AIの計算資源というと、エヌビディアの半導体と、アマゾンやマイクロソフトの巨大なデータセンターが話の中心になります。その少し外側で、売上の伸びが10年ぶりの高さまで上がってきた会社があります。
デジタルオーシャンです。もともとは、個人の開発者や小さな会社向けに、安くて分かりやすいサーバーを貸してきたクラウドの会社です。いまはそこに、AIのモデルを動かすための計算と、その周りの道具一式を載せて売っています。
■ デジタルオーシャンの決算説明会の内容(要点)
- 次回の決算:2027年2月上旬ごろの見込み(会社の正式発表待ち)
- 今回:2026年7〜9月期・決算説明会は2026年11月3日
- 売上は+40%、5四半期続けて加速しました
- 「50%以上」は「60%以上」に、「兆し」は「実働」になりました
- 見通しは、市場の予想より上にあります
- 3ヶ月前に強調した2つの数字が、今回は出てきませんでした
日足チャート(価格/出来高/RSI(2)/ニュースセンチ/RSランク)。毎日自動更新。
※この記事で扱うのは、2026年11月3日に行われた、2026年7〜9月期(第3四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、編集部の予測ではありません。次回の決算は2027年2月上旬ごろの見込み(会社の正式発表待ち)です。
💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストに向けて説明し、質問に答える電話会議(カンファレンスコールとも呼びます)。発言はそのまま記録に残ります。
その前に——「推論のクラウド」は、何を売っているのでしょう
「クラウド」と聞くと、写真や書類を預けておくネット上の倉庫を思い浮かべるかもしれません。この会社が売っているのは倉庫ではなく、計算です。お客さんの作ったアプリやAIが、この会社のデータセンターにある機械の上で動き、使った分だけ料金が発生します。
AIの計算には大きく2種類あります。モデルを作るための「学習」と、出来上がったモデルに実際に仕事をさせる「推論」です。チャットに質問して答えが返ってくる、AIエージェントが書類を読んで処理する、といった日々の利用はすべて推論の側です。
💡AIエージェント=人が1回ずつ指示しなくても、道具を使い分けながら一連の作業を自分で進めるAIのこと。
同じ「AIの計算を貸す」商売でも、やり方は大きく2つに分かれます。ひとつは、GPU(AI向けの半導体)を積んだ機械を丸ごと、何年もの長期契約で大口の1社に貸すやり方です。もうひとつは、たくさんのお客さんに、使った分だけ払ってもらうやり方です。
日本の身近なものにたとえると、前者は「ビルを1棟、大企業に10年契約で貸す」大家さん、後者は「コインランドリー」です。大家さんは何年分の家賃が先に約束されるので、将来の売上を契約の残高として示せます。コインランドリーは、明日いくら入るかの約束はありません。そのかわり、人が増えれば増えた分だけ回り、料金も相場に合わせて動かせます。
デジタルオーシャンは、はっきり後者の側にいます。今回の説明会で、CEOはこう言いました。
「私たちは、長期のベアメタル契約に縛られていません」
大家さんの側の商売とは違う、と自分から線を引いた一言です。
💡ベアメタル=機械を、ソフトウェアの層を載せずに「むき出し」のまま貸すこと。長期・大口の貸し切りと結びつきやすい形です。
この違いが、今回の決算の読み方を決めています。伸びの勢いはコインランドリー型の強みから来ていて、同時に、3ヶ月前に示した「約束された将来の売上」の数字が今回出てこなかった理由も、会社は説明していませんが、おそらくここにあります。
売上は+40%、5四半期続けて加速しました
- 売上 3億2,100万ドル(前年同期比+40%)。会社が出していた見通しの上限を1,400万ドル超えました
- 調整後の一株利益 0.45ドル(会社の見通しは0.28〜0.30ドル)
- 会計基準どおりでは、4,300万ドルの純損失(一株あたり0.37ドルの赤字)
- 1年分に直した契約売上(ARR)の純増 1億6,000万ドルで、過去最高
💡調整後(non-GAAP)=会社が「一時的だと考える項目」を除いた数字。会計基準どおりの数字(GAAP)とは別物です。今回は黒字の0.45ドルと赤字の0.37ドルで、向きまで逆になっています。
💡ARR=いまの契約や利用のペースが1年続いたら売上がいくらになるか、を示す数字。
売上3億2,100万ドルは、1ドル150円で約480億円です。CEOは「この10年で最も高い伸びで、5四半期連続の加速」と言いました。AI関連のお客さんからのARRは3億7,600万ドルで、前年同期比+288%です。
会計上の赤字については、CFOが中身を説明しています。2030年が期限の転換社債の一部を買い戻したことに伴う、5,700万ドル(一株あたり0.46ドル)の費用で、「この一度きりの費用を除けば、会計基準どおりでも黒字だった」とのことです。赤字の全額がこの1項目で説明されています。本業が赤字に転じたわけではありません。
💡転換社債=あとで株に換えられる権利が付いた借金。今回はその一部を前倒しで買い戻したために、会計上の費用が一度だけ発生しました。
「50%以上」は「60%以上」に、「兆し」は「実働」になりました
3ヶ月前と比べて、経営陣の言い方がはっきり前に出ました。
2027年の成長見通しについて。
3ヶ月前(CEO):「2027年の正式な見通しを出すのは時期尚早ですが、2027年通期で50%以上の売上成長という従来の見立てに、いっそう自信を深めています」
今回(CEO):「2027年について、見通しを50%以上から60%以上に引き上げます。しかも、大幅に高くなった2026年を土台にしてです」
「自信を深めている」は、数字を変えていません。今回は数字そのものを動かしました。しかも、掛け算の土台になる2026年の売上見通しも同時に上がっています(前回の11億7,000万〜11億8,000万ドルから、12億800万〜12億1,100万ドルへ)。CFOは、当初30%と置いていた2027年の成長見通しを60%以上まで引き上げてきたことを挙げ、「中央値で5億ドルを超える上積み」と表現しました。
今年10〜12月期の伸びの見通しも、3ヶ月前の「少なくとも35%」から、今回は「44〜45%」に上がっています。
お客さんがこの会社の製品を次々に使い広げていく循環(会社はこれを「フライホイール=はずみ車」と呼びます)についても、言い方が変わりました。
3ヶ月前(CEO):「このフライホイールの兆しは、すでに見え始めています」
今回(CEO):「それがこのプラットフォームの力であり、フライホイールが実際に回っているということです」
その実例として、今回は製品分析ソフトの上場企業アンプリチュードの名前が出ました。新製品を最初からこの会社の仕組みの上で作っていて、主要な処理の1つでは、公開されているモデルをこの会社で動かすほうが、最先端の大手モデルより約67%安く済んでいる、という説明です。4つ以上の製品を使うお客さんが、売上の約60%を占めるようになったことも、今回初めて示されました。
見通しは、市場の予想より上にあります
💡ガイダンス(見通し)=会社が自分で出す業績予想。
💡コンセンサス=その会社を調べているアナリストたちの予想の平均。会社の見通しは、前回の自分と比べるだけでなく、この平均と比べて初めて強いか弱いかが分かります。
2026年通期の売上見通しの中央値は約12億1,000万ドルで、市場の予想(約11億8,000万ドル)を上回ります。調整後の一株利益の見通しは1.60〜1.62ドルで、3ヶ月前の1.35〜1.40ドルから上がり、市場の予想(約1.45ドル)を1割ほど上回っています。
2027年の売上は、市場の予想が約18億2,000万ドルです。会社の「60%以上」を2026年の見通しに掛けると、約19億3,000万ドル以上になります。会社の言い方どおりなら、予想を少なくとも6%ほど上回る計算です。
ただし、2027年の詳しい見通しは来年2月に出すとしていて、2027年の利益率やフリーキャッシュフローの見通しは、まだありません。
3ヶ月前に強調した2つの数字が、今回は出てきませんでした
言い方が前に出た一方で、前の四半期にいちばん強く語っていた数字が、今回は一度も出てきませんでした。
1つ目は、RPO(残存履行義務)です。3ヶ月前、CFOはこう言っていました。
「残存履行義務は8億9,400万ドルに増え、前年同期の12倍超となりました。平均の残り期間は3.7年です」
3.7年分の約束が、1年で12倍に積み上がった、という話です。
💡RPO(残存履行義務)=すでに契約で約束されていて、まだ売上として計上していない金額。コインランドリーのたとえでいえば、「先払いの回数券」がどれだけ売れているか、に近い数字です。
2つ目は、大口の契約です。3ヶ月前のCEOは「初めて、年間9桁(1億ドル以上)の契約を獲得しました」と言っていました。
今回は、RPOにも、その9桁の契約の続報にも、一度も触れていません。契約総額つきの新しい顧客契約も出てきませんでした。かわりにCEOが言ったのが、先ほどの「長期のベアメタル契約に縛られていない」です。3ヶ月前に「長期の約束が積み上がった」と示した会社が、今回は「長期の約束が無いこと」を強みとして語り直しています。
ほかにも、3ヶ月前とは向きが変わった言葉が2つあります。
資金について。3ヶ月前のCEOは「7月に、最小限の希薄化で借金を減らしました」と言っていました。今回、CFOは「本日、10億ドルの『アット・ザ・マーケット』の株式発行の枠を、前もって設けました」と述べています。10億ドルは、1ドル150円で約1,500億円です。CFOは「使うかもしれないし、使わないかもしれない」とも付け加えています。
💡アット・ザ・マーケット(ATM)=市場で少しずつ新しい株を売って資金を集められる仕組み。使えば、既存の株主の持ち分は薄まります(希薄化)。
大口のお客さんへの依存度について。3ヶ月前は「上位25社がARRの20%にすぎない」、今回は「上位25社が売上の27%にすぎない」。どちらも「にすぎない」と言っていますが、物差しがARRから売上に替わり、数字は上がっています。
今回のCEOの冒頭の説明には、「〜への懸念が強まる中で」という言い回しが3回続きました。大規模なデータセンターの建設、お客さんの集中、AIの成長資金、の3つです。どれにも「当社は違う」と答える形で、3ヶ月前には無かった、守りの構えの言葉です。
質疑応答で、答えが出なかった2つのこと
質疑応答では、同じ論点に複数の証券会社が繰り返し質問しました。答えが出たものと、出なかったものがあります。
答えが出たのは、資金と、データセンターの時期です。CFOは現金約8億5,000万ドル、未使用の機器リースの枠7億8,500万ドル、借入枠約4億ドルを挙げ、「2027年の分は手当てできていると考えています」と言いました。容量は、いま動いているのが約75メガワット、2027年に約75メガワット、2028年に約30メガワットが加わり、署名済みの合計は約180メガワットです。2027年の分は1年をかけて順に動き出すので、下期の伸びが上期より速くなる、とも説明しています。
答えが出なかったのは、次の2つです。
- 2027年に増える容量のうち、すでにお客さんとの契約で埋まっている割合。CFOは「需要は供給を大きく上回っている」と言いましたが、割合の数字は示しませんでした
- AIの計算の値段が下がったときの影響。業界全体の供給が増え、モデルの効率も上がって値段がピークを過ぎたら、という質問に、CEOは「需給が正常化し、トークンの値段が下がり、計算の価格が均衡点を見つけていく中でも、非常に有利な位置にいる」と答えました。数字での説明はありません
2つ目は、この決算の数字そのものに関わります。CEOは別の箇所で、従量制だから「市場の動きに合わせて、上がる価格を取り込める」と言い、1メガワットあたり年2,000万ドルを大きく超える個別の契約を複数まとめたとも述べています。会社全体の平均は1メガワットあたり1,800万ドルです。値段が上がる局面で強いコインランドリー型は、値段が下がる局面ではそのまま逆にも回ります。値段が下がったら売上がどれだけ減るのか、その感応度は、今回も示されていません。
数字を押し下げている一時的なものも、2つあります。新しいメンフィスのデータセンターは立ち上げたばかりで、CFOは1メガワットあたりの売上が「第3四半期は少し押し下げられている」と言っています。また、新しいデータセンターの減価償却とリース料が売上より先に乗るので、会計基準どおりの粗利率は約50%に下がりました。どちらも、容量を増やす途中ではしばらく続く性質のものです。
推論サービスの伸びも、前年同期比で前の四半期の約800%から、今回は約600%になりました。まだ非常に高い伸びですが、勢いは前の回より落ちています。
なぜいま、この会社にこれが起きているのか
理由は、AIの使われ方が変わったことにあります。CEOは、AIの重心が「人がモデルとチャットする」ことから「エージェントが実際の仕事をする」ことに移った、と説明しました。エージェントは、モデルを呼ぶだけでなく、道具を使い、データを読み書きし、安全に試す場所を必要とします。この会社は、もともとの開発者向けのサーバーやデータベースに、推論とエージェント向けの道具を重ねて、まとめて売っています。AI関連のお客さんのARRのうち9割超は、むき出しのGPUの貸し出しではなく、推論サービスと従来からのクラウドから来ている、と会社は言っています。
そして、売れる量を決めているのは需要ではなく、データセンターの容量です。CEOは「需要は引き続き、私たちの供給をはるかに上回っています」と言いました。今年予定していたリッチモンド、カンザスシティ、メンフィスの3拠点はいずれも予定より早く動き出していて、来年は約75メガワットが順に加わります。1メガワットあたり年1,800万ドルという今の平均がそのまま続くなら、容量が増えた分が、来年の売上の伸びにほぼそのまま変わる、というのが会社の描いている道筋です。
逆に言えば、この道筋の弱いところも同じ場所にあります。来年の容量のうち、どれだけがすでに契約で埋まっているのか。値段が下がったときに、1メガワットあたりの売上がどこまで保てるのか。今回の説明会では、この2つが数字で示されませんでした。
この見立てが外れるとしたら
今回の見立ては、「伸びの加速は本物で、その勢いは長期契約ではなく従量制の強さから来ている。そのぶん、値段が動いたときに売上がどれだけ動くか(感応度)はまだ見えていない」です。これが崩れる形は、はっきりしています。
- 10〜12月期の売上が、会社の見通しの下限(3億4,800万ドル)を下回る
- 来年2月の通期見通しで、2027年の売上成長率が60%を下回る
- 2027年に動き出すはずの約75メガワットに、遅れが出たと公表される
そして、次の説明会でRPOと大口契約がまた出てこないかどうかも見ておきたいところです。出てこないなら、それは一時的な沈黙ではなく、この会社が「長期の約束」ではなく「その場の利用」で勝負すると決めた、と読むのが自然になります。
ここに書いたのは、2026年11月3日の説明会までに分かっていることです。容量の立ち上がりも、AIの計算の値段も、この先の数ヶ月で動きます。この会社の次の決算が出たら、同じように前の回と並べて読み、何が変わって何が語られなかったかを書きます。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。