2年ほど前まで、売上の9割を炭化ケイ素(SiC)という半導体向けの検査装置に頼っていた会社があります。電気自動車の部品に使われる半導体です。そのSiCは、前の年度には売上の約1割まで縮みました。代わりに入ってきたのがAI向けの半導体で、今回の四半期の売上は前年同期の3倍になりました。
エイア・テスト・システムズ(Aehr Test Systems)という、半導体の不良を出荷前にあぶり出す装置を作っている会社です。
■ エイア・テスト・システムズの決算説明会の内容(要点)
- 次回の決算:2027年2月上旬ごろの見込み(会社の正式発表待ち)
- 今回:2026年7〜9月期・決算説明会は2026年11月2日
- 結果:売上 3,301万ドル/1株利益 -0.05ドル
- 売上は3倍になり、受注残は売上の3倍を超えました
- 「関心を示した」から「購入を決めた」へ
- 通期の見通しは、幅の上端まで寄せて止めました
- 月12台超のSonomaと2,200万ドルのFOX。売上を動かす現場は2つです
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※この記事で扱うのは、2026年11月2日に行われた、2026年6月27日〜9月25日の四半期(同社の会計年度では2027年度の第1四半期)の決算説明会です。会社はこの年度から決算期を5月末ごろから6月末ごろへ変えたので、四半期の区切りが1ヶ月ずれています。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、予測ではありません。次回の決算は2027年2月上旬ごろの見込み(会社の正式発表待ち)です。
💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストの質問に答える電話会議(カンファレンスコールとも呼びます)。発言は記録に残ります。
今回の説明会の中心は、ある大きな見込み客の話でした。3ヶ月前は「関心を示した」だった相手が、今回は「購入を決めた」に変わりました。ただ、買うと決めたのは量産の設備ではなく、量産に使えるかを確かめるためのひと組です。売上の勢いは確かです。その先の大きな話は、まだ決まっていません。
その前に——「バーンイン」って、何でしょう
「バーン(燃やす)」と付きますが、燃やす検査ではありません。半導体に高い温度と高い電圧をかけて、わざと短時間で歳をとらせる検査です。
ふつうの検査は、その時点で動くか動かないかを調べます。ところが半導体には、検査は合格したのに使い始めて数日から数週間で壊れるものが混ざります。買ったばかりの家電がすぐ壊れる、あの初期不良と同じです。バーンインは、それを出荷前に壊してしまう工程です。経営陣の説明では、3時間ほどで数ヶ月以上使ったのと同じ状態にできる場合があるといいます。
この工程が急に重くなったのは、AI向けの半導体が「1枚の基板に何個もチップを載せる」作りになったからです。ひとつの製品の中に計算用のチップが4個、高速メモリの積み重ねが12本入っている例を、経営陣は挙げました。お弁当と同じです。詰めてから傷んだおかずが1品見つかれば、お弁当ごと捨てることになります。詰める前なら、そのおかずだけで済みます。
この会社の製品は、この「いつ調べるか」で2つに分かれます。
- FOX:チップを切り出す前の円盤(ウェハー)の段階で調べる装置。詰める前に調べる側です
- Sonoma:パッケージに組み上げた後で調べる装置
だから、AI向けの半導体が複雑になるほど、この会社の出番は増えます。 今回の大きな話も、この流れの中にあります。
売上は3倍になり、受注残は売上の3倍を超えました
- 売上 3,300万ドル(過去最高。前年同期の1,100万ドルから+200%、前の四半期の1,880万ドルから+75%)
- 受注高 4,670万ドル(前年同期は1,140万ドル)
- 受注残 1億90万ドル(前年度末は8,060万ドル)。期末の後に入った840万ドルを足すと、11月1日時点で1億930万ドル(1ドル150円で約164億円)
- 調整後の粗利率 48.5%(前年同期は37.5%)
- 調整後の純利益 940万ドル、一株0.28ドル(前年同期は20万ドル、0.01ドル)。会計基準どおりでは720万ドル、一株0.21ドルです
💡受注残=注文は受けたが、まだ売上になっていない分。受注高は、その期間に新しく入った注文の額です。
💡受注対出荷比(book-to-bill)=受注高を売上で割った数字。今回は1.4倍で、売った以上に注文が入ったことを示します。
💡粗利率=売上のうち、製造の原価を引いて残る割合。
💡調整後=株式報酬や買収関連の費用を除いた、会社独自の数字(non-GAAP)。会計基準どおりの数字とは別物です。
伸びの中身で目立つのは、装置そのものより消耗品です。チップごとに専用で作る接触部品(ウェハーパックなど)の売上が、前年同期の260万ドルから1,350万ドルへ5倍以上になり、売上の41%を占めました。新しいチップが出るたびに買い直してもらえる部品で、プリンターのインクに少し似ています。
「関心を示した」から「購入を決めた」へ
3ヶ月前と今回で、同じ相手についての言い方がこう変わりました。社名は出ていません。AI向けのプロセッサやCPUを作る大手で、前の四半期に評価試験を終えた会社です。
3ヶ月前:「このトップクラスのAIプロセッサ企業は、台湾の半導体受託製造先で、現行の量産品を使った試験生産の検証へ進むことに関心を示しています」
今回:「この顧客は、完全な構成のウェハー段階バーンインの試験セルを購入することを決めました。台湾の主要な組立・試験の委託先の1社に設置します」
さらに経営陣は、この相手を「当社がこれまで追ってきた中で、バーンイン装置の最大級の可能性を持つ機会の1つだと考えています」と表現しました。
💡試験セル=量産の現場で実際に動かして確かめるための、検査設備のひと組。
進んだのは確かです。ただ、ここで決まったのは1セルで、金額は語られていません。量産するかどうかは、この先の話です。
「設置は2027年の初めを予定しており、量産についての判断は、設置と検証の後、数ヶ月以内と見込んでいます」
質疑応答では、時期の言い方が少し違いました。CEOは「1月、2月、3月のあたりには、先方はデータを見ていて、生産能力の計画について何らかの判断ができるはずです」と答えています。設置が年初で、判断がその数ヶ月後なのか、1〜3月のうちに動き出すのか。ここにはまだ幅があります。
規模についても、この相手の数字は出ていません。代わりにCEOが示したのは、計算の枠組みです。年100万個の出荷につき装置が5〜10台必要で、消耗品込みで100万個あたり3,500万〜7,000万ドル。2027年のAI向けアクセラレーターの市場全体は2,500万個ほどで、CPUはその2倍だと言いました。
アクセラレーターとCPUを合わせた7,500万個に単純に掛けると、約26億〜53億ドル(1ドル150円で約3,900億〜7,900億円)になります。CEOが言った額ではなく、この記事の計算です。今年度の売上見通しの1億5,000万ドルとは桁が違います。ただ、それは市場全部を取った場合の話で、CEO自身がこう釘を刺しています。
「全部取れるでしょうか。いつかは、そうかもしれません。でも、狙っているのはそこではありません」
続けてCEOは、量の多いチップを1つ、2つ、3つ取れれば大きな数字になる、と言いました。話の単位は「市場」ではなく「何個のチップを取れるか」です。
通期の見通しは、幅の上端まで寄せて止めました
会社は2027年度の売上見通しを1億5,000万ドル(1ドル150円で約225億円)としました。前の年度の5,000万ドルの3倍です。
💡ガイダンス=会社が自分で出す業績の見通し。この会社は前回、1億3,000万〜1億5,000万ドルという幅で出していました。
💡コンセンサス=その会社を調べているアナリストたちの予想の平均。
前回の幅の中心は1億4,000万ドルで、市場の予想も1億4,000万ドルほど(予想を出しているのは3人だけです)。どちらと比べても約7%の上積みになります。ただし、前回の上端は超えていません。3ヶ月前のCEOは「追加の受注が具体化すれば、見通しをさらに引き上げる余地がある」と話していました。
質疑応答で、あるアナリストがこの点を計算してみせました。残り3四半期で必要な売上は約1億1,700万ドル、受注残は約1億900万〜1億1,000万ドル。新しい注文は700万ドルほどしか要らない計算です。 CEOの答えはこうでした。
「この時点で保守的に置くには、150というのはちょうどよい、切りのいい数字だと考えました」
供給が足りないせいではなく、追加の受注が来ても年度内に出荷できるとも言っています。受注残でほぼ届く数字を、会社は高くは置きませんでした。
利益の見通しは、比べ方に注意が要ります。3ヶ月前の説明会では「税引前で売上の18〜22%」、今回は「純利益で売上の20%以上」です。物差しが変わりました。税金を引いた後で20%以上なら小幅な上積みにも読めます。ただCFOは今回「引き続き見込んでいます」と言っていて、引き上げとは表現していません。
月12台超のSonomaと2,200万ドルのFOX。売上を動かす現場は2つです
ひとつはパッケージ段階のSonomaです。ここの大口顧客は大手データセンター事業者(ハイパースケーラー)の1社で、社名は明かされていません。先ほどの見込み客とは別の話として説明されました。
💡ハイパースケーラー=巨大なデータセンターを自前で運営する大手IT企業。
この大口顧客の話には、チップが3つ出てきます。1つ目は量産の最中、2つ目は認定試験を終えたところです。3つ目は、3ヶ月前の説明では、ウェハー段階での検査を相談されていました。
1つ目のAIプロセッサ向けには、月に12台を超えるペースで出荷と設置を続けています。第2四半期のこの大口顧客向けの出荷は受注残に入っていて、CFOは「全部、少なくともほとんどを出荷する必要があります」と言いました。東南アジアの委託先で、月20台を超える生産能力も増やしています。
もうひとつはウェハー段階のFOXです。主力のAIプロセッサ顧客(社名は非開示)から、2,200万ドルの追加受注を8月に発表しました。光通信の部品(シリコンフォトニクス)でも複数の顧客から量産の注文が入っています。
経営陣の説明によれば、AI向けのチップは複数の種類を1つにまとめるので、温度がそろわず、組み上げた後では一部のチップが十分に検査できないことがあります。そこで以前は、サーバーを組み上げてから1週間動かして選別していた例もあるといいます。ウェハー段階なら1つずつの温度を管理できる、というのが会社の主張で、「いま実際にやっているのは事実上、当社だけです」とも言いました。これは会社側の見方です。
AI以外も止まってはいません。SiCは顧客の稼働率がほぼ満杯で、ウェハーパックの追加注文も入っていると言っています。窒化ガリウム(GaN)という別の電力用半導体では、直近6ヶ月で量産の顧客が2社増えました。かつて数社だった「大きな量産注文を出しうる顧客」は、十数社に増えたと会社は説明しています。売上の9割をひとつの市場に頼って、その市場が静かになるのを経験した会社が、今度は分散を前面に出しています。ただ、今回の売上の説明で中心に挙がったのは、社名を明かさない大口顧客です。
メモリの「2027年度」と3つ目のチップが、語られなくなりました
注文の話の陰で、前回あった話が3つ、消えるか、ぼやけるかしました。
まずメモリです。 3ヶ月前は、メモリ大手との開発の合意を目標に掲げたうえで、こう言っていました。
「この市場は2027年度に受注をもたらし、2028年度に立ち上がる可能性があると考えています」
今回、2027年度という時期も、合意という目標も出てきません。代わりに出てきたのはこの言葉です。
「フラッシュの機会は、想定より遅いペースで進んでいます」
理由は、メモリ各社の生産能力の増加が限られていることと、新しい高速フラッシュの量産時期だと説明しました。一方で、高速メモリ(HBM)の土台のチップを検査する機会には触れています。CEOはメモリ全体を「長期の機会」と呼びました。
次に、Sonomaの大口顧客の3つ目のチップです。 3ヶ月前はこう語っていました。
「いまや、AIアクセラレーターとCPUの将来の量産に向けて、ウェハー段階バーンインの評価について尋ねてきています」
この話は今回の説明会の中で、準備された原稿にも質疑応答にも出てきません。話が消えたのか、語っていないだけなのかは分かりません。
最後は、同じ大口顧客の2つ目のチップの時期です。 こちらは前進と後退が同居しています。認定試験は完了し、追加の注文も入りました。会社によれば、顧客は1つ目より多い量を見込んでいます。ただ時期の言い方は変わりました。
3ヶ月前:「少し遅れてはいますが、当社の会計年度中に、少なくとも立ち上げが始まる見込みです」
今回:「2027年暦年に見込まれる量産の立ち上げ」
この会社の2027年度は2027年6月25日に終わります。今の言い方なら、2027年の後半にずれ込んでも外れません。遅れるとは言っていませんが、約束の幅は広がりました。
前倒しの出荷と「例外」の41%。大きな見込み客の数量は出ませんでした
この四半期の数字には、そのまま次へ延ばせない部分が入っています。
- 前倒し出荷:顧客から「第2四半期に入れていた分を前倒しできないか」と求められ、一部を第1四半期へ移しました
- 消耗品の比率:41%について、CFOは「例外」と言いました。通期の見込みは約35%、長期の想定は約30%です
- 粗利率:CFOは、第2四半期は装置の出荷が多いので今回より下がりそうだと言いました。通期では今回の水準が適切な範囲だとしています
- 税金:30万ドルの税の益が純利益を押し上げています。実効税率はマイナス3.7%でした
期中の配分の言い方も変わりました。3ヶ月前のCFOは「上期が下期と同じか、それ以上になる可能性が高い」と言っていました。今回のCEOは、残る3四半期は少しずつ増え、第4四半期が年度で最も高くなるかもしれないと言っています。先へ寄った、ということです。
受注高は前年同期の4倍以上でも、前の四半期の6,070万ドルからは減りました(間に1ヶ月の移行期間を挟むので、単純には比べられません)。経営陣自身が「個々の顧客の注文や立ち上げは、四半期ごとに大きく変わりえます」と言っています。
現金は前の年度末の1億1,650万ドルから1億510万ドルへ減り、この四半期の営業キャッシュフローは310万ドルのマイナスでした。会社は、長納期の部品の先行購入など、運転資金への投資だと説明しています。借金はありません。
決算期を変えたことで、見えにくくなった数字もあります。5月30日から6月26日までの1ヶ月は移行期間として別に開示されていて、この間の売上はわずか64万ドル、純損失は274万ドルでした。この1ヶ月は、今回の四半期にも前の年度にも入っていません。「前年同期比+200%」の比較相手は、2025年6〜8月の四半期です。
そして質疑応答で最も多く聞かれたのが、あの大きな見込み客でした。4社のアナリストが、規模、発注までの道筋、他社への波及、設置の時期を順に尋ね、その後も評価で使う部品についての質問が出ました。枠組みや感触の答えは返ってきましたが、数量も発注額も出ていません。CEOは先週その会社の経営陣と直接会い、「本当に重要だ」と聞いたと話しました。同時に、注目度の高い相手であるだけに、上振れの余地でもありリスクでもあると認めています。
次の説明会で分かる、第2四半期の売上と1億5,000万ドルの行方
大きな見込み客の答えが次の説明会に間に合うかは、分かりません。確かめられるのは、もう少し小さな問いのほうです。
- 第2四半期の売上は、CEOの言うとおり今回を上回るのか。粗利率の低下はどこまでか
- 1億5,000万ドルは、受注が積み上がって引き上げられるのか。据え置かれるなら、その理由は何か
- 台湾での設置は2027年初めの予定どおりか。「設置の数ヶ月後」と「1〜3月」のどちらに近づくのか
- 語られなくなったメモリの2027年度と3つ目のチップは、戻ってくるのか
売上3倍は、もう終わった四半期の数字です。この会社の次の姿を決める1セルは、まだ台湾に届いてもいません。そのセルの結果が出るまで、四半期ごとに前回の言葉と並べて読み直していきます。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。