AIは、ソフトウェアの会社を食べてしまうのか。それとも上乗せになるのか。
今回の決算説明会で、アナリストの一人がこれを正面から聞きました。聞かれたのは、企業向けAIでいちばん名前の挙がる会社の一つ、サービスナウです。
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※この記事で扱うのは、2026年10月28日に行われた、2026年7〜9月期(第3四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、僕の予測ではありません。次回の決算日は会社の発表待ちです。
💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストに説明し、質問に答える電話会議。発言はそのまま記録に残ります。
サービスナウは、大企業や政府機関の「社内の手続き」をまとめて動かす仕組みを売っている会社です。パソコンが壊れたときの修理依頼、入社の手続き、顧客からの問い合わせ、セキュリティの警報。そうした「誰かが受け付けて、誰かに回して、終わったら閉じる」流れを1つの基盤に載せます。いまはそこに、仕事を代わりにこなすAIエージェントと、そのAIを監督する仕組みを足して売っています。
その前に——「席で売る」と「使った分で売る」は、何が違うんでしょう
この決算を読むには、値段の付け方を1つだけ知っておく必要があります。
ソフトウェアの売り方には、大きく2つあります。1つは「席」で売るやり方です。社員100人が使うなら100人分の契約。スポーツジムの月会費に近く、行っても行かなくても毎月同じ額が入ります。会社にとっては、来年の売上が読みやすい。
もう1つは「使った分」で売るやり方です。電気やスマホのデータ通信に近く、使えば使うほど請求が増えます。AIエージェントは人の席を置き換えるので、席の数では値段が付けにくい。だから使った分で払ってもらう方向に寄っていきます。
ここが大事なところです。使った分で売る仕組みは、契約した瞬間には売上が立ちません。 顧客が実際に使い始め、使う量が増えて、初めて数字になります。ジムの会費なら入会した月から入りますが、電気代は家電を買って使い始めてからです。
今回、社長はこの会社の売り方をこう言いました。
「消費(使った分の)課金へと、より移っていくハイブリッドのビジネスモデル」
席と使った分の両方で売り、比重を使った分へ移していく。この一言が、今回の決算の良い話と気になる話を、両方とも説明しています。
AIの目標は、今年2回目の引き上げでした
まず、明るい話からです。
3ヶ月前:「2026年末までに15億ドルのACVという目標を上回る軌道に乗っています」
今回:「本日、その目標を再び引き上げます。今回は年末までに17億ドル超です」
💡ACV=年間の契約額。1年あたり、いくら払う契約になっているか。
AIの年間契約額の目標は、期初に10億ドル、5月に15億ドル、そして今回17億ドル超。期初に置いた目標から、今年2回目の引き上げです。17億ドルは1ドル150円で約2,550億円にあたります。
AIまわりの数字は、ほかにも強く出ていました。
- AIの新規純増の年間契約額は、前年同期比+65%
- 100万ドルを超えるAI案件の数は、前年同期比4.5倍
- 本番で動いているAIエージェントの使用量は、年初来で前年比13倍超
- 社員向けのAI製品は、3四半期足らずで年間契約額1億ドルに到達
会社全体の実績も、会社自身の見通しの上限を超えています。
- サブスクリプション収益 39億8,800万ドル(前年同期比 +20.5%、為替の影響を除く。見通しの上限を0.5ポイント上回る)
- cRPO 136億5,000万ドル(同 +21%、為替の影響を除く。見通しを1ポイント上回る)
- RPO 297億ドル(同 +22.5%、為替の影響を除く)
- 営業利益率 32.5%(調整後=non-GAAP)
- 契約の更新率は98%、年間500万ドル超を払う顧客は680社(前の四半期は658社)
💡RPO=まだ売上になっていない契約残高。受注残に近い考え方です。cRPOはそのうち、今後12か月で売上になる分。来年の売上の「予約済み」の部分だと思ってください。
💡調整後(non-GAAP)=会社が独自の調整を加えて示す数字。会計基準どおりの数字とは別物です。
RPOの297億ドルは、1ドル150円で約4兆4,500億円。契約がこれだけ先まで積み上がっている会社です。
上回り方は、3ヶ月前より小さくなっていました
ただ、同じ「上限超え」でも、幅が変わっています。
3ヶ月前:「サブスクリプション収益の伸びは為替の影響を除いて23%で、見通しの上限を1.5ポイント上回りました。cRPOの伸びは21.5%で、見通しを2ポイント超上回りました」
今回:「サブスクリプション収益の伸びは為替の影響を除いて20.5%で、見通しの上限を50ベーシスポイント上回りました。cRPOは21%で、見通しを100ベーシスポイント上回りました」
💡ベーシスポイント(bp)=0.01%のこと。50ベーシスポイントは0.5ポイントです。
上振れの幅は、サブスク収益で1.5ポイントから0.5ポイントへ、cRPOで2ポイント超から1ポイントへ。上回ってはいます。ただ、上回り方が3ヶ月で半分以下になりました。
言い方の強さも変わっています。2030年にAIを年間契約額の30%にするという長期目標について、財務責任者はこう言いました。
3ヶ月前:「まだ初期段階ですが、2030年までにAIがACVの30%に達するという目標に対して、すでに先行しています」
今回:「そこへ向かう道筋と軌道に、間違いなく乗っています。実際には予定より先行しているかもしれません」
「すでに先行している」と言い切っていたものが、「軌道に乗っている。先行しているかもしれない」になりました。大きな後退ではありません。でも、言い切りが一段下がっています。
3ヶ月前に出していた数字が、4つ消えていました
いちばん気になったのは、言い方よりも、言わなくなったことです。前の四半期に具体的な数字で語っていたことのうち、4つが今回は出てきませんでした。
1つ目は、100万ドル超の案件数です。 前の四半期、社長はこう言っていました。
「新規純増の年間契約額が100万ドルを超える案件が123件あり、前年同期比40%増でした」
今回は、この総数がありません。AIに限った件数の伸び(4.5倍)や、事業の領域ごとの件数は出ています。でも、前回の123件にあたる会社全体の合計と、その前年比は出ていません。代わりに出てきたのは「500万ドルを超える案件が19件、前年同期比135%増」です。物差しが100万ドルから500万ドルに替わりました。19件と135%は強い数字です。ただ、123件が今回どうなったのかは分かりません。
2つ目は、値上げの幅です。 前の四半期、財務責任者は「新しいAIネイティブ製品への切り替えで、20〜30%の枠組みどおりの値上げが出ている」と言っていました。今回、この20〜30%への言及はありません。
3つ目は、席で売らない契約の比率です。 前の四半期、社長は「新規の純増ビジネスの50%は、すでに席に基づかない契約だ」と言っていました。冒頭の「使った分で売る」方向への移り具合を、いちばん直接に示していた数字です。これも今回は出てきません。社長は「消費へ移っていく」と言葉では語りましたが、比率は示しませんでした。
4つ目は、顧客の数です。 前の四半期は、AIを監督する製品について「500社超がすでに本番で使っている」、AIエージェントについて「本番で使う顧客の数が9か月で9倍」と、どちらも顧客の数で言っていました。今回は、前者が「新規の年間契約額が6倍超」、後者が「使用量が13倍」と、伸び率と使用量に替わっています。顧客の数は、どちらにも出てきません。
差し替えた先の数字は、どれも大きく見えます。それ自体は嘘ではありません。ただ、前の物差しで今回がどうだったかは、読者には確かめようがなくなりました。 数字が4つ消えた回に、上回り方も小さくなっていた。この2つが、同じ四半期に重なっていました。
次の四半期のcRPOは18.5%へ。5人が角度を変えて同じことを聞きました
見通しのほうに移ります。
通期のサブスクリプション収益の見通しは、157億7,000万ドルから157億8,500万ドルへ、1,500万ドルの引き上げでした。率にすると0.1%です。財務責任者は自分でこう説明しています。
「上振れ分の、実は半分を(見通しに)反映しました」
💡ガイダンス=会社が自分で出す業績の見通し。コンセンサス=その会社を調べているアナリストたちの予想の平均。
市場の予想は、通期の総売上で約162億ドルでした。会社が見通しを出しているのはサブスク収益だけなので、この予想とそのまま比べることはできません。言えるのは、0.1%の引き上げは見通しを塗り替えるほどの動きではない、ということです。
そして、次の四半期のcRPOの伸びは18.5%(為替の影響を除く)と示されました。今回の21%から下がります。
AIの目標は2回上がったのに、来年の予約済みの売上の伸びは下がる。質疑応答では、この食い違いを5人のアナリストが角度を変えて繰り返し聞きました。 AIの勢いはいつ会社全体の数字に出るのか、と。
社長の答えはこうでした。
「事業が今ほど良い状態にあったことは、一度もありません」
「いくらかは今も見えるでしょう。ただ本当の加速は、2027年です」
時期は2027年と言いましたが、数値はありません。財務責任者も、AIの加速は「2027年以降の力強い売上の伸びに、間違いなくつながる」と、同じく2027年に置いています。
冒頭の「AIはソフトウェアの会社を食べるのか、上乗せになるのか」という質問にも、返ってきたのは利用量の話でした。最高執行責任者は「本番稼働の後、利用が3倍、4倍に増える」と説明しましたが、顧客がこの会社に払う総額がどう変わったかは、ドルでは出てきませんでした。
今回の上振れに混ざっていたもの
上振れのうち、次の四半期(10〜12月期)から借りてきた分と、たまたまの分を、財務責任者は自分で分けて答えています。
- 更新の前倒し。 cRPOの上振れの約半分がこれでした。「第3四半期に早期の更新が強く、上振れの約半分を占めました。これは第4四半期にはマイナスに効きます。第4四半期の案件を第3四半期に引き寄せたからです」
- 大型案件に導入支援を無償で付けています。 その分、収益が第3四半期に約0.25ポイント、第4四半期に約0.5ポイント押し下げられます。「長期的に続けるつもりはない」とのことです
- 営業利益率の上振れには、支出の時期ずれが含まれます。 フリーキャッシュフロー(事業で稼いだ現金から投資を引いて、手元に残る現金)の利益率の目標を35%から36%に上げた理由も、設備投資(サーバーや建物などへの支出)を減らしたことでした
- 次の四半期のcRPOには、会計上の逆風もあります。 公共部門の自社設置型の案件の比率で約0.25ポイント、契約の途中解約条項でcRPOから外れる分が約0.5ポイントです
導入支援の無償同梱は、冒頭の「使った分で売る」話とつながっています。使ってもらわないと売上にならないので、会社がお金をかけて使い始めを早めている。財務責任者の説明では、支援を受けた顧客は最初の5週間でAIの導入の進みが2倍になったそうです。筋は通っています。ただ、その費用は今の収益から出ています。
一方で、この会社には隠さずに分けて見せる姿勢がありました。前倒しが次の四半期に効くことを、聞かれた場で自分から言っています。ここは好感を持ちました。
なぜ、AIの勢いが数字に出るまで時間がかかるのか
ここまでの話は、1本の線でつながります。
AIエージェントは、人の席を置き換える製品です。だから席では売りにくく、使った分で売る比重が増える。使った分で売ると、契約した時点では売上が立たず、顧客が実際に使い込んで初めて数字になる。だから会社は導入支援を無償で付け、使い始めを早めようとしている。その費用が、いまの収益を押し下げている。
この線で見ると、「AIの目標は上がるのに、次の四半期のcRPOの伸びは下がる」は矛盾ではありません。AIの契約は増えている。でも、それが請求に変わるのはまだ先。 経営陣が「本当の加速は2027年」と言うのも、この順番の話です。
ただ、この線には弱いところがあります。席で売らない契約の比率(前の四半期は50%)が今回消えたので、使った分で売る方向への移り具合を、外からは確かめられなくなりました。 移行が順調なら、比率を出したほうが会社には有利なはずです。出さなかった理由は、説明会の中では語られていません。
顧客の側では、サウジアラムコのデジタル部門が関連会社全体の業務の流れをこの会社の基盤にそろえる契約を結び、アクセンチュアは約900のAI資産をこの会社の仕組みで監督していると紹介されました。どちらも金額は示されていません。顧客の名前は多い一方で、顧客名と金額がそろった大型契約は今回出てきませんでした。
1月に、17億ドルと18.5%が出るか。消えた比率が戻るか
AIの契約は伸びています。でも、会社全体の数字に出るのは先に延び、それを確かめる物差しも減りました。
次の決算の日程はまだ発表されていませんが、前年どおりなら2027年1月です。そこで2026年10〜12月期の実績と、2027年の通期見通しが出ます。外れる形は3つあります。
- AIの年間契約額が、年末に17億ドルに届かない
- cRPOの伸びが、自分で示した18.5%を下回る
- 2027年のサブスクリプション収益の伸びの見通しが、20%を下回る(為替の影響を除く)
反対に、2027年の見通しでサブスク収益の伸びが今年の見通しの21%(為替の影響を除く)を上回り、しかも今回消えた「席で売らない契約の比率」がまた出てくれば、「本当の加速は2027年」は言葉だけではなかったことになります。
AIの目標が上がるたびに、見出しはそこに集まります。でも今回は、上がった目標の隣で、前の回に出していた数字が静かに入れ替わっていました。どちらも同じ説明会の中にあります。前の回と並べてみないと、片方しか見えません。
1月の回では、123件にあたる会社全体の件数と、50%だった「席で売らない契約の比率」が、また数字で出てくるかを確かめます。
※この記事は、決算説明会の原文をAIで読み解いて書き、複数の検査(事実照合・表現・法務)を通したうえで公開しています。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。