売上は1年前の約4.8倍。粗利率は85%を超えました。メモリーの会社の決算として、ちょっと見たことのない数字です。
それでも、読み終えて頭に残ったのは数字ではありませんでした。3ヶ月前の決算説明会で、この会社がいちばん大きな声で語った「契約の総額」が、今回は一度も出てこなかったことです。
SDカードやUSBメモリーで、名前を知っている人も多い会社です。いま売上の4割以上を稼いでいるのは、そちらではなく、データセンター向けです。
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※この記事で扱うのは、2026年10月29日に行われた、2026年7〜9月期(同社の会計年度では2027年度の第1四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、僕の予測ではありません。次回の決算日は会社の発表待ちです。
💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストに向けて説明し、質問に答える電話会議。発言はそのまま記録に残ります。
その前に——AIは、なぜ「SDカードの中身」を欲しがるのか
サンディスクが作っているのは、NANDフラッシュと呼ばれるメモリーです。名前は難しいですが、実物はみなさんの手元にあります。スマホの「256GB」、パソコンのSSD、カメラのSDカード。電源を切っても中身が消えない、あの記憶装置です。
AIの話になると、メモリーといえばHBMやDRAMの名前が出てきます。こちらは計算する半導体のすぐ隣に置く、とても速い作業台です。ただ、速いぶん高くて、容量が小さく、電源を切ると中身が消えます。
ここで効いてくるのが、AIが「答えを書く」ときの仕組みです。AIは1語を出すたびに、それまでの会話の文脈を全部見返しています。その文脈を置いておく場所を、KVキャッシュと呼びます。
💡KVキャッシュ=AIの「話の途中のメモ帳」。会話が長くなるほど、考えることが複雑になるほど、ページ数が増えていきます。
メモ帳が厚くなると、全部を速くて高い作業台に載せておくことはできません。かといって捨ててしまうと、AIは同じ計算をもう一度やり直すことになります。だから、速さはそこそこでも、たくさん置けて安いNANDに、メモ帳の大部分を置くという使い方が広がっています。会社は、2020年代の終わり(2030年)までに、AIデータセンター向けのフラッシュの約3分の1がこの用途になると見ています。
AIを使う人が増えるほど、AIは「書く」回数が増え、メモ帳が増え、NANDが要る。この記事の数字は、全部この流れの上に乗っています。
売上は1年で約4.8倍、データセンターは3ヶ月で+61%
数字は、会社自身が出していた見通しを3つとも上回りました。
- 売上 110億ドル(前の四半期比 +23%、前年同期比 +378%)。1ドル150円で約1兆6,500億円
- 粗利率 85.1%(調整後。前の四半期は84.6%)
- 一株利益 49.51ドル(調整後。前の四半期は39.25ドル、1年前は1.22ドル)
- データセンター向け売上 48億ドル(前の四半期比 +61%)
💡調整後(non-GAAP)=会社が「本業の実力を見るには除いたほうがよい」と考える項目を外した数字。今回は、出資先の株の値上がり益5億1,300万ドルなどが、会計基準どおりの利益にだけ入っています。
会社が3ヶ月前に出していた見通しは、売上103億〜108億ドル、粗利率83〜85%、一株利益44〜46ドルでした。3つとも、上限を超えています。
粗利率85%が、どれくらい異常か。売上が100円あったら、作るのにかかったのは15円という計算です。この会社の粗利率は、6四半期前には22.5%でした。そこから26.2%、29.8%、50.9%、78.4%、84.6%と上がり続けて、今回の85.1%です。
稼いだお金の使い方も極端です。この四半期の調整後フリーキャッシュフローは57億ドルで、そのうち50億ドルを自社株買いに回しました。手元現金は51億ドルで、借金はありません。
内訳を見ると、伸びたのはほぼデータセンターです。スマホやパソコン、車向けをまとめた部門(会社はエッジと呼んでいます)は58億ドルで+7%。車とIoT向けは強かったものの、低価格帯の機種は縮みました。一般消費者向けのSDカードやUSBメモリーは3億9,700万ドルで、−29%でした。会社の説明は「値上がりに、市場が調整している」です。
「2027年以降」が「2030年まで」に延びました
経営陣の言い方で、いちばん大きく変わったのは、需要が供給を上回る期間です。
3ヶ月前:「顧客の需要は、私たちの供給より速く伸びています。そのため、ビットは2027年以降も割り当て制が続くと見ています」
今回:「私たちの長期契約のパイプラインは、この10年(2020年代)の終わりまで、私たちの供給を上回っています」
「2027年より先」から「2030年まで」へ。言葉の上では、見通しが3年ほど延びました。
💡割り当て制=欲しい量を全部は売れないので、顧客ごとに量を配っている状態。人気のコンサートのチケットを抽選で配っているのに近いです。
需要の手応えについても、財務責任者は「顧客からの需要は、どちらかと言えば、3ヶ月前より強まっています」と言っています。
ただ、この「2030年まで」には、本人たちが付けた留保があります。質疑応答で「その中身は、供給計画を変えるほどのものか」と聞かれて、社長はこう答えました。
「ですが、まだそこまでは来ていません。そのすべてについて、これから交渉を経る必要があります」
上回っているのは「パイプライン」、つまり話し合いの段階の需要です。契約として確定した量ではありません。言葉が強くなった分だけ、この一文は読み落とさないほうがいいと思いました。
3ヶ月前に語った「最低939億ドル」は、今回一度も出てきません
ここが、この決算でいちばん気になったところです。
サンディスクは、主な顧客と複数年の長期契約を結んでいます。会社はこれを「新しいビジネスモデル(NBM)」と呼んでいます。最低価格を決め、顧客の側が前払いや支払いの保証を差し出す形の契約です。
3ヶ月前、財務責任者はこの契約群の大きさを、金額ではっきり言っていました。
「これまでに結んだすべての長期契約から見込まれる売上の合計は、最低価格を前提にしても、最低939億ドルです」
1ドル150円で、約14兆円です。あわせて、受注済みで未計上の売上(RPO)が598億ドル、顧客が差し出した保証が165億ドル、という数字も出していました。
💡RPO(残存履行義務)=契約は結んだが、まだ売上として計上していない金額。「予約は入っているが、まだ届けていない注文」の合計です。
今回の決算説明会では、この3つの数字がどれも出てきませんでした。 増えたとも、減ったとも言っていません。
新しい契約の数も同じです。3ヶ月前は「4月の決算説明会で5件を発表して以来、さらに5件を締結した」と、件数で勢いを語っていました。今回の説明はこうです。
「第1四半期に、2件の長期契約を締結しました。どちらも第4四半期の決算説明会の前に締結したため、その場で発表済みです」
つまり、この3ヶ月で新しく明かされた契約は0件です。既存契約の上乗せについても、社長は「2回目の契約を1件、すでに結んでいます」と言っていますが、3ヶ月前に話した上乗せと別のものかどうかは、説明からは分かりません。
契約で押さえた量の比率も、3ヶ月前と同じ数字の言い直しでした。会社の会計年度で2027年度は約50%、2028年度は約3分の2のビットが長期契約の下にあります。財務責任者は「3分の2から、もう少し上がっていくと見ています」と言いましたが、今回それを示す新しい契約は出てきませんでした。
長期契約は、この会社の説明の背骨です。値段が上下するメモリーの商売を、何年も先まで見通せる商売に変える、という話の根拠がここにあるからです。その背骨について、3ヶ月前は金額で語り、今回は語らなかった。 悪い知らせが出たわけではありません。ただ、言葉が「2030年まで」と強くなった同じ回に、数字が静かになっています。
値上げの寄与は「3分の2」から「4割」へ
もう一つ、言い方が弱くなった場所があります。売上が伸びた理由の内訳です。
3ヶ月前:「前の四半期からの売上の伸びは、およそ3分の1が数量の増加、3分の2が値上げによるものでした」
今回:「伸びのおよそ60%が数量の増加、40%が値上げによるものです」
次の四半期の見通しについては、粗利率84.5〜85.5%の前提に「同じ製品での、小幅な値上げ(modest like-for-like price increases)」を含めている、という言い方でした。
値上げが止まったわけではありません。ただ、伸びの主役が値段から数量へ移りつつあり、会社自身が「小幅」という言葉を選んでいます。粗利率の見通しも、今回の85.1%とほぼ同じ水準で、6四半期続いた上昇はここで横ばいになる見通しです。
数量で伸びるのは悪いことではありません。けれども、粗利率85%は値上げが押し上げた数字です。値上げの勢いが落ちれば、その水準を保つ理由は数量の側に移ります。
次の四半期の見通しは、市場の予想をわずかに上回る程度
会社が示した次の四半期(2026年10〜12月期)の見通しは、次のとおりです。
- 売上 122億〜126億ドル(中央124億ドル。市場の予想の平均は約122.9億ドルで、上回るのは約1%)
- 一株利益 55〜57ドル(調整後・株式分割前。市場の予想の平均は約53.35ドルで、上回るのは約5%)
- 粗利率 84.5〜85.5%
💡コンセンサス=その会社を調べているアナリストたちの予想の平均。今回でいえば、周りが122.9億ドルと見ているところに会社が124億ドルと言ったので、上回ったのは約1億ドル分。売上110億ドルの会社にとっては、誤差に近い幅です。
なお、会社は同じ説明会で8対1の株式分割を発表しています。ここに書いた一株利益は、すべて分割前の数字です。
その先の四半期については、財務責任者が自分からブレーキをかけています。同社の会計年度の第3四半期(1〜3月期)は、例年いちばん弱い季節だとしたうえで、こう言いました。
「業績予想を作るうえでは、第2四半期から第3四半期への伸びは、保守的に見積もっておくことをお勧めします」
経営陣が答え切らなかったことと、数字に混ざっているもの
質疑応答では、同じ論点が形を変えて何度も出てきました。長期契約はこれからどこまで増えるのか、そして供給をどこまで増やせるのか、です。
まず長期契約です。冒頭の質問で契約の追加について聞かれ、財務責任者は比率を据え置いたうえで「もう少し上がる」と答えましたが、新しい締結は示せませんでした。質疑の中盤には別のアナリストが「2030年まで供給を上回る」の中身を聞き、返ってきたのが先ほどの「まだそこまでは来ていません」です。設備投資にどう影響するかについても、具体的な数字は出ませんでした。
次に供給です。供給をどこまで増やせるかは3つの証券会社のアナリストが聞き、答えの軸は同じでした。
「私たちは、お話ししてきたビットの伸び、10%台半ばから後半を守ります」
ビットはメモリーの容量の単位で、「ビットの伸び」は、会社が1年でどれだけ多くの記憶容量を出荷できるかを指します。
需要が「2030年まで供給を上回る」と言いながら、供給は年に10%台半ばから後半しか増やさない。これは経営陣の規律でもありますが、裏を返せば、この会社の売上の伸びを最後に決めるのは、需要ではなく自分の工場の伸びだということです。ウェハーを作るのに約120日かかるので、データセンター向けへの配分も短期では大きく動かせない、とも言っています。
数字に混ざっているものも、正直に並べておきます。
- 伸びの4割は値上げです。メモリーの値段は、歴史的に上がったり下がったりを繰り返してきました
- 一株利益は、この2四半期で発行済み株式の約4%を買い戻した分だけ押し上げられています
- 出資先の株の値上がり益5億1,300万ドルは、会計基準どおりの利益にだけ入っていて、調整後からは除かれています
- 一般消費者向けの−29%は、会社の説明では、値上げで需要が冷えた結果です
一方で、はっきり答えた場面もありました。データセンターでの浸透が急に進んだ理由を聞かれたときは、製品の世代やKVキャッシュでの使い方まで具体的に挙げています。新興のAIクラウド企業との取引に支払いの不安はないかと聞かれたときも、「そういうことは何も見ていません」「基本的に、すべて投資適格の会社です」と言い切りました。答えに詰まったのは、長期契約と供給の話に限られています。
なぜいま、この会社にこれが起きているのか
理由の中心は、AIの使われ方が「作る」から「使う」に移ってきたことです。
会社の見立てでは、データセンターが使うメモリーは、2020年代のはじめには業界全体のビットの約20%でしたが、いまは約半分を占めています。来年(2027年)のデータセンター向けのビット需要は前年比で約40%増え、NAND市場の55%超を占める見込みです。しかもこれは、2026年に2倍以上になった後の伸びです。
💡ハイパースケーラー=アマゾン、マイクロソフト、グーグルのように、巨大なデータセンターを自前で持つ会社。サンディスクのデータセンター向けの顧客には、アメリカのハイパースケーラー3社が含まれる、と会社は説明しています。
データセンター向けの売上は、3ヶ月前の四半期に前の四半期比+103%、今回+61%。製品の構成についても、速さ重視の製品と容量重視の製品の比率は「7対3」が続いていて、少なくともこの会計年度の残りはその水準を見込む、と社長が答えています。メモ帳のうち、すぐ見返す部分には速い製品を、たまにしか見ない大量の資料には容量の大きい製品を、という使い分けです。
データセンターだけの会社でもありません。エッジ部門の58億ドルは、今もデータセンターより大きい売上です。パソコンの台数は来年も小幅に減る見込みだと会社は言っていますが、1台あたりの容量が増えるので、パソコン向けの容量の合計は増える見通しだとしています。車とIoTは今回も伸びていて、会社は車を、いずれエッジの中で最大級の市場の一つになりうると見ています。
その先の話もあります。HBM並みの速さとNAND並みの容量を狙った新しいメモリー(HBF)は、最初の設計を工場に渡す段階まで進み、来年にサンプルを出す計画です。ただし会社自身が「HBFは将来の技術で、長期の財務モデルには含めていない」と言っています。ここは期待の材料であって、数字の材料ではありません。
次の決算で見るもの
今回の決算は、数字は文句なく強く、言葉は強くなり、その間で契約の数字だけが黙っていました。どれが本当の姿だったのかは、次の回で分かります。
まず、長期契約の新しい締結が出てくるか。 2028年度の「約3分の2」が上がるか、3ヶ月前の「最低939億ドル」が更新されるか。今回の沈黙が単なる言い忘れなら、次の回で数字が戻ってくるはずです。
次に、粗利率が84%を割らずにいられるか。 値上げが「小幅」になった後も85%前後を保てれば、数量で稼げる体になったということです。
そして、「まだそこまでは来ていません」が、どこまで来たか。 2030年までのパイプラインが、交渉を経て契約に変わったと言えるかどうか。言えれば、今回強くなった言葉に中身が追いつきます。
ここに書いたのは、2026年10月29日の説明会までに分かっていることです。メモリーは、好調なときほど次の一手が読みにくい商売です。値段が上がっているあいだは、誰の決算も良く見えます。
だから僕は、強い数字の回ほど、前の回に会社が何を語っていたかを横に並べて読んでいます。3ヶ月後、この会社が939億ドルの話に戻ってくるのか、別の数字で語り始めるのか。そこを確かめに、次の決算説明会もまた読みに行きます。
※この記事は、決算説明会の原文をAIで読み解いて書き、複数の検査(事実照合・表現・法務)を通したうえで公開しています。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。