3ヶ月前、アマゾンの社長は2つのことを「いつか」の話として語っていました。
1つは、自社で作っているAIチップを、自社のクラウドの外にも売るかもしれない、という話。もう1つは、クラウド事業のAWSが、いずれ売上1兆ドルの事業になりうる、という話です。
前の回は、AIの研究開発会社との大型契約や電力容量の倍増など、具体的な話が多い回でした。今回はそれが薄まっていないかと思って読み始めました。
ところが今回の決算説明会では、最初に書いたほうの2つ、チップの外販とAWSの1兆ドルに、日付と数字が付いていました。
日足チャート(価格/出来高/RSI(2)/ニュースセンチ/RSランク)。毎日自動更新。
※この記事で扱うのは、2026年10月29日に行われた、アマゾン・ドット・コムの2026年7〜9月期(第3四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、僕の予測ではありません。次回の決算日は会社の発表待ちです。
💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストに向けて説明し、質問に答える電話会議。発言はそのまま記録に残ります。
その前に——アマゾンが「チップを作っている」とは、どういうことでしょう
アマゾンと聞くと、通販の会社を思い浮かべると思います。ただ、利益の稼ぎ頭はAWSというクラウド事業です。
💡クラウド=計算機(サーバー)を自分で買わずに、ネット越しに借りて使う仕組み。電気を自家発電せず、電力会社から買って使うのに近い形です。
AIの計算に使うチップといえば、エヌビディアのGPUが有名です。普通のクラウド会社は、そのGPUを買ってきてデータセンターに並べ、時間貸しします。仕入れて貸す商売です。
アマゾンはそれと並行して、自分でチップを設計しています。 AIの学習用が「Trainium(トレイニアム)」、一般的な計算用が「Graviton(グラビトン)」です。自社で作れば、仕入れ値の上乗せ分がなくなります。今回の説明会では、自社チップを使った顧客が節約できた金額は「この四半期だけで20億ドル超」と紹介されています。
身近なものにたとえると、大手スーパーのプライベートブランドに近いです。最初は自分の店の棚に並べるために作ります。それが十分に良いものになると、今度は他の店にも卸したくなります。
今回、Trainiumがその段階に来ました。自社のクラウドで貸すだけの部品だったものを、外にも売ると時期つきで言った。 これが、この決算でいちばん大きな言葉の変化です。そしてこの話は、後で出てくる「経営陣が答えなかったこと」とも、AWSの成長の天井とも、同じところでつながっています。
「探っている」が「2027年後半にやる」に変わりました
まず、自社チップの外販です。
3ヶ月前:「(外販については)実際に話し合いを進め、検討しているところです。将来そうする可能性は十分にあると思っています」
今回:「学習用の需要がこれだけ強いので、顧客からはAWSの外でも使えるようにしてほしいと言われ続けています。私たちは2027年後半にそうするつもりです」
「検討している(exploring)」から「2027年後半にそうするつもり(We intend to do so late in 2027)」へ。可能性の話が、時期の入った意思表明になりました。「するつもり」であって、契約や価格が出たわけではありません。そこは正確に言っておきます。
次に、AWSの長期の姿です。
3ヶ月前:「AWSにとって、売上1兆ドルの事業になる可能性があります」
今回:「AWSは2027年と2028年のそれぞれで40%を超えて成長し、今後5〜10年で売上1兆ドルの事業になれると考えています」
3ヶ月前は「可能性がある」で、期限も成長率もありませんでした。今回は、2年分の成長率と、5〜10年という期限が付いています。質問したアナリスト自身が「いつもより多く話してくれていますね」と言ったくらい、この会社としては踏み込んだ言い方です。ただし、これは会社が正式に出す業績予想ではなく、社長の見通しです。
もう1つ、言い方は同じ形で続いたものがあります。3ヶ月前は「5四半期連続の加速」、今回は「6四半期連続の加速で、ほぼ5年ぶりの速い伸び」。AWSの成長率は36.7%から39.3%へ上がりました。
受注残は5,780億ドル、この四半期の売上の12倍を超えていました
- 全社の売上 2,019億ドル(前年同期比 +12%、為替の影響を除くと+13%)。1ドル150円で約30兆円です
- 全社の営業利益 281億ドル、営業利益率 13.9%。会社は「過去最高の営業利益率」と言っています
- AWSの売上 460億ドル(前年同期比 +39.3%)。営業利益は178億ドル、利益率38.7%
- AWSの受注残 5,780億ドル(前年同期比で3桁の伸び)。1ドル150円で約87兆円です
💡受注残(backlog)=すでに契約が決まっていて、まだ売上になっていない金額。将来の売上の「予約」です。
5,780億ドルは、この四半期のAWS売上の12倍を超えます。そのうえで社長は、中身の伸びも数字で出しました。自社チップのGravitonとTrainiumは、それぞれ顧客の利用の約束額が前年の20倍超。企業がAIモデルを使うためのサービス「Bedrock(ベッドロック)」は、扱う処理量が前年の約17倍、大企業(フォーチュン500)の支出は約7倍です。
💡Bedrock=AnthropicやOpenAIなど、複数の会社のAIモデルを、企業が1か所から選んで使えるAWSのサービス。
ここまでは、言葉の変化と同じ方向を向いています。
3ヶ月前の「AIラボ2社」と「電力の倍増」は、今回出てきません
一方で、前の四半期に社長が自分から語っていた具体が、今回はいくつも出てきませんでした。
いちばん大きいのは、AIの研究開発会社との大型契約です。3ヶ月前、社長はこう言っていました。
「最大手のAIラボ2社、AnthropicとOpenAIから、複数年・複数ギガワット規模のコミットメントを受けているという事実があります」
今回、この2社との大型契約には触れていません。OpenAIの名前は出てきますが、Bedrockで使えるモデルの1つとして、また新しいセキュリティサービスの組み込み先として出てくるだけで、大型の契約の話ではありません。
💡ギガワット=発電所1基分に近い電力の単位。AIのデータセンターは、いまや使う電力の量で規模を語ります。
2つ目は、電力の容量です。3ヶ月前は「2027年末には、2025年の2倍の電力容量を持つ見込みで、その軌道に乗っています」と言っていました。今回、この倍増の目標は繰り返されていません。
3つ目と4つ目は、少し小さな話です。衛星インターネット事業のAmazon Leo(アマゾン・レオ)について、3ヶ月前は「企業や政府の顧客から、意味のある収益のコミットメントをすでに得ています」と言っていました。今回は「年内に初期サービスを始める予定どおり」だけです。自社で最先端のAIモデルを開発しているという話も、今回はありませんでした。
言わなかったから悪くなった、とは限りません。1度言ったことを毎回繰り返す必要はない、とも言えます。ただ、前の回に自分から強調した具体が、次の回に消える。それは記録しておきます。身構えていたことは、半分は当たっていました。今回強くなった言葉と、今回消えた言葉は、どちらも同じ説明会の中にあります。
予想どおりの見通しと、予想を超えた長期の言葉
3ヶ月前に会社が出していた7〜9月期の見通しは、売上1,970億〜2,020億ドル、営業利益225億〜265億ドルでした。実績の売上2,019億ドルは上端、営業利益281億ドルは上端を約16億ドル超えています。
💡ガイダンス=会社が自分で出す業績予想。
10〜12月期については、売上2,400億〜2,470億ドル、営業利益285億〜335億ドルというガイダンスを出しました。
💡コンセンサス=その会社を調べているアナリストたちの予想の平均。
今年の4四半期を足してみます。1〜3月期から7〜9月期までの実績に、10〜12月期のガイダンスの中央を足すと、通年の売上は約8,275億ドル。アナリスト予想の平均は約8,286億ドルでした。ほぼ同じで、上回ってはいません。 目の前の数字としては、市場が思っていたとおりの見通しです。
格上げが起きたのは、もっと先の時間軸です。2027年と2028年にAWSが40%を超えて伸びる、という言葉は、3ヶ月前には存在しませんでした。設備投資についても、2026年の現金ベースの見込みを約2,200億ドル(7〜9月期だけで759億ドル)としたうえで、2027年は「これを意味のある規模で上回る額を使う見込み」と言っています。
増え方の鈍化と利益率には、答えが出ませんでした
この決算には、確かめられていないことと、数字を揺らしているものが混ざっています。
まず、AWSの伸び率は上がりましたが、前の四半期より増えた売上は38億ドルで、前の四半期の増え方より小さくなりました。 質疑でこれを聞かれた社長は、「毎四半期に追加する(容量の)量は均等ではありません」と認めたうえで、話を2027・2028年の見通しへ移しています。小さくなった理由を数字で説明した場面はありませんでした。
次に、AWSの利益率です。今後2年の利益率の見方、40%超の成長に必要な設備投資の額、その投資の回収期間。3人のアナリストが角度を変えて聞きましたが、財務責任者の答えは「AWSの利益率については、見通しを一切出していません」。設備投資の額については、社長が「意味のある額です」と答えただけでした。3人が聞いて、この先の利益率と投資額には、見通しの数字が1つも返ってこない。ここは拍子抜けでした。
唯一数字で答えたのは、自社チップと自社保有の設備による構造の話です。社長は、新興のAI専用クラウド(ネオクラウド)について「長期リースで借りた場合と比べて、営業利益率が約3,500ベーシスポイント(35ポイント)悪い」と言いました。自分たちは設備の大半を自社保有か長期リースで持っている、という対比です。
そして、数字を揺らしたものです。
- 年に一度の大型セール「プライムデー」を、主要国で7〜9月期から4〜6月期へ前倒しました。会社によると、これが7〜9月期の売上成長率を約4ポイント押し下げています。広告売上(196億ドル・前年同期比+12%)の伸び率には、約8.5ポイントの影響が出たと説明しています
- 燃料と幹線輸送のコストが上がっていて、財務責任者は10〜12月期の影響は7〜9月期より少し大きいと言っています
- Amazon Leoの費用を資産として計上し始める時期が、2027年1〜3月期にずれました。財務責任者自身が「これまでの決算説明会で私が予想していたより遅い」と言っています
- 前の四半期の営業利益には、関税の還付が約6億ドル、エネルギー契約の評価益が約6億ドル、一時的に入っていました。今回の利益を前の四半期と並べるときは、この分を引いて見る必要があります
ただ、AWSの伸びそのものは、この一時的な要因とは関係のないところから来ています。予約済みの容量と受注残に裏づけられた需要で、プライムデーの日付をどう動かしても変わりません。
なぜアマゾンは「2027年」と言い切れたのか
なぜ今回、アマゾンは期限つきで言えたのか。社長は、その根拠を自分で説明しています。
「数百メガワット、ときには1ギガワットにもなる大きな容量の塊は、かなり前もって予約されます。だから2027年と2028年、それに2029年の一部まで、とても良い見通しを持っています」
AIの大口顧客は、データセンターの容量を何年も前に押さえます。押さえた分は、建物と電力とチップがそろった時点で、そのまま売上に変わります。5,780億ドルの受注残の正体はこれです。社長はさらに「容量を設置するのとほぼ同じ速さで、顧客がそれを使い切っていきます」とも言っています。
つまり、いまのAWSの成長を決めているのは需要ではなく、容量を立ち上げる速さです。 前の四半期より増えた売上の額が小さくなったことも、この形で読めます。容量は四半期ごとに均等には入ってこないので、増え方も均等になりません。
ここで、最初の話に戻ります。Trainiumは外部の製造会社に作ってもらっていて、作れる数には限りがあります。社長は、その限られた数を「外に売る分」と「AWSで貸す分」に分ける必要があり、毎年の割り当ての中でその配分を決めると言いました。外販は、AWSの容量と同じ在庫を取り合います。容量が成長の天井になっている会社が、その容量の一部を外に出すと決めた。これは、それだけTrainiumの需要が強いという意味にも読めますし、AWSの容量の天井がさらに締まるという意味にも読めます。
AWSの伸びが40%を割るか、Trainiumの外販がずれたら、この読みは外れです
今回の読みは「AWSの成長に期限が付き、それを支える予約もあるが、容量と利益率の答えはまだ出ていない」です。
- 2027年のどこかの四半期で、AWSの前年同期比の伸びが40%を下回る
- Trainiumの外販の開始が「2027年後半」より後ろにずれる
- AWSの受注残が、前の四半期より減る
逆に、僕の読みより良い方に外れる形もあります。次の回で、AIラボ2社との大型契約や電力容量の倍増が、数字つきで戻ってくる場合です。そのときは、今回の沈黙は単に言わなかっただけだったことになります。
ここに書いたのは、2026年10月29日の説明会までに分かっていることだけです。「2027年後半」も「40%超」も、まだ見通しの言葉で、実績ではありません。
3ヶ月前に「いつか」と言っていたことに、今回は日付が付きました。日付が付いた言葉は、次の回から答え合わせができます。この会社については、その最初の答え合わせの回を待っています。次の回では、AWSの伸び率と受注残が、今回の言葉どおりに動いたかから書きます。
※この記事は、決算説明会の原文をAIで読み解いて書き、複数の検査(事実照合・表現・法務)を通したうえで公開しています。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。