売上は前年とほとんど同じ166億ドルでした。それでも中身を分けると、この3ヶ月で伸び方がはっきり変わった部分があります。
ファイザーが最近発売した薬と、買収で手に入れた薬です。この一群の伸びは、前の四半期の18%から32%に加速しました。新型コロナ関連の売上が減った分を、この一群が埋めた形です。
■ ファイザーの決算説明会の内容(要点)
- 次回の決算:2027年2月上旬ごろの見込み(会社の正式発表待ち)
- 今回:2026年7〜9月期・決算説明会は2026年11月3日
- 新しい薬の一群は38億ドル、前年比+32%でした
- 「据え置き」が「引き上げて幅を狭める」に変わりました
- 3ヶ月前に数えていたものを、今回は数えませんでした
- 2027年の見通しは12月まで出ず、肥満の質問には人数の理由が返りませんでした
日足チャート(価格/出来高/RSI(2)/ニュースセンチ/RSランク)。毎日自動更新。
※この記事で扱うのは、2026年11月3日に行われた、2026年7〜9月期(第3四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、予測ではありません。次回の決算は2027年2月上旬ごろの見込み(会社の正式発表待ち)です。
💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストの質問に答える電話会議(カンファレンスコールとも呼びます)。発言は記録に残ります。
同じ説明会で、会社は通期の見通しを2四半期続けて引き上げました。一方で、注目されていた前立腺がんの新薬の試験結果は、年内から来年へずれました。3ヶ月前に件数で示していた「今後12ヶ月の予定」からは、数字が消えています。伸びた部分と、語らなくなった部分が同じ日に並んだ決算です。
その前に、製薬会社の「特許切れ」はなぜ重いのか
製薬会社の決算では、「LOE」という言葉が何度も出てきます。Loss of Exclusivity の略で、直訳すると「独占の喪失」です。特許などで守られていた期間が終わり、同じ成分の薬をほかの会社も売れるようになることを指します。
普通の会社なら、売れている商品は売れる限り売り続けられます。新薬はそうなりません。独占の期間が終わると、同じ成分の安い薬が出てきます。
日本の薬局で「ジェネリック(後発医薬品)にしますか」と聞かれた経験があると思います。あれが、元の薬を作った会社の側から見たLOEです。患者にとっては安くなる話ですが、元の会社にとっては看板商品の売上が細る話になります。
ファイザーには、これが2027〜2029年にまとめて来ます。財務責任者は2027年の逆風として、米国での乳がん薬イブランス、前立腺がん薬イクスタンジなどに加え、海外で抗凝固薬エリキュースが2026年末に独占を失うことを挙げました。
だから、この会社の決算で一番見るべき数字は、全体の売上ではありません。抜けていく穴を、新しい薬がどれだけの速さで埋めているかです。冒頭の32%は、その速さの数字です。
新しい薬の一群は38億ドル、前年比+32%でした
- 売上 166億ドル(1ドル150円で約2兆4,900億円。前年同期の166億5,000万ドルとほぼ同じ)
- 新型コロナ関連を除いた売上の伸び 前年比+7%(為替の影響を除いたベース。前の四半期は+5%)
- 発売・買収した薬の売上 38億ドル(約5,700億円。同+32%。前の四半期は32億ドル・+18%)
- 一株利益 0.87ドル(調整後。前年同期も0.87ドル。会計基準どおりの数字は0.56ドル)
💡為替の影響を除いたベース(会社は operational と呼びます)=ドル高・ドル安で見かけの売上が動く分を取り除いた伸び率。
💡調整後=会社が一時的と考える項目などを除いた数字(non-GAAP)。会計基準どおりの数字(GAAP)とは別物です。
伸びを引っぱった薬の名前も出ています。膀胱がんの薬パドセブが2億5,500万ドル、片頭痛の飲み薬ナルティーク(米国名Nurtec)が1億3,500万ドル、肺がんの薬ローブレナが1億1,400万ドル、前年より売上を増やしました。パドセブは買収したシーゲン、ナルティークは買収したバイオヘイブンから来た薬です。
最高経営責任者によると、ファイザーはここ数年で約800億ドルを買収などに投じ、その約80%がシーゲン、メッツェラ、バイオヘイブンの3社でした。買収した薬に限ると、伸びは+37%です。
💡粗利率=売上から製造の原価を引いて残る割合。
利益の側では、調整後の粗利率が77%(前の四半期は76%)、調整後の営業利益率が36%(同35%)と、どちらも1ポイント上がりました。一株利益0.87ドルは、提携に伴う一時的な研究開発費(1株あたり0.10ドル)を含んだうえでの数字です。
「据え置き」が「引き上げて幅を狭める」に変わりました
3ヶ月前と今回で、見通しの言い方がこう変わっています。
3ヶ月前:「通期の売上の見通しを、中央で5億ドル引き上げます」「一株利益2.80〜3.00ドルを含め、ほかの見通しはすべて据え置きます」
今回:「通期の売上の見通しを、中央で15億ドル引き上げ、620億〜640億ドルとします」「通期の一株利益の見通しを引き上げて幅を狭め、2.95〜3.05ドルとします」
売上は2四半期続けての引き上げで、幅も5億ドルから15億ドルに広がりました。一株利益は、前回は手を付けなかった数字です。
💡ガイダンス(見通し)とコンセンサス=前者は会社が自分で出す業績の予想、後者はアナリストたちの予想の平均です。自分で「80点は取れる」と言っていた生徒が85点に上げても、周りがもともと84点を予想していたら、驚きは小さくなります。
その「周り」の数字と並べるとこうなります。市場の予想の平均は、通期の売上622億3,000万ドル、一株利益2.96ドルでした。新しい見通しの中央(売上630億ドル・一株利益3.00ドル)は、売上で約1.2%、一株利益で約1.4%上回ります。上回ってはいますが、わずかです。新型コロナ関連の売上は約40億ドルのまま据え置きました。
政策についての語り口も変わりました。最高経営責任者は、薬価の政策について聞かれてこう答えています。
「率直に言って、政策の変更は予想していません。1年前に皆さんにお話ししていたこととは、大きく違います」
1年前は関税や薬価の政策の影響を「本当に恐れていた」とも言っています。政府との薬価の合意(MFN=最恵国待遇の価格)は今の政権の任期の終わりまで続く、というのがその理由です。
3ヶ月前に数えていたものを、今回は数えませんでした
数字が加速した一方で、前回の説明会にあって今回なくなったものが3つあります。
- 前回、最高経営責任者は「直近10四半期のうち9回、売上が市場の予想を上回った」と言いました。今回はこの数え方をしていません
- 前回の研究開発担当は、今後12ヶ月の予定を「規制当局の判断5件、主要な試験結果8件、本格的な試験の開始19件」と件数で示しました。今回は今後12ヶ月の予定について「強いペースで続く」とだけ言い、件数を出しませんでした
- 前回の「研究開発をAIを前提とした組織にする」という目標は、今回「効率を上げる目的で、事業にAIを導入しています」という言い方に変わりました
なくなったものとは別に、言っていた時期がずれた話もあります。
3ヶ月前:「MEVPRO-1の最初の結果は、現在のイベントの発生ペースに基づいて、10〜12月期に出る見込みです」
今回:「MEVPRO-1の結果は、現在のイベントの発生ペースに基づいて、2027年1〜3月期に出る見込みとなりました」
MEVPRO-1は、前立腺がん向けの新薬候補メブロメトスタットの、最終段階の試験です。質疑では最高経営責任者が「2月ごろ」と補足しました。2本目の試験MEVPRO-2は、研究開発担当が一度「7〜9月」と言ったあと、「10〜12月」と訂正しています。
💡イベント駆動型の試験=決まった日に締めるのではなく、病気の進行などの「出来事」が決まった数に達したところで結果を見る試験。出来事が想定よりゆっくり起きると、結果の時期も後ろへずれます。
会社の説明では、ずれたのは出来事の積み上がるペースのためです。それ以上の説明はありませんでした。
2027年の見通しは12月まで出ず、肥満の質問には人数の理由が返りませんでした
いちばん大きな未解決は、2027年の数字がまだ出ていないことです。財務責任者は、来年の見通しを昨年と同じく12月中旬に出すとしました。
今回挙げたのは要因だけで、逆風が特許切れと薬価の制度(高齢者向けの公的保険の価格交渉=IRA、最恵国待遇の価格=MFNなど)、追い風が新しい薬の伸びとコスト削減です。市場の予想の平均は、2027年の売上を598億9,000万ドル、一株利益を2.89ドルとしています。今年の見通しより低い数字です。
質疑では、長い目で見た成長の見方について、会社と市場の予想が合っていないという指摘も出ました。質問者の言葉では、会社は2028年を起点に、2020年代の終わりへ向けて売上の年率1桁後半の成長を見通しています。市場の予想はまだそれを織り込んでいない、という指摘です。財務責任者は、差は特定の1製品から来ているのではないと答え、肥満と一部のがんの薬を例に挙げたうえで、新しい薬の適応拡大(同じ薬を別の病気にも使えるようにすること)と開発中の薬の積み重ねを説明しました。
肥満の薬についての質問は、2つの証券会社から繰り返し出ました。買収したメッツェラの技術を使う、GLP-1薬とアミリン薬の併用の初期試験です。質問者によると、試験の予定人数は当初400人近くだったのが201人に変わっています。研究開発担当は、追加の薬物動態の試験に合わせて変えたと説明したうえで、こう答えました。
「試験の中身は、本当に何も、実質的なものは何も変わっていません」
人数がなぜ半分近くになったのかは、具体的に答えていません。
💡薬物動態の試験=薬が体の中でどう吸収され、どれくらい残るかを調べる試験。
💡GLP-1薬=食欲を抑え、血糖を下げるホルモンの働きをまねた薬。日本でも肥満症や糖尿病の治療で使われています。
数字のほうで、割り引いて読むべきものは3つです。
- 新型コロナ関連の売上:通期約40億ドルの大半はワクチンの季節である10〜12月期に集中し、感染の広がり方で上下します
- 一時的な費用:提携に伴う研究開発費6億5,000万ドル(1株あたり0.10ドル)が今回の利益を押し下げています。販売管理費には一時的な増加要因があった、と財務責任者も認めました
- コスト削減の効き方:2026年末までの72億ドルと、2027〜2029年の追加25億ドルは、売上ではなく利益率を支えるものです
利益率の改善が新しい薬の構成とコスト管理から来ている、という点は会社の説明と数字が一致しています。値上げで作った伸びかと聞かれても、財務責任者は、エリキュースの1月の値下げを除けば値引きの構造に大きな変化は無く、伸びは主に数量によるものだと答えました。
新しい薬が穴を埋め切るのは、会社自身の言葉でも「2020年代の終わり」です
今回の決算の数字は良くなりました。ただ、事業の時間軸は3ヶ月前と変わっていません。財務責任者は、今回も目標を「2020年代の終わりに向けた成長への回帰」と表現しています。
順番に並べると、こうなります。
- 2026年末から2029年にかけて、エリキュース(海外)、イブランス、イクスタンジなどの独占が次々に切れる
- その穴を、38億ドル規模に育った発売・買収した薬の一群が埋めにいく
- 肥満の月1回投与の候補ベロベナタイドは、最初の承認を2028年に目指している
- 前立腺がんのMEVPRO-1は2027年2月ごろ、肥満の併用薬の有効性のデータは2027年後半
つまり、新しい柱の大きな結果は、どれも来年以降に並んでいます。32%の加速は、穴を埋める速さが上がったことを示す数字です。ただ、穴が開くのはこれからです。
この見立てが変わるのは、次のような形です。
- 12月中旬に出る2027年の売上の見通しが、市場の予想(598億9,000万ドル)を下回る
- 発売・買収した薬の一群の伸びが、前年比20%を割り込む
- MEVPRO-1が、2027年の結果で主要な目標に届かない
穴の深さと埋める速さの答え合わせは、12月の見通しから始まります。次の説明会では、今回消えた件数がもう一度数えられるかどうかも、並べて読みます。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。また、医薬品の効能・安全性を保証するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。