世界のどこかで物が足りなくなると、それを持っている会社が儲かります。今回のエクソンモービルの決算は、まさにその形でした。
アメリカ最大の石油会社で、経営陣は自分たちを「国営ではない精製会社としては世界最大」と紹介しています。中東の紛争で原油やディーゼルの流れが細り、その不足をこの会社が埋めました。
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※この記事で扱うのは、2026年10月30日に行われた、2026年7〜9月期(第3四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、僕の予測ではありません。次回の決算日は会社の発表待ちです。
💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストに向けて説明し、質問に答える電話会議。発言はそのまま記録に残ります。
その前に——「精製で儲かる」とは、どういうことでしょう
石油会社と聞くと、地面から原油を掘って売る会社を思い浮かべると思います。半分は正解です。エクソンモービルには、もう半分の顔があります。掘った原油(や買ってきた原油)を、ガソリンやディーゼルに作り替えて売る顔です。これを精製と呼びます。
💡ディーゼル=トラックや船、建設機械を動かす軽油のこと。物流が止まると真っ先に足りなくなる燃料です。
掘る仕事の儲けは、ほぼ原油の値段で決まります。精製の儲けは違います。原油を仕入れた値段と、作ったガソリンやディーゼルを売った値段の差で決まります。この差を精製マージンと言います。
パン屋で考えると分かりやすいです。小麦粉が少し値上がりしても、町中のパン屋が何軒も休業してパンが足りなくなれば、残ったパン屋は高く売れます。原料より製品のほうが大きく値上がりして、差額が広がるからです。
日本でいえば、ENEOSの製油所がやっている仕事がこれにあたります。エクソンモービルは、それを1日に約360万バレルの原油で回しています。
今回の決算は、この「差額」が広がったことで説明できる部分が大きいのです。CEO自身が、こう言っています。
「この供給不足が、品薄の市場と、より高い市場価格につながりました」
だから、この決算の数字を読むときは、会社が強くなった分と、周りが足りなくなった分を分けて見る必要があります。
利益は154億ドル。3ヶ月前の145億ドルから少し増えました
3ヶ月で稼いだ現金は、使った分を大きく上回りました。
- 純利益(会計基準どおり)154億ドル(前の四半期は145億ドル)
- 営業キャッシュフロー 257億ドル
- 設備投資 70億ドル、株主への還元 94億ドル(配当と自社株買いの合計)
💡営業キャッシュフロー=本業で実際に入ってきた現金。利益は会計上の数字ですが、こちらは財布に入った現金です。
154億ドルは、1ドル150円で約2兆3,100億円です。3ヶ月で、これだけの利益を出しています。
ただし、前の四半期からの伸びは約9億ドルで、小幅です。そして前の四半期も、同じ中東の紛争のさなかでした。前回もCEOは、この状況への備えを強調していました。追い風は今回が初めてではなく、2四半期続いています。
ディーゼルの生産量もその表れです。前の四半期は「第2四半期として過去最高のディーゼル生産」。今回は「年初来で、業界トップの量のディーゼル、日量およそ110万バレルを生産しました」。
株主への還元も動きました。1株あたり配当を4%引き上げ、44年連続の増配。2027年の自社株買いは200億ドルで維持する計画です(「妥当な市場環境を前提に」という条件つき)。引き上げではなく、据え置きです。
言葉は「備えていた」から「報われる」へ変わりました
経営陣の言い方は、3ヶ月で前向きになりました。
3ヶ月前:「今の状況を予期していたわけではありませんが、備えはできていました」
今回:「その集中と献身が、こういう時に報われるのです」
ここだけ読むと、会社に何か新しい強さが生まれたように見えます。でも、変わったのは言い方で、追い風の中身は同じです。どちらの四半期も、利益を押し上げたのは中東の紛争による品不足でした。
本当に一段進んだ言葉は、別の場所にありました。LNG(液化天然ガス)です。
💡LNG=天然ガスをマイナス160度ほどに冷やして液体にしたもの。体積が約600分の1になるので、船で海外へ運べます。日本の都市ガスや発電の多くもこれです。
モザンビークとパプアの案件で、言葉はこう変わりました。
3ヶ月前:「モザンビークは、その事業の最終投資決定を目指しています。パプア、パプアニューギニアは、年内後半の最終投資決定を見込んでいます」
今回:「モザンビークでは、ENIと合意しました。これによりRovuma LNGの当社の操業持分を50%に引き上げ、操業に関わらない鉱区からは撤退します」
「目指す」から「合意した」へ。パプアのLNG事業でも、持分を引き上げてオペレーター(事業の運営役)を引き受けることで合意しています。
💡最終投資決定=その事業に本当にお金を投じて建設を始めると、会社として正式に決めること。ここを越えて初めて、計画が工事に変わります。
ただ、正確に言うと、合意したのは持分と運営役の話で、最終投資決定の話ではありません。 今回、最終投資決定という言葉は出てきませんでした。質疑応答での見通しも「年末までにクローズできると、かなり楽観しています」で、これは持分の取引を完了させる話です。しかもこの事業が売上に効いてくるのは、ずっと先になります。
3ヶ月前に語っていたのに、今回は出てこなかったこと
言葉が前に進んだ場所がある一方で、前の四半期に具体的に語っていたことが、いくつも消えました。
1つ目は、ガイアナの次の案件です。 前回はこう言っていました。
「Longtailは最終投資決定に向けて進んでおり、9隻目のFPSOの可能性も検討しています」
Longtailは、ガイアナ沖で次に控えている開発案件の名前です。
💡FPSO=海の上で原油を採って、貯めて、積み出すまでを1隻でこなす船。ガイアナ沖の油田は、これを1隻ずつ増やして生産を伸ばしています。
今回の冒頭の説明では、Longtailにも9隻目にも触れていません。出てきたのは、5番目の開発Uaruが第4四半期に立ち上がる予定であることと、ガイアナ沖の累計生産が10億バレルを超えたことでした。
2つ目は、パーミアン(米テキサス州などの大油田地帯)の生産記録です。 前回は「日量180万バレル(石油換算)を超える、また新たな生産記録を出しました」。今回は生産量の数字がありません。代わりに出てきたのは、「生産は少し凸凹(lumpy)になると、ずっと言ってきました」という言い方です。
3つ目は、化学事業です。 前回は、第1四半期と比べて「化学製品のマージンがおよそ180%増えた」と数字で語っていました。今回、その話はありません。
4つ目は、12月の説明会です。 前回は、長期計画について「会社の計画説明の場で、改めてお話しします」と言っていました。今回、説明会の冒頭で投資家向けの窓口役(IR担当)が「ここ数年のやり方とは違い、12月に正式な計画説明のイベントは開きません」と告げました。2027年の主な計画の数字は、取締役会の承認後にプレスリリースで「再確認」するそうです。
1つずつなら、たまたま話さなかっただけかもしれません。4つ並ぶと、話題が「足元の儲け」に寄り、「先の成長の数字」から離れたことは、はっきりしています。
品不足の追い風と、会社が自分で作った分
この決算には、一時的なものと、まだ答えが出ていないものが混ざっています。
一時的なものから。CEOは、今回の利益を押し上げた市場の状態をはっきり認めています。供給不足で精製の差額が広がったこと。トレーディング(原油や製品の売買)の機会について「市場と、その機会の大きさを割り引いて考えることはできません」と言ったこと。財務責任者も「今のこの価格とマージンの環境では、現金が積み上がっています」と言いました。逆向きの一時要因もあります。UAEの生産は元の水準に戻っていますが、運び出す経路が詰まっていて、「生産は計上されていますが、その販売の実現が遅れています」。カタールのLNGでは設備の損傷も出ています。
一方で、会社が自分で作った強さも、数字で示されています。 財務責任者によると、ディーゼルの収率(同じ原油からディーゼルがどれだけ取れるか)は2019年より約3.5%高く、それが今年だけで「四半期あたり15億ドル、年初来では35億ドル」のマージンにあたるそうです。2019年からの構造的なコスト削減は、前の四半期の163億ドルから169億ドルへ。2030年までに累計200億ドルを目指しています。
だから、この決算は「全部が追い風」でも「全部が実力」でもありません。土台は確かに厚くなっている。ただ、今回の利益の大きさを決めたのは、品不足のほうです。
答えが出ていないものもあります。
- パーミアンの成長ペースは、2人のアナリストが続けて聞きました。返ってきたのは「生産は少し凸凹になる」と、新しい回収技術は「おそらく2030年より先の年に、ずっと大きく効いてくる」で、2027年のペースの数字はありませんでした
- 2030年以降の計画も、別の2人が取り上げました。CEOは「先走りたくはありませんが、かなり有望に見えています」
- 原油が下がったときの還元について、アナリストが「原油が120ドルではなく60ドルだったら、200億ドルの自社株買いは続けられるのか」と聞きました(120ドルと60ドルはアナリストの仮定です)。CEOの答えは方針で、数字ではありませんでした
その方針の言葉は、強いものでした。
「私たちは配当を減らすことは決してありません」
「だから増配の1回1回は、将来にわたって守る義務になる」と続けています。44年連続の増配を、そういう重さで扱っている会社です。ただ、60ドルの世界で自社株買いがどうなるかは、今回も分かりません。
品不足が終わった後に効いてくるもの
では、この会社の「先」はどこにあるのか。今回の説明会で、この先1年ほどで形になりそうな具体は、次のとおりです。
ガイアナ沖の5番目の開発Uaruが、第4四半期に立ち上がる予定です。ガイアナ沖は発見から11年で累計10億バレルに達し、経営陣は「これほど速くこの節目に届いた大型の海洋開発は他にありません」と言っています。
アメリカのLNG輸出基地Golden Passは、2系列目が「12月までにほぼ完工」して試運転に入り、3系列目は「2027年半ばに機械的な完工」を見込んでいます。
💡系列(トレイン)=LNGを作る設備のひとまとまり。1つの基地に何列も並べて、1列ずつ動かし始めます。
パーミアンでは自動の掘削リグを、いまの3基から、来年は船団の約25%、2028年には約半分に広げる計画です。メキシコ湾岸の製油所の改修では、ディーゼルなどの留出油の生産を日量約10万バレル増やす予定で、最初の段階はベイタウンで始まっています。
そして、もう1つの顔として、製鉄会社Nucor向けに二酸化炭素を回収・貯留する事業を始めました。外部の顧客向けとしては3件目、今年2件目です。
ここで、さっきのパン屋の話に戻ります。今の利益を大きくしているのは「周りのパン屋が休んでいること」です。 中東の海峡が通れるようになれば、差額は縮みます。CEO自身も、カタールについて「海峡は開かなければならない」と言っています。
そのとき残るのが、ディーゼルを多く取れる製油所、コスト削減、ガイアナとGolden Passの増産です。品不足が終わった後の決算で、利益がどこまで残るか。そこで、この会社の本当の地力が見えます。
アナリストたちの予想の平均は、1株利益が2026年は13.28ドル、2027年は12.01ドルで、来年は下がる見立てになっています。会社は今回、その見立てを覆す数字の見通しを出していません。CEOは「話してきた計画を上回ると思っています」と言いましたが、「予想で英雄になりたくはない」とも付け加えました。
💡コンセンサス=その会社を調べているアナリストたちの予想の平均。
次の決算で見ること
今回の読みは、「品不足に乗った好決算で、先の成長の数字は語られなくなった回」です。
この読みが外れていたと分かるのは、たとえば次の場合です。
- 中東の海峡が開いて精製の差額が縮んでも、利益が前年並みに戻らない
- 来年に向けた計画の数字(プレスリリースでの再確認)で、パーミアンかガイアナの見通しがはっきり引き上げられる
- 消えたLongtailの最終投資決定が、次の回に具体的な時期つきで戻ってくる
逆に、悪い方へ外れる形もあります。Rovumaの持分取引が年内に完了しない、あるいはUaruの立ち上げが第4四半期からずれる場合です。そのときは、今回いちばん前に進んだ言葉そのものが後退することになります。
ここに書いたのは、2026年10月30日の説明会までに分かっていることだけです。中東の情勢しだいで、次の四半期の数字は大きく動きます。
エクソンモービルの決算は、毎回きっと「利益の大きさ」で見出しが立ちます。でもこの会社の場合、利益の大きさは世界の品不足でほぼ決まってしまう。会社が何を語り、何を語らなくなったかのほうが、先のことを教えてくれます。海峡が開いた後の最初の回で、残った利益を確かめます。
※この記事は、決算説明会の原文をAIで読み解いて書き、複数の検査(事実照合・表現・法務)を通したうえで公開しています。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。