電卓の会社、と聞いて思い浮かべる人も多いと思います。その会社の、データセンター向けの売上が1年でほぼ2倍になっていました。
ただ、今回いちばん印象に残ったのは数字ではありません。好調の真っ只中で、経営トップが自分の口から「これは景気の波の回復でもある」と言ったことです。
その会社が、半導体のテキサス・インスツルメンツです。
日足チャート(価格/出来高/RSI(2)/ニュースセンチ/RSランク)。毎日自動更新。
※この記事で扱うのは、2026年10月21日に行われた、2026年7〜9月期(第3四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、僕の予測ではありません。次回の決算日は会社の発表待ちです。
💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストに向けて説明し、質問に答える電話会議。発言はそのまま記録に残ります。
その前に——「アナログ半導体」って、何でしょう
「アナログ」と聞くと、古い技術のように聞こえます。でも、ここで言うアナログ半導体は時代遅れの部品ではありません。現実の世界の電気や信号を扱うチップのことです。
AIの話で出てくるエヌビディアのGPUは、計算をする「頭脳」です。頭脳は0と1で考えます。ところが現実の世界は、電圧も温度も音も、なめらかに変わる量でできています。そこをつなぐのがアナログ半導体です。電池やコンセントから来た電気を、部品ごとにちょうどいい電圧に変える。センサーが拾った温度や圧力を、頭脳が読める形に直す。そういう役を受け持っています。
身近なところで言えば、スマホの充電器や電動アシスト自転車の中にも、この手の部品が入っています。一つひとつは目立たず、値段も高くありません。そのかわり、工場の機械にも、車にも、電力網にも、データセンターのサーバーラックにも、あらゆる電気製品に入ります。
これが、この記事の結論に効いてきます。ありとあらゆる製品に入るということは、世の中全体の景気の波をまともに受けるということです。 景気が冷えると、メーカーは手元の部品在庫を絞ります。暖まってくると、今度は慌てて積み直します。冷蔵庫を空にしていた家が、給料日にまとめ買いをするのに似ています。アナログ半導体の売上は、この在庫の出し入れで大きく上下してきました。だからこの会社の決算では、伸びが「長く続く構造の変化」なのか、「波の上り坂」なのかが、いつも一番の論点になります。
💡循環(サイクル)=半導体の売上が、数年おきに山と谷をくり返すこと。在庫を減らす時期と積み直す時期が交互に来るために起きます。
売上は28%増、データセンター向けは約95%増でした
- 売上 61億ドル(前年同期比 +28%、前の四半期比 +11%)。1ドル150円で約9,100億円です
- 粗利率 64%(前の四半期から +2.8ポイント)
- 一株利益 2.62ドル(会社が事前に織り込んでいなかった税務の個別項目で、1セント押し下げられた後の数字です)
💡粗利率=売ったお金のうち、製造の原価を引いて残る割合。半導体の会社では、工場がどれだけ埋まっているかで大きく動きます。
会社が3ヶ月前に出していた見通しは、売上56.5億〜61.5億ドル、一株利益2.23〜2.57ドルでした。売上は見通しの中央(59億ドル)を上回ってレンジの中に収まり、一株利益はレンジの上限を超えました。
最終市場別に見ると、伸び方がそろっています。
- 工業向け:前年同期比 40%超の増加(前の四半期は約30%増)
- データセンター向け:前年同期比 約95%増(前の四半期は約2倍)。売上全体の約13%を占めるまでになりました
- 自動車向け:前年同期比 10%台半ばの増加
データセンター向けは、2四半期続けて倍増に近いペースです。CEOは、この市場に売っている製品の種類が「約1万品番」あると言いました。1つの大きな製品で伸びているのではなく、電源、温度の監視、冷却まわりと、サーバーラックの中のあちこちに小さな部品が入り込んでいく形です。
4年かかって、工業向けがやっと前回の山に戻りました
言葉で一番大きく変わったのは、工業向けです。
3ヶ月前:「まだあの山(2022年のピーク)より低い。おそらく2022年のピークより5〜6ポイント低い」
今回:「2026年の第3四半期になって、ようやく2022年の第3四半期と同じ売上の水準に届きました。工業で新しい山をつけたのは、4年ぶりです」
40%を超える伸び、と聞くと、何か新しいことが始まったように見えます。でも中身は、2022年の山から落ちた分を、4年かけて取り戻したところです。会社側も質疑で「前回の山を、いまちょうど少し上回ったところ」と言っています。
ここでCEOは、取り戻しただけではない、とも言っています。2022年のころより、いまのお客さんの機械は、同じ1台に入るチップの量が増えている。だから同じ売上の山でも、中身は前とは違う、という主張です。業種によってはまだ前回の山に届いていないものもあり、「まだ序盤」だとしました。強いと名前を挙げたのは、航空宇宙・防衛、電力インフラ、試験・計測、ロボットです。人型ロボットについては、1体あたりこの会社の部品が「500〜1,000ドル」入る、という目安も初めて出てきました。ただし、何体作られるのかは「分からない」と本人が言っています。目安であって、受注ではありません。
「循環の始まり」が、「強い循環の回復」になりました
景気の波の見方も、3ヶ月で言い方が変わりました。
3ヶ月前:「私たちは、とても、とても幅広いサイクルの始まりにいると思います」
今回:「半導体の搭載量の構造的な成長が続いています。それと並んで、強い循環の回復が起きています」
3ヶ月前は「始まり」でした。今回は、もう回復の真ん中にいる、という言い方です。確信は強くなっています。
そのうえで、ここが今回いちばん大事なところです。今回の好調の説明に、経営トップが自分で「循環」という言葉を並べた。 構造的な成長だけで説明できるなら、そう言えばいいはずです。構造だけ、とは言わなかった。この会社は、波の上り坂にいることを隠していません。
自動車向けの質疑にも、それがよく出ています。顧客が在庫を積み増しているのかと聞かれて、CEOはこう答えました。
「在庫の積み上がりは見えていません。むしろ逆で、もう少し持っていてくれればと思うくらいです」
顧客の手元に在庫が少ないので、需要が戻ってきた途端に慌てて注文が来ている。追い風としては強い話です。同時に、いまの売上の一部が「在庫の積み直し」でできているという説明でもあります。積み直しは、終われば止まります。
値上げと受注残の言葉は、3ヶ月前より弱くなりました
強くなった言葉ばかりではありません。2つ、はっきり後退したものがあります。
1つ目は値上げです。
3ヶ月前:「値上げの実行を始めた、と言っておきます。ええ」
今回:「少し上向きの動きは見えています。今年については、それほど大きなものではありません」
今回の説明では、2026年の前半は値段が横ばいで、後半にアナログを中心に少し値段が動いた、という整理でした。それも、年に一度の価格交渉ではなく、「もっと急いで、もっと多く欲しい」顧客との個別の話から出たものだと言っています。2027年の値段は顧客と交渉中で、「1月の説明会で報告する」と先送りしました。「始めた」と言った3ヶ月後に、「今年は大きくない」です。
2つ目は受注残です。
💡受注残(バックログ)=注文は受けたが、まだ出荷していない分。積み上がっていれば、先の売上が見えている状態です。
3ヶ月前と今回の言い方を並べます。
3ヶ月前:「四半期を通じて受注残が積み上がりました。すぐに出荷する注文でも、もっと先の出荷分でもです」
今回:「受注残は、いま見えている需要の環境全体と整合している、という言い方をしておきます」
3ヶ月前は、すぐ出荷する分も先の分も「積み上がった」と、向きをはっきり言っていました。今回は向きが消えて、「整合している」になりました。受注と出荷の比率がプラスだったかを正面から聞かれた場面でも、比率の数字は出てきません。返ってきたのは、需要が市場も地域も問わず広がっている、納期が少し延びた、という説明でした。
💡受注と出荷の比率(book-to-bill)=その期に受けた注文の額を、出荷した額で割ったもの。1を超えていれば、出す以上に注文が入っています。
粗利率64%の中に、波の上り坂の分が入っています
この決算の数字には、長く続く力と、いまだけの力が混ざっています。それを分けておきます。
粗利の伸びについて、最初の質問がまさにそこを突きました。増えた売上のほぼ9割が粗利として残っている、これは続くのかと。財務責任者の答えは、一番の理由は売上が増えたこと、そのうえで「値段、工場の稼働率、製品と最終市場の組み合わせ」も効いた、というものでした。続くかどうかには答えず、長い目で見た目安(増えた売上の75〜85%が粗利に残る)に戻しただけです。
💡工場の稼働率=工場の設備がどれだけ埋まって動いているか。半導体の工場は固定費が大きいので、埋まるほど1個あたりの原価が下がります。売上が落ちると、逆向きに効きます。
受注残と納期、後工程の供給制約、データセンターの持続性。この3つは、それぞれ別の2人が重ねて聞きました。受注残は先ほどの「整合している」だけ。データセンターは「減速は見えていない。需要は伸び続けている」としたうえで、最後は「いまのところは順調です。来年どう需要が展開するかは、見ていきます」でした。後工程については、外部の組み立て・検査の委託先から「望んだだけの量が取れていない」こと、後工程の装置の納期が延びていることを認めています。ただし「成長を止める関門ではない」と否定し、マレーシアに新しく建てた自社の組み立て・検査拠点を急いで立ち上げている、と説明しました。
数字を押し上げているもののうち、いまだけの可能性があるものは、こう整理できます。
- 顧客の在庫の積み直し。CEO自身が「強い循環の回復」と呼んでいる部分です
- 工場の稼働率の上昇。売上が増えた分だけ、原価の側でも追い風になっています
- 急ぎの顧客との個別の値上げ。年に一度の交渉の外で出た値段です
- 直近1年の手元に残る現金(フリーキャッシュフロー)84億ドルのうち、16億ドルは米国の半導体補助金(CHIPS法)による分です
一株利益の側は、逆に税務の個別項目で1セント削られています。飾られた数字ではありません。それでも、粗利率64%という水準の中に、波の上り坂でしか出ない分が入っていることは、会社の答え方から読み取れます。
10〜12月期は「季節より強い」横ばい見通しでした
💡ガイダンス=会社が自分で出す次の期の業績予想。
次の10〜12月期について、会社は売上58億〜63億ドル、一株利益2.45〜2.79ドルを示しました。売上の中央は60.5億ドルで、今回の61億ドルとほぼ横ばいです。
横ばいなら弱い、と読みそうになりますが、この会社では違います。質疑で参加者が言ったとおり、10〜12月期は電卓や個人向け電子機器が落ちる季節で、例年は前の四半期より1桁台の中盤から後半くらい下がります。その参加者は「ここしばらくで最も強い部類の10〜12月期になる」とも指摘していました。CEOが挙げた理由は、季節に左右されないデータセンター向けの比重が大きくなったことと、工業向け、自動車向けの勢いです。
💡コンセンサス=その会社を調べているアナリストたちの予想の平均。
市場の予想(2026年の通年)は、売上219.7億ドル、一株利益8.53ドルでした。1〜9月の実績に10〜12月の見通しの中央を足すと、売上は約224億ドル(予想を約2%上回る)、一株利益は約9.06ドル(約6%上回る)になります。上回ってはいます。ただ、通年の景色が一変するほどの差ではありません。
波を待っていた会社でもあります
ここまで読むと、「結局は景気の波なのか」と思うかもしれません。ただ、この会社の話にはもう一つの面があります。波が来たときに、それを受け止める工場を先に建てていたことです。
CEOは、アナログ半導体の工場は、更地から生産が出るまでに約4年かかると言いました。そして中国の外では、この4年間、アナログの新しい生産能力はあまり増えていない、とも。一方でこの会社は、下り坂の間に工場の建屋と、半導体を作るためのクリーンルームを用意してきました。
💡クリーンルーム=ほこりを極限まで減らした、半導体を作るための部屋。建屋と設備の準備に何年もかかるので、需要が来てから建て始めても間に合いません。
CEOは、その準備についてこう言いました。
「2027年以降の分も、装置を入れる場所は確保してあります。支えたい売上の伸びに合わせて、入れるペースを調整していきます」
だから「後工程の装置が届くのが遅い」は、「工場が無い」とは違う種類の問題だ、というのが会社の説明です。地政学的に安心できる供給元、つまり中国や台湾の外の工場を顧客が求めている、という話も出ました。
整理すると、こうなります。いま起きている伸びの多くは、波の上り坂です。ただ、上り坂で注文を取りこぼさない準備は、この会社がしてきた。 波は終わります。終わったときに、取った分がどれだけ残るのか。そこはまだ、誰にも分かりません。CEO自身も、シェアが上がったかどうかは「まだ測れない」と言っています。
1月に2027年の値段が上がらなければ、読み違いです
今回の読みは、「構造の成長と、強い波の上り坂が重なった四半期。値段と受注残の言葉は、3ヶ月前より一歩引いた」です。
これが外れていたと分かる形は、こうです。
- 1月の説明会で、2027年の値段が上がらない、あるいは下がると示される
- 1〜3月期の見通しが、例年の季節の落ち込みより弱く出て、顧客の在庫の積み直しが終わったと語られる
- データセンター向けの伸びが、2倍近いペースからはっきり鈍る
逆に、良い方へ外れる形もあります。1月に2027年の値上げが具体的に語られ、受注残について再び「積み上がった」という言葉が戻ってくる場合です。そのときは、3ヶ月前の強気が一時的な後退を挟んで戻ってきたことになります。
ここに書いたのは、2026年10月21日の説明会までに分かっていることだけです。2027年の値段は1月、設備投資の計画は2月の説明会まで、会社は数字を出さないと言っています。
波が来ている会社の決算は、数字だけ並べると、どこも同じように強く見えます。違いが出るのは、その強さを経営陣がどう説明したかです。今回、この会社は自分から「循環」と言いました。次の1月の説明会で、値段の言葉がどちらへ動くかを見に行きます。
※この記事は、決算説明会の原文をAIで読み解いて書き、複数の検査(事実照合・表現・法務)を通したうえで公開しています。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。