世界で一番売れた薬を失いかけた会社が、その穴を別の薬で埋め直している最中です。
アメリカの製薬大手、アッヴィ。リウマチや皮膚・腸の病気に使う注射薬「ヒュミラ」で長く稼いできた会社で、今はその後継の2つの薬が会社を引っ張っています。今回の決算でも通期の売上見通しをまた引き上げました。それでも、読み終えて1つだけ腑に落ちないことが残りました。
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※この記事で扱うのは、2026年10月30日に行われた、2026年7〜9月期(第3四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、僕の予測ではありません。次回の決算日は会社の発表待ちです。
💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストに向けて説明し、質問に答える電話会議。発言はそのまま記録に残ります。
その前に——薬の「特許切れ」で、何が起きるのか
「特許が切れる」と聞くと、少し売上が減るくらいに思うかもしれません。実際はもっと急です。
新しい薬は、特許で守られている間は、ほかの会社が同じものを作れません。だから値段を保てます。特許が切れると、ほかの会社が同じ成分の薬を安く出してきます。日本の薬局で「ジェネリックにしますか」と聞かれる、あれです。ヒュミラのような注射のバイオ医薬品にも、同じ役割の「バイオシミラー」があります。
💡バイオシミラー=特許の切れたバイオ医薬品とほぼ同じ働きをするように作られた、後発の薬。いわばバイオ医薬品のジェネリックです。
アッヴィにとって、これは他人事ではありませんでした。ヒュミラはこの四半期、売上6億8,300万ドルで前年同期比 −30.6%(為替の影響を除いた数字)。会社自身が「バイオシミラーとの競争が続いているため」と説明しています。
だからこの会社の決算は、「ヒュミラが減る分を、次の薬がどれだけ速く埋めるか」で読むしかありません。その次の薬が、乾癬や腸の病気に使う「スキリージ」と、同じく免疫の病気に使う飲み薬「リンヴォック」です。
売上は+10.5%、通期の見通しは今年3回目の引き上げ
売上は、ヒュミラの落ち込みを抱えたままで1割伸びました。
- 売上 174億ドル(為替の影響を除いて前年同期比 +10.5%。1ドル150円で約2兆6,100億円)
- 調整後の一株利益 3.82ドル(会社の見通しの中央値より7セント上)
- スキリージ 約58億ドル(+22.9%)、リンヴォック 27億ドル(+24.3%)
💡調整後の一株利益=会社が「本業の姿を見るために除く項目」を除いた利益を、株1株あたりに割った数字(non-GAAP)。会計基準どおりの数字とは別物です。この会社は、他社から買った開発中の薬の費用を調整後の数字にも含めていて、今回の3.82ドルはその費用で11セント押し下げられた後の値です。
会社は「今年スキリージとリンヴォックの2つで、合わせて60億ドルの増収になる」と言っています。ヒュミラが減っていく速さを、こちらが上回っている形です。
経営陣の言葉も前に進みました。3ヶ月前の説明会では、スキリージをクローン病の最初の段階で「皮下注射」で使う方法について、こう言っていました。
3ヶ月前:「クローン病でのスキリージ皮下注射による導入療法の米国申請は審査中で、承認の判断はこの秋の後半に見込んでいます」
今回:「クローン病でのスキリージ皮下注射による導入療法について、米国で承認を受けました」
「審査中」が「承認」になりました。
💡クローン病=腸に慢性的な炎症が起きる病気。潰瘍性大腸炎と合わせて「炎症性腸疾患(IBD)」と呼ばれます。
ほかにも「待ち」が「済み」に変わったものがいくつもあります。名前は覚えなくて大丈夫です。多発性骨髄腫の新薬候補エテンタミグは、3ヶ月前は「中間解析が良ければ年内に申請」と条件付きでしたが、今回は「最近FDAに申請した」に変わりました。パーキンソン病の新薬タバパドンは米国で承認を受けています。血液がんの薬エプキンリも、最初の治療で使う第3相試験で良い結果が出たと発表しました。
💡FDA=米国で薬の承認を出す役所(米国食品医薬品局)。新しい薬の試験は第1相→第2相→第3相と段階を踏んで進み、第3相で良い結果が出ると承認申請に近づきます。
上方修正の幅は、前回より小さくなっていました
通期の見通しは上がりました。 売上は約678億ドル(1ドル150円で約10兆1,700億円)へ、2億ドルの上積みです。年初からの累計では8億ドル引き上げたことになります。スキリージ単独の通期見通しも218億ドルへ。会社は「今年3回目の引き上げ」と言っています。
ただ、幅を見ると話が変わります。今回の+2億ドルは、通期売上の約0.3%。前回の引き上げ(+3億ドル)より小さい。
💡市場の予想(コンセンサス)=この会社を調べているアナリストたちの予想の平均。
調整後の一株利益の通期見通しは13.95〜13.99ドルで、中央値は13.97ドル。会社は「中央値で11セントの引き上げ」と説明しましたが、市場の予想は13.95ドルあたりでした。ほぼ同じです。 売上も市場の予想(約676億ドル)をわずかに上回るだけでした。今年3回目の目標の引き上げでしたが、今回は周りがすでにその数字を予想していた、という形です。
そして、来年の数字は出しませんでした。質疑応答で2027年の見通しを聞かれ、最高経営責任者(CEO)は「例年どおり、2027年の見通しは第4四半期の説明会で出します」と答え、「来年もトップクラスの成長を見込んでいる」と言葉だけで返しています。
3ヶ月前にあった「4倍」と「30カ国超」が、今回は出てきません
ここが、僕が一番引っかかったところです。
3ヶ月前、乾癬でのスキリージについて、営業の責任者はこう言っていました。
「新規と切り替えの患者のシェアを、アメリカのほかのどの生物学的製剤や飲み薬よりも、4倍高いペースで獲得し続けています」
「いまや30カ国超で市場シェアの首位を取っています」
今回、同じ人の言い方はこうです。
「最近の飲み薬の競合は、新規・切り替え患者のシェアに実質的な影響を与えていません。スキリージは新規・切り替えの乾癬患者の、およそ2人に1人を引き続き獲得しています」
正直に書くと、「2人に1人」は今でも強い数字です。崩れたとは言っていません。変わったのは向きです。3ヶ月前は「他社の4倍」と攻めの数字で語り、今回は「影響を受けていない」と守りの言い方になりました。新しい飲み薬が出てきたことを、会社のほうから話題にしています。 「4倍」と「30カ国超」は、今回の説明会では一度も出てきません。
ほかにも、下を向いた言葉がありました。
- 会社が「効き目が早く短い」と説明する新しいボツリヌス毒素製剤は、3ヶ月前は「米国に届けられることを楽しみにしている」と言っていましたが、今回はFDAから審査完了通知(CRL)を受けていました
- 精神科の薬ヴレイラーの伸びは、前の四半期の約+19%から+14.3%へ
- しわを埋める注入剤ジュビダームは、前の四半期の−6.6%から−11.8%(為替の影響を除く)へ
💡審査完了通知(CRL)=FDAが「このままでは承認できない」と申請者に返す通知。会社は今回、理由は安全性や有効性ではなく製造に関する点だと説明し、年内に再申請、2027年半ばの判断を見込んでいます。
来年の数字と、薬の値引き制度の影響は、まだ言いませんでした
この決算には、確かめられていない点がいくつか残っています。
ひとつは、上で書いた来年の数字です。もうひとつは、低所得者向けの医療機関に薬を値引きして出す制度(340B)で、来年から新しいリベートの試行に参加することの影響。会社は「財務への影響を言うには早すぎる」と答えました。リンヴォックの皮膚の病気(化膿性汗腺炎)での試験についても、プラセボ(有効成分の入っていない偽の薬)との差がどれくらいになるかを聞かれ、「分からない」として数字を出していません。
数字には、この四半期だけの押し下げと、毎年続く目減りが混ざっています。
- 他社から買った開発中の薬の費用で、今四半期の一株利益が11セント押し下げられた(通期見通しには第4四半期以降の分は入っていない)
- ヒュミラ(−30.6%)はバイオシミラーとの競争で、血液がんの薬イムブルビカ(−26.1%)は競争と米国の薬価引き下げ制度で、減り続けている。こちらは一時的ではなく、構造的に毎年削られる部分です
- ボトックスが薬価引き下げの対象になるかを争った裁判は、説明会の前日に地方裁判所で会社が勝ちました。ただし政府が控訴できるので、決着ではありません
逆に、伸びている側は一時的ではありません。スキリージとリンヴォックの伸びは処方が増えた結果で、どこかの一回きりの収入で押し上げられたものではありません。
乾癬では守りへ、クローン病では攻めへ
背骨はシンプルです。ヒュミラの穴を埋める主役が、乾癬の次にクローン病へ広がり始めた。
乾癬では、スキリージはすでに新規患者の半分を取っています。ここから先の伸びしろは、競合の飲み薬が出てきた分、守りの戦いになります。今回の言葉の変化は、そのことを映していると僕は読みました。
一方の腸の病気では、まだ攻める余地があります。営業の責任者は、腸の病気での新規・切り替えシェアは主な競合とほぼ「50対50」だと言い、今回の承認でこう見込んでいます。
「完全に保険でカバーされるまで、おそらく60日、もう少しかかるかもしれません。(中略)来年の前半から第2四半期にかけて、かなり急速なシェアの加速を見込んでいます」
つまり、この承認の効果が数字に出てくるのは、早くても来年の前半です。
その後ろにも控えがあります。リンヴォックは白斑と円形脱毛症で、今後数ヶ月のうちに米国での承認判断が見込まれていて、会社は2つ合わせて「ピーク時にほぼ20億ドル」の売上を見込んでいます。スキリージに別の仕組みの薬を組み合わせる治療も、第2相の後半段階の試験が始まりました。その第3相をいつ始めるかについて、研究開発の責任者は3ヶ月前の「2028年前半」から、今回「2027年末に始められる可能性もある」と言い方を前に出しました。ただし「今は約束しにくい」と自分で付け加えています。
パーキンソン病の新薬は、売上の立ち上がりが遅くなります。会社は高齢者向けの公的保険(メディケア)でのカバーが広がるのは2028年からと見ていて、大きく伸びるのはそこからだと説明しました。営業の責任者は「初期の需要は当初の想定を上回っている」と言いつつ、「まだ数週間しか経っていない」と自分で限定しています。
全部を足すと、こう見えます。新しい薬は次々に前へ進んでいる。ただし、どれも年間678億ドルという大きな売上の上に少しずつ積む話で、来年の数字を一気に変えるほどのものではありません。 引き上げ幅が小さくなったことと、筋は合っています。
クローン病の加速、2027年の見通し、乾癬の「2人に1人」——どれかが崩れたら読みは外れです
主役交代は順調です。ただ乾癬では守りに入り始めていて、次の伸びはクローン病に懸かっています。
- 来年前半の説明会で、クローン病の新規患者シェアの加速が語られない
- 第4四半期の説明会で出る2027年の売上見通しが、いまの市場の予想(約736億ドル)を下回る
- 乾癬の「2人に1人」という数字が、次の説明会で出てこなくなる
逆に、乾癬で再び「他社の何倍」という攻めの数字が戻ってきたら、僕が慎重すぎたことになります。今回の言い方の変化は、一時的な言葉選びだったということです。
パーキンソン病の新薬の手応えはまだ数週間ぶんで、クローン病の承認が数字に出るのは来年の前半からです。
アッヴィは今回、乾癬で半歩、守りに寄りました。スキリージの売上はまだ2割以上伸びていて、変わったのは数字ではなく、経営陣がこの薬を語るときの向きです。次の回で、その半歩が戻るのか、もう一歩進むのか。また読みます。
※この記事は、決算説明会の原文をAIで読み解いて書き、複数の検査(事実照合・表現・法務)を通したうえで公開しています。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。医薬品の効能・安全を保証するものでもありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。