7〜9月期の売上の伸びは、前年同期比で96%。パランティアが上場してから、いちばん高い数字です。
同じ決算説明会で、もう一つの数字が大きく落ちました。米国の企業とこの四半期に結んだ契約の総額は、伸びが3ヶ月前の153%から11%になっています。足元の売上は加速し、その先の売上を示す数字は鈍りました。
パランティアは、企業や政府機関の社内データをつなぎ、AIを現場の業務で動かすソフトウェアの会社です。顧客には米軍もいます。
■ パランティアの決算説明会の内容(要点)
- 次回の決算:2027年2月上旬ごろの見込み(会社の正式発表待ち)
- 今回:2026年7〜9月期・決算説明会は2026年11月2日
- パランティアの売上は23億ドルを超え、米国の企業向けが初めて政府向けを抜きました
- 先の売上を示す数字だけが、3ヶ月で急に鈍りました
- 「通常より期間が短い」と説明しましたが、期間で重みづけした数字は説明会に出てきませんでした
- 小さな試験導入が、数ヶ月で大きな年間契約に変わった例が4件出ました
日足チャート(価格/出来高/RSI(2)/ニュースセンチ/RSランク)。毎日自動更新。
※この記事で扱うのは、2026年11月2日に行われた、2026年7〜9月期(第3四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、予測ではありません。次回の決算は2027年2月上旬ごろの見込み(会社の正式発表待ち)です。
💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストへ説明し、質問に答える電話会議(カンファレンスコールとも呼びます)。
その前に——パランティアの「契約総額」は、期間が短いだけで縮みます
この決算は、売上と契約総額の違いが分からないと読めません。
スポーツジムの会費で考えます。月1万円の会員が1人増えると、ジムの売上は毎月1万円ずつ増えます。これが売上です。一方の契約総額は、その契約で将来受け取る金額の合計です。3年契約なら36万円、1年契約なら12万円になります。
同じ月1万円の客でも、1年契約にしただけで契約総額は3分の1です。名前に「総額」と付くので規模の話に見えますが、期間の長さも一緒に入っています。
会社が持ち出したのも、この点でした。この四半期の大口契約は、通常より期間が短かったという説明です。これが鈍化の理由なら、心配は小さくなります。そうでなければ、先の売上の鈍化が始まっていることになります。この説明会の論点は、ここに尽きます。
💡契約総額(TCV)=その四半期に結んだ契約の、期間全体の金額の合計。オプションがすべて行使され、途中解約がない前提の最大額です。
パランティアの売上は23億ドルを超え、米国の企業向けが初めて政府向けを抜きました
- 売上 23億1,300万ドル(前年同期比 +96%、前期比 +20%。1ドル150円で約3,470億円)
- 一株利益 0.44ドル(会計基準どおりも調整後も同じ額。調整後の前年同期は0.21ドル)
- 調整後の営業利益 14億2,700万ドル(売上に対して62%)
- 調整後のフリーキャッシュフロー 12億1,600万ドル(同53%)
💡調整後(non-GAAP)=株式で払う報酬などを除いて会社が示す数字。会計基準どおり(GAAP)の営業利益はこの四半期10億8,500万ドルで、14億2,700万ドルより小さくなります。
売上を引っ張っているのは米国です。全体の84%を占めます。柱は2本あります。
米国の企業向けは9億8,400万ドルで、前年同期比+148%。米国の政府向けは9億5,300万ドルで、+96%です。企業向けが政府向けを上回ったのは、今回が初めてでした。政府向けも減速はしていません。陸軍からはTitanと呼ばれるシステム8基を製造する主契約を受け、米軍向けのMavenは利用者が10万人を超えたと報告しています。
一方で、米国の外はかなり静かです。海外の企業向けは1億8,400万ドルで、前年同期比+21%、前期比では+1%にとどまりました。
既存の顧客も支出を増やしています。既存顧客の売上維持率は165%で、3ヶ月前の157%から上がりました。
💡売上維持率(ネットダラーリテンション)=既存の顧客が、1年前と比べて支払いを何倍にしたか。165%なら、1年前に100払っていた顧客群が165払っています。
先の売上を示す数字だけが、3ヶ月で急に鈍りました
3ヶ月前と今回を並べます。
- 米国の企業向けの契約総額:21億3,200万ドル(+153%)→ 14億6,300万ドル(+11%、約2,190億円)
- 全社の契約総額:34億ドル(+49%)→ 29億1,800万ドル(+6%)
- 米国の企業向けの残存契約額:前年比+124%・前期比+27% → 前年比+79%・前期比+4%
💡残存契約額=結んだ契約のうち、まだ売上になっていない金額の合計。
全社の残存契約額は134億ドルで、前年比+55%ですが前期比は+2%です(3ヶ月前は+11%)。残存履行義務(契約で確定している、まだ売上になっていない分)は49億ドルで、前年比+88%、前期比は横ばいでした(3ヶ月前は+10%)。
3ヶ月前は出来すぎの回でした。21億3,200万ドルは、それまでの最高を8億ドル近く上回った記録です。そこで、ならした数字も見ます。米国の企業向けの直近12ヶ月の契約総額は61億1,400万ドルで、+62%です。ただ、前回の同じ数字は+117%でした。ならしても、伸びは落ちています。
「通常より期間が短い」と説明しましたが、期間で重みづけした数字は説明会に出てきませんでした
財務責任者の説明はこうでした。
「顧客が主権AIの初期の機能を急速に導入する中で、今四半期に結んだ複数の8桁ドル規模の契約は、通常より期間が短いものでした」
「時間がたてば、これらの契約の期間も規模も、どちらも増えていくと見ています」
同じ流れで「主権AIの革命は、まだ1四半期しかたっていない」とも述べています。短い契約から始まるのは若い市場だからだ、という位置づけです。
💡主権AI(Sovereign AI)=外部のAI企業のモデルをそのまま使うのでなく、公開されたモデルを自社のデータで鍛え、自社で握っておくという考え方。今回の説明会の中心にあった話題です。
筋は通っています。ジムの例で言えば、月額は高いまま期間だけが短くなれば、契約総額は小さく見えます。ただし、財務責任者はこの説明に金額を添えていません。
3ヶ月前の説明会で語られた数字のうち2つが、今回の説明会では語られませんでした。
1つ目は、期間で重みづけした契約総額の伸びです。 3ヶ月前の財務責任者はこう言いました。
「期間で重みづけした基準では、契約総額は前年同期比129%増えました」
米国の企業向けについては、収益責任者が同じ基準で+271%と語っていました。期間が短いから総額が小さく見えるという読みを確かめるのに、いちばん近そうな数字です。今回の説明会には、この基準の数字がありません。決算発表の資料と四半期報告書にも見当たりません。ただ、3ヶ月前も決算発表の資料には載っておらず、説明会の場で語られた数字でした。
2つ目は、大口契約の件数です。 3ヶ月前の説明会では、件数を区分ごとに並べていました。
「100万ドル以上の契約を220件結びました。うち98件は500万ドル以上、73件は1,000万ドル以上です。すべての区分で過去最高です」
今回の説明会で語られたのは「複数の8桁ドル規模の契約」という表現でした。件数そのものは、同じ日の決算発表の資料に載っています。
- 100万ドル以上:220件 → 212件
- 500万ドル以上:98件 → 107件
- 1,000万ドル以上:73件 → 64件
「8桁ドル規模」に当たる1,000万ドル以上は9件減り、500万ドル以上は9件増えました。期間が短くなると、同じ月額でも総額が小さくなり、上の区分から下へ移ります。1,000万ドル以上の減少は、この形でも起こります。契約の規模そのものが小さくなっても、同じ形になります。ただ、移るだけなら500万ドル以上の件数は増えません。増えたのは、500万ドルに新たに届いた契約があったからです。件数だけでは、期間と規模のどちらが効いたのかは分かりません。
小さな試験導入が、数ヶ月で大きな年間契約に変わった例が4件出ました
会社の話に沿う実例は、今回の説明会でいちばん厚い部分です。収益責任者が、試験導入から年間契約に変わった例を金額つきで4件挙げました。
- 工業素材の会社:約300万ドルの試験導入(4〜6月期)→ 年額2,900万ドル
- 世界的なスポーツ用品の会社:160万ドルの試験導入(1〜3月期に開始)→ 年額約2,100万ドル
- 世界的な家電の会社:100万ドルの試験導入 → 年額300万ドル → 年額1,500万ドル
- アパレルの会社:250万ドルの試験導入 → 年額1,150万ドル
社名はどれも伏せられています。規模も、3ヶ月前に紹介された「3年で約3億7,000万ドル」の案件と比べると小さく、単純に3で割った年1億2,000万ドルほどには届きません。四半期の売上が23億ドルある会社にとって、1件で景色が変わる大きさではありません。
最高経営責任者のカープ氏が語った道筋には、この4件が重なります。
「契約の期間は短くなりますが、その後でその契約を劇的に広げられるのです」
短く始めて、大きく育てる。この話が本当なら、既存顧客の売上維持率がもっと上がり、いずれ契約総額にも戻ってくるはずです。165%への上昇はその方向を向いています。ただ、「期間も規模も、どちらも増えていく」の部分は、今の時点では経営陣の見込みです。
会社の見通しは前回の数字も市場の予想も超えましたが、引き上げ幅は3ヶ月前より小さくなりました
通期の売上見通しは85億3,000万〜85億3,400万ドルに上がりました(前年比+91%)。前回の中央値81億5,400万ドルから+4.6%で、市場の予想の平均82億2,000万ドル(31人)も約3.8%上回っています。
💡市場の予想(コンセンサス)=その会社を調べているアナリストの予想の平均。比べる相手は、前回の会社の数字だけではありません。80点と言った子が85点を取っても、周りが90点と思っていれば期待外れです。今回は、周りの予想も超えました。
10〜12月期の売上見通しは26億4,900万〜26億5,300万ドルで、中央値は7〜9月期から約14.6%の増加です。7〜9月期の実績も、会社が3ヶ月前に出していた見通し(21億6,000万〜21億6,400万ドル)を約7%上回りました。
ほかの通期見通しも、そろって上がっています。
- 米国の企業向け売上:34億2,400万ドル超 → 35億5,900万ドル超
- 調整後の営業利益:48億8,900万〜48億9,700万ドル → 52億4,500万〜52億4,900万ドル
- 調整後のフリーキャッシュフロー:45億〜47億ドル → 48億〜50億ドル
引き上げ幅だけは小さくなりました。3ヶ月前は売上の伸びの見通しを11ポイント上げ、「過去最大の引き上げ」と呼んでいます。今回は9ポイントの引き上げです。9ポイントでも小さな数字ではありません。見通しの強さに問題があるのではなく、ここでも3ヶ月前の勢いと比べると落ち着いた、という話です。
質疑応答では誰も契約総額の鈍化を聞かず、株主への手紙にも出てきません
153%から11%への鈍化を尋ねる質問は、一度も出ませんでした。
質問は3問だけでした。主権AIの催しが顧客獲得にどう効くか。まだ納得していない経営者にどう説明するか。株主への手紙にある「反戦運動の先駆者」という表現が政府事業にとって何を意味するか。残存履行義務の横ばいも問われていません。だから、鈍化の説明には確かめられる数字が付かないままです。
答えの中身にも差がありました。1問目では、カープ氏が創業期の政府向けの仕事と比べて「25万ドルではなく、最初から2,500万ドルという規模です」と語っています。前の節の試験導入4件は100万〜300万ドルほどでした。少し前に引いた「契約の期間は短くなりますが」も、この1問目の答えの中の発言です。ただ、期間や金額の数字は添えていません。2問目は「需要を満たしきれないのです」「納得していない人は要りません。本当に要りません」と言い切りましたが、数字はありません。3問目は思想の話になり、政府事業の数字への含みは語られませんでした。
カープ氏の株主への手紙も、説明会と同じ11月2日付です。売上の+96%、米国の企業向けの前期比+29%と前年同期比+148%、四半期で過去最高の利益を並べています。ところが手紙の本文に、契約総額の数字はありません。契約の期間が短くなったという話も、大口契約の件数もありません。
近い話は、契約までにかかる時間の一節だけです。
「数ヶ月、数年かかっていたかもしれない、契約までのゆっくりした駆け引きが、今では数日から数週間で済むこともあります」
これは契約の期間でなく、契約を結ぶまでの時間の話です。短く始めて大きく育てるという説明と矛盾はしません。ただ、ここにも数字は付いておらず、鈍化の説明を確かめる数字は手紙からも得られません。
残存履行義務は短い契約を数えず、純利益の上乗せは主に受取利息です
残存履行義務には、当初の期間が12ヶ月以下の契約は入りません。決算発表の資料と四半期報告書にある定義で、説明会でも念を押していました。短い契約が増えれば、この数字は伸びにくくなります。ただ、今回の8桁ドルの契約が12ヶ月以下なのかどうかは、説明会でも決算発表の資料でも明らかにされていません。
売上を飾った一度きりの収入は見当たりませんでした。今年で終わると開示された一部の契約の売上は約40万ドルで、全体の0.02%未満です。費用が前期比+20%の8億8,700万ドル(調整後)に増えたのは、AI基盤への投資と技術者の採用が主因で、新卒の入社が集まる時期とも重なっています。
利益の側には1点あります。純利益の11億2,800万ドルは、営業利益の10億8,500万ドルを上回っています。主な理由は受取利息(手元の資金や米国債についた利息)で、四半期報告書によると約8,900万ドルです。法人税等も約1,400万ドルと小さい水準でした。3ヶ月前は、保有するSpaceX株の含み益が会計基準どおりの一株利益を0.03ドル押し上げていました。今回は向きが逆で、保有する上場株式は四半期で差し引き2,500万ドルの含み損を計上しています(社名別の内訳はありません)。
次の10〜12月期で、パランティアの説明の真偽が見えてきます
契約が短くなったという説明が崩れる形は、はっきり書けます。
- 米国の企業向けの契約総額が、前年同期比でマイナスになる
- 米国の企業向けの残存契約額が、前期比でマイナスになる
- 契約期間が延びたという開示が無いまま、売上維持率が165%から下がる
反対に、説明が裏づけられる形もあります。短い契約が更新の時期を迎え、期間か金額が伸びたと数字で語られること。期間で重みづけした数字が説明会に戻ってくれば、確かめる材料がそろいます。決算発表の資料に載る1,000万ドル以上の件数が、64件から増えるかどうかも手がかりになります。
ここに書いたのは、2026年11月2日の説明会と、その前後の開示、公表時点の市場の予想で分かっていることだけです。
売上が96%伸びたことも、契約総額の伸びが11%に落ちたことも、どちらも事実です。どちらが来年の売上に近いのかは、まだ決まっていません。次の決算でも、今回と同じ数字を同じ順番で並べます。そうしないと、いま見えている鈍りが一度きりだったのかどうかは分かりません。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。