売上は前年より11.2%増えました。一株利益も過去の水準を上回っています。コストコの今回の決算は、見出しだけ並べれば文句のつけようがありません。
それでも、説明会の質疑応答では、4つの証券会社が言い方を変えて同じことを聞きました。会員の伸びが鈍っているのは、なぜか。いつ戻るのか。 答えに、数字も時期も出てきませんでした。
日足チャート(価格/出来高/RSI(2)/ニュースセンチ/RSランク)。毎日自動更新。
※この記事で扱うのは、2026年9月24日に行われた、2026年5〜8月期(同社の会計年度では2026年度の第4四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、僕の予測ではありません。次回の決算日は会社の発表待ちです。
💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストに向けて説明し、質問に答える電話会議。発言はそのまま記録に残ります。
その前に——コストコは、何で稼いでいる会社なのでしょう
コストコを「安いスーパー」だと思っている方は多いと思います。半分は合っていますが、稼ぎ方はスーパーと違います。
ふつうのスーパーは、仕入れた商品に利幅を乗せて売り、その差で稼ぎます。コストコはその利幅を、わざと薄くしています。今回の四半期の粗利率は11.02%。100円で売った商品のうち、原価を引いて手元に残るのは11円ほどです。
💡粗利率=売ったお金のうち、仕入れや製造の原価を引いて残る割合。
では何で稼ぐのか。年会費です。 店に入るには会員証が要ります。日本の店舗で、入口で会員証を見せたことがある方もいると思います。この四半期の会費収入は18億4,900万ドル。同じ四半期の純利益は29億9,800万ドルでした。会費だけで、純利益のおよそ6割にあたる額です。
つまりコストコにとって、商品を安く売るのは会員を集め、毎年更新してもらうための仕組みです。だからこの会社の決算は、売上より先に「会員が増えているか」「更新されているか」から読みます。今回の記事がほとんど会員の話になるのは、そのためです。
売上は+11.2%。ただしガソリンが3ポイント押し上げています
まず実績です。
- 売上 938億7,000万ドル(前年同期比 +11.2%。1ドル150円で約14兆円)
- 一株利益 6.75ドル(関税の還付による一時的な0.15ドルを含む。一時要因を除いた前年比は+12.4%)
- 既存店売上 +9.4%(ガソリン価格と為替の影響を除くと +6.7%)
💡既存店売上=1年以上営業している店だけで比べた売上の伸び。新しい店が増えた分を除くので、お客さんが本当に多く買っているかが見えます。
+11.2%のうち、約3ポイントはガソリンの値上がりです。中東の紛争でガソリン価格が上がり、コストコのスタンドに会員が流れました。ガソリン事業は過去最高の年だったと会社は言っています。ただ、これは会員が増えたからではなく、外の値段が動いたからです。
ガソリンと為替を除いた既存店売上の伸びは、前の四半期の+6.6%から+6.7%。会社自身の言葉では「この1年ほぼ一貫して6〜7%の範囲」です。崩れてもいないし、加速もしていません。
良くなったものもあります。来店頻度は+2.4%から+3.3%へ。関税の還付とその使い道を除いた本業の粗利率は、前の四半期は0.09ポイント下がっていたのが、今回は0.18ポイント上がりました。米国・カナダの会員更新率は92.3%で、2四半期続けて0.1ポイントずつ上がっています。
前の四半期に「正常」と言った基準が、静かに下がりました
ここからが、この決算でいちばん変わったところです。
会員数の伸び率は、前の四半期の4.1%から3.8%へ。総有料会員数は8,410万人です。会費収入の伸びも、+10.7%から+7.3%へ落ちています。
数字が少し下がること自体は、驚くほどの話ではありません。変わったのは、経営陣がその数字をどう呼んだかです。
3ヶ月前:「4〜5%というのが、より正常な成長率だと考えています」
今回:「直近の数四半期に見てきた成長率が、いまの状況から考えると、おそらく私たちが想定するものとして、より典型的なのだと思います」
3ヶ月前は、4.1%の伸びを「4〜5%の正常域」の中に置いていました。今回は3.8%になった伸びを、「おそらく、これが典型」と言い直しています。「正常」の物差しそのものを、下の数字に合わせて動かしました。 呼び方は同じ顔をしたまま、指している数字が下がっています。しかも「おそらく」という留保がつきました。
そしてもう一つ、この四半期で終わったものがあります。
「第4四半期は、会費値上げによる前年比の押し上げが見られる最後の四半期です」
会費収入の伸びを支えていた値上げの効果は、今回で一巡しました。次の四半期からは、会員の数と構成の変化だけで会費収入を伸ばすことになります。
4つの証券会社が聞いて、数字はひとつも出ませんでした
質疑応答では、会員の伸びについて4つの証券会社が角度を変えて聞きました。
- 会員数の伸びと店舗数の伸びの差が縮んでいるのをどう見るか
- 8四半期続けて鈍っている会員の伸びを、何が反転させるのか。それはいつか
- アジアなど海外の新しい会員世帯の指標を開示してもらえないか
- 新しい会員は、平均的な会員より買う量が少ないのではないか。その成熟の曲線はどうなっているか
8四半期連続の鈍化について時期を聞かれた場面では、経営陣はこう答えました。「ご存じのとおり、個別の指標についてガイダンスは出していません」。そのうえで、直近の成長率がおそらく標準だろうと現状を追認しています。反転の条件として挙がったのは、上位会員(年会費の高いエグゼクティブ会員)の浸透が長い目で効いてくることと、アジアでの出店という、いずれも「〜かもしれない」の話でした。
💡ガイダンス=会社が自分で出す業績予想。コストコはもともと業績予想を出さない会社です。
海外の会員の指標を求められた場面でも、数字は出ませんでした。返ってきたのは「海外では1店あたりの会員はずっと多いが、来店の頻度は低いことが多い。米国では1店あたりの会員は少ないが、ずっと多く使ってくれる」という、比べ方の説明だけです。
会員の伸びと店舗の伸びの差を聞かれたときは、質問には直接答えず、話を会員の「質」に移しました。40歳未満の会員がコロナ以降ほぼ60%増えて全体の4分の1を超えたこと、上位会員の比率が過去最高になったこと、更新率が上がったこと。どれも本当で、どれも良い数字です。ただ、聞かれたのは「数」の話でした。
4回聞かれて、時期も数字も出てこない。 経営陣がこの問いにまだ答えを持っていない、と読むのが自然だと思います。
3ヶ月前に「大きな節目」と言ったものが、今回は出てきません
変わったのは言い方だけではありません。前の四半期に具体的に語っていたことが、今回は消えています。
1つ目は、広告事業です。 前の四半期、会社はこう言っていました。
「この第3四半期に、グーグルのコマース・メディア部門およびユーチューブとの新しい協業を始めました。(中略)これは、リテールメディアの売上の取り分を増やしていく道のりの中で、大きな節目です」
会社が自分から「大きな節目」と呼んだ、新しい稼ぎ口です。
💡リテールメディア=小売が自社のアプリや売り場で、メーカーに広告枠を売る商売。来店客のデータを持っている小売ほど高く売れます。
今回、準備された原稿にも質疑応答にも、「リテールメディア」も「グーグル」の協業の話も、一度も出てきません。3ヶ月前に「大きな節目」と呼んだ新しい稼ぎ口が、翌四半期には一言も語られませんでした。
2つ目は、中国の上位会員です。 前の四半期は「今四半期、中国で上位会員の制度を始め、出足は好調です」「中国では想定を上回っています」と国名つきで語っていました。今回は、全社の「上位会員の比率が過去最高」という数字の中に溶けて、中国の話は出てきません。
3つ目は、レジの実験です。 前の四半期は、会員が自分で支払いを済ませる精算の仕組みについて「実験は成功で、新しい店に組み込んでいる」と言っていました。今回は言及がありません。
ほかに、沈黙ではなくはっきりやめたものが1つあります。外部の出品者の商品も扱うネット上の売り場「コストコ・ネクスト」を、終了すると決めました。会社は「業績への影響は大きくない」と添えています。
数字の出し方も1か所変わりました。会員ごとに商品を出し分ける仕組みの売上を、前の四半期は「5億ドル弱」とドルの額で示していました。今回は「三桁の伸び」「ネット注文の10%に含まれる」と、割合だけになっています。
AIの話は、3ヶ月前より慎重になりました
3ヶ月前:「AIは消費者が商品を調べるやり方を変えつつあり、コストコにとって大きな機会になる可能性があります」「このAI検索については、とても強気です」
今回:「AIの機会にはわくわくしています。ただ、とくに、いまの時点でエージェント型の買い物とまで言えるかは分かりません」「私たちの感覚では、まだ始まったばかりです。流入は大きく伸びていますが、まだ非常に小さな土台からです」
AI検索からの流入は2四半期続けて三桁の伸びで、サイトに来る流入の中でいちばん買い物に結びつきやすい、と会社は言っています。そこは事実です。ただ「とても強気」から「まだ非常に小さな土台」へ。伸び率は大きく、規模はまだ小さい、と会社自身が線を引き直しました。
ガソリンと関税の還付が飾り、在庫の会計が押し下げました
この決算には、一時的なものがいくつか混ざっています。
いちばん大きいのは関税の還付です。 アメリカで、IEEPAという法律を根拠にした関税が無効とされ、払い過ぎた関税が企業に戻り始めています。コストコはこの四半期に1億8,400万ドルを受け取りました。内訳は還付が1億7,400万ドル、利息が1,000万ドルで、見込んでいる還付総額の3分の1をやや上回る額です。会社はこれを「一度きりの利益」と自分で呼び、一株あたり0.15ドルの押し上げとして本業の粗利率の計算から外しています。次の年度の最初の四半期にも、すでに同じくらいの額を受け取っていると言っています。
ここは誠実だと思いました。戻ってきたお金を、会社は本業の数字と分けて見せています。そして来年度も、同じ水準の情報を出し続けると言いました。
ただ、還付の使い道については、聞かれても答えが出ませんでした。還付のうち約1億ドルを値下げに回したことについて、冒頭の質問者は「それでも月次の売上の軌道には意味のある変化が見えない。むしろ少し鈍った。この投資の見返りをどう評価しているのか」と聞きました。答えは「受け取った還付を、会員に価値として返すものだと考えています」。値下げでどれだけ数量や来店が増えたかの数字は、示されていません。
ガソリンも数字を飾っています。 売上を約3ポイント押し上げただけでなく、販管費の比率の改善0.27ポイントのうち、0.25ポイントがガソリン由来でした。ガソリンを除くと、改善は0.02ポイントしか残りません。
💡販管費の比率=売上に対する、人件費や店舗の運営費などの割合。下がるほど効率よく売れています。
逆に、数字を押し下げたものもあります。 在庫の評価方法の関係で、年度末の四半期にまとめて計上する費用が1億5,200万ドル(前年同期は4,300万ドル)出ました。値上がりの続く商品を抱えていると膨らむ費用で、こちらは利益を下に押しています。
会員の数は鈍っても、更新率は上がり続けています
悪い話を並べてきましたが、この会社の地力そのものは、今回も同じところにあります。
- 上位会員は4,230万人で、前年同期比+9.4%。全会員に占める比率は過去最高
- 世界の更新率は89.8%で、米国・カナダと同じく前の四半期から0.1ポイント上昇
- 宅配の提携を広げ、ウーバーイーツは17州から全米へ、ドアダッシュも米国へ拡大
- 来年度は33店を開く計画(うち5店は移転)。設備投資は約75億ドル(約1.1兆円)で、前年度の計画の65億ドルから増やします
💡更新率=1年後に会費を払い続けてくれた会員の割合。コストコの稼ぎの土台そのものです。
会員の「数」の伸びは鈍っています。けれど、残っている会員は前より高い会費を払い、前より高い率で更新しています。数は鈍り、質は上がっている。
問題は、会費値上げの効果が切れた次の四半期以降に、「質」だけで会費収入の伸びを支えられるかです。
次の決算で見る3つ——会員の伸び、6%、更新率
本業は堅い。けれど会員の伸びの鈍化には、経営陣がまだ答えを持っていない。そして値上げの追い風は、今回で終わりました。
- 会員数の伸びが3.8%から上向けば、「鈍化に答えが無い」という僕の読みは外れです
- ガソリンと為替を除いた既存店売上の伸びが2四半期続けて6%を下回れば、「本業は堅い」という見立てが崩れます
- 米国・カナダの更新率が前の四半期から下がれば、「数は鈍り、質は上がっている」の後ろ半分が消えます
もう一つ、時間のかかる確認があります。関税の還付が終わった後の年度で、本業の粗利率が前年を上回り続けられるか。上回れなければ、今回の+0.18ポイントの改善も、還付があった年の数字だったことになります。
広告事業と中国の話が、次の説明会で戻ってくるかも見ます。戻ってくれば今回はたまたま触れなかっただけ。戻ってこなければ、3ヶ月前の「大きな節目」は、そういう扱いになったということです。
コストコは、毎四半期の数字が大きく崩れない会社です。だからこそ、変化は数字より先に、言い方の小さなずれに出ます。会員の伸びが0.3ポイント下がり、経営陣がそれを「典型」と呼び直したことは、今は誤差に見えます。次の回で、それが誤差だったのか、始まりだったのかが分かります。
値上げの追い風が切れた最初の四半期になる次の決算も、同じ3つの数字から書きます。
※この記事は、決算説明会の原文をAIで読み解いて書き、複数の検査(事実照合・表現・法務)を通したうえで公開しています。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。