半導体を作る会社ではなく、半導体を「設計する道具」を売る会社があります。
AIのチップの設計図の多くは、この会社か、ごく少数の同業のソフトの上で描かれます。今回の決算説明会で、その会社が「AIに設計をさせる道具」が試しの段階を抜けて、実際の現場に入ったと言いました。ケイデンス・デザイン・システムズです。
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※この記事で扱うのは、2026年10月26日に行われた、2026年7〜9月期(第3四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、僕の予測ではありません。次回の決算日は会社の発表待ちです。
💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストに向けて説明し、質問に答える電話会議。発言はそのまま記録に残ります。
その前に——「半導体を設計するソフト」って、何を売っているんでしょう
名前に「デザイン」と付いていますが、チップの見た目を描く会社ではありません。工場も持っていません。売っているのは、チップの設計図を描き、その設計図が本当に動くかを確かめるための道具です。業界ではEDA(電子設計自動化)と呼ばれます。
ふつうの物づくりなら、設計して、試作して、動かしてみて、直す。これを何度か繰り返せます。ところが最先端のチップは、試作を1回やり直すだけで莫大なお金と時間が飛びます。部品の数も、人の手で1つずつ確かめられる量をとうに超えています。だから工場に出す前に、コンピューターの中で設計を完成させ、確かめ切ってしまう必要があります。
日本の読者に近い例でいえば、建築の設計ソフトと、耐震のシミュレーションを一緒にしたようなものです。建てる前に、図面の段階で「この建物は地震で倒れないか」を画面の中で確かめる。ケイデンスはそれを半導体でやっていて、ソフトに加えて、設計を本番さながらに動かして試す専用の機械(パラディアム、プロティウムという製品)も売っています。
この会社の売上は「設計の道具がどれだけ使われるか」で決まります。 そして今回の決算で会社が言ったのは、AIのエージェントが、人の代わりにその道具を何度も呼び出し始めた、ということでした。
💡AIエージェント=指示を受けて、自分で手順を考えながら作業を進めるAI。ここでは「設計の検証作業を、エンジニアの代わりに進めるAI」のことです。
3ヶ月前は「試している」でした。今回は「本番に入った」です
3ヶ月前の決算説明会で、財務責任者はAIエージェントの状況をこう言っていました。
「評価、試験導入、初期の導入が増えています」
そして、見通しにはそれを織り込まないとも言っていました。
「見通しの中で、急に段差がつくような伸びは、まだ想定していません」
今回、社長はこう言いました。
「第3四半期に、メディアテックが(検証用エージェントの)チップスタックを、デジタル検証の本番の作業工程に導入しました。検証の網羅率は50〜70%改善し、エンジニアの工数は1.4〜2分の1になりました。導入はいま、設計チーム全体に広がっています」
台湾の半導体設計大手が、試しではなく、毎日のチップ設計の工程そのものに入れた、という話です。ルネサスのマイコン設計チームでは、別のエージェントで生産性が34倍になったとも言っています。
関わっている顧客の数も増えました。前の四半期は、チップスタックで「20件を超える顧客との取り組み」、別のエージェントで「25件を超える」と、エージェントごとに数えていました。今回は全体で「100件を超える、稼働中の取り組み」です。数え方が「エージェント別」から「合計」に変わっているので、単純に4倍とは読めません。それでも、片方のエージェントについては「顧客との取り組みが4倍になった」とはっきり言っています。
さらに今回、新しい製品も発表しました。マエストロという、半導体の設計に特化したAIモデルの一式です。ただしこちらは「いくつかの導入が進行中」という段階で、始まったばかりです。
数字も、同じ方向を向いています
当四半期の実績です。
- 売上 16億3,300万ドル(前年同期比 +22%)
- 調整後の一株利益 2.11ドル(会計基準どおりでは 1.05ドル)
- 受注残 82億ドルで過去最高(前の四半期は81億ドル)
- 事業別の伸びは、中核の設計ソフトが+20%、設計部品のライセンス(IP)が+24%、システム設計・解析が+30%
💡調整後(non-GAAP)=会社が「本業の姿を見るために」除いた項目を抜いた数字。今回は2.11ドルと1.05ドルで、ほぼ2倍の開きがあります。会計基準どおりの数字(GAAP)とは別物として読みます。
💡受注残(バックログ)=契約は済んでいて、まだ売上として計上していない分。1ドル150円で、約1兆2,300億円です。
売上は、会社が3ヶ月前に出した見通しの上限(16億2,500万ドル)を超えました。財務責任者は「主要な財務指標のすべてで、見通しを上回った」と言っています。
受注について、財務責任者がわざわざ付け加えた一言があります。今年は契約の更新が少ない年なのに、受注が強かった。
「更新の少ない年に受注が強いことは、とりわけ心強いものです。更新の暦が来たからではなく、顧客との関わりが広がっていることを示しているからです」
AIエージェントがなぜこの会社の売上になるのか、その道筋についても財務責任者が説明しました。
「エージェントは、一人のエンジニアよりずっと多くの設計の探索を行い、私たちの基盤のエンジンを繰り返し呼び出します。(中略)今年の設計ソフトの伸びに、それが表れ始めていると思います」
エージェントが道具を使うほど、道具の利用量が増える。冒頭で書いた、使われるほど売上になる仕組みに、そのままつながっています。
通期の見通しは、2回続けて上がりました。ただし幅は小さい
通期の売上見通しは、3ヶ月前の62億6,000万〜63億4,000万ドル(19%増)から、63億8,700万〜64億1,700万ドル(21%増)へ上がりました。1ドル150円で約9,600億円です。調整後の一株利益の見通しも、8.05〜8.15ドルから8.37〜8.43ドルへ。調整後の営業利益率は44.7%を見込んでいます。
💡ガイダンス=会社が自分で出す業績予想。
💡コンセンサス=その会社を調べているアナリストたちの予想の平均。
市場の売上予想は通期で63億2,000万ドルあたりでした。新しい見通しの中心は、それを約1.3%上回ります。
上がったのは確かです。ただ、温度は3ヶ月前と違います。前回、社長は引き上げについてこう言っていました。
「これは、私たちがこれまでに行った中で、おそらく最大の引き上げです」
今回の引き上げは、中心の値で比べて約1.6%です。2回続けて上がったという事実と、2回目は小さかったという事実は、両方とも本当です。
前回いちばん強く語った契約に、今回は一度も触れませんでした
変わったのは、言葉が前に進んだところだけではありません。3ヶ月前に具体的に語っていたことのうち、今回は出てこなかったもの、言い方が変わったものがあります。
1つ目は、インテルとの契約です。前の四半期、社長はインテルとの複数年の契約を、こう紹介していました。
「この契約は、今後数年の成長の、意味のある原動力になると見込んでいます」
今回は、準備された説明でも質疑応答でも、この契約に一度も触れていません。インテルの名前が出てくるのは、昔の話をした一か所だけでした。契約が消えたとは言っていません。ただ、「成長の原動力」とまで言ったものを、3ヶ月後に一言も語らなかった。それ自体が、今回の決算の一部です。
2つ目は、伸びの速さです。
3ヶ月前:「経常収益は、第2四半期に前年比で約24%伸びました」(財務責任者)
今回:「経常収益の前年比18%の伸び」(財務責任者)
設計部品のライセンス(IP)も、前回の「前年比40%を超える伸び」から、今回は24%です。どちらもまだ十分に高い伸びですが、向きは下です。
💡経常収益=ソフトの利用料のように、毎年・毎月くり返し入ってくる売上。専用の機械の販売のような、一度きりの売上とは分けて見ます。
3つ目は、専用の機械(パラディアムなど)の言い方です。前回は「顧客の需要に対して、供給が追いつかない状態が続いている」でした。今回は「生産能力にもサプライチェーンにも制約はない」に変わり、さらに「機械の売上は四半期ごとに振れることがある」と、先に断りを入れています。機械の売上は今回も過去最高でした。それでも、「足りない」という言葉が消えて、「振れる」という言葉が入りました。
AIエージェントはいくらか——何度聞かれても、金額は出ませんでした
質疑応答で、いちばん多く出た質問は1つです。AIエージェントは、いつ、いくらの売上になるのか。 証券会社が入れ替わりながら、何度も形を変えて聞きました。
あるアナリストは「AIエージェントの売上への寄与は、まだかなり小さい。その理解でいいか」と正面から聞いています。社長の答えはこうでした。
「経常収益の伸びは、昨年の11%から18%に改善しています。だから、これは機械の売上ではありません」
機械を除いても伸びが改善している、という反論です。ただ、AIエージェントの分がいくらなのかは、最後まで数字で出てきませんでした。マエストロをどう値付けするのかを聞かれた場面でも、仕組みの説明に終わり、価格には触れていません。今回、僕がいちばん知りたかった数字は、この1つでした。 何度聞かれても出てこないのは、まだ答えられる段階にない、と読むのが自然です。
伸びの中には、本業の自然な伸びとは別のものも入っています。
- 買収した事業の分:ヘキサゴン社から買った設計・エンジニアリング事業が、通期で約1億6,000万ドルの売上を乗せています。財務責任者は質疑の中で、伸びの水準を「おおむね10%台半ば、一株利益は10%台後半」と表現しました
- 前年の比較の振れ:社長によれば、前年の第3四半期は中国の売上が振れていて、経常収益の比較に影響しています
- 自社株買い:当四半期に4億ドルを実施し、25億ドルの追加の枠を設けました。株数が減ると、一株利益は押し上げられます
この「10%台半ば」が、買収分を除いた今年の伸びを指すのか、ふだんの水準を指すのかは、発言からははっきりしません。本文の数字で計算すると、買収分の約1億6,000万ドルを単純に引いても、通期の伸びは18%前後です。21%のうち3ポイントほどが、買ってきた事業の売上ということになります。買収の分は会社が自分で開示しているので、隠しているわけではありません。
なぜ、いま設計の道具を使う手が人からAIに替わるのか
AIのブームで、チップを作る会社は次々に新しい設計を出しています。チップは大きく、複雑になり、確かめるべきことが増えます。確かめる作業が増えれば、設計の道具が使われる時間が増える。ここまでは、AI以前からあったこの会社の追い風です。
今回の決算で新しかったのは、その「道具を使う手」が、人からAIに替わり始めたことです。財務責任者の言葉どおり、エージェントは一人のエンジニアより多くの探索をし、そのたびに道具を呼び出します。エンジニアの人数で上限が決まっていた利用量が、上限ごと外れるかもしれない。メディアテックの「工数が1.4〜2分の1」は、同じ人数でより多くの検証が回るという意味でもあります。
そして、この会社の顧客はもう半導体メーカーだけではありません。社長は、事業の45%がシステム企業、つまり自前でチップを設計するようになった巨大IT企業や、宇宙・金融の会社などからの売上だと言いました。チップを自分で作り始めた会社が増えるほど、設計の道具を買う会社も増えます。
もう一つ、利益の面での話があります。顧客が自分のAIの基盤を使う場合、AIの計算にかかる費用は顧客の側が負担し、この会社はエージェントとその取りまとめの機能で収益を得る、と財務責任者は説明しました。AIを売るのに、AIの計算費用を自分で抱え込まない形です。
ただ、この連鎖は、まだ「利用が増え始めた」という段階の話です。売上の中でAIエージェントがいくらなのかは、出ていません。
次の決算で見ること
この回を一行で言えば、「AIエージェントは試しから本番へ進んだ。ただ、それはまだ売上の数字になっていない。そして伸びの速さは少し落ちている」です。
AIエージェントの金額が出てこないうちは、この読みを確かめる材料は、すでに開示されている数字の側にしかありません。外れていたら、次の3つのどれかに出ます。
- 経常収益の前年比の伸びが、15%を下回る
- 過去最高の受注残(82億ドル)が、減少に転じる
- 2月に出る来年の見通しで、売上の伸びが10%台前半以下とされ、それでもAIエージェントの寄与が数字で示されない
僕が待っているのは、その2月の見通しで、AIエージェントの売上に初めて金額が付く瞬間です。今回何度聞かれても出てこなかった数字が、そこで出てくるかどうかです。インテルの契約が次にどう語られるかも、あわせて見ます。
ここに書いたのは、2026年10月26日の説明会で分かったことだけです。言葉は前に進み、数字はまだ後ろからついてきている途中でした。その差が縮まるのか、開くのかは、次の回でしか分かりません。
僕は決算が出るたびに、前の回の言葉と突き合わせています。この会社が「いくら」を語る日が来たら、そこでまた読み直します。
※この記事は、決算説明会の原文をAIで読み解いて書き、複数の検査(事実照合・表現・法務)を通したうえで公開しています。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。