AIの話題で、携帯電話の会社の名前が出てくることはあまりありません。
主役はいつも、半導体やクラウドの会社です。ところが今回、アメリカの三大携帯電話会社の一つが、AIの裏方としていちばん具体的な数字を出してきました。売ったのは電波ではありません。地面の下に埋まっている、光ファイバーです。
日足チャート(価格/出来高/RSI(2)/ニュースセンチ/RSランク)。毎日自動更新。
※この記事で扱うのは、2026年10月26日に行われた、2026年7〜9月期(第3四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、僕の予測ではありません。次回の決算日は会社の発表待ちです。
💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストに向けて説明し、質問に答える電話会議。発言はそのまま記録に残ります。
その前に——「ダークファイバー」って、何でしょう
ベライゾンが今回発表した契約は、「ダークファイバー」の契約です。名前だけ聞くと怪しげですが、中身は単純です。
ダーク(暗い)とは、光が流れていない、という意味です。 光ファイバーは、中に光の信号を流して通信します。ふつう通信会社は、線の両端に自分の機械をつないで光を流し、「通信サービス」として売ります。こちらは光が灯っているので「リット(lit)ファイバー」と呼ばれます。ダークファイバーはその逆で、機械をつながない、線だけを貸す売り方です。光を流す機械は、借りた側が自分で用意します。
部屋にたとえると分かりやすいと思います。リットはホテルです。ベッドも掃除も付いていて、泊まる人は何もしなくていい。ダークは家具なしの空き部屋を長期で貸すことです。中をどう使うかは借りた人が決めます。日本でも、NTTが使っていない光ファイバーを他の通信会社に貸し出しています。仕組みとしては同じものです。
なぜ、わざわざ線だけを借りるのか。AIの計算をする巨大なデータセンター同士は、とんでもない量のデータをやり取りします。 自分の機械で、自分の速度で、自分だけが使える線がほしい。かといって、自分で線を敷こうとすると、道路を掘る許可を取り、掘って、埋めて、何年もかかります。ベライゾンの社長自身が、家庭向けの無線サービスの話の中で「通行の権利も、掘削も、許可も要らない」ことを光ファイバーとの違いとして挙げています。裏を返せば、光ファイバーを敷くにはその3つが全部要る、ということです。
だから、すでに地面の下に線を持っている会社が、AIの会社から長期で頼られます。 この記事の話は全部、ここから始まります。
半年前は「深く話し合っている」でした
半年前、2026年1〜3月期の決算説明会で、社長のダン・シュルマン氏はこう話していました。
「いま、ハイパースケーラー、クラウドの新興勢力、大企業と、私たちの光ファイバー(ダークもリットも)と5Gの資産を組み込むことについて、かなり深い協議をしています」
この発言には、まだ契約の金額は一つも出てきません。
💡ハイパースケーラー=AmazonやGoogleのように、世界規模の巨大データセンターを自前で運営している会社。
続けて「率直に言って、数十億ドル規模の売上の可能性がある」「今後3〜6ヶ月のうちに、もっと具体的なことをお伝えします」とも言っています。この時点では、まだ話し合いの段階でした。
今回、7〜9月期の説明会の冒頭の説明で、シュルマン氏はこう切り出しました。
「本日、Amazon Web Servicesとの間で、20億ドルを超えるダークファイバー契約を結んだことを発表しました」
「私たちは現在、約40億ドルの契約を締結しています」
この2行を読んで、僕は半年前の「今後3〜6ヶ月のうちに、もっと具体的なことをお伝えします」の一文を読み返しました。
約40億ドルは、1ドル150円で約6,000億円です。中身は、今回のAmazonの契約と、前回(4〜6月期)の説明会で発表したGoogleとの契約、それにデータセンター向けの局舎の貸し出し(数億ドル分)です。社長は質疑応答でも「6ヶ月で約40億ドル」と言っています。その約束を、期限の中で、顧客名と金額つきで返したことになります。
さらに、光ファイバーそのものの調達も押さえています。光ファイバー大手のコーニングと、2032年までに「8,000万マイルを超える光ファイバー」を調達する、数年・数十億ドル規模の契約を先月結んだと話しました。8,000万マイルは約1億2,900万キロメートル、地球およそ3,200周分です。売る先と、売る物の仕入れを、同じ時期に固めたことになります。
本業の携帯電話も、言葉の向きが変わっていました
AIの話だけなら、ニュースの見出しで終わります。この決算が面白いのは、本業の側でも言い方が変わっていたことです。
家庭向けの無線インターネットについて。 ベライゾンは、光ファイバーを引かずに、携帯電話の電波で家にインターネットを届けるサービス(固定無線)を売っています。半年前、社長は目標を聞かれてこう答えていました。
「その点について、皆さんの見方を変える必要は本当にないと思います。……むしろ、固定無線より光ファイバーへの移行が進むかもしれません」
今回、同じ目標についての答えは、逆の向きになっていました。
「でも本当のところ、高速の固定無線のサービスが手に入った今、私たちは(目標を)大きく超えていきます」
きっかけは、使い道の少なかった高い周波数の電波(ミリ波)で、1ギガの速さを出せるようにしたことでした。社長はこれを「私たちにとっての技術的なブレークスルー」と呼び、中期的に1ギガ以上で届けられる家を、光ファイバーとは別に1,000万〜1,500万戸増やす目標を出しました。
値段について。 半年前は「中身の無い、一律の値上げには頼らない」でした。今回は「価値を大きく足したので、値上げによって値段と価値の釣り合いを調整する余地が、もしかするとある。それを考え始めてもいい段階に来たと思う」です。ただし、この言い方には「もしかすると」「考え始めてもいい」と保険が2つ付いています。値上げを決めた、という話ではありません。
会社全体の言い方も強くなりました。 半年前は「立て直しは進んでいるだけでなく、勢いを増している」。今回は「この第3四半期は、ベライゾンが構造的に別の会社になったことの、もう一つの証拠でした」。
数字は、量では強く、売上では控えめでした
言葉が強くなった分、7〜9月期の数字はどうだったか。
- 総売上 343億ドル(前年同期比 +1.5%。1ドル150円で約5兆1,000億円)
- 調整後の一株利益 1.31ドル(前年同期比 +8%)
- 携帯の契約純増 40万6,000回線(社長いわく、7〜9月期としては5年で最も多い)
- 新規客を取るための販促コスト −41%、既存客を引き留めるコスト −30%(どちらも前年比)
💡調整後=会社が「一時的だと考える項目」を除いた数字(non-GAAP)。会計基準どおりの数字(GAAP)とは別物です。
💡純増=新しく入った回線から、解約された回線を引いた数。
量と効率はとても強い数字です。社長は「無料の回線は1本も無い。増えた回線は全部、売上を生んでいる」と念を押しました。回線を1本タダで付けて数を作るやり方は、この業界ではよくあります。それをやらずに、販促費を4割減らして、純増は前年の9倍。ここは素直に強いと思いました。
一方で、売上は+1.5%です。理由ははっきりしていて、端末(スマートフォン本体)の売上が9%減ったからです。機種変更が前年より2割以上減りました。会社は機種変更を無理に勧めないことを自分で選んでいるので、これは意図した減少です。通信料の側(携帯+家庭のインターネット)は+2.9%で、1〜3月期の+1.6%、4〜6月期の+2.8%から少しずつ上がってきています。
見通しは今年3回目の引き上げでした
💡ガイダンス=会社が自分で出す業績予想。
💡コンセンサス=その会社を調べているアナリストたちの予想の平均。
通期の調整後一株利益の伸びは、年初の「4〜5%」から、1〜3月期に「5〜6%」、4〜6月期に「6〜7%」、そして今回「7〜7.5%」へ。1年のうちに3回、上に動きました。 フリーキャッシュフローの伸びも「9〜10%」から「12%近く」へ上がり、7〜9月期のフリーキャッシュフロー78億ドルは2020年以来の高さだと言っています。
ただ、市場の予想を大きく追い越したわけではありません。2025年の調整後一株利益(4.71ドル)に7〜7.5%を掛けると、5.04〜5.06ドルになります。アナリスト22人の予想の平均は5.02ドルでした。上回ってはいますが、わずかです。 市場はすでに、この会社が見通しを上げ続けることを、かなり織り込んでいたことになります。
10〜12月期については、通信料の伸びを「約4%」に加速させ、無線の通信料収入も前年比でプラスに戻すと言いました。
AIの契約が、いつ・どれだけ売上になるかは、まだ言いませんでした
答えが出なかったのは、AIの契約がいつ、どれだけ売上になるのかです。社長は「どれも魅力的な利益率で、2027年から効き始める」と言いました。ところが質疑応答で、契約の期間と、想定する利益率を数字で聞かれたところでは、財務責任者は「契約は顧客ごとにまったく違う」と答え、どちらの数字も出しませんでした。2027年にどれだけ効くかは「次回の決算説明会でお話しします」と先送りされています。
規模の感覚も持っておく必要があります。約40億ドルは何年かに分けて入ってくる契約の総額で、この会社の1四半期の売上(343億ドル)の1割強です。AIの線が本業を置き換える、という大きさではありません。 本業の上に乗る、新しい1本の柱です。
半年前に言っていて、今回消えた3つのこと
半年前には話していたのに、今回一度も出てこなかったことが3つあります。①「中核でない資産」を整理して利益率を上げる計画(半年前は「近いうちに詳細をお伝えする」と言っていました)、②プリペイドの顧客数が「7四半期連続で増えた」という話、③「GoogleとAnthropicと非常に緊密に動いている」という一文。Googleは契約として今回も登場しますが、Anthropicの名前は出てきません。4〜6月期の説明会でどう扱われたかは、ここでは確かめられていません。
数字の上乗せ分と、市場が気にし続けていること
数字を押し上げている要素を、はっきり分けておきます。
- フリーキャッシュフローには、運転資本の改善と、機種変更が減ったことによる上乗せが入っています
- 一株利益には、自社株買い(年初から40億ドル、通年で最大45億ドル)が効いています
- 家庭向けインターネットの前年比には、2026年1月に取り込んだ買収先(フロンティア)の分が入っています
- 10〜12月期の「約4%」には、過去の販促費の負担が軽くなる効果も含まれます
逆に、端末売上の−9%は数字を押し下げている側です。通信料の+2.9%は、総売上の+1.5%より本業の姿に近い数字です。
そして、社長がいちばん長く話したのは、イーロン・マスク氏のSpaceX(衛星通信のスターリンク)が携帯電話に参入してくる可能性についてでした。社長は「SpaceXは言ったことを全部、完璧にやると仮定している」と前置きしたうえで、地上の基地局網を作るなら6万5,000〜8万の基地局、最低4〜6年、今後7〜8年で3,000億〜5,000億ドルが要り、それで手に入るのは「4番目ではなく、6番目の競合」の座だと答えました。衛星会社に自社の回線を貸す考えは「まったく何の利点も無い」と言い切っています。答えは具体的でしたが、別の質問でも電波の話の中でSpaceXの名前が再び出ました。市場が気にし続けているのは、ここです。
地面の下の線と、古い電話局の建物
AIの計算は、巨大なデータセンターの中だけで完結しません。データセンター同士を結ぶ長距離の線と、利用者の近くで素早く答えを返すための計算場所が要ります。社長はこの2つを、どちらも「希少な資産」と呼びました。
ベライゾンには、その両方がすでにあります。全米に引いた光ファイバーと、電話網のために各地に持っている局舎(ネットワークの拠点となる建物)です。社長は、AIの推論をこの局舎で動かしたいという相手との契約がすでに始まっていて、最初の長期契約は期間全体で数億ドルの売上になると話しました。新しく掘る必要が少ないので、追加でかかる設備投資は「控えめで、契約が決まった分だけ」だとも言っています。
線を作る会社ではなく、線を「持っている会社」が、顧客名と金額のついた契約を取り始めた。この決算の新しさはそこです。しかも本業の携帯電話では、無料回線をやめても純増が増え、新しい電波の使い方で、家庭向けインターネットの目標を「大きく超えていく」と言いました。AIの柱が立ち上がる前に、本業の土台が先に固まり始めています。
「次回の決算説明会で」は守られるか
僕の読みでは、本業は量と効率で立ち直り、AIの線は契約として形になりました。ただし、売上の大きな伸びはまだ数字に出ていません。
次の10〜12月期の説明会で、この読みが外れていたと分かるのは、こういう場合です。
- 通信料(携帯+家庭のインターネット)の伸びが、本人たちが言った約4%に届かない
- 無線の通信料収入が、前年比でプラスに戻らない
- AIの契約済み額が、約40億ドルから増えていない
逆に、良い方へ外れるとしたら、次回出てくる2027年の見通しの中で、AIの契約がどれだけの売上になるかを初めて数字で示したときです。半年前の「今後3〜6ヶ月のうちに」という約束は、期限内に守られました。今度の「次回の決算説明会で」も同じように守られるのか。僕はそこを待っています。
ここに書いたのは、2026年10月26日の説明会までに分かっていることだけです。AIの契約の期間も利益率も、まだ会社の外には出ていません。
電話会社が「線の大家」としてAIのお金を受け取る、という形は、この会社だけの話では終わらないかもしれません。ただ、それが本当に売上として積み上がるのかは、四半期ごとに言葉と数字を突き合わせていくしかありません。次の10〜12月期の説明会で、上に挙げた3つの条件がどう動いたかを、また並べます。
※この記事は、決算説明会の原文をAIで読み解いて書き、複数の検査(事実照合・表現・法務)を通したうえで公開しています。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。