上方修正に喜びかけて、財務責任者の「一度きり」で手が止まりました【サノフィ(SNY)2026年7〜9月期決算】

フランスの製薬会社サノフィが、今年の売上の見通しを2回続けて引き上げました。

この会社の稼ぎ頭は、アトピー性皮膚炎やぜんそくなどに使われている注射薬のデュピクセントです。アメリカのリジェネロンと共同で開発し、利益を2社で分け合っています。その相手との話し合いが、この3ヶ月でまとまりました。

SNY chart_article.png

日足チャート(価格/出来高/RSI(2)/ニュースセンチ/RSランク)。毎日自動更新。

※この記事で扱うのは、2026年10月30日に行われた、2026年7〜9月期(第3四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、僕の予測ではありません。次回の決算日は会社の発表待ちです。

💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストに向けて説明し、質問に答える電話会議。発言はそのまま記録に残ります。

目次

「交渉中」が、数週間で「締結」に変わった

3ヶ月前、社長はリジェネロンとの関係をこう話していました。

3ヶ月前:「さらなる協業の機会を探る話し合いは、生産的に進んでいます。この話し合いは続いており、サノフィとリジェネロンの双方にとって最善の道を見極めるために、続けていきます」
今回:「それ以来、私たちはこの提携の次の章を定めるという目標を、わずか数週間で達成しました」

中身もはっきりしています。提携を広げて、免疫の病気向けの新しい開発品4つの権利を得ました。過去の訴訟も和解しています。「続けていきます」から「達成しました」へ。言葉の上では、この四半期でいちばん大きく前に進んだ部分です。

ただし、4つはどれもまだ早い段階です。先頭の1つはアトピー性皮膚炎で人での最初の試験に入ったところで、承認を目指す本格的な試験は「2027年後半か2028年初め」に始まる見込み。研究開発の責任者は、これをデュピクセントの後継として「早ければ次の10年代の初め」に置いています。売上に出てくるのは、早くても2030年代の話です。

売上は+14.3%、見通しは10%から13〜15%へ

数字は、提携の話より先に、もう良くなっていました。

  • 売上 144億ユーロ(前年同期比・恒常為替で +14.3%)。1ユーロ170円で計算すると、約2兆4,500億円です
  • デュピクセントの売上 57億ユーロ。50億ユーロを超えたのは2四半期連続で、治療中の患者は世界で150万人を超えました
  • 事業ベースの営業利益 +19.7%、利益率は1.9ポイント改善
  • 事業ベースの一株利益 +19.6%

💡事業ベース(business)の数字=サノフィが独自に調整した利益で、会計基準どおりの数字(GAAP/IFRS)とは別物です。会社が本業の外と考える項目などを除いて計算しています。一株利益(EPS)=会社の利益を株の数で割ったもの。株主1株あたりの取り分です。

通期の見通しも上がりました。

💡ガイダンス=会社が自分で出す業績の見通し。恒常為替=為替の変動を除いて計算した伸び率のことです。

財務責任者の言い方は、こう変わっています。

3ヶ月前(財務責任者):「売上は、恒常為替ベースで約10%の成長、一株利益は売上をやや上回る伸びを見込んでいます」
今回(財務責任者):「売上は10%台前半の成長を見込みます。これは通常、13%から15%の範囲を意味します。一株利益は10%台半ば、通常は15%から17%の範囲です」

約10%から13〜15%へ。3ヶ月の間に、見通しが3〜5ポイント上に動いています。ここで僕も一度、喜びかけました。

市場の予想と並べたいところですが、ここは並べられません。会社の見通しはユーロ建て・為替を除いた伸び率で、市場の予想はドル建ての金額で集まっています。物差しが違うので、どちらが上かを言い切ることはできません。

その前に——薬の「定価」と「実際に入るお金」の差

ここから先を読むには、一つだけ知っておいてほしい仕組みがあります。

薬の売上と聞くと、「値段×売れた本数」を思い浮かべると思います。アメリカの薬は、そう単純ではありません。薬には表向きの値段がありますが、その後で、保険会社や薬の給付を管理する会社に値引きの払い戻し(リベート)を返します。さらに、低所得の患者を多く診る医療機関などが薬を割引価格で買える制度(340Bと呼ばれます)もあります。この表向きの値段と、最後に会社の手元に残るお金の差を、業界では「グロス・トゥ・ネット(GTN)」と呼びます。

厄介なのは、この払い戻しの額が、売った時点では確定しないことです。だから会社は、あとでこれくらい返すことになるだろうと見積もって、先に売上から引いておきます。

身近な例でいうと、ポイントカードに近い形です。お店が「発行したポイントのうち、これくらいは使われるだろう」と見積もって、その分を先に売上から引いておく。あとで実際に使われたポイントが見積もりより少なかったと分かれば、引きすぎた分が戻って、その期の売上が増えます。お客さんが増えたわけではありません。

今回のサノフィでは、これが起きていました。データやAIを使ってこの見積もりの精度を上げ、340Bの管理も見直した結果、見積もりを直した分が、7〜9月期の売上を押し上げました。 患者が増えて伸びた売上と、見積もりを直して増えた売上は、決算書の上では同じ「売上」の行に並びます。

伸びの約2ポイントは、会社が「繰り返さない」と言った分でした

財務責任者は、自分からこう認めています。

「その結果、第3四半期には一度きりの例外的なものがありました。先ほど話したとおりで、繰り返すとは思っていません」

そして、それを除いた数字も出しています。この四半期の実質的な売上の伸びは約12%。 14.3%との差の約2ポイントが、見積もりの直しです。

ここで、3ヶ月前の言葉を思い出しておく必要があります。前の四半期にも、価格の面で少し追い風が吹いていて、財務責任者は「年の後半には見られないもの」と言っていました。今回、年の後半の最初の四半期に、また価格の追い風が出ています。しかも会社は、今年の価格のプラスについて「新しい価格の土台になるものもあれば、一度きりのものもある」と説明しています。どこまでが土台で、どこからが一度きりか。その線引きを、外からは確かめられません。

一方で、財務責任者は成長のうち「85%から90%」は繰り返し続く需要から来ていると言いました。デュピクセントの伸びも、社長は「主に需要の増加から」と説明しています。見積もりの直しを除いても、12%の伸びは残っています。上方修正そのものが嘘だったわけではありません。ただ、この四半期の14.3%を、来年も続く速さとして読むことはできません。

新しい薬の伸びは、60%から19%へ

デュピクセント以外にも目を向けると、3ヶ月前とは様子が変わっています。

3ヶ月前(社長):「これらの薬は、すでに売上の13%を占め、第2四半期には60%を超える伸びでした」
今回(社長):「新しく発売した薬の売上は、第3四半期に約22億ユーロに達しました。19.2%の伸びです」

新しく発売した薬は、いまや売上の約15%まで育っています。それでも伸び率は、60%超から19.2%まで落ちました。医療用医薬品に絞った新薬は31%を超える伸びでしたが、全体では鈍っています。希少疾患の薬も、伸びは前の四半期の24%から12.6%(売上19億ユーロ)に下がりました。呼吸器のワクチンは前年同期比で−7%です。

開発中の薬では、前の四半期に具体的に語っていた予定が2つ、今回は消えています。

1つ目は、efdoralprin alfa(エフドラルプリン・アルファ)という開発品です。会社の説明では、生まれつき肺を守るたんぱく質が足りない病気(アルファ1アンチトリプシン欠乏症)による肺気腫が対象です。3ヶ月前の研究責任者は、データが「下半期のうちに」アメリカの規制当局への承認申請の話し合いを支える、と言っていました。今回の研究開発の責任者は「良い申請を支えるデータをすべて集めるために、十分な時間を取るようにしている」と話しました。「下半期のうちに」という時期の言葉が、出てきません。

2つ目は、多発性硬化症の開発品frexalamab(フレキサラマブ)です。3ヶ月前は「再発型の結果を2027年に出す予定どおり」でした。今回は、十分な数の症例を集めて統計の力を強めるために「観察期間を長くする」試験の調整が入り、本格的な試験の結果は「2028年」と書かれています。2027年という言葉は消えました。

2027年について、会社が先に言ったこと

今年の見通しを上げた同じ説明会で、会社は来年の向かい風も自分から並べています。

  • 価格は2027年に「いつもの形」、つまりわずかなマイナスに戻る見込み
  • 成熟した薬の事業などを売却するため、2027年の売上が約13億ユーロ減る(1ユーロ170円で約2,200億円)
  • デュピクセントの伸びは、比べる相手が大きくなるので鈍る。ただし需要の伸びは続く

来年の話とは別に、今年の下半期にも向かい風が1つあります。リジェネロンからの開発費の払い戻しが終わり、利益が約5億ユーロ押し下げられます。別の会社の薬から受け取る特許使用料(今年は約10億ユーロ)がそれを埋める形です。

その一方で、利益については強気の言葉を残しました。財務責任者は、営業利益を来年も金額と利益率の両方で伸ばし、2030年まで毎年伸ばしていくと言っています。売上の伸びは落ち着くと先に言い、利益は伸ばすと言い切る。この組み合わせが、今回の説明会の芯です。

デュピクセントの値段を、5社が角度を変えて聞いた

質疑応答では、多くの質問が一つの論点に集まりました。デュピクセントの値段と、一度きりの見積もり直しと、2027年の伸び。 5つの証券会社が、角度を変えて同じことを聞いています。

いちばん踏み込んだのは、デュピクセントの売上の伸びが処方の伸びを大きく上回っている、そのうち一度きりの分はいくらかという質問でした。財務責任者の答えはこうです。

「デュピクセント単体については、具体的には答えません」

代わりに示したのは、会社全体の14%と12%という数字でした。来年のデュピクセントの伸びについても、デュピクセントを担当する幹部は「前年比の伸びは落ち着くと見ていますが、需要の伸びは続くと見ています」と、向きだけを語っています。2030年に約250億ユーロ(為替を除く)という目標は据え置きで、それを上回る話は「今語る時ではない」としました。買収に使える金額も「申し上げられる立場にありません」です。

それでも、この経営陣は悪い話を隠してはいません。340Bや見積もりの改善について、デュピクセントを担当する幹部は一度済めばその上に伸びるものではない、「伸び続けるとは思わないでほしい、というのが私の言いたいことです」と言っています。一度きりの分を自分の口で一度きりと言い、その上で12%を示した。数字の質としては、正直な部類に入ります。

5社が同じことを聞いたのは、答えが出なかったからです。どの病気に力を集めるのか、何から手を引くのか、特許切れにどう備えるのか、といった具体は、12月の会社のイベントに回されました。

デュピクセントの次を、いま買い付けている

この会社にとって、いちばん大きな問いはデュピクセントの後です。

💡特許切れ=薬の特許が切れると、同じ成分の安い後発品が出てきて、売上が急に落ちます。製薬会社にとって最大の崖です。

いまのサノフィは、デュピクセント1本が売上の約4割を稼いでいます(57億ユーロ÷144億ユーロ)。そこに、アメリカでの競合薬の広告強化や、保険会社との価格交渉という論点が、今回の質疑で何度も出てきました。デュピクセントを担当する幹部は、アトピー性皮膚炎で高度な治療を受けている患者はまだ約20%しかおらず、競合の広告は市場そのものを広げる面もある、と説明しています。

それでも、いずれ崖は来ます。だから会社は2つの手を同時に打っています。1つは、今回のリジェネロンとの4つの開発品。デュピクセントと同じ組み方で、次の世代を押さえにいきました。もう1つは、社長が語った買収の方針の転換です。これからは開発の後期や、すでに売られている段階の薬に移り、科学と臨床のリスクを下げる、と言っています。研究開発の責任者も、社内の開発品だけでは足りないので、提携と買収とAIで補う、とはっきり認めました。

ここに、時間の差があります。デュピクセントの伸びが落ち着き始めるのは来年からだと、会社自身が言っています。後継の4つが売上に出てくるのは、早くても次の10年代の初めです。その間の数年を何でつなぐのか。 12月のイベントで出てくるはずの答えが、この会社のこれからを左右します。

この読みが外れるとしたら

今回の読みは、「提携と上方修正で前に進んだ四半期。ただし伸びの一部は一度きりで、来年の減速は会社自身が予告している」です。外れる形は、次の3つです。

  1. 2027年の早い時期に、デュピクセントの伸びが1桁まで急に落ちる。会社の言う「落ち着く」より、ずっと速いペースで
  2. リジェネロンから得た先頭の開発品が、人での最初の試験の段階でつまずき、本格的な試験の開始が「2027年後半か2028年初め」より後ろにずれる
  3. 次の四半期に、また価格の追い風が出る。そのときは「一度きり」という説明そのものを、読み直す必要があります

良い方へ外れる形もあります。12月のイベントで、デュピクセントの後をつなぐ具体的な薬の名前と時期が出てきた場合です。


今回、僕にとっていちばん印象に残ったのは、財務責任者が上方修正の説明と同じ口で「繰り返すとは思っていません」と言ったことでした。良い数字の一部を、自分で差し引いて見せる会社は多くありません。

その誠実さと、来年の減速は、両立します。次の回では、一度きりの分が抜けた後の伸びが、この会社のふだんの速さとして出てきます。12月のイベントで何が語られ、それが次の決算の言葉にどう残るかを、前の回と並べて読むつもりです。


※この記事は、決算説明会の原文をAIで読み解いて書き、複数の検査(事実照合・表現・法務)を通したうえで公開しています。

※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。また、医薬品の効能・安全性を保証するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

この記事で扱ったような内容は、ブログでは一部しか公開していません。

現在、メルマガでは

  • レラティブストレングスランキング(日本株・米国株)
  • 季節性アノマリーチャート
  • 市場のDNAに基づいた実践的な考え方

を継続的に配信しています。

▶ メルマガの詳細はこちら

この記事を書いた人

圧倒的な熱量で世界の相場を毎日14時間以上監視している専業トレーダーです。トレード、バックテスト、調査で得た学びを初心者の方にもわかりやすく発信しています。

目次