売上は、前の四半期からほとんど動きませんでした。財務責任者も自分の口で「横ばい」と言っています。
それでも、同じ説明会の中で、創業者で社長のブライアン・アームストロングは「just shocking(とにかく衝撃的だ)」と言いました。合計の数字の下で、中身の入れ替わりが起きていたからです。
アメリカで最大級の暗号資産の取引所、コインベースの話です。
日足チャート(価格/出来高/RSI(2)/ニュースセンチ/RSランク)。毎日自動更新。
※この記事で扱うのは、2026年10月29日に行われた、2026年7〜9月期(第3四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、僕の予測ではありません。次回の決算日は会社の発表待ちです。
💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストの質問に答える場。コインベースは電話会議ではなく、Xのライブ配信で行っています。発言は記録に残ります。
その前に——「予測市場」は、予想屋の市場ではありません
この決算の主役は、ビットコインではありません。予測市場という、今年2月に始めたばかりの商品です。
名前から、専門家が相場を予想して売る場所を想像するかもしれません。違います。「ある出来事が起きるかどうか」に値段をつけて、それを売買する市場です。起きれば1枚1ドル、起きなければ0ドルになる券を、みんなが売り買いします。
天気予報の「降水確率60%」を思い浮かべてください。あれは気象の専門家が出す数字です。予測市場では、その数字に当たるものを、売り買いする人たちの値段が決めます。「雨が降る券」が60セントで取引されていれば、市場は60%で降ると見ている、ということです。
これがコインベースにとって大きいのは、ビットコインの値動きと関係なく取引が生まれるからです。暗号資産の取引所の売上は、これまで相場が盛り上がるかどうかでほぼ決まっていました。相場が静かな四半期でも、選挙やスポーツやニュースは毎週起きます。今回の決算は、その違いが初めて数字に出た回でした。
3ヶ月前は「多くの成功」、今回は「年換算2億ドル」
予測市場について、3ヶ月前の財務責任者の言い方はこうでした。
3ヶ月前:「予測市場まわりのグロース・マーケティングで、多くの成功を見ています」「この初期の段階で、上乗せの取引が生まれていることが示されています」
今回、財務責任者は初めて金額を出しました。
今回:「第3四半期の間に、年換算の売上ペースが2億ドルを超えました」
「成功」という手応えの言葉から、金額へ。1ドル150円で計算すると、年換算で300億円を超えるペースです。
💡年換算の売上ペース(annualized run rate)=ある時点の売上の勢いが1年続いたら、いくらになるかという数字。実際に1年で稼いだ額ではありません。
もうひとつ、言葉が数字に変わったものがあります。AIエージェントによる取引です。
3ヶ月前(社長):「それはまだ、本当に初期の段階だと思います。…今の時点で共有できる具体的な数字や予測は無いと思います」
今回(社長):「エージェントによる取引量は、いま週ごとに20%くらい伸びています。とにかく衝撃的です」
ただし社長は、同じ発言の中でこう付け足しています。「全体から見れば、この数字はまだ、ほかの取引量に比べて比較的小さい」。冒頭の「衝撃的」は、伸び方の話であって、大きさの話ではありません。ここは本人が自分で線を引いています。
💡AIエージェントによる取引=人の代わりにAIが口座につながり、指示に沿って売買や支払いをすること。コインベースはその接続口を「Coinbase for Agents」という名前で用意しています。
合計が動かなかったのは、穴を埋めたからでした
💡スポット取引=暗号資産そのものを、その場で買ったり売ったりする、いちばん普通の取引。コインベースの昔からの稼ぎ頭です。
では、なぜ全体の売上は横ばいだったのか。財務責任者の説明は、はっきりしていました。
「暗号資産のスポット取引量は、全体で前の四半期から10%減りました。予測市場の伸びが、スポット取引の減少を相殺しました。そして売上は、前の四半期から横ばいでした」
つまり、稼ぎ頭が1割縮んだ穴を、今年2月までは存在しなかった商品が埋めた、という四半期です。中身の比率も、会社が数字で示しました。
- 予測市場とデリバティブを合わせて、取引収入の約25%
- 取引以外のサービス収入が、純収入全体の約49%
- 予測市場は「スポット取引を食い合っていない。全部が上乗せだ」(財務責任者)
💡デリバティブ=先物など、暗号資産の値段に連動する契約を売買する取引。コインベースは海外の大手取引所デリビットを買収していて、それを米国の顧客にも開くと今回言っています。
売上のほぼ半分が、取引の手数料以外から来ている。数年前のコインベースを知っている人には、別の会社に見えると思います。社長も、この点が「まだ広く理解されていない」と言い、こう続けました。
「現場の事実は、全体の数字に表れているよりも、実際にはずっと良く見えています。全体の数字は、どちらかといえば横ばい気味ですが」
社長自身が、合計は横ばいだと認めています。そのうえで、中身を見てくれと言っている。この順番を、僕は正直だと受け取りました。
3ヶ月前に胸を張っていた3つが、今回は出てきません
前の四半期に具体的に語っていたことのうち、今回は出てこなかったものがあります。
1つ目は、有料会員の Coinbase One です。3ヶ月前、財務責任者は「この四半期、Coinbase Oneの有料会員数は過去最高になりました」と言っていました。今回は、会員について一言もありません。
2つ目は、上場前の企業の株価に連動する新商品です。3ヶ月前、社長は「初期の手応えは間違いなく心強い」と言っていました。今回は触れていません。
3つ目は、ステーブルコインのUSDCを発行するサークルとの契約です。3ヶ月前は「同じ条件で更新される」と言っていました。今回語られたのは、「USDC全体の経済の約50%を受け取っている」「流通しているUSDCの約30%を、私たちのプラットフォームで預かっている」という配分の話だけで、更新の話は出てきませんでした。
💡ステーブルコイン=1ドルなど、法定通貨と同じ値段を保つように作られた暗号資産。USDCはその代表で、コインベースは発行元のサークルと利益を分け合う関係にあります。
言わなかったことが、悪いことだとは限りません。予測市場の話で時間を使い切った、という見方もできます。ただ、前の回にわざわざ数字や約束の形で出していたものは、次の回でもう一度確かめたくなります。
見通しは出ず、取引の手数料率にも答えませんでした
会社はこの場で、次の四半期や通年の数字の見通しを示しませんでした。前の四半期も同じです。社長の言葉は「取引量が戻ってきていて、機関投資家の口座開設も増えている」という手応えまでで、そこから先は数字になっていません。
質疑応答で最も重かった問いへの答えも、半分で止まりました。予測市場が個人の取引収入をどれだけ支えたのか、そして手数料率(テイクレート)はこの先どうなるのか、と聞かれました。前半には2億ドルという数字で答えました。後半の手数料率については、水準も向きも答えていません。
💡テイクレート=取引額のうち、取引所が手数料として受け取る割合。同じ取引量でも、ここが下がれば売上は減ります。
そして、この四半期の数字を動かしたものには、会社の努力の外側にあるものが混ざっています。
- スポット取引の減少は、暗号資産の相場の波そのものです。今期はビットコインの値動きに連動する投資信託(ETF)に大きな資金が流れ込み、値動きは落ち着きました
- 予測市場の需要は、選挙やスポーツなど、出来事の多い少ないに左右されえます。始めて8ヶ月で、まだ季節を一巡していません
- USDCから入る利息の取り分は、金利の水準と流通量しだいです
別の話として、会社は自社でビットコインを買い続けていて、社長は「18,000枚目を買ったところだ」と言いました。これは事業の売上ではなく、会社の資産の話なので、上の3つとは分けて読みます。
一番大きいのは、売上の土台がいまも暗号資産の相場とつながっていることです。予測市場が穴を埋めたのは確かですが、埋めたのは「減った分」までで、合計を押し上げてはいません。
なぜいま、取引所がこう変わるのか
コインベースがこの1年でやってきたことは、ひとことで言えば「暗号資産しか売っていない店」を「何でも売っている店」に変えることでした。社長はそれを「everything exchange(何でも取引所)」と呼んでいます。
ビットコインの相場が熱いときは、それだけで売上が立ちました。冷めると、売上も冷えた。今回の四半期は、その冷えた側に入りかけたところで、予測市場とデリバティブが受け止めた最初の回です。
ほかにも、その店の棚に並び始めたものがあります。株式を暗号資産の形にした「トークン化株式」は、米国外の顧客向けに始めてから取引量が累計30億ドルに届きました。買収したデリビットは、米国でも使えるようにします。AIエージェントが口座につながる入口も、もう開けてあります。
社長はAIエージェントについて、「いずれこの経済で、人間よりAIエージェントのほうが多くならない世界は想像しにくい」とまで言っています。古い金融機関がエージェントを口座に近づけるのをためらっている間に、先に場所を取る、という考えです。
ただ、ここは数字の大きさで冷静に見ておきます。予測市場の2億ドルは年換算のペースで、エージェントの取引は社長自身が「比較的小さい」と言っています。店の棚が増えたのは事実です。その棚が、相場の波そのものを打ち消せるほど大きくなるかは、まだ分かりません。
次の回で見たいところ
僕の今回の読みは「相場の冷えを新しい商品が受け止めた、最初の四半期」です。次の3つのどれかが起きたら、この読みは外れです。
- 予測市場の年換算の売上ペースが、2億ドルを下回ったと語られる
- 予測市場の伸びがあっても、合計の売上が前の四半期からまた減る
- エージェントの取引が、次の回で再び数字なしの話に戻る
反対側の答えも書いておきます。僕の読みより良い方に外れるのは、スポット取引が戻ってきた四半期に、予測市場とデリバティブが同時に伸びていた場合です。そのとき初めて、新しい商品は「穴埋め」ではなく「上乗せ」だったと言えます。財務責任者が今回言った「全部が上乗せ」は、まだ相場が冷えた四半期でしか試されていません。
社長が「衝撃的」と言った数字と、財務責任者が「横ばい」と言った数字は、同じ3ヶ月のものです。相場が戻った四半期に、この2つの言葉の距離が縮まるのか、広がるのか。僕はそこを見に、次の説明会も読みます。
※この記事は、決算説明会の原文をAIで読み解いて書き、複数の検査(事実照合・表現・法務)を通したうえで公開しています。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。