普通では勝ちにくい逆張りショート。でもCOTレポートを重ねると意外な発見がありました。商業筋は強気側で効き、投機筋は弱気側、小口は極端な局面で効く──通説とは違う一面が見えます。
はじめに:今回は「どれだけ“救える”か」を見ます
逆張りショートって、素のままだと正直キツい手法です。
だからこそ今回は、黒字になったかよりも、COT(商業筋・投機筋・小口)を重ねたらベースからどれだけ良くなるの?(ΔPF)を徹底チェックしました。
結果から言うと、効く場面はちゃんとある。ただし“魔法の条件”じゃない。
ポイントは、直近の上げの強さ(1週 or 2週)とCOTの偏りの組み合わせです。
この記事でわかること
- 商業筋・投機筋・小口で、逆張りショートの効き方(ΔPF)がどう変わるか
- なぜ「2週 > 1週」で効きが強く出るのか
- 実務で使うならどの条件から重ねるべきか(最初の一歩)
先にサマリー
- 商業筋:弱気ではほぼ横ばい、強気に絞るほどΔPFが伸びる(例:2週×商業筋のCOTIndex≥100でΔ+0.68)。
- 投機筋:売り寄りで相対改善、買い寄りで悪化。シンプルに“弱気側で使う”。
- 小口:極端域が効く(2週×NR≥100でΔ+0.40)が、サンプルは薄くなる。低域(≤50〜≤70)は小幅改善+件数キープ。
- 共通項:どのグループも2週連続上昇のほうが効きが強い(「上げが強め × 偏りがはっきり」で救われやすい)。
読み方ガイド(ここだけ押さえればOK)
- ベースライン:「COTなし」に等価な COTインデックス≤100 のPF(1週=0.80/2週=0.73)。
- ΔPF:表のPF − ベースPF。数値がプラスなら“救えている”と解釈。
- 取引数:しきい値を厳しくすると件数が減るのは宿命。改善と件数のバランスを見てください。
それでは、まずはベースラインの確認から。
そのあとで、商業筋・投機筋・小口を重ねたときの“改善の幅(ΔPF)”を、一気に見ていきます。
どんなテストをやったのか?
今回のテーマは「逆張りショート × COTフィルター」。まずはシンプルな土台を作り、その上にCOTを乗せて“ベースラインからどれくらい改善するか(ΔPF)”をチェックしました。条件はロング編と同じく、あえて単純化しています。
- 対象市場: 米国の主要先物(株価指数・金利・通貨・商品など)47銘柄
- 期間: 2007年〜2025年(COTデータの整合性のため統一)
- ベースとなる売買ルール:
- 「連続して上昇した週の本数」を条件に翌週に売りでエントリー
- 保有期間は5週間に固定(利食い・損切りなし、時間決済)
- 「素のままでは勝ちにくい逆張りショート」をあえて土台にして、COTを重ねたときの“改善の幅(ΔPF)”を測るのが目的
- 見る指標: PF(プロフィットファクター)、期待値(%/1取引)、勝率(%)、取引数
ミニ解説: PF=1がちょうどトントンですが、本稿ではPFの絶対値そのものではなく、ベースラインからの改善幅(ΔPF)を主に比較します。
ベースライン(COTフィルター無し=COTインデックス≤100)の成績(5週保有)
逆張りロング(連続下落→買い)
週数 | PF | 期待値 | 勝率 | 取引数 | コメント |
---|---|---|---|---|---|
1週 | 1.09 | +0.09% | 53.63% | 3,873 | かろうじて黒字、件数十分 |
2週 | 1.02 | +0.05% | 52.02% | 2,495 | トントン付近 |
3週 | 0.99 | +0.02% | 51.37% | 1,351 | 赤字寸前 |
4週 | 0.94 | -0.02% | 50.36% | 695 | 赤字化 |
5週 | 0.94 | -0.02% | 48.60% | 358 | 赤字化・勝率低下 |
逆張りショート(連続上げ→売り)
週数 | PF | 勝率 | 取引数 | コメント |
---|---|---|---|---|
1週 | 0.80 | 47.7% | 2,799 | (ベースライン) |
2週 | 0.73 | 46.9% | 2,227 | (ベースライン) |
3週 | 0.77 | 45.4% | 1,446 | 参考 |
4週 | 0.80 | 43.8% | 834 | 参考 |
5週 | 0.80 | 43.9% | 437 | 参考 |
以降、ΔPF=「各条件PF − 上表のベースPF」で改善度を示します。
商業筋COTフィルター(ショート逆張り・5週保有)
「商業筋が弱気(COTインデックス低)」では改善が出にくい一方、「商業筋が強気(COTインデックス高)」では段階的に大きく改善する、という関係が明確でした(ΔPFで評価)。
① 商業筋が弱気(COTインデックス低)=改善は誤差〜横ばい
1週連続上昇 → 翌週ショート(ベースPF=0.80)
条件 | PF | ΔPF | 勝率 | 取引数 |
---|---|---|---|---|
商業筋COTインデックス ≤ 60 | 0.76 | -0.04 | 46.68% | 1,945 |
商業筋COTインデックス ≤ 80 | 0.82 | +0.02 | 47.37% | 2,717 |
商業筋COTインデックス ≤ 100(ベース) | 0.80 | — | 47.70% | 2,799 |
傾向: 低しきい値でのΔPFは-0.04〜+0.02と小さく、改善らしい改善は見られません。
2週連続上昇 → 翌週ショート(ベースPF=0.73)
条件 | PF | ΔPF | 勝率 | 取引数 |
---|---|---|---|---|
商業筋COTインデックス ≤ 60 | 0.68 | -0.05 | 44.54% | 1,464 |
商業筋COTインデックス ≤ 80 | 0.73 | ±0.00 | 46.20% | 2,082 |
商業筋COTインデックス ≤ 100(ベース) | 0.73 | — | 46.88% | 2,227 |
傾向: ΔPFは0〜-0.05。弱気域では改善せず。
② 商業筋が強気(COTインデックス高)=段階的に大きく改善
1週連続上昇 → 翌週ショート(ベースPF=0.80)
条件 | PF | ΔPF | 勝率 | 取引数 |
---|---|---|---|---|
商業筋COTインデックス ≥ 80 | 1.00 | +0.20 | 48.05% | 845 |
商業筋COTインデックス ≥ 90 | 1.07 | +0.27 | 48.47% | 489 |
商業筋COTインデックス ≥ 100 | 1.07 | +0.27 | 49.48% | 192 |
2週連続上昇 → 翌週ショート(ベースPF=0.73)
条件 | PF | ΔPF | 勝率 | 取引数 |
---|---|---|---|---|
商業筋COTインデックス ≥ 80 | 1.02 | +0.29 | 51.64% | 548 |
商業筋COTインデックス ≥ 90 | 1.23 | +0.50 | 55.38% | 325 |
商業筋COTインデックス ≥ 100 | 1.41 | +0.68 | 59.13% | 115 |
傾向: しきい値を上げるほどΔPFが大きくなる(最大+0.68)。改善の中心は強気域。
投機筋COTフィルター(ショート逆張り・5週保有)
投機筋(Large Speculators)は、本検証では買い寄り(COTインデックス高)で悪化、売り寄り(低)で相対改善という結果。つまり「買い寄りに絞るほど逆張りショートが効く」わけではない点に注意が必要です(ΔPF基準)。
① 投機筋が売り寄り(COTインデックス低)=相対改善(ただし過度な期待は禁物)
1週連続上昇 → 翌週ショート(ベースPF=0.80)
条件 | PF | ΔPF | 勝率 | 取引数 |
---|---|---|---|---|
投機筋COTインデックス ≤ 60 | 0.93 | +0.13 | 48.15% | 2,488 |
投機筋COTインデックス ≤ 80 | 0.90 | +0.10 | 48.66% | 2,832 |
投機筋COTインデックス ≤ 100(ベース) | 0.80 | — | 47.70% | 2,799 |
2週連続上昇 → 翌週ショート(ベースPF=0.73)
条件 | PF | ΔPF | 勝率 | 取引数 |
---|---|---|---|---|
投機筋COTインデックス ≤ 60 | 0.99 | +0.26 | 48.50% | 1,670 |
投機筋COTインデックス ≤ 80 | 0.86 | +0.13 | 48.02% | 2,091 |
投機筋COTインデックス ≤ 100(ベース) | 0.73 | — | 46.88% | 2,227 |
傾向: 低域でΔPFがプラス。相対改善はあるが、過度なフィルタ強化で万能化するわけではない。
② 投機筋が買い寄り(COTインデックス高)=段階的に悪化
1週連続上昇 → 翌週ショート(ベースPF=0.80)
条件 | PF | ΔPF | 勝率 | 取引数 |
---|---|---|---|---|
投機筋COTインデックス ≥ 80 | 0.71 | -0.09 | 43.96% | 869 |
投機筋COTインデックス ≥ 90 | 0.73 | -0.07 | 43.50% | 515 |
投機筋COTインデックス ≥ 100 | 0.67 | -0.13 | 44.91% | 167 |
2週連続上昇 → 翌週ショート(ベースPF=0.73)
条件 | PF | ΔPF | 勝率 | 取引数 |
---|---|---|---|---|
投機筋COTインデックス ≥ 80 | 0.65 | -0.08 | 43.23% | 569 |
投機筋COTインデックス ≥ 90 | 0.68 | -0.05 | 44.05% | 336 |
投機筋COTインデックス ≥ 100 | 0.64 | -0.09 | 45.36% | 97 |
傾向: しきい値を上げるほどΔPFはマイナス幅が拡大。買い寄りにショートで挑むのは、少なくとも短期逆張り(5週)では改善しにくい。
小口(NR)COTフィルター(ショート逆張り・5週保有)
NR(Non-Reportables)は極端域での改善が目立ちますが、中域では改善が小さいか逆に悪化する帯もあります(ΔPFで評価)。
ベースライン
- 1週連続上昇 → 翌週ショート:PF=0.80(NR COTインデックス ≤100, 取引数=2,799)
- 2週連続上昇 → 翌週ショート:PF=0.73(NR COTインデックス ≤100, 取引数=2,227)
① NRが売り寄り(COTインデックス低)=小幅改善〜横ばい
1週連続上昇 → 翌週ショート(ベースPF=0.80)
条件 | PF | ΔPF | 勝率 | 取引数 |
---|---|---|---|---|
NR COTインデックス ≤ 40 | 0.89 | +0.09 | 47.70% | 1,587 |
NR COTインデックス ≤ 50 | 0.85 | +0.05 | 47.18% | 2,054 |
NR COTインデックス ≤ 60 | 0.81 | +0.01 | 47.28% | 2,405 |
NR COTインデックス ≤ 80 | 0.78 | -0.02 | 46.88% | 2,402 |
2週連続上昇 → 翌週ショート(ベースPF=0.73)
条件 | PF | ΔPF | 勝率 | 取引数 |
---|---|---|---|---|
NR COTインデックス ≤ 50 | 0.87 | +0.14 | 48.03% | 1,370 |
NR COTインデックス ≤ 60 | 0.80 | +0.07 | 47.71% | 1,679 |
NR COTインデックス ≤ 70 | 0.78 | +0.05 | 47.35% | 1,909 |
NR COTインデックス ≤ 80 | 0.75 | +0.02 | 47.08% | 2,054 |
NR COTインデックス ≤ 90 | 0.65 | -0.08 | 45.98% | 1,768 |
傾向: 低域では段階的に小幅改善(最大ΔPF+0.14)。ただし過度に広げる(≤90)と逆効果。
② NRが買い寄り(COTインデックス高)=極端域ほど改善幅が大きい
1週連続上昇 → 翌週ショート(ベースPF=0.80)
条件 | PF | ΔPF | 勝率 | 取引数 |
---|---|---|---|---|
NR COTインデックス ≥ 80 | 0.86 | +0.06 | 47.60% | 853 |
NR COTインデックス ≥ 90 | 0.82 | +0.02 | 48.06% | 439 |
NR COTインデックス ≥ 100 | 0.95 | +0.15 | 48.50% | 167 |
2週連続上昇 → 翌週ショート(ベースPF=0.73)
条件 | PF | ΔPF | 勝率 | 取引数 |
---|---|---|---|---|
NR COTインデックス ≥ 80 | 0.80 | +0.07 | 45.42% | 557 |
NR COTインデックス ≥ 90 | 0.96 | +0.23 | 48.36% | 275 |
NR COTインデックス ≥ 100 | 1.13 | +0.40 | 43.56% | 101 |
傾向: 高域ほどΔPFが拡大。ただしサンプルは557 → 275 → 101と急減し、統計的安定性は低下。
逆張りショートとCOTのまとめ(ΔPF基準)
ポイント:今回は「黒字化の可否」ではなく、ベースライン(COTなし)からどれだけ改善できるか(ΔPF)にフォーカスしています。
発見1|誰がポジションを担っているかで、効き方がガラッと変わる
同じ「直近1〜2週の上昇」でも、商業筋・投機筋・小口のどこが偏っているかで、逆張りショートの改善幅(ΔPF)がまるで違う。
発見2|商業筋(Com):強気側ほど“救済効果”が大きい
- 2週連続上昇→翌週ショート(ベースPF=0.73)で、
- 商業筋のCOTIndex ≥ 80:PF=1.02(Δ+0.29、取引数=548)
- 商業筋のCOTIndex ≥ 90:PF=1.23(Δ+0.50、取引数=325)
- 商業筋のCOTIndex≥ 100:PF=1.41(Δ+0.68、取引数=115)
弱気側(≤60/≤80)はほぼ横ばい〜悪化で、改善は強気域に集中。
- 1週でも 商業筋のCOTIndex ≥ 80→PF=1.00(Δ+0.20)、≥90→1.07(Δ+0.27)と“赤字圏からの引き上げ”が確認できる。
発見3|投機筋(NC):買い寄りは逆風、売り寄りは追い風
- 2週(ベースPF=0.73):
- 投機筋のCOTIndex ≤ 10:PF=1.11(Δ+0.38、取引数=330)
- 投機筋のCOTIndex ≤ 20:PF=1.05(Δ+0.32、取引数=565)
- 投機筋のCOTIndex ≥ 80/90/100:PF=0.70/0.68/0.64(Δ−0.03/−0.05/−0.09)
- 1週(ベースPF=0.80)でも、低域(≤60/≤80)はΔPFがプラス、
高域(≥80〜100)は0.7台まで沈み悪化。
直感と逆で「投機筋が強気だから逆張りショートが効く」は誤り。売り寄りに絞るほど相対改善。
発見4|小口(NR):極端域が効くが、件数は薄くなる
- 2週(ベースPF=0.73):
- NRIdx ≥ 80/90/100:PF=0.80/0.96/1.13(Δ+0.07/+0.23/+0.40、取引数=557/275/101)
- NRIdx ≤ 50/≤60/≤70:PF=0.87/0.80/0.78(Δ+0.14/+0.07/+0.05)
- 1週は高域(≥100)でΔ+0.15、低域(≤40)でΔ+0.09と「両極」が目立つ。
極端域ほど改善幅が大きい一方、取引数が急減。安定運用は広めのしきい値と併用が無難。
発見5|一貫して「2週 > 1週」
どのグループでも、直近2週の上昇を条件にした方がΔPFの伸びが大きい。
つまり「上げが強め × COTの偏りがハッキリ」で逆張りショートは“救われやすい”。
一言でいうと
素の逆張りショートは厳しいけど、「2週上げ × 商業筋が強気」でΔPFは+0.50〜+0.68まで押し上がる。
投機筋は売り寄りが追い風、小口は極端域が効くがデータ薄め。
COTは「黒字化の魔法」ではなく、改善を積み上げるレバーだった。
実務でどう使う?(超要約)
- 起点:まずは商業筋のCOTIndex ≥ 90(or ≥80)× 2週連続上昇でスクリーニング。
- 補強:可能なら投機筋のCOTIndex ≤ 10〜20を重ねて、改善方向を揃える。
- 味付け:NRは極端域(≥90/100 or ≤50〜≤70)をアラート的に併用(件数バランスに注意)。
- リスク設計:本検証は5週固定・利確/損切りなし。実運用は保有短縮・利確/損切り・価格系フィルターでさらにΔPFを積み上げる。
COTレポートのバックテスト連載 目次
- 【第1回】【保存版】COTレポート完全解説|先物47銘柄20年データで検証
- 【第2回】COTレポートでいきなり出た!世界レベルの戦略~“投機筋について行け”は本当だった
- 【第3回】どの“市場”でCOTは効くのか?(セクター別と銘柄別の実証+グラフで一気に把握)
- 【第4回】COTレポートで順張りショートは勝てるか? 徹底バックテストの結論
- 【第5回】商業筋を信じるな? COTレポートを逆張り買いで使ったらどうなるか徹底検証
- 【第6回】普通じゃ勝てない逆張りショートはCOTレポートでどこまで“救える”か
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