フェイスブックとインスタグラム、ワッツアップの会社が、広告の外で稼ぐ道を本気で開け始めました。
メタ・プラットフォームズです。今回の決算説明会で、CEOのマーク・ザッカーバーグは自社のAIエージェント「Muse(ミューズ)」について、市場にはっきり受け入れられたと言い切りました。3ヶ月前は「近いうちに」としか言っていなかった製品です。
日足チャート(価格/出来高/RSI(2)/ニュースセンチ/RSランク)。毎日自動更新。
※この記事で扱うのは、2026年10月21日に行われた、2026年7〜9月期(第3四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、僕の予測ではありません。次回の決算日は会社の発表待ちです。
💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストに向けて説明し、質問に答える電話会議。発言はそのまま記録に残ります。
ただ、この回でいちばん引っかかったのは、新製品の話ではありませんでした。3ヶ月前の説明会にあった2つの文が、今回は出てこなかったことです。順番に書きます。
その前に——「個人エージェント」って、何でしょう
AIと聞くと、質問すると答えが返ってくるチャットを思い浮かべる方が多いと思います。エージェントは、そこから一歩進んだものです。答えるだけでなく、代わりに動きます。
たとえば旅行用のスーツケースを買うとき。いまは自分で検索して、いくつかのお店を見比べて、サイズを確かめて、注文画面まで進みます。エージェントに頼むと、その途中を代わりにやってくれます。比べて、絞って、相手のお店とやりとりして、最後に「これでいいですか」と聞いてくる。
ホテルのコンシェルジュに近いと思います。「明日の夜、静かなお店を」と頼めば、探して、空きを確かめて、予約まで取ってくれる人です。それを一人に一体ずつ、スマホの中に置く、という構想です。
メタはこの使い道で、どう稼ぐかも説明しています。ザッカーバーグの言葉です。
「ほとんどの人にとって、この製品は無料であるべきです。そして私たちは、手助けした取引に応じて手数料を受け取れるコマースの道具を作ります。その費用は事業者が払う形になると考えています」
ここが、この記事の結論に効いてきます。利用者からはお金を取らない。取引が起きて初めて、お店の側から手数料が入る。 つまり、使う人が増えて、買い物が実際に起きるまで、売上は立ちません。その一方で、AIを動かす計算の費用は、使われた瞬間から毎日かかります。費用が先、売上が後。 この順番を頭に置いて、決算を読んでください。
売上は+26%、利益は大きな一時費用で下がりました
646億ドルの売上と、1兆円を超える一度きりの費用が、同じ四半期に入りました。
- 売上 646億ドル(前年同期比 +26%)。1ドル150円で約9兆6,900億円
- 営業利益 130億ドル(前年同期比 −37%・営業利益率 20%)
- 一株利益 3.83ドル(会計基準どおりの数字・下の法務費用を含む)
💡営業利益率=売上のうち、人件費やデータセンターの費用など本業のコストを払った後に残る割合。
利益が下がった理由ははっきりしています。この四半期に、アメリカの複数の州の司法長官と結んだ合意に関連して、99億ドルの費用を一度に計上しました。 1ドル150円で約1兆4,850億円です。会社は、これを除けば営業利益は前年同期比で+11%だったと説明しています。
売上は、3ヶ月前に会社が示した見通し(610億〜640億ドル)の上限を、少しだけ上回りました。ただ、伸び率は前の四半期の+28%から+26%へ、わずかに落ちています。広告が表示された回数の伸びも+14%から+10%へ、広告以外の収入は+73%から+59%へ。VRゴーグルなどの部門(リアリティ・ラボ)の売上は、前の四半期の+16%から、今回は−6%に転じました。
そしてもう一つ。フリーキャッシュフローが、マイナス21億ドルになりました。
💡フリーキャッシュフロー=本業で入ってきた現金から、設備への投資を引いて手元に残る現金。マイナスは、稼いだ以上にデータセンターやサーバーへお金を出したという意味です。
この四半期の設備投資は349億ドル。99億ドルの法務費用はこの四半期に費用として計上されましたが、現金をいつ払うのかは、説明会では分かりません。それでも、稼いだ現金より出ていく現金のほうが多い四半期がこの会社に来たことは、覚えておきたい事実です。
「近いうちに」から「拡大の段階」へ
言葉がいちばん大きく変わったのは、個人エージェントでした。
3ヶ月前:「1つ目は個人エージェントです。近いうちに、そのまま使えて、何十億人もが使えるほど簡単なエージェントができます」「近いうちに、もっとお伝えできることがあります」
今回:「Museがはっきりと製品と市場の適合を得た今、私たちは新しい段階、より実務的な、拡大に焦点を当てた段階に入っています」
「製品と市場の適合」という言い方は、聞き慣れないと思います。
💡製品と市場の適合(product market fit)=作った製品が、実際に使い続けてくれる人を見つけた状態。「欲しい人がいるか分からない」段階を抜けた、という意味で使われます。
予告が、出荷と拡大の話に変わりました。裏づけの数字も出ています。公開から約6週間で、アメリカとカナダの1,000万人超が設定を済ませた。週に使っている人のうち25%超が買い物に使っている。どちらも今回が初めての開示です。
企業向けも同じ向きに動きました。3ヶ月前、ザッカーバーグは企業向けの事業について「これまで私たちが持っていたのとは、少し違う筋肉です。近いうちに、もっとお伝えします」と言っていました。今回は「だから私たちは、CJ・デサイが率いるメタ・エンタープライズ・プラットフォームを作っています」。構想に、組織と責任者の名前が付きました。
ただし、どちらも売上の金額は出ていません。 1,000万人は「設定した人」の数で、お金を払った人の数ではありません。前の節に書いた順番どおり、ここはまだ「費用が先」の側にいます。
広告のほうは、AIの効果を数字で出しています
新しい事業がまだ金額を出せない一方で、本業の広告には、AIの効き目が具体的な数字で出ています。
- パートナーシップ広告(広告主がクリエイターや他のブランドと組んで出す広告)が前年比 +97% 伸び、年換算の売上で 150億ドルを超えた
- 広告の配信を決める仕組みを広げて、アプリ広告の成果(インストールなど)が +9.6% 改善
- 新しいAIモデルへの切り替えで、投稿の内容を処理する費用を1件あたり 80%超 削減(社内の評価での数字)
- 広告1件あたりの単価は前年比 +14%
財務責任者のスーザン・リーは、こう言いました。「私たちのAI投資は、エンゲージメントの強化、より良いおすすめ、より効率的な収益化を通じて、すでに大きな広告の上積みを生んでいます」。
AIの効果を数字で示したのは、前の四半期に続いて今回もです。AIは新製品のためだけでなく、いまの広告の稼ぐ力を押し上げるのに、すでに使われています。
3ヶ月前にあって、今回消えた2つの文
ここからが、この決算でいちばん大事なところだと思っています。
1つ目は、利益の約束です。 3ヶ月前、財務責任者はこう言っていました。
「今年の営業利益は、2025年の営業利益を上回ると引き続き見込んでいます」
費用の見通しを説明する段落の中の一文です。今回も、同じ段落で費用の見通しを説明しています。通期の総費用を1,650億〜1,690億ドルから1,750億〜1,790億ドルへ引き上げた段落です(引き上げ幅は、ほぼ今回の法務費用99億ドルぶん)。その段落から、この一文だけが無くなっていました。
言わなくなった理由は、説明されていません。99億ドルを一度に費用に計上したので言えなくなったのかもしれません。ただ、会社は言わなくなった、という事実だけが残っています。
2つ目は、計算資源の外販です。 3ヶ月前、ザッカーバーグはこう言っていました。
「計算資源について、私たちが買った値段を大きく上回るプレミアムで、たくさんの申し出を受けています」
自分たちが持っているデータセンターの計算力を、他社が高く買いたがっている、という話です。AIに巨額を使う会社にとって、これは「いざとなれば売れる資産だ」という安心材料になっていました。今回、この話は一度も出てきません。 代わりに出てきたのは「利益率の高い推論の需要を、できるだけ多く取り込みたい」という、もっと一般的な言い方でした。
💡推論=学習を終えたAIを実際に動かして、答えを出させること。Museが毎日使われるたびにかかる計算が、これです。
ほかにも、3ヶ月前に語っていた話のうち、テキサス州エルパソでの1ギガワット規模のデータセンター合弁と、広告の自動化商品の「年換算750億ドル」は、今回は繰り返されていません。
そして入れ替わるように、新しく出てきた言葉があります。財務責任者の説明です。
「資本の調達に使える、上場した議決権の無い株式を作る目的で、この新しい株式の種類を設けました」
議決権の無い株、というのも少し説明が要ります。
💡議決権の無い株式=配当などは受け取れるが、株主総会で投票する権利が無い株。経営の支配権を薄めずに、お金を集めたり、社員の報酬や買収の支払いに使ったりできます。
具体的な調達の計画は無い、と会社は答えています。それでも、利益の約束が消え、計算資源を高く売れるという話が消え、フリーキャッシュフローがマイナスになった四半期に、お金を集める手段が1つ増えた。並べると、同じ向きに見えます。これが慎重さなのか、もっと別のことなのかは、まだ分かりません。
Museを1人に届ける費用は、数字で出てきませんでした
質疑応答では、Museを動かす計算の重さを、3つの証券会社が形を変えて取り上げました。Museを1人に提供するのにいくらかかるのかを正面から聞かれた財務責任者の答えは「Museのコスト構造について、いまお示しできる具体的な数字はありません」。
ザッカーバーグ自身は、冒頭の説明でこう言っています。
「当面、Museを動かすのは計算資源をとても多く使います。ですが、次の1年でコスト効率を10倍超改善できると見込んでいて、そうなれば売上が規模に達したときに利益が出せるようになります」
10倍は「見込み」で、今の費用の水準は示されていません。世界展開がまだなのも、彼自身が「計算資源を多く使うサービスなので、まだ世界には出していない」と認めています。
2027年の費用の考え方も聞かれましたが、答えは「来年の予算と設備の計画は、まだかなり初期の段階です」。文字起こしで読める範囲では、数字は出ていません。2027年の売上見通しも出していません。言ったのは「2027年を通じて、全体として強い売上成長を続けられる位置にいる」という言葉だけです。エージェントを使った買い物については、財務責任者が「普及はまだらで、時間がかかるでしょう」と言っています。
広告単価の+14%には、会社自身が理由の一つに「前年の第3四半期と比べた、景気の改善」を挙げています。前年の比較相手が弱かった分が入っています。利益の側は逆で、99億ドルの法務費用が一度に入り、税率も見通しを上回る24%まで上がって、数字を押し下げています。今回の利益の減少は、本業が弱ったからではありません。 本業の弱さを見るなら、売上の伸びが少しずつ落ちている側を見ることになります。
なぜ、いまメタはこの順番を選べるのか
費用が先で売上が後、という賭けは、どの会社にもできるわけではありません。メタがこれをやれるのは、広告という、もう出来上がった稼ぎ頭があるからです。
ザッカーバーグはこう言っています。「当面は、中核事業の強さがあるので、そこに至る前からMuseのネットワークを広げることができます」(「そこ」は、売上が規模に達して利益が出るようになる時点のことです)。財務責任者も、新しい事業については「2027年に売上の上積みを生み始めうるが、より重要なのは、時間をかけて大きく伸びうること」「中核事業への投資より、利益が出るまでに長い時間がかかる」と言っています。
言い換えると、今年と来年のメタの売上を動かすのは、まだ広告です。 Museやエンタープライズが数字を動かすのは、その先です。
会社は別のところで、費用の重心を動かしてもいます。VRやメガネの部門の損失は、来年は約150億ドルに縮める見込みで、その分の投資をAIへ回すと言っています。社員数も、5月の人員削減を経て66,000人超と、前の四半期から12%減りました。
広告で稼いだ現金を、AIの計算へ。その流れを支える広告が、伸びのペースを少しずつ落としながらも+26%で走っている。それが、この四半期のメタの姿です。
次の説明会で、この読みが崩れるとき
今回の読みは「新製品は本物の手応えを得た。ただ、その費用の大きさを会社は数字で語らず、3ヶ月前にあった安心材料の言葉を2つ引っ込めた回」です。
これが外れたと分かるのは、次のどれかが起きたときです。
- 次の説明会で、Museの利用者数(1,000万人超)の更新も、世界展開の開始も出てこない
- フェイスブックやインスタグラムなどのアプリ部門の売上の伸びが、前年比で20%を下回る
- 2027年の費用の見通しが出て、売上の伸びをはっきり上回る
良いほうに外れるとしたら、Museを1人に提供するコストの数字が出て、「10倍」の改善が実際に進んでいると確かめられた場合です。そのとき、今回消えた2つの文は、慎重になっただけだったことになります。
ここに書いたのは、2026年10月21日の説明会までに分かっていることです。
新製品の勢いは、言葉からも数字からも伝わってきました。それでも僕が次の回でいちばん先に探すのは、Museの新しい利用者数ではなく、「営業利益は前年を上回る」という一文が戻ってくるかどうかです。消えた言葉は、戻ってきたときに初めて意味が分かります。
※この記事は、決算説明会の原文をAIで読み解いて書き、複数の検査(事実照合・表現・法務)を通したうえで公開しています。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。