体に着ける「電気ショックの装置」をレンタルしている、小さな医療機器の会社があります。
この3ヶ月の売上は前年より6割増えました。粗利率は11四半期続けて上がり、会社は長期の目標まで引き上げました。数字だけ並べれば、文句のつけようがない決算です。
それでも僕は、読み終えて少し落ち着かない気持ちが残りました。この会社の売上が「何件の患者さんから来ているのか」を、今回から四半期ごとには教えてもらえなくなったからです。
日足チャート(価格/出来高/RSI(2)/ニュースセンチ/RSランク)。毎日自動更新。
※この記事で扱うのは、2026年9月14日に行われた、2026年5〜7月期(同社の会計年度では2027年度の第1四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、僕の予測ではありません。次回の決算日は会社の発表待ちです。
💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストに向けて説明し、質問に答える電話会議。発言はそのまま記録に残ります。
その前に——「着用型の除細動器」って、何でしょう
駅や学校の壁に、AEDが掛かっているのを見たことがあると思います。心臓が危険なリズムで震えだしたときに、電気ショックで止めるための機械です。
ただ、AEDには弱点があります。倒れた人のそばに、誰かがいて、機械を持ってきてくれないと使えません。 一人で車を運転しているとき、夜中に家で寝ているとき、そばには誰もいません。
この会社がつくっているのは、そのAEDをベストのように体に着けておく装置です。着用型除細動器、英語の頭文字でWCDと呼ばれます。心電図を見張り続け、危険なリズムを検知すると、装置が自分で電気ショックを流す仕組みです。製品名は「Assure(アシュア)」。
使う場面は限られています。心臓の手術の前後や、体に埋め込む除細動器を入れるかどうか決めるまでの間など、危険が高い数週間〜数ヶ月だけ着けるものです。だから売り切りではなく、レンタルです。医師が処方し、会社が患者さんに装着して、使った期間の料金を保険会社に請求します。
ここが、この記事の結論に直結します。レンタルで保険から回収する商売なので、この会社の売上は、ほぼ次の掛け算でできています。
売上 = 装着した患者さんの数 × 1人あたり保険から回収できる金額
今回の決算は、この掛け算の右側(1人あたりの回収額)についてはたくさん語られ、左側(患者さんの数)については、四半期ごとの数字が出なくなった決算でした。
売上は+60%、粗利率は11四半期続けて上がりました
まず実績です。
- 売上 3,100万ドル(前年同期比 +60%。1ドル150円で約46億5,000万円)
- 粗利率 56.5%(前年同期比 10ポイント超の改善、前の四半期比でも+1.75ポイント)
- 最終損益(会計基準どおり)は4,410万ドルの赤字(前年同期は2,580万ドルの赤字)
- 調整後EBITDAは2,400万ドルの赤字(前年同期は1,940万ドルの赤字)
💡粗利率=売ったお金のうち、原価を引いて残る割合。この会社なら「装置を貸して回収した額」から「装置と装着にかかった費用」を引いた残りです。
💡調整後EBITDA=会社が「本業の稼ぐ力」として示す、自前の物差し(non-GAAP)。株式報酬や一時的な費用などを除いた数字で、会計基準どおりの損益とは別物です。
赤字は広がっています。それでも粗利率が上がり続けているのは、1件あたりで見るとちゃんと儲かる形に近づいている、という意味です。11四半期連続というのは、ほぼ3年間、一度も下がっていないということです。
「70%以上」が「70%台半ば」に。言い方は3ヶ月で一段上がりました
経営陣の言い方は、3ヶ月前からはっきり強くなっています。
粗利率の長期目標について。
3ヶ月前:「ケストラは、今後数年で70%以上の粗利率に向かう道筋にあると、引き続き確信しています」
今回:「今後数年で、ケストラは70%台半ばの粗利率を達成できるという確信が、ますます強まっています。これは、以前お伝えしていた70%という目標から、意味のある引き上げです」
質疑で「時期は前と同じなのか、少し先に延びたのか」と聞かれると、会社側はこう念を押しました。
「5年後の70%台半ばの話をしているのではありません。今後2〜3年の話です」
根拠として挙げたのは3つで、どれも具体的でした。装着1件あたりのコストを下げる改善策、部品を買う量が増えたことによる仕入先からの値引き、そして後で触れる「保険会社との契約が増えて1件あたりの回収額が上がること」です。同社の会計年度で2029年度には、通期で粗利率70%を見込むとも言っています。
通期の売上見通しについて。
3ヶ月前:「売上は1億3,700万ドル、前年比44%増を見込みます」
今回:「売上は1億4,100万ドル、前年比48%増を見込みます」
1億4,100万ドルは、1ドル150円で約211億5,000万円です。質疑では、あるアナリストが「上振れが約200万ドルで、引き上げが約400万ドル」と要約しました。上振れた分より多く、見通しを上げたということです。
💡ガイダンス=会社が自分で出す業績の見通し。
💡コンセンサス=その会社を調べているアナリストたちの予想の平均。
市場の予想(アナリスト8人の平均)は、通期の売上で約1億4,000万ドルでした。ただ、手元にあるのは丸めた数字だけです。新しい見通しは予想とほぼ並んだか、わずかに上、としか言えません。会社の見通しが市場を大きく追い越した、という決算ではありません。引き上げ幅も約3%で、小幅です。
市場の伸びについて。
3ヶ月前:「WCDの市場は、10%台前半から半ばで伸びたと推定しています」
今回:「市場は間違いなく加速しています。市場の伸びは、上場時からほぼ倍になりました」
ここは正直に書いておきます。今回示された市場の伸びは、2026年7月までの12ヶ月で金額ベース約14%。3ヶ月前の「10%台前半から半ば」と、数字はほとんど変わっていません。強くなったのは数字ではなく、言い方のほうです。
前の四半期に数えていたものが、今回は数えられていません
ここからが、僕が落ち着かなかった部分です。
3ヶ月前の決算説明会で、会社は患者さんの数を、かなり細かく数字で語っていました。
「この四半期に、Assureについて6,300件を超える処方を受け付けました」
「売上の伸びは、処方件数の前年比63%増によるものです」
処方された患者さんのうち、実際に装着し保険から回収できた割合(会社は「転換率」と呼んでいます)についても、「年度末で約46%」と数字を出していました。営業担当の地域が約130になったこと、新しく処方してくれた医師が55%増えたこと、発注元の医療施設が65%増えたことも、3ヶ月前にはすべて数字つきでした。
今回、これらは出てきません。売上の上振れが「件数が増えたからか、1件あたりの回収額が上がったからか」を、2人のアナリストが別々に聞きましたが、答えは同じでした。
「以前お伝えしていた転換率の、個々の要素についてはコメントしません」
「処方件数と装着件数についてはコメントしません。年に1回お示しすると約束していますので」
ここは公平に書きます。これは黙って消したのではありません。 会社は以前から「件数は年1回の開示に移す」と伝えていて、聞いたアナリストの側も「開示が変わるのは分かっているけれど」と前置きしていました。そのうえで会社は、こう言っています。
「これまで、処方件数の伸びは、売上の伸びを数ポイント下回ってきました。その関係は、今年も続きます」
つまり「件数の伸びは売上より少しだけ低い」という目安だけは残してくれた。それでも、最初に書いた掛け算の左側が、次に確かめられるのは年度末です。3ヶ月ごとに確かめられたものが、12ヶ月に1回になりました。
保険の側では、最後まで渋っていた大手が1社動きました
掛け算の右側、「1人あたりの回収額」のほうは、今回たくさん語られました。
💡インネットワーク(契約済み)=保険会社と料金の契約を結んでいる状態。契約があると請求がスムーズに通り、1人あたりの回収額も上がりやすくなります。
会社によれば、上場した18ヶ月前は、装着した患者さんのうち契約済みの保険に入っている人が約70%。それが今は80%台前半まで来ていて、今年度も新しい契約でさらに上がる見込みです。
もう一つ、今回初めて出てきた出来事があります。
「今月、ある大手の全国規模の保険会社が、非虚血性の患者さんにも保険の対象を広げました。この大手が、虚血性と非虚血性の両方を対象にするのは初めてです」
会社は「典型的なWCDの患者さんの60%以上は非虚血性」と言っています。
💡虚血性/非虚血性=心臓の筋肉が弱った原因の分け方。虚血性は、心臓に血を送る血管が詰まったり細くなったりしたことが原因(心筋梗塞など)。非虚血性は、それ以外の原因です。
ここだけ読むと大きな話に見えます。
ただ、質疑で「この保険会社は先に動いた側なのか、最後の1社なのか」と聞かれて、社長はこう答えました。
「大手の中では、この会社は例外的な存在でした。大手の多くは、すでにこの患者層を対象にしていました」
つまり、市場全体が動いたのではなく、最後まで渋っていた大手が1社追いついたという話です。社名も、金額も出ていません。会社は、地方や中小の保険会社にも同じ立場のところがあり、そこも動くと期待している、と言い添えています。
公的な側の話もあります。半年ほど前に、米国の退役軍人省(VA)の連邦調達リストに加わり、それ以来VAでの件数が「着実に増えている」とのこと。VAは約900万人をカバーする、米国最大の統合医療ネットワークです。ただ、ここも件数そのものは示されていません。
経営陣が数字で答えなかったことと、今期の数字を動かしたもの
質疑で何度も繰り返されたのは、今年の後半の数字の話でした。
会社の見通しは後半に重く、ある質問者は「第3・第4四半期にかなり大きな数字が必要になる」と指摘しました。社長は「最後の四半期が大きいのは、その通りです」と認めたうえで、根拠に営業地域の分割、昨年度の終わりから今年度の初めに採用した営業担当の立ち上がり、マーケティングの組み合わせを挙げました。どれも方向の説明で、数字ではありませんでした。 同じ論点を3人が別々の角度から聞いています。
もう一つ、来四半期に説明すると言った開発中の新製品も、「今のWCDに無い機能をプラットフォームに加える」以上のことは語られませんでした。AIを使った業務の自動化も、効果が本格的に出るのは同社の会計年度で2028〜2029年度という説明です。
一時的なもので言えば、売上を押し上げた単発の要因は見当たりません。ただ、比べる相手が低かったことは会社自身が認めています。
- 60%の伸びは、前年の第1四半期の売上(1,900万ドル台)が低かったことの恩恵がある
- 営業費用には140万ドルの一時費用(提携先へのマイルストーン支払いと、開発案件の一時的な専門家報酬)が入っている
- 研究開発費は約70%増。後期の開発案件への集中投資で、後半は売上比5〜7%の通常水準に戻すと説明
- 営業活動で出ていった現金は3,230万ドル(前の四半期は1,870万ドル)。全社の賞与の支払いと、仕入先への支払いのタイミングによるもので、今年度を通して四半期ごとに減っていく見込み
伸び率そのものも、前の四半期の+66%から+60%へ少し鈍っています。数字を飾ったものはコストとお金の出入りの側に集まっていて、売上の側にはありませんでした。そこは、この決算の強いところです。そのうえで、売上の中身を件数で確かめる手段が年1回になった。この2つが、同じ決算の中に並んでいます。
なぜ、いまこの会社の粗利が上がり続けるのか
最初の掛け算に戻ります。
右側の「1人あたりの回収額」は、契約済みの保険が70%から80%台前半に増えたことで、構造的に上がっています。最後まで渋っていた大手が非虚血性の患者さんを対象に入れたことも、同じ方向に効きます。
コストの側でも、会社は「レンタルの商売は件数が増えるほど効いてくる」と説明しています。会社が挙げた粗利の根拠3つ(1件あたりコストの低下、仕入先の数量値引き、1件あたり回収額の上昇)は、どれも件数が増え続けることを前提にしています。
そして、件数が増える余地は大きいと会社は言います。2025年は、WCDを使うべきとされた患者さん7人のうち6人が、使っていなかった。米国のWCD市場でのシェアは約15%で、残りは先にこの市場にいた既存の大手(会社は社名を出していません)が持っています。会社は60%で伸び、競合はその何分の一かでしか伸びていない、というのが会社の説明です。
ここで、もう一度落ち着かない話に戻ってしまいます。粗利の目標を上げた根拠も、後半偏重の見通しの根拠も、どれも最後は件数が増え続けることに乗っています。その件数を、僕らが外から確かめられるのは年に1回になりました。
次の決算で、僕が間違っていたと分かる形
今回の読みは「1件あたりの回収額は確かに上がっている。件数のほうは、会社の言葉を信じて待つしかない段階に入った」です。これが違っていたと分かる形を書いておきます。
- 次の四半期で、粗利率が56.5%を下回る(12四半期連続の改善が途切れる)
- 通期の売上見通し1億4,100万ドルが引き下げられる
- 年度末に出る年1回の開示で、処方件数の伸びが売上の伸びを「数ポイント」より大きく下回る
逆に、良い方へ外れる形もあります。地方や中小の保険会社が、今回の大手に続いて非虚血性の患者さんを対象に入れ始めた場合です。そのときは「1社が追いついた」話ではなく、保険の側の流れが変わったことになります。
ここに書いたのは、2026年9月14日の説明会までに分かっていることです。件数の数字は、年度末まで出てきません。
数えられるものが減った決算は、数字が良いほど読みにくくなります。良い数字の理由を、会社の言葉でしか確かめられないからです。この会社の場合、来四半期には新製品の説明があり、年度末には1年分の件数が出ます。そのたびに、今回の会社の言葉と、出てきた数字を並べていきます。
※この記事は、決算説明会の原文をAIで読み解いて書き、複数の検査(事実照合・表現・法務)を通したうえで公開しています。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。