クラウドの売上が、1年で2倍になりました。
あのグーグルの話です。検索とYouTubeの会社として知られていますが、いまこの会社の中でいちばん速く伸びているのは、企業にAIの計算を貸し出し、自社製のAI半導体を売る事業のほうです。
日足チャート(価格/出来高/RSI(2)/ニュースセンチ/RSランク)。毎日自動更新。
※この記事で扱うのは、2026年10月28日に行われた、2026年7〜9月期(第3四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、僕の予測ではありません。次回の決算日は会社の発表待ちです。
💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストに向けて説明し、質問に答える電話会議。発言はそのまま記録に残ります。
派手な数字が並んだ決算でした。それでも読み終えて頭に残ったのは、伸びた数字ではなく、広告の責任者が自分の口から言った一文と、3ヶ月前には言っていたのに今回は消えた言葉のほうです。
その前に——「TPU」って、何でしょう
この決算の背骨は、TPUという半導体です。ここを知らないと、何が変わったのかが伝わりません。
名前から想像されるのと違って、TPUは「パソコンに入っている部品」ではありません。 グーグルがもともと自分の検索や翻訳のAIを動かすためだけに作ってきた、AI専用の計算用チップです。長いあいだ、社外には売らず、自社のクラウドの中で貸し出すだけでした。
普通、AIの計算をしたい会社は、エヌビディアのGPU(画像処理用から発展した汎用の計算チップ)を買います。何にでも使える代わりに高い。TPUはその逆で、AIの計算に用途を絞って作り込んだ専用品です。
たとえるなら、自分の店のためだけに回していたセントラルキッチンの料理を、よその店にも卸し始めたようなものです。しかも今回は、料理だけでなく厨房の設備一式(チップ、ネットワーク、ソフト)を相手の建物に据え付けるところまで売っています。
これがこの記事の結論にどう効くか。設備一式の納入は、売上が「塊」で入ってきます。 月額の利用料のように毎月なだらかに積み上がるのではなく、納めた四半期にどんと計上される。だから、TPUがクラウドの数字をどれだけ押し上げたのかを分けて見ないと、事業の本当の伸びが分かりません。そしてこの決算で会社は、TPUを除いた伸びを語る言葉から「加速」を外しました。
「学習を始めた」から「2つ出した」へ、TPUは「今年は少し」から「2027年に本格化」へ
まず、前に進んだ言葉です。
新しいAIモデル「Gemini 4」について。
3ヶ月前:「Gemini 4に向けて、これまでで最も野心的な事前学習を始めました」
今回:「Gemini 4のArgon、そして本日発表したCarbonによって、最先端を走っていることに興奮しています」
学習を始めた段階から、2つのモデルを世に出した段階へ。3ヶ月で、作っている途中のものが製品になりました。
TPUの売上について。 ここがいちばん大きく変わりました。
3ヶ月前:「既存のTPUシステム販売契約による売上は、今年は比較的小さな部分しか計上されない見込みで、2026年の終わりにかけて増えていきます」
今回:「TPUシステムの販売は第4四半期も拡大を続け、その後2027年に意味のある売上の立ち上がりを見込んでいます」
「今年は少し」から「来年に本格的に」へ。売り先の広げ方も具体になりました。クラウド部門の責任者は「Crux AIとOracleの両社と、TPUシステムを提供する提携を最近結びました。さらに進行中のものもあります」と述べています。TPUを使っている顧客は100社近くです。
💡受注残(バックログ)=契約は済んでいるが、まだ売上として計上していない仕事の残高。これから入ってくる売上の「予約票」の束です。
その受注残の中身も、少し前に進みました。今後24ヶ月で売上になる割合が「50%強」から「55%強」に上がっています。 予約票のうち、近いうちに売上になる分の比率が増えたということです。
クラウドは+103%、ただし会社全体の利益率は下がりました
数字だけなら、クラウドが会社を引っぱった四半期です。
- 会社全体の売上 1,276億ドル(前年同期比 +25%)。1ドル150円で約19兆円
- クラウドの売上 307億ドル(前年同期比 +103%。前の四半期は+82%で、2四半期続けて加速)
- クラウドの営業利益率 36.2%(前年同期は23.7%)
- 検索などの広告売上 633億ドル(前年同期比 +12%。前の四半期は+17%)
💡営業利益率=売上のうち、本業の費用をすべて払った後に残る割合。
クラウドは、伸びただけでなく儲かるようにもなっています。営業利益は111億ドルで、前年同期の3倍を超えました。
一方で、会社全体の営業利益率は31.8%で、前の四半期の34.0%から下がりました。純利益と一株利益は前年同期より減っています。理由は本業ではなく、保有しているSpaceX株の値下がりによる評価損で、本業の外の損益が82億ドルのマイナスになりました。フリーキャッシュフロー(本業で稼いだ現金から設備投資を引いた残り)は、この四半期は91億ドルのマイナスです。設備投資が514億ドルあり、TPUを売るための在庫の積み上げも現金を使いました。
AIの使われ方の数字も伸びています。自社モデルのAPIが処理する量は1分あたり約320億トークン(前の四半期は約220億、その前は約160億)。Geminiのアプリは10億人に届いたと言っています。
💡トークン=AIが文章を読み書きするときの単位。日本語ならおおよそ1〜2文字。処理量はAIがどれだけ使われているかの目安になります。
AIモードは「収益化が低い」と、広告の責任者が自分で言いました
ここからが、僕が引っかかったところです。
💡AIモード=検索欄に質問すると、リンクの一覧ではなくAIが会話のように答えを返すグーグルの検索画面。
3ヶ月前、広告事業の責任者(最高事業責任者)は、AIが答えを要約して出す画面の稼ぎについて、こう言っていました。
「AIによる概要を表示する検索で、収益化の成果には引き続き手応えを感じています。より商業的な検索にまで広げているにもかかわらず、です」
今回、同じ人がこう言いました。
「AIモードの検索が強く伸びたことが影響しました。AIモードでは、収益化が低かったためです」
そしてすぐ次に、こう続けています。
「はっきり言っておくと、ここでの軌道には非常に良い感触を持っています。広告の実験は有望な結果を示しており、AIによる概要とAIモードの両方で広告を広げているところです」
公平のために書くと、会社は検索の減速の理由に順位をつけていて、いちばん大きい理由は為替だと言っています。次がEUの小口輸入の免税廃止でアジアの小売の広告主が影響を受けたこと、6月のワールドカップで膨らんだ広告予算が平常に戻ったこと。AIモードの収益化はその後に出てきます。財務責任者は別に、前年の後半に検索が加速していた反動で、約3ポイント成長を失ったとも数字で示しました。
それでも、です。「手応えを感じています」が、3ヶ月で「収益化が低かった」に変わりました。言ったのは外のアナリストではなく、広告で稼ぐ責任を持つ本人です。AIで答えを返すほど、広告を差し込む余地は狭くなる。グーグルにとっていちばん痛い問いに、会社自身が半分だけ答えた一文だと僕は読みました。
TPUを除いた「加速」と、顧客の数字が消えました
前の四半期にはっきり言っていたことが、今回は出てきませんでした。
1つ目は「加速」です。 3ヶ月前、財務責任者はTPUの販売を除いたクラウドについてこう言っていました。
「クラウドの売上成長は、TPUシステム販売の影響を除いても、大きく加速しました」
今回、同じ財務責任者が選んだ言葉は違いました。
「TPUシステムの影響を除いたクラウドの売上成長率は、今回も信じられないほど強いものでした」
「強い」は残りました。「加速」が消えました。 質疑応答でこの成長率そのものを聞かれたクラウドの責任者も、「今回も非常に、非常に強い」と言うにとどめ、数字は出さず、次の四半期に加速するかにも答えませんでした。
2つ目は、顧客獲得の数字です。 3ヶ月前は「新規顧客の獲得ペースは前年の2倍を超えている」「顧客は契約した利用額を50%以上上回って使っている。これも前の四半期より加速している」と、2つの数字を出していました。今回は「新規の顧客がGCPを買い、成長と新規の採用が加速しています」と言葉だけで、どちらの数字もありません。
💡GCP=グーグル・クラウド・プラットフォーム。企業に計算能力や保存場所、AIの道具を貸し出す、クラウド事業の中心部分。
3つ目は、受注残の増え方です。 3ヶ月前は「受注残は前の四半期から500億ドル超増え、5,140億ドルになりました」と、増えた額を自分から言っていました。今回の受注残は5,610億ドル(1ドル150円で約84兆円)。増えた額は約470億ドルで、前の四半期を下回ります。そして今回は、増えた額への言及がありません。
ひとつずつは小さな変化です。ただ、3つとも同じ方向を向いています。TPUの塊の売上が入った四半期に、TPU以外の勢いを示していた言葉と数字が、そろって引っ込みました。
TPUの儲けを3回聞かれて、3回とも数字が出ませんでした
TPUがどれだけ儲かるのかを、3社のアナリストがそれぞれ別の角度から聞きました。1ギガワット分(ギガワットは電力の単位で、AIの計算設備は使う電力の大きさで規模を数えます)のシステムのうち何割が売上になるのか、マージンは良い事業なのか、TPUを除いた本当の成長率はいくつか。答えは3回とも数字になりませんでした。財務責任者は「当然ながら、製品単位の財務は出していません」、クラウドの責任者は「個別の製品やインフラの部品ごとのマージンは分けて出していません」。3回聞かれて3回数字が出ない以上、TPUの儲けは、いまは外から確かめようがありません。
その一方で、在庫の積み方については具体的に答えています。「部品を調達して在庫を積むのは、契約に署名した後だけです。TPUシステムの在庫は、すべて確定した契約に紐づいています」。 見込みで作って売れ残る心配は、少なくとも会社の説明では小さい。
数字を押し上げたもの、押し下げたもので、一時的な性質のものも並べておきます。
- TPUの納入は塊で入るので、四半期ごとの山谷が出やすい。会社もこの四半期のクラウドに「意味のある寄与があった」と認めています
- 外部から借りた計算能力を、つなぎとして使い始めました。この四半期は末日近くに稼働したので影響は小さかったものの、会社は「近い将来、マージンに逆風が出る」と言っています
- 為替は次の四半期に「やや大きな逆風」、前年の検索の加速との比較もさらに数ポイント効く見込みです
- 純利益の減少はSpaceX株の評価損、現金の流出には欧州委員会の制裁金の支払いも入っています
つまり次の四半期は、会社自身が「逆風」と名指ししたものが3つ重なった状態で始まります。売上や一株利益の数値の見通しは今回も出していません。年間の設備投資の見通し(1,950億〜2,050億ドル)は据え置きで、前向きに語った将来はTPUの「2027年の立ち上がり」と「2027年に設備投資を大幅に増やす」の2つだけでした。
💡ガイダンス=会社が自分で出す業績の見通し。今回のこの会社は、売上や利益の数字のガイダンスを出していないので、市場の予想と並べて比べる材料がありません。
なぜ、いまグーグルにこれが起きるのか
理由は、AIの計算能力が足りていないことにあります。
クラウドの責任者は、質疑応答でこう言いました。「容量があれば、明らかにもっと多くの需要に応えられます」。需要より供給が先に尽きている。だから他社の建物の計算能力まで借りて、マージンを削ってでも埋めにいっています。
ここでTPUが効きます。エヌビディアのGPUを買えない、あるいは待てない会社にとって、グーグルが自分で作ってきたチップは数少ない別の選択肢です。会社が名前を挙げた顧客は、AI開発のAnthropic、AIの事前学習を広げているApple、金融のCitadel SecuritiesとJump Trading、大学のカリフォルニア工科大学など。売り方も、自社のクラウドで貸す、OracleやCrux AIの施設に置く、顧客のデータセンターに据え付ける、の3つに広がりました。
そしてその売上の多くは、もう契約されています。受注残5,610億ドルのうち55%強、ざっと3,090億ドルが今後24ヶ月で売上になる見込みです。将来の購入の約束(部品や設備を買う契約)は9,240億ドルに積み上がっていて、会社が供給側にどれだけ賭けているかが分かります。
ただし、ここにもう一つの事業が重なります。検索です。AIの計算を売る事業が倍の速さで伸びている同じ会社で、AIが答えを返す検索の稼ぎは、広告の責任者自身が「低い」と言いました。片方の事業の追い風が、もう片方の事業では逆風の形をしています。 グーグルの決算がこれから難しくなるのは、たぶんここです。
次の決算で、何が分かれば僕の読みが外れたことになるか
今回の読みは「クラウドとTPUは契約の裏づけつきで前に進んだが、その陰で、TPUを除いた勢いと検索の稼ぎを示す言葉が後ろに下がった」です。外れるとしたら、この3つのどれかです。
- TPUの売上の本格化が「2027年」から後ろにずれる
- 受注残が前の四半期から減るか、24ヶ月で売上になる割合が55%を下回る
- TPUを除いたクラウドの成長率や、顧客獲得の数字が再び数字で出てくる(僕の読みより良い方へ外れる形です)
いちばん知りたいのは、検索のほうです。AIモードの広告が広がった次の回で、広告の責任者が「低い」をどう言い換えるのか。 「有望な実験」が実数に変わっていれば、今回の一文はただの通過点だったことになります。
ここに書いたのは、2026年10月28日の説明会までに分かっていることだけです。TPUの売上が塊で入る以上、次の四半期の数字は大きく振れるはずで、そのときに一番目立つ数字が一番大事な数字とは限りません。
数字の大きさでは、この会社の今回の決算はほとんど文句のつけようがありません。だからこそ、消えた3つの言葉と、広告の責任者の一文を覚えておきます。次の決算説明会が終わったら、同じ場所をもう一度確かめて書きます。
※この記事は、決算説明会の原文をAIで読み解いて書き、複数の検査(事実照合・表現・法務)を通したうえで公開しています。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。