット級の施設を展開しているデータセンター事業者のEdgeConnex、韓国でAIデータセンターを進めるKT Cloud、ノルウェーのPolar Data Centerです。Polarでは、最初の41メガワット分にこの会社の設備が使われています。
💡ギガワット=100万キロワット。原子力発電所1基の出力が、おおよそ1ギガワットです。
通期の見通しも、市場の予想を追い越しました
会社は通期の見通しを、すべての主要な指標で引き上げました。引き上げは2四半期続けてです。
- 通期の売上 146.5億ドル(7月時点の見通しから6.5億ドル上乗せ)
- 通期の調整後の一株利益 7.15ドル(同じく0.45ドル上乗せ)
- 買収を除いた売上の伸びは、約31%から約38%へ
💡コンセンサス=その会社を調べているアナリストたちの予想の平均。
市場の予想は、通期の売上が140億ドル、一株利益が6.73ドルでした。会社の新しい見通しは、売上で約4.6%、一株利益で約6.2%、その上にあります。通期の売上146.5億ドルは、1ドル150円で約2兆2,000億円です。
受注の数字は、今回が最後になりました
ここからが、この決算でいちばん引っかかった部分です。
受注が2倍を超えたと伝えた直後に、会長はこう付け加えました。
「念のためはっきりさせておきますが、今後、受注のデータを共有するつもりはありません」
社長も「受注は開示していませんし、これからもしません。ただ、今回はお伝えする価値があると考えました」という言い方をしています。つまり2倍という数字は、例外として一度だけ出されたものです。次の四半期からは、受注が伸びたのか鈍ったのかを、外からは同じ形で確かめられなくなります。
前の四半期に語っていたことで、今回出てこなかったものもあります。 2つです。
1つ目は、前受け金です。3ヶ月前、財務責任者は自分から説明していました。
3ヶ月前:「前受け収益について一言。この四半期に増えていますが、それは案件の前払い金と、進捗に応じた入金によるものです」
今回、この話は出てきませんでした。
💡前受け金=納品の前に顧客から受け取るお金。顧客が先に払ってでも枠を押さえたい、という強さの目安になります。
2つ目は、前の四半期の目玉だった事例です。3ヶ月前は、台湾の鴻海(フォックスコン)系のVision Bay AIの案件を「ラックとポッドの単位で800ボルト直流の構成を採用する、世界初のAIデータセンター」として紹介していました。今回は、一度も触れていません。
💡800ボルト直流=データセンターの中で電気を送る新しい方式。電気の形を変える回数を減らし、ロスを小さくする狙いがあります。
もう一つ、3ヶ月前には無かった留保も入りました。
「この速さで成長するのは大変な仕事で、いつも整然とは進みません」
経営陣が答えなかったことと、数字を押し上げたもの
正直に書いておきます。この決算には、確かめられていない点と、一時的なものが混ざっています。
まず、通期の引き上げの中身です。上げ幅の大半は、この第3四半期の上振れから来ています。次の第4四半期の売上見通しは約44億ドルで、前回の見通しから逆算した第4四半期の数字とほとんど変わりません。この四半期の約43億ドルと比べても、ほぼ横ばいです。質疑応答でも「普段は第3四半期から第4四半期にかけてきれいに伸びるのに、今回の見通しは横ばいに近い」と聞かれました。財務責任者の答えは「見通しには、いつもある程度の慎重さを織り込んでいる」でした。
そして、2027年の数字は出しませんでした。 2つの証券会社が続けて聞き、財務責任者は「2027年についてはコメントしません」と答えています。言葉では「市場を大きく上回る伸び」と言いながら、数字は出さない。ここは次の決算まで持ち越しです。
品質の問題も、数字では晴れていません。コンプレッサーの焼損やUPSの過熱といった噂があるのではと聞かれ、社長は「いちばんの答えは、私たちの実績です」と返しました。新製品が多い時期は初期の不良が出やすいと説明し、改善は見えているとしたうえで「私たちは完璧ではありません」とも言っています。不良率のような数字は出していません。受注の伸びが前の遅れの取り戻しなのかと聞かれた場面でも、社長は「取り戻しの話をしているのではありません。受注の話をしています」と答え、その問いには正面から答えませんでした。
一時的なものは、次のとおりです。
- 前の四半期に遅れた売上のうち、1億〜1.5億ドルがこの四半期にずれ込んで入った(財務責任者の説明)
- 売上の伸び61%のうち、6%分は買収によるもの
- 北米の利益の伸びには、前年との比較が有利だった分が含まれる(会社自身の説明)
- 在庫が前年同期比で2倍を超えて増えている。会社は、成長への備えと工場の余裕づくりのためと説明
ずれ込んだ1億〜1.5億ドルは、この四半期の売上約43億ドルの3%前後です。これを抜いても、会社見通しを大きく上回った事実は変わりません。ただ、2倍を超えた在庫と、出てこなかった前受け金は、同じ問いにつながります。作ったものが、予定どおり顧客に引き取られているのか。 次の決算では、ここを見ます。
なぜ、いまこの会社に注文が集まるのか
AIのデータセンターは、計算機を並べる前に、電気と冷却を用意しなければ始まりません。しかもAI向けは、1つの棚に詰め込む計算機の密度が高く、使う電気も出る熱も、従来のデータセンターとは桁が違います。空気で冷やす方式から液体で冷やす方式へ、電気の送り方も新しい方式へ。設備そのものの作り直しが起きています。
この会社は、その電気の側と熱の側を、まとめて1社で売れます。顧客の内訳について社長は、大手クラウド、データセンターの貸し手、新興のAIクラウド、一般企業という顧客の構成が「市場の構成そのもの」だと言いました。会長も「新興のAIクラウドを含めても除いても、受注は強い」と述べています。一部の顧客に偏った注文ではない、という主張です。
一方で、伸びを決めるのはこの会社だけではありません。社長自身が、送電網の電力の確保、建設の許認可、現場の熟練工の不足を「ペースを決める要因」と認めています。注文が2倍になっても、建物が建たなければ設備は据え付けられません。
800ボルト直流については、今回の説明はこうでした。途中段階の構成は2027年に売上が立ち始め、完全な800ボルト直流は2027年に顧客の検証、2028年に市場へ。売上の規模は示していません。
次の決算で、何を見れば僕が間違っていたと分かるか
今回の読みは「言葉の格上げに、売上の実数が伴った四半期。ただし、その先を測る物差しを会社が自分で引っ込めた」です。これが違っていたと分かる形は、2つあります。
- 次の決算で示される2027年の見通しで、買収を除いた売上の伸びが、2026年の約38%を下回る
- 品質や納期を理由にした売上の後ずれに、再び触れる
受注の数字が出なくなる以上、次からは2027年の見通しの数字そのものが、今回の「2倍」を確かめる唯一の手がかりになります。
ここに書いたのは、2026年10月28日の説明会までに分かっていることだけです。
注文が2倍になったと言えた四半期に、会社はその数字を出すのをやめると決めました。強い数字を出せるときに出すのをやめるのは、普通は逆です。理由はいくつも考えられますが、会社は何も説明していません。だから僕は、3ヶ月後の決算で、受注の代わりに何を語るのかを聞きに行きます。
※この記事は、決算説明会の原文をAIで読み解いて書き、複数の検査(事実照合・表現・法務)を通したうえで公開しています。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。