病院の循環器の現場では、知らない人がいない医療機器の会社があります。
心臓の不整脈を治療するカテーテル、心臓の中の小さな袋を塞ぐ装置、詰まりかけた血管を広げる機器。その会社が、2四半期続けて自分の見通しを下げました。
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※この記事で扱うのは、2026年10月28日に行われた、2026年7〜9月期(第3四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、僕の予測ではありません。次回の決算日は会社の発表待ちです。
💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストに向けて説明し、質問に答える電話会議。発言はそのまま記録に残ります。
その前に——この会社の稼ぎ頭は、何をする道具なんでしょう
この記事の結論は、2つの製品の話を知らないと伝わりません。少しだけ説明させてください。
ひとつめは心房細動です。心臓の上の部屋が、規則正しく縮まずに小刻みに震えてしまう不整脈のことです。これに対して、細い管(カテーテル)を血管から心臓まで通し、震えの信号が出てくる場所の組織を狙って処置する方法があります。アブレーションと呼ばれます。
昔からのやり方は、熱や冷たさで組織を焼いたり凍らせたりするものでした。ここ数年で広がったのがPFA(パルス・フィールド・アブレーション)という、短い電気のパルスを当てる方式です。この会社はPFAを早くから売り出し、ここが大きな成長の源になっていました。
ふたつめは左心耳閉鎖です。心臓の上の部屋には、左心耳という袋のような小さな出っ張りがあります。心房細動の人では、ここに血の塊ができやすいと言われています。その入口を、傘のような装置で内側から塞ぐ。この会社の「ウォッチマン」という製品です。
イメージとしては、家の水回りの修理に近いかもしれません。壁を壊さずに、配管の中から道具を通して直す。どちらも、胸を開かずに血管の中から心臓に手を入れる道具です。
この2つが、今回の決算でそろって弱くなりました。しかも、一時的な理由だけでは説明がつかない形で、です。
3ヶ月前は「2026年後半の見通しより良くしたい」と言っていました
一番大きく変わったのは、来年、2027年の語り方です。
3ヶ月前:「2027年は、ここでも控えめに言っておくと、2026年後半の見通しを上回ることを目指します」
今回:「その結果、2027年は売上と調整後の一株利益を伸ばすのが難しいと考えています(買収予定のペナンブラを除いた数字で)」
「上回ることを目指す」から「伸ばすのが難しい」へ。そのうえで社長は、こう付け加えました。
「2027年が、このサイクルの底になると考えています」
底を自分で名指しする経営陣は、あまりいません。そして、変わったのは来年の話だけではありませんでした。大事な製品の予定が、そろって後ろにずれています。
- PFAの次世代カテーテル「ファラウェーブ・ウルトラ(FARAWAVE Ultra)」=2027年後半 → 2028年初め
- 広い範囲を処置できる「ファラフレックス(FARAFLEX)」=2028年 → 2029年
- 新しい市場として示していた250億ドルの機会=2028年に → 2030年までに
- 血栓除去の会社ペナンブラの買収完了=2026年後半 → 2027年初め
社長は自分でこう認めています。「いくつかの大きなプラットフォームで、およそ6ヶ月の遅れが出ています」。
PFAについての言い方も変わりました。3ヶ月前は「ウルトラの投入後、2027年後半に米国のEP事業は改善すると見込んでいます」。今回は「ウルトラを投入するまで、PFAのシェアは引き続き削られていくと見ています。投入はいまは2028年初めの見込みです」。改善の話から、削られ続ける話へ変わりました。
💡EP(電気生理)=心臓の電気の流れの異常、つまり不整脈を扱う分野。この会社では、PFAのカテーテルがここに入ります。
臨床試験の語り方もです。前回、社長は進めている試験の参加者集めについて「大きく前進しています」と言っていました。今回、医療の責任者は「正直に言って、参加者集めは思っていたより少し遅いです」と答えています。
数字も、同じ方向を向いていました
言葉だけが弱気になったのではありません。
- オーガニック成長率 1.5%(会社の見通しは3〜5%)
- 調整後の一株利益 0.73ドル(前年同期比 −3%・見通しは0.80〜0.82ドル)
- 調整後の粗利率 68.0%(前年同期比 −3.0ポイント)
- 調整後の営業利益率 26.5%(同 −1.5ポイント)
💡オーガニック成長率=買収や為替の影響を除いた、もともとの事業の売上の伸び。
💡調整後=会社が「一時的だと考える項目」を除いた数字(non-GAAP)。会計基準どおりの数字(GAAP)とは別物です。
売上の伸びも、利益も、会社自身が3ヶ月前に出した見通しに届いていません。
中身を分けると、弱さの場所ははっきりしています。ウォッチマンの売上は−6%(米国 −7%、海外 +4%)。PFAを含むEPは−5%(米国 −8%、海外 +2%)。冒頭で説明した2つの稼ぎ頭が、両方とも前年を下回りました。
ウォッチマンは、中身がもっと複雑です。米国では、アブレーションと同じ日に一緒に行う手技は約35%伸びています。一方で、ウォッチマンだけを単独で行う手技は10%台後半の減少でした。社長は、この単独の市場そのものが「いま年率マイナス7〜8%くらいで縮んでいる」と説明しています。
それでも、伸びているものもはっきりあります
血管の中の治療(インターベンショナル・カーディオロジー)が+19% 伸びました。薬を塗った風船で血管を広げる「AGENT DCB」は、これまでに治療した患者が40万人を超えたと会社は言っています。神経に電気刺激を当てる分野(ニューロモジュレーション)も+13% です。
社長は質疑応答で、土台の事業は約6%で伸びている、とも答えています。この四半期のフリーキャッシュフローは8億6,700万ドル、借金の重さを示す総負債倍率は1.9倍。お金を生む力そのものが崩れたわけではありません。
コスト側でも手を打っています。リストラで3年間に5億ドル超(1ドル150円で約750億円)の節約を見込み、その半分超を2027年末までに実現する計画で、いまは計画より少し先行していると財務責任者は言いました。
ただし、これは費用を減らす話で、売上が増える証拠ではありません。
見通しは、前回の自分にも、市場の予想にも届きませんでした
通期の見通しは、もう一段下がりました。
- 通期のオーガニック成長率=5〜6% → 約3.75%
- 通期の調整後一株利益=3.28〜3.32ドル → 3.16〜3.18ドル
- 10〜12月期は、オーガニックで−3%〜−1%、調整後一株利益は0.77〜0.79ドル
💡ガイダンス=会社が自分で出す業績の見通し。
💡コンセンサス=その会社を調べているアナリストたちの予想の平均。
市場の予想は、通期の調整後一株利益で平均3.23ドルでした。今回の見通しは上の端でも3.18ドルなので、届いていません。
もっと重いのは来年です。市場は2027年の一株利益を3.38ドル前後と見ています。ところが財務責任者は、こう言いました。
「第4四半期の見通しが、来年の売上と調整後一株利益の見通しを考えるうえで、妥当な出発点になると考えています」
「来年の一株利益は、おおむね売上と同じくらいの伸びになると見ています」
今年が3.16〜3.18ドルで、来年の売上が伸ばしにくいなら、一株利益もそこから大きくは動かない、という意味になります。3.38ドルとは開きがあります。
財務責任者はこの日、「私たちは、自分たちの予測への信頼を取り戻す必要があります」とも言いました。社長も「2026年は、うまく実行できた年ではありませんでした」と認めています。
経営陣が答えなかったことと、一時的に数字を下げたもの
この決算には、たしかに一時的な要因が混ざっています。
一番大きいのは、この四半期に起きたサイバーインシデント(コンピューターシステムの事故)です。この四半期の売上を約3ポイント、金額で約1億5,000万ドル(1ドル150円で約225億円)押し下げ、一株利益では約0.07ドルの影響でした。10〜12月期にも売上で2〜3ポイント、一株利益で0.04〜0.05ドルの影響が残ると会社は見ています。その後に顧客が在庫を積み増し、それを取り崩す動きも数字を揺らしました。
ただ、サイバーを足し戻しても、ウォッチマンの市場の縮小、PFAのシェア低下、中国の値下げ圧力は残ります。こちらは一時的なものではありません。 経営陣自身もそう扱っています。
そして、質疑応答で繰り返し聞かれたのに、答えが出なかったことがあります。製品の予定がなぜ軒並み遅れたのかを、3人のアナリストが別々に聞きました。「私たちが期待しているのはパイプラインなので」と前置きした人もいました。
答えは一部だけでした。ウルトラは検証の工程の課題で約1四半期の遅れ、ファラフレックスは米国の規制当局との治験の協議や、運用面の課題。遅れたことは認めています。でも、ファラフレックスの治験の進み具合は「どう参加者が集まるかが、私たちにとっての問いになる」と先送りされました。ペナンブラについては「これ以上の更新はしません」で終わりです。
前回は熱心に語っていたのに、今回一言も出てこなかった話もあります。人工弁(TAVR)の市場に、出資を通じて戻る構想と、2027年前半に出すと言っていた冠動脈向けの新製品「SEISMIQ 4CE(サイズミック・フォース。血管の壁にたまって硬くなった石灰を、血管の中から衝撃波で砕き、血管を広げやすくするカテーテル)」の予定です。どちらの話も、経営陣の発言から消えていました。
遅れを自分の口で認めたことは評価しています。ただ、認めることと、遅れの理由を示すことは別です。そこはまだ埋まっていません。
なぜ、いまこの会社にこれが起きているのか
稼ぎ頭の2つが、別々の理由で同時に弱くなっています。
PFAは、この会社が早くから広げた市場でした。そこに競合が入り、シェアを奪われています。巻き返しの本命が次世代の「ウルトラ」で、それが2028年初めにずれた。だから会社は、それまでシェアが削られ続けると自分で言っています。
ウォッチマンは、シェアの問題というより、単独で行う手技の市場そのものが縮んでいます。アブレーションと一緒に行う手技は伸びていても、単独の手技への紹介の流れが細っている。会社は2027年に改善を見込まないと答えました。
上向きの材料が無いわけではありません。新しいカテーテルや装置の投入、ペナンブラの取り込み。ただ、売上に効いてくるのは、どれも主に1年半より先です。この会社が戦っている市場全体の伸びは約7%で、今後3年は7〜8%と会社は見ています。2027年はそれを下回り、2028年にその近くへ戻る、というのが会社の描く形です。
つまり、2027年は「次の製品がそろうまでの谷」として、会社自身が位置づけた1年です。
谷が浅いと分かるのは、こういうとき
今回の読みは、サイバーは一時的だが、稼ぎ頭2つの弱さは構造的で、谷は2027年いっぱい続くというものです。これが外れたと分かる形を書いておきます。
- 次の決算で、米国のウォッチマンの単独手技が、前年比で減らなくなる
- ウルトラの承認や投入の時期が、2027年中に前倒しされる
- 米国のEPの売上が、前年比でプラスに戻る
どれか1つでも起きれば、谷は会社が言うより浅いことになります。
ここに書いたのは、2026年10月28日の説明会までに分かっていることだけです。予定の日付は、また動くかもしれません。
大きくて有名な会社ほど、決算の数字はどこでも読めます。でも「3ヶ月前は何と言っていたか」を並べてみると、今回の決算の重さは数字以上でした。来年の話を、会社のほうから先に引き下げてきたからです。
谷の深さは、次の回の言葉を今回と並べたときに見えてきます。
※この記事は、決算説明会の原文をAIで読み解いて書き、複数の検査(事実照合・表現・法務)を通したうえで公開しています。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。医療行為や製品の効果・安全性を保証するものでもありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。