受注残は過去最高。それでも僕は、社長の一言が気になって仕方ありませんでした【キャタピラー(CAT)2026年7〜9月期決算】

工事現場で見かける黄色いショベルカー。あの会社の受注残が、7〜9月期の終わりに780億ドルまで積み上がりました。1ドル150円で約11.7兆円。1年前のほぼ2倍で、会社の歴史でも最高です。

ところが、その説明会でいちばん耳に残ったのは金額ではありませんでした。10〜12月期の売上がほとんど伸びない理由を聞かれた社長が、発電機の部門についてこう答えた場面です。

「システムに余裕がまったく無いんです(there’s no slack in the system)」

需要の話ではなく、作る側の話です。キャタピラーという会社に、いま何が起きているのかを書きます。

CAT chart_article.png

日足チャート(価格/出来高/RSI(2)/ニュースセンチ/RSランク)。毎日自動更新。

※この記事で扱うのは、2026年10月29日に行われた、2026年7〜9月期(第3四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、僕の予測ではありません。次回の決算日は会社の発表待ちです。

💡決算説明会=決算を発表した日に、経営陣がアナリストに向けて数字を説明し、質問を受ける電話会議です。やりとりは文字で残ります。

目次

その前に——ショベルカーの会社が、なぜデータセンターの電気を作っているのか

キャタピラーと聞くと、建設機械と鉱山の巨大ダンプを思い浮かべると思います。半分は合っています。ただ、いまこの会社でいちばん勢いがあるのは、エンジンと発電機の部門です。

ふつう、建物は電力会社の送電網から電気をもらいます。病院やビルの地下に置いてある非常用のディーゼル発電機は、停電したときだけ回る「保険」です。日本でも、大きな病院や工場には必ずあります。

AIのデータセンターは、この「保険」の発電機を大量に買います。それに加えて、最近は送電網の電気を待たずに、敷地の横で毎日回し続ける発電設備(常用電源・prime power)としても、ガスで動く大型エンジンやガスタービンを買うようになりました。キャタピラーは、その両方を作っています。

💡常用電源=停電のときだけ使う非常用ではなく、ふだんの電気そのものを自前で作る発電設備。

だから、データセンターが増えるとキャタピラーの発電機部門が伸びます。7〜9月期、この部門の顧客向け販売(販売店への出荷ではなく、最終的な使い手に渡った分)は前年同期比+75%でした。前の四半期も+72%です。そして、この記事の結論に効いてくるのはここからです。需要がこれだけ強いと、売上の伸びを決めるのは注文の量ではなく、工場がどれだけ作れるかになります。 冒頭の「余裕が無い」は、そのことを社長自身が認めた言葉でした。

7〜9月期の数字は、前年よりはっきり大きくなりました

  • 売上 207億ドル(前年同期比 +17%。1ドル150円で約3.1兆円)
  • 調整後の一株利益 7.20ドル(前年同期比 +45%)
  • 調整後の営業利益率 20.6%(前年同期比 +3.1ポイント)
  • 受注残 780億ドル(前年同期比 +380億ドル・+96%/前の四半期は720億ドル)

💡調整後=会社が一時的と考える項目を除いて計算した数字(non-GAAP)。会計基準どおりの数字とは別物です。
💡受注残(backlog)=注文は受けたが、まだ出荷していない分の合計。台所の流しにたまった洗い物のようなもので、多いほど先の売上の見込みが厚くなります。

部門別でも、3つの主力がそろって2桁で伸びました。電力・エネルギーが88億ドル(+18%)、建設機械が80億ドル(+18%)、鉱山機械が46億ドル(+15%)。社長は、受注残が3部門すべてで4四半期連続で前の四半期より増えたと言いました。

受注の期間も、この会社にとっては異例の長さです。大型エンジンは2029年、ガスタービンは2030年の分まで注文を受けています。社長自身がこう言っています。

「これは私たちにとって普通ではありません。これまでは、受注残の見通しは12ヶ月かそれ以下でした」

3ヶ月前の「想定以上」が、今回は「想定どおり」でした

数字は強い。それでも、経営陣の言葉は3ヶ月前から一段落ち着いていました。

四半期の出来について。

3ヶ月前:「第2四半期の売上は205億ドルで、想定を上回りました(better than expected)」
今回:「売上は207億ドルで、想定どおりでした(in line with our expectations)」

財務責任者も、部門ごとの説明で「想定どおり」を何度も繰り返しました。利益率については、こう断っています。

「IEEPA関税の還付を除けば、どちらも想定どおりでした」

「どちらも」は、調整後の営業利益と営業利益率のことです。上振れに見える部分には、裁判で無効になった関税の払い戻しが混ざっている、と会社が自分で言っています(IEEPA関税=緊急時の経済権限を定めた法律を根拠にかけられた関税で、2026年2月に最高裁が、この法律では関税をかけられないと判断しました)。

通期の見通しについて。

3ヶ月前:「2026年通期の売上の見通しを、10%台半ばから後半の成長へ引き上げます」
今回:「2026年通期の売上は、10%台半ばから後半の成長を引き続き見込みます」

フリーキャッシュフローの見通しも、前回は「目標レンジの上半分へ引き上げ」、今回は「上半分を維持」。上に動かす言葉が、そのまま据え置く言葉に置き換わりました。

下に動いたものもあります。 鉱山機械の顧客向け販売は、前の四半期は+17%で「想定どおり」でしたが、今回は+4%で「想定を下回りました」。社長は理由を「生産を増やしていく中で、運営上の課題と非効率が出ている」と説明し、試運転の遅れは10〜12月期に取り戻すと言っています。鉄道も、3ヶ月前の「機関車の納入は年間で増える見込み」が、今回は「納入時期の関係で前年をわずかに下回る見込み」に変わりました。

小さな改善もひとつ。中国以外のアジア太平洋は、3ヶ月前の「弱い経済環境」から今回は「安定した経済環境」へ見方が上がっています。

社長が初めて口にした「余裕が無い」

冒頭の言葉に戻ります。10〜12月期の売上が前の四半期からほとんど伸びない計算になるのはなぜか、と聞かれた社長は、こう答えました。

「電力・エネルギーは、生産能力と時間と顧客への納入で決まっています。……ただ、作ったそばから出ていく状態(hand-to-mouth)です。第3四半期には試験設備が一時止まり、なんとか乗り切りましたが、システムに余裕はありません」

3ヶ月前の説明会に、この言い方はありませんでした。用意してきた原稿の中でも、社長は「生産能力を立ち上げることが、いまも電力・エネルギーの成長を決めるいちばんの要因」と言っています。

会社は手を打っています。

  • 大型エンジンの生産能力を、2030年までに2024年の約3倍にする計画(機関車用エンジンを作っているノースカロライナ州の工場を、2つ目の組立・試験拠点に使う)
  • 10メガワット級の新しい大型エンジンを、10〜12月期に初出荷し、来年にかけて増やしていく

ただ、能力は一晩では増えません。社長は別の質問に、能力は崖のように一気にではなく段階的に増える、とも答えています。注文は2030年まで来ているのに、売上は工場の増え方の速さでしか伸びない。 今回の決算のいちばん大事な構図は、ここだと思います。

ひとつ、次に確かめたい点があります。今年の設備投資の見込みは、35億ドルから33億ドルへ少し下がりました。能力が成長を決めると言っている会社の数字なので、これが何によるものかは見ておきたいところです。

受注残の積み上がり方は、少しずつ緩やかになっています

受注残は増え続けています。ただ、増え方は小さくなりました。

前の四半期は、3ヶ月で約90億ドル増えていました。今回は720億ドルから780億ドルへ、約60億ドルの増加です。アナリストの1人は質問の中で、「受注対出荷比率は年初に1.7まであったのが、この四半期は1.3くらいに減速した」と指摘しました。

💡受注対出荷比率(book-to-bill)=その期間に新しく受けた注文を、出荷した分で割った数字。1を超えていれば受注残は増えています。1.3でも増えてはいるけれど、増える速さが落ちている、という意味です。

会社が答えた数字は1つだけでした。受注残のうち、12ヶ月以内に出荷する予定の割合は58%(前の四半期は59%)。780億ドルの58%なので、約450億ドルが向こう1年の売上の候補になります。

そのうえで社長は、受注残という指標そのものから少し距離を取りました。

「四半期ごとに、それを唯一の指標として見ることになるとは思いません」

受注残を「唯一の指標」とは見ない、という言い方は、前の四半期にはありませんでした。受注残が増えるたびに「過去最高」と言える時期は、そう長くは続かない。そのことを、会社が先回りして伝えているように聞こえました。

答えが出なかった質問と、利益率に乗っているもの

説明会では、同じ方向の質問が何度も出ました。

  • 最初の質問は、データセンター向け発電の受注をギガワット(発電能力の単位)で更新してほしいというものでした。答えは「常用電源は増える傾向が続いている」で、数字は出ませんでした
  • 2027年の見通しは、別々のアナリストが少なくとも3回聞きました。答えはいずれも、2027年については次の決算(1月)で話す、というものでした
  • 発電機の顧客のうち、大手クラウド企業の比率を聞かれて、社長は「数字では示さない」と答えました

3回聞かれて3回とも1月へ送られたので、2027年の姿はまだ会社の口から出ていません。ここは次の決算の最初に読むところです。

利益率のほうにも、一時的な上乗せがあります。7〜9月期の関税の還付は1億2,800万ドルで、前の四半期の3億9,200万ドルと合わせて、年初からの累計は約5億2,000万ドルです。一方で、この四半期に払った関税のコストは約6億ドル、通期では約22億ドルを見込んでいます。関税の負担そのものが消えたわけではありません。

もうひとつ、販売店側のレンタル会社が貸し出し用の機械をまとめて仕入れた分が「例外的に強かった」と社長が言い、10〜12月期は「寄与が小さくなる」と付け加えました。自社株買いも、一株利益を約15セント押し上げています。

逆に、構造的と言っていいものもはっきりしています。データセンター向けの発電(+75%)と、石油・ガス会社のガス圧縮用エンジンです。どちらも、一時的な要因ではなく実際の需要です。

最後に、3ヶ月前は語っていたのに今回は出てこなかったものが2つあります。前の四半期、社長は石油・ガス向けの受注残について「1年前のほぼ2倍」と量で語り、遠い先の注文には「価格を後から上げられる条項(escalators)がある」と説明していました。今回、どちらの話も出てきません。この四半期の石油・ガス向けの顧客向け販売は+5%でした。

見通しは据え置き。市場の予想とは、ほぼ同じところにいます

通期の売上は前年から10%台半ばから後半の成長、という見通しは変わっていません。前年の売上(約676億ドル)に当てはめると、約777億〜798億ドルになります。市場の予想の平均は約796億ドルなので、ほぼ同じか、やや下です。10〜12月期について会社は「前年比で緩やかな伸び」と言っていて、この位置とつじつまが合います。

💡コンセンサス=その会社を調べているアナリストの予想の平均。テスト前に「みんなはこの子が何点取ると思っているか」の平均のようなもので、本人の点数だけでなく、その平均と比べて評価されます。

調整後営業利益率は、関税の影響を織り込んだうえで目標レンジの「下限付近」という見通しのまま据え置かれました。利益率を目標の真ん中に戻す時期を聞かれた社長は、「今後数年で」と答えています。

次の決算で、何が見えたら読みが変わるか

今回の僕の読みはこうです。注文はもう十分にある。売上の速さを決めているのは工場の能力で、言葉はその現実に合わせて一段落ち着いた。

この読みが間違っていたと分かるのは、次のような場合です。

  1. 受注残780億ドルが、前の四半期より減る
  2. 12ヶ月以内に出荷する割合が、58%から大きく下がる
  3. データセンター向け発電の顧客向け販売の伸び(+75%)が、1桁台に落ちる

1と2が起きれば、注文が細ってきたことになります。3が起きれば、需要の側が変わったことになります。

反対に、10〜12月期に新しい大型エンジンの出荷が始まり、試験設備の停止のような詰まりが起きなかったと言えれば、「余裕が無い」状態が、能力の追加で少しずつほどけ始めたことになります。

そして1月。3回聞かれて3回先送りした2027年について、社長が何と言うか。780億ドルの受注残を抱えた会社が、来年の伸びを数字で語るのか、それともまた言葉で語るのか。そこで、今回の「想定どおり」の意味が分かると思っています。


ここに書いたのは、2026年10月29日の説明会までに分かっていることです。受注残も、関税の還付も、次の四半期でまた動きます。

僕はこれからも、この会社の決算説明会を前の回と並べて読み続けます。1月の回では、まず2027年の数字が出るかどうかを確かめます。


※この記事は、決算説明会の原文をAIで読み解いて書き、複数の検査(事実照合・表現・法務)を通したうえで公開しています。

※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

この記事で扱ったような内容は、ブログでは一部しか公開していません。

現在、メルマガでは

  • レラティブストレングスランキング(日本株・米国株)
  • 季節性アノマリーチャート
  • 市場のDNAに基づいた実践的な考え方

を継続的に配信しています。

▶ メルマガの詳細はこちら

この記事を書いた人

圧倒的な熱量で世界の相場を毎日14時間以上監視している専業トレーダーです。トレード、バックテスト、調査で得た学びを初心者の方にもわかりやすく発信しています。

目次