迎撃ミサイルのエンジンを作っている会社に、3ヶ月で110億ドルの契約が入りました。1ドル150円で計算すると、約1兆6,500億円です。
この会社の1年分の売上は、今年の見込みで約236億ドル。その半分近い額の契約が、2つのミサイルだけで一度に決まりました。ただし、これは7年ほどかけて納めていく分の契約です。今年の売上がその分だけ増えるわけではありません。
アメリカの防衛大手、L3ハリス・テクノロジーズです。軍用の無線機や電子戦の装置、衛星、偵察機の改造などを手がけていて、2023年に買収したエアロジェット・ロケットダインを通じて、ミサイルを飛ばすロケットモーターも作っています。
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※この記事で扱うのは、2026年10月29日に行われた、2026年7〜9月期(第3四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、僕の予測ではありません。次回の決算日は会社の発表待ちです。
💡決算説明会=決算の発表に合わせて、経営陣が投資家やアナリストに業績を説明し、質問を受ける電話会議。発言は記録に残ります。
今回は、新しいCEOのサム・メータ氏と財務責任者が、2人そろって臨んだ初めての決算説明会でもありました。前の四半期までは、クリス・クバシク氏がCEOとして話していました。
ミサイルの「モーター」は、何を作っているのか
この記事の数字は、ほとんどがこの1つの部品に関係しています。先に中身を押さえておきます。
「モーター」と聞くと、電気で回る機械を思い浮かべると思います。ここで言うモーターは別物で、固体燃料のロケットエンジンのことです。筒の中に、ゴムのように固めた燃料を詰めてあります。
普通のロケットエンジン(液体燃料)は、燃料と酸化剤を別々のタンクに入れておき、ポンプで送り込んで燃やします。発射の直前に燃料を入れる必要があり、仕組みも複雑です。固体燃料は、詰めたまま何年も保管でき、点火すれば最後まで一気に燃えます。撃つと決めた瞬間に撃てる。 だからミサイルに向いています。
日本で身近な例を挙げると、H3ロケットの両脇に付いている補助ブースターがこの形です。あれを、敵のミサイルを撃ち落とす迎撃ミサイルの大きさにしたものだと思ってください。
💡PAC-3=地上から敵のミサイルを撃ち落とす「パトリオット」の迎撃ミサイル。THAAD(サード)=もっと高い高度で迎え撃つ迎撃システム。どちらも完成品をまとめるのは別の大手で、この会社はそこにモーターを納めています。
この記事の結論に効いてくるのは、次の点です。モーターは、工場の広さと人と材料で作れる数が決まります。 契約がいくら積み上がっても、作れる数が増えなければ売上は増えません。だからこの会社の3ヶ月〜1年半を決めるのは、契約の大きさよりも「工場がどれだけ速く増やせるか」のほうになります。
3ヶ月前は「交渉中」、今回は「契約済み」
クバシク氏は、CEOとして臨んだ最後の説明会(前の四半期)で、こう話していました。
「200億ドルを超える新しい契約を、積極的に交渉しています。受注残を3倍にする可能性があります」
「四半期末の直後に、THAADとPAC-3の7年分の生産について枠組み合意に署名しました。将来の生産による売上で、約120億ドルにあたります」
後任のメータ氏は、最初の説明会でこう述べました。
「第3四半期は、当社のミサイル事業にとって分水嶺となる瞬間です。110億ドルの、契約に基づく受注残を計上しました」
財務責任者は「最大の2件はPAC-3とTHAADで、合計110億ドル。数量と価格は私たちの想定どおりでした」と補っています。
「枠組みに合意した」から「契約として受注残に載った」へ。合意は約束の入り口で、契約は数量と値段が決まった注文です。3ヶ月で、その間の一段を越えました。
💡受注残(バックログ)=契約は済んでいるが、まだ納め終わっていない(売上になっていない)仕事の合計。
同じ変化が、ドローン対策の装置でも起きています。前の四半期は「新規受注5億ドルを目標にしている」。今回は「国防総省と海外の顧客からの受注が、この四半期で5億ドルを超えた」。目標が、そのまま実績の数字に置き換わりました。
💡国防総省=アメリカの国防を担う役所。2025年からは「戦争省(Department of War)」という呼び名も使われていて、今回の説明会でもこの名前で呼ばれています。
💡バンパイア(VAMPIRE)=この会社のドローン対策システム。車両を選ばずに載せられ、ドローンを見つけて撃ち落とします。
一方で、3ヶ月前の強い言葉がいくつか消えました
ここからが、数字の速報には出てこない部分です。
前の四半期、財務責任者はミサイル事業について「少なくとも今後2年ほどは、10%台後半の成長を見込んでいる」と言っていました。今回、この見通しは繰り返されませんでした。
ほかにも、前の四半期にあって今回出てこなかったものがあります。
- 固体ロケットモーターを「枠組み合意の80%を超える数量で納められる機会がある」
- 宇宙分野の「90億ドルのパイプライン(見込み案件の総額)」、偵察・監視(ISR)分野の「100億ドルの案件」
- 交渉中だった「200億ドル超」のうち、今回の110億ドル以外の残り
最後の点は大事です。200億ドルの交渉のうち、契約になったのは110億ドル。残りが消えたとは言っていません。ただ、今回は一言も触れられませんでした。
陸軍の次世代の指揮統制ネットワーク(NGC2)の仕事についても、言葉が一段下がっています。前の四半期は「公平な取り分(fair share)より多く勝ち取っている」。今回は「NGC2関連の受注で、私たちは公平な取り分を獲得しています。どうぞご安心ください」。「より多く」が落ちて、「安心してください」が付きました。
7〜9月期は、売上・利益・現金のどれも伸びました
数字そのものは強い四半期でした。
- 売上 61億ドル(前年同期比 +7%)。事業の売買の影響を除いた伸び(オーガニック)は +9%
- 一株利益 3.28ドル(会計基準どおり・前年同期比 +33%)
- 受注 193億ドル、受注対売上比(book-to-bill)3.2倍
- 受注残 532億ドル(前の四半期比 +27%、前年同期比 +47%)
💡book-to-bill(ブック・トゥ・ビル)=その期に入った注文を、その期の売上で割った数字。3.2倍は、売上1ドルを納めるあいだに、3.2ドル分の新しい注文が入ったという意味です。
受注残の532億ドルは、1ドル150円で約8兆円になります。
オーガニックの+9%には、もう一つ事情があります。今年の第3四半期は、前年同期より1週間短かった。会社によると1週間で約2億ドルの売上なので、その差を埋めれば2桁成長だった、という説明です。
💡オーガニック成長=買収や事業売却の影響を除いた、もともとの事業だけの伸び。会社独自の物差し(non-GAAP)で、会計基準どおりの数字とは別物です。
部門別では、ミサイル事業の売上が報告ベースで+5%、事業売却の影響を除くと +17%。海外向けの売上は+18%で、全体の24%を占めるところまで来ました。フリーキャッシュフロー(これも会社独自の物差し)は13億ドルで、前年同期のほぼ3倍です。
💡フリーキャッシュフロー=本業で入ってきた現金から、設備投資に出ていった現金を引いた残り。配当や借金の返済に自由に回せるお金です。
今年は上方修正、2028年は下方修正
会社は2026年の見通しを引き上げました。
- 売上:232億〜237億ドル → 235億〜237億ドル(下限だけ3億ドル引き上げ)
- 一株利益:11.80〜12.00ドル → 12.25〜12.35ドル
💡ガイダンス=会社が自分で出す業績の見通し。コンセンサス=この会社を追っているアナリストたちの予想の平均。
市場の予想は、売上が約235.6億ドル、一株利益が約11.90ドルでした。売上の見通しはほぼ予想どおりで、一株利益は中心で約3.4%上回ります。
ただ、財務責任者は自分から付け加えました。一株利益の引き上げ幅(中心で0.40ドル)の「約半分は、支払利息が減ったことによるもの」です。本業の稼ぎが増えた分は、残りの半分ということになります。
そして同じ日に、2年先の見通しは下がりました。2028年の目標として出していた数字です。
- オーガニック成長 8%(据え置き)
- 部門の利益率 16.3% → 約16%
- フリーキャッシュフロー 35億ドル → 30億ドル
フリーキャッシュフローを5億ドル下げた理由は3つと説明されています。従業員の確定拠出年金への会社負担(約2.5億ドル)を自社株でなく現金で払うことにしたこと、利益率の低い事業が速く伸びること、ミサイルの設備投資を前倒しすること。1つ目は、株を新しく刷って配る代わりに現金を出す話で、株主にとっては株数が薄まらないという面もあります。
利益率の引き下げについて、CEOは「製品ラインの売却益や投資収益を、計算の前提から外した」と説明しました。財務責任者はさらに踏み込んでいます。
「そうした一度きりの項目を外して、今どこにいるかを見ると、利益率で約50ベーシスポイント。16%から下がって、だいたい15.5%あたりです。ですから、私たちにはまだやるべき仕事があるんです」
50ベーシスポイントは、利益率で0.5ポイントのことです(1ベーシスポイント=0.01ポイント)。16%が15.5%になる差です。
近い年は少し上げて、遠い年は少し下げた。しかも下げた理由の一部は「これまでの数字に入っていた、繰り返さない上乗せを外した」です。数字を盛る方向とは逆の修正なので、僕はここを悪い話だけとは読んでいません。ただ、実力の利益率が15.5%前後だと会社自身が認めた、という事実は残ります。
工場はどこまで速く増やせるのか
背骨になるのは、迎撃ミサイルのモーターを「どれだけ速く増やせるか」です。CEOが挙げた数字を並べます。
- PAC-3向けのモーターの納入は、去年から今年で倍。2027年にもう一度倍にできる
- THAADのモーターの納入は、2027年に2026年の3倍にする計画
- ミサイルの生産能力に30億ドルを投資中で、その約25%は部品の供給網に向けている
- 100棟を超える建屋を建て、製造スペースを約100万平方フィート(約9万3,000平方メートル、東京ドーム約2個分)増やす
2023年から2026年までで、納入数は2倍を超える増え方だと言っています。工場の検査工程では、一部でAIと自動化を使い、モーター1本あたりの手作業の品質検査を21時間から6.5時間に縮めた例も挙げました。
契約の中身も、この増産を支える作りになっています。CEOによると、受注の大半は固定価格の契約です。前払い金や節目ごとの支払いを設備投資に合わせて受け取る形で、数量が想定どおりに出なかった場合に会社を守る条項も入っている、と説明しました。さらに、今回の契約額には物価上昇による値上げ分や海外の需要は含まれておらず、上振れがあると見ている、とも言っています。
💡固定価格契約=作る前に値段を決めてしまう契約。コストを抑えられれば利益が増え、膨らめば会社が負担します。
それでもCEO自身、契約の守りを説明した答えの最後をこう締めました。
「もちろん、私たちの前には多くの実行が待っていますし、その証明は結果で示されることになります」
モーター以外の柱も、実数で動いています。宇宙分野では9億5,500万ドルの衛星の契約を獲得し、偵察機の改造では今四半期に3億2,300万ドルを受注。電子戦では8億7,600万ドルの次世代ジャマーの契約がありました。海外では、今年は軍用無線機を国防総省より多く、NATO加盟国などの同盟国・海外の顧客に納めると言っています。
確かめきれていないことと、一時的なもの
良い数字が並ぶ一方で、決着していない点がいくつかあります。
いちばん気になったのは、受注残のうち「お金の手当てが済んでいる分」の数字です。CEOは質問に「530億ドルほどのうち、資金手当て済みは220億ドルだと思います」と答え、その直後に財務責任者が「念のため明確にすると、資金手当て済みの受注残は310億ドルです」と言い直しました。受注残の532億ドルから310億ドルを引くと、222億ドル。CEOの数字は、まだ手当てされていない側とほぼ同じ額です。説明会の中で、この食い違いへの補足はありませんでした。
💡資金手当て済み(funded)=議会が予算を付け、契約に実際のお金が割り当てられた分。残りは、契約はあっても予算が付くのはこれから、という分です。
2028年の目標と利益率については、複数の証券会社から角度を変えて何度も質問が出ました。宇宙・偵察部門の2027〜28年の伸びが鈍るのではないかという問いには、CEOが「一部はタイミングの問題です」と答え、偵察機の大型案件について「率直に言って、この数字は大きく変わり続けると思います」と認めています。数字の更新はありませんでした。
一時的な要因も混ざっています。
- 一株利益の見通しの引き上げは、約半分が支払利息の減少
- 投資の評価益が、国防総省に関係する優先株の時価評価の調整で相殺されている
- 無線機部門は、プリント基板の材料などの部品不足で第3四半期の伸びが抑えられた(会社は第4四半期に回復すると説明)
- フリーキャッシュフローの定義を変え、資産売却で得た現金を含めないようにした
ミサイル事業の株式公開(IPO)についても2回質問が出ました。会社は「IPOを行う義務はなく、追求する義務がある」と整理したうえで、2027年半ばに改めて判断すると答えています。
需要そのもの、つまり7年分の迎撃ミサイルの契約と海外の防衛需要は、一時的なものではありません。一時的なのは、今年の数字の伸び方の一部です。
来年、THAADのモーターが3倍になるかどうか
結局この四半期で決まったのは、注文が契約になったところまでです。ここから先は工場の速度の勝負で、会社はその速度を「倍」「3倍」という数字で約束しました。
この見立てが外れていたと分かるのは、2027年にTHAADのモーターの納入が3倍に届かなかったとき。ミサイル事業のオーガニック成長(今回は+17%)が10%を下回ったとき。そして2027年の見通しが出たときに、全社のオーガニック成長が2028年目標の8%を下回っていたときです。
逆に、消えた言葉が戻ってくることもありえます。交渉中だった200億ドルの残りが次の契約として出てくれば、今回の沈黙は「まだ言える段階になかった」だけだったことになります。
新しいCEOは、最初の説明会で「いまは、動かす部品をこれだけ増やすのはひとまずやめて、手元の事業に集中するときだと思います」と言いました。買収や組み替えを続けてきた会社が、作って納める側に軸を移す、という宣言です。
話す人が変わると、何を言い、何を言わなくなるかも変わります。今回消えたミサイル事業の「10%台後半」が、次の説明会で戻ってくるのか、それとも別の数字に置き換わるのか。
※この記事は、決算説明会の原文をAIで読み解いて書き、複数の検査(事実照合・表現・法務)を通したうえで公開しています。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。