AIデータセンターの話になると、名前が出るのはGPUの会社と、光の部品を作る会社までです。その部品のさらに下、レーザーを載せる「土台の円盤」を作っている会社のことは、ほとんど話題になりません。
その土台を作っている会社の1つが、カリフォルニアに本社を置き、中国の工場で生産しているAXTです。売上は1年で2.6倍になりました。
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※この記事で扱うのは、2026年10月29日に行われた、2026年7〜9月期(第3四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、僕の予測ではありません。次回の決算日は会社の発表待ちです。
💡決算説明会=決算発表のあとに、経営陣が投資家やアナリストに向けて説明し、質問に答える電話会議。発言はそのまま記録に残ります。
その前に——「リン化インジウムの基板」って、何でしょう
この記事は、ほぼ全部がこの1つの材料の話です。先にここだけ押さえてください。
半導体のチップは、薄い円盤の上に作ります。この円盤を「基板」や「ウエハー」と呼びます。ふつうの半導体、たとえばパソコンのCPUは、シリコンの円盤の上に作られます。
ところがシリコンには苦手なことがあります。光を出すことです。 電気を光に変えるレーザーは、シリコンの上ではうまく作れません。そこで使われるのが、インジウムとリンを組み合わせたリン化インジウム(InP)という別の材料の円盤です。
身近なところでは、家に引いている光回線がそうです。電話局の側とご自宅の側で、電気の信号を光に変えて光ファイバーへ送り出しています。その光を出しているレーザーが、この種類の材料から作られています。
AIデータセンターでは、これと同じことが桁違いの規模で起きています。何万個ものGPUのあいだで大量のデータをやり取りするので、電線ではなく光でつなぎます。会社の説明では、通信速度が800G、1.6Tという新しい世代(1秒に送れるデータの量。数字が大きいほど速い世代)の光の部品(光トランシーバー)へ移っていて、そこに載るレーザーと受光素子が、リン化インジウムの基板の上に作られています。
💡光トランシーバー=電気の信号と光の信号を相互に変換する部品。サーバーとケーブルの継ぎ目に差し込まれます。
そして、この円盤は作るのが難しい。社長はこう言っています。
「リン化インジウムは扱いやすい材料ではありません。私たちは40年間これに取り組んできました」
需要が急に増えても、作れる会社はすぐには増えない。この「急に増えた需要」と「すぐには増えない供給」のずれが、今回の決算の全部を説明しています。
3ヶ月前の「見込み」が、今回は「もう起きたこと」になりました
経営陣の言い方は、3ヶ月でかなり変わりました。
売上の機会について。
3ヶ月前:「リン化インジウムの売上機会は、2026年末までに3倍を超える軌道に乗っています」
今回:「リン化インジウムの売上機会は、年初の水準から2026年中に4倍を超えました」
「3倍を超える軌道に乗っている」から「4倍を超えた」へ。数字が大きくなっただけでなく、これから起きる話が、起きた話に変わっています。 ここでいう売上機会とは、作れる量から見込める売上の大きさのことで、実際の売上そのものではありません。
生産能力について。 会社は2026年の初めに、リン化インジウムの生産能力を倍にすると約束していました。3ヶ月前は「予定より先行している」。今回は「8月にその目標を超えました」。社長はさらに、2025年末を1とすると2026年末には2.75〜3倍、2027年はそこから「また倍にすることが目標」だと言っています。
受注残について。
3ヶ月前:「受注残は伸び続けていて、いまや1億ドルを大きく超えています」
今回:「私たちはまったく新しい領域にいます。受注残はいまや5億ドルを超えています」
3ヶ月で、語られる受注残の目安が1億ドルから5億ドルへ動きました。
💡受注残(バックログ)=注文は受けたけれど、まだ出荷していない分の合計。お店で言えば、予約は入っているのに、まだ品物が届いていないお客さんの列です。
1億ドル超から5億ドル超へ。1ドル150円で計算すると、約750億円の注文を抱えていることになります。この会社の7〜9月期の売上(7,340万ドル)の約7四半期分です。
そして、社長が説明会の途中でこう言いました。
「リン化インジウムはAXTにとって大きな機会になると、ずっと信じてきました。ですが正直に言って、ここまで大きくなるとは思っていませんでした」
僕はここで、読む手が止まりました。決算説明会で、経営者が自分の見通しの甘さをこういう形で認めることはあまりありません。
言葉だけではありません。売上は前の年の2.6倍です
- 売上 7,340万ドル(前年同期 2,800万ドルから +162%、前の四半期から +54%)。1ドル150円で約110億円
- うちリン化インジウム 5,430万ドル(前の四半期は 3,070万ドル)
- 粗利率 56.1%(調整後。前の四半期 45.0%、前年同期 22.4%)
- 調整後の一株利益 0.41ドル
💡粗利率=売ったお金から、材料費や製造の原価を引いて残る割合。
💡一株利益=会社の利益を、発行している株の数で割ったもの。株1株あたり、いくら稼いだかを表します。
💡調整後(non-GAAP)=会社が一時的だと考える項目を除いた数字。会計基準どおりの数字(GAAP)とは別物です。この会社の今回の粗利率は、会計基準どおりでも56.0%で、差はほとんどありません。
3ヶ月前、会社はこの四半期について「約6,600万ドルの売上が計上できる」「調整後の一株利益は0.30〜0.32ドル」と言っていました。結果は売上で約1割、一株利益で約3割、自分の見通しを上回りました。
四半期ごとに並べると、勢いの形が見えます。売上は 1〜3月 2,690万ドル → 4〜6月 4,760万ドル → 7〜9月 7,340万ドル。粗利率は 29.6% → 45.0% → 56.1%。売上が増えるたびに、1ドルあたりの儲けも厚くなっています。
粗利率が上がった理由も、会社が自分で挙げています。量が増えたこと、儲かる製品の比率が上がったこと、そしてリン化インジウムの市場価格そのものが上がったこと。さらに、円盤の大きさが3インチから4インチへ移っていることです。財務責任者は、粗利率はまだ天井ではないと言いました。
「次の四半期には6から始まる数字になると考えるのは妥当だと思います。高い60%台ではありませんが」
「高い60%台ではない」と自分で上限を付けているところに、この人の慎重さが出ています。
もう1つ、数字の裏づけとして大きいのが前受金です。会社はこの四半期に光部品大手のルメンタムと長期の供給契約を結び、ウエハーの代金として4,350万ドルを前払いで受け取りました。 現金と投資の残高は、前の四半期の7億4,880万ドルから 8億2,590万ドル に増えています。お金を先に払ってでも確保したい、という買い手側の態度が、金額で出ています。
次の四半期は9,000万ドル。増える分は全部リン化インジウムです
この会社は、見通しを少し変わった形で出します。「次の四半期に計上できる売上」という言い方です。今回は 約9,000万ドル、調整後の一株利益は 0.57〜0.59ドル。売上は7〜9月期から約23%増、一株利益は中心値で約4割増です。
増える分の中身について、事業開発の責任者ははっきり言っています。
「伸びのすべてがリン化インジウムです」
では、この見通しは市場が期待していた水準と比べてどうか。
💡市場の予想(コンセンサス)=その会社を調べているアナリストたちの予想の平均。会社が良い数字を出しても、周りがもっと高い数字を期待していれば、反応は冷たくなります。
1〜9月の実績に、10〜12月の会社の見通しを足すと、2026年の売上は約2億3,800万ドル、調整後の一株利益は約1.17ドルになります。市場の予想は、売上が約2.2億ドル、一株利益が0.87ドルでした。会社の見通しどおりなら、予想をかなり上回ります。
ただし、この予想を出しているアナリストは5人しかいません。急に伸びている会社では、予想のほうが追いついていないことがよくあります。ここは強い材料としては扱いません。
消えた言葉、新しく出てきた言葉
数字はすべて同じ方向を向いています。そのうえで、言葉のほうには、3ヶ月前から引っ込んだものがありました。
1つ目は、長期契約の話です。 3ヶ月前、社長は2社の名前を挙げて長期供給契約を結んだと語り、事業開発の責任者は「来年以降の多くを長期契約でカバーしている」と言っていました。今回、その2社の名前は出てきません。代わりに財務責任者がこう言いました。
「正式な長期契約からは少し距離を置いています。そういう形で縛られたくないのです」
理由は「価格を守りたい」「柔軟性を保ちたい」。売り手が強い市場では筋の通った判断です。ただ、裏返すと、5億ドルの受注残の大半は、何年も続く契約ではないということでもあります。事業開発の責任者自身が、長期契約は受注残の大きな部分ではなく、多くはスポットの注文と1年単位の契約で積み上がっていると説明しています。
💡スポットの注文=その都度出される単発の注文。需要が落ちたときには、真っ先に減る種類の注文です。
2つ目は、「世界最大」です。 3ヶ月前、社長は増産によって「AXTはリン化物の生産者として群を抜いて世界最大になる」と言っていました。今回、この言葉は出てきません。代わりに、6インチという大きな円盤については、自社のほかにもう1社あり、おそらく今はその会社と同等だと認めました。
もっとも、社長は同じ説明会で、2027年に伸びるのは4インチで、6インチは一桁%にとどまるとも言っています。いま稼いでいる主力の話ではありません。それでも、3ヶ月前の「群を抜いて」からは、確実に一歩引いた言い方です。
3つ目は、来年の出口の数字です。 3ヶ月前は、2027年を出るころには四半期あたり1億3,000万ドル前後の売上、という具体的な数字を出していました。今回、能力の数字を正面から聞かれても、その数字は出てきませんでした。返ってきたのは「来年も成長が続く」という言い方です。
逆に、新しく前に出てきた言葉もあります。3ヶ月前の財務責任者は「許可のタイミングは予測できない」と、中国からの輸出許可が売上の時期を左右することを強調していました。今回の見通しの説明では、その注意書きが消え、「第4四半期にこの売上を計上できることに高い確信を持っています」とだけ言っています。
答えが出なかったことと、追い風に乗っている部分
この決算には、まだ確かめられていない点があります。
来年の供給過剰を心配する質問に対して、事業開発の責任者は「すべての顧客が割り当て制になっている」「長期契約を結んでいる顧客からも、量を2倍、3倍に増やしてほしいと頼まれている」と答えました。財務責任者は2027年の設備投資について「まったく心配していない」。言葉は強いのですが、需要と供給を数字で示した答えはありませんでした。
💡割り当て制=欲しいだけの量が出せないので、顧客ごとに出荷量を配分している状態。
社長は中国で新しく参入しようとしている会社がいくつもあると認めたうえで、技術の壁があるので2年は自信がある、3年先は分からない、と答えています。この「3年先は分からない」は、正直な一言として受け取っておきます。
追い風に乗っている部分も、はっきりあります。
- 粗利率を押し上げた要因の1つは、品薄による市場価格の上昇です。品薄が解ければ、ここは逆に回ります
- 社長は原料の価格がかなり上がっているとも言っています(会社は値上げや大口径化で吸収できるという立場です)
- 中国の工場で作っているので、国外への出荷には中国の輸出許可が要ります。今回は注意書きが消えましたが、仕組みが変わったわけではありません
- 現金が増えた一部はルメンタムからの前受金です。これはまだ売上ではなく、将来ウエハーを納める義務として持っているお金です
このほか会社は、中国の子会社(通美)を香港で上場させる準備を進めていて、最大5億4,500万ドルの出資を受け入れる予定です。完了しても、AXTの持ち分は約73.4%で支配は続く、と説明しています。
まとめると、こうなります。売上と粗利率の伸びは、本物の需要の上に立っている。ただし、その一部は品薄の値段に乗っていて、受注残の多くは解約されにくい長期契約ではない。 強さと、強さの性質の両方を見ておく必要があります。
なぜ今、この地味な材料の会社にこれが起きているのか
話を最初に戻します。
AIデータセンターの規模が大きくなるほど、GPU同士をつなぐ光の配線が増えます。配線が増えれば、光を出すレーザーと、光を受け取る素子が増えます。そのレーザーと素子は、リン化インジウムの円盤の上で作られます。つまりGPUが売れるほど、何段も下にあるこの円盤の注文が増える、という順番でつながっています。
しかも通信速度が上がるたびに、部品の性能への要求も上がります。事業開発の責任者は、レーザー用の材料も4インチへ移り始めていて「これは単価をかなり押し上げる」と言っています。数が増えるうえに、1枚あたりの値段も上がる流れです。
その一方で、作れる会社は限られていて、40年の蓄積が要る材料です。会社は8月に生産能力の倍増を達成し、隣の建物を買って次の増産の設計に入っています。それでもリードタイム(注文から納品までの期間)は9ヶ月を超え、注文を受けるたびに受注残が積み上がっている、と説明しています。
これが、受注残が3ヶ月で1億ドル超から5億ドル超に増えた理由です。会社が急に営業上手になったのではなく、AIの配線の一番下にある材料が、足りなくなっているということです。
品薄が解けたかどうかは、次の決算の3つの点で分かります
僕の読みは「AI向けの光の需要で、リン化インジウムの円盤が足りなくなっていて、その品薄がまだ続いている」です。次の決算で、次のどれかが出てきたら、この読みは外れです。
- 2027年に生産能力をまた倍にする計画が、引っ込められる
- 受注残が5億ドルを下回る
- 「すべての顧客が割り当て制」という言葉が消えるか、価格が下がっているという説明が出てくる
3つ目は、受注残の多くがスポットと1年契約である以上、いちばん早く表に出るはずの変化です。粗利率が本当に60%台に乗るかどうかも、品薄の値段がまだ効いているかを測る目盛りになります。
これは2026年10月29日の説明会の時点での見立てです。3ヶ月前の時点では、会社自身ですらここまでの大きさを読めていませんでした。同じように、3ヶ月後には僕の読みも古くなっています。
次の回で、受注残の数字と、消えた言葉が戻ってくるかどうかを、また前の回と突き合わせて読みます。
※この記事は、決算説明会の原文をAIで読み解いて書き、複数の検査(事実照合・表現・法務)を通したうえで公開しています。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。