アメリカで、レアアースを掘るところから磁石を作るところまでを1社で手がけようとしている会社があります。カリフォルニア州のマウンテンパス鉱山を持つMPマテリアルズです。
この会社は今回、ゼネラル・モーターズ(GM)向けの磁石について「品質の認定を終えた。今四半期から出荷する」と言いました。3ヶ月前は「第4四半期に出荷を始める予定」でした。今回は品質認定を終え、出荷の時期が「今四半期」と確定した回です。
ところが同じ説明会で、財務責任者は磁石事業の利益について「2027年は控えめ」「本当の稼ぐ力が見えてくるのは2028年」と、初めて時期を示しました。段階は前に進み、利益が見えてくるのは1年以上先。今回の決算は、この2つが同時に示された回です。
■ MPマテリアルズの決算説明会の内容(要点)
- 次回の決算:2027年2月上旬ごろの見込み(会社の正式発表待ち)
- 今回:2026年7〜9月期・決算説明会は2026年11月5日
- 「出荷を始める予定」が「出荷する」に変わった
- 数字は前の四半期から2割強伸びた。ただ一部は1回限り
- 2027年の磁石の利益は「控えめ」、本番は2028年
- 3ヶ月前に語っていたことのうち、今回は続きが出なかったもの
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※この記事で扱うのは、2026年11月5日に行われた、2026年7〜9月期(第3四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、編集部の予測ではありません。次回の決算は2027年2月上旬ごろの見込み(会社の正式発表待ち)です。
💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストに向けて説明し、質問に答える電話会議(カンファレンスコールとも呼びます)。発言はそのまま記録に残ります。
その前に——「レアアース磁石」は、何に使われているのでしょう
レアアース(希土類)というと、金やプラチナのような希少な金属を想像するかもしれません。名前に「レア」と付いていますが、この会社の話で大事なのは量の少なさではありません。掘った鉱石から、目当ての元素だけを取り出す「分離」が難しいことです。
身近なところでは、ネオジム磁石がその代表です。小さくても強い力が出るので、電気自動車の駆動モーター、スマートフォンの部品、工場のロボット、ドローンなど、「小さく強く回したい」ものの中には、ほぼこの磁石が入っています。
材料の流れは、ざっくり3段です。
- 鉱山で鉱石を掘る
- 鉱石からネオジムやプラセオジム(まとめてNDPRと呼びます)を分離して、酸化物の粉にする
- その粉を合金にして、磁石に仕上げる
💡NDPR=ネオジムとプラセオジムという2つのレアアースの酸化物。磁石のいちばん主要な原料です。
CEOによると、この磁石の世界市場は年におよそ25万トンで、生産の90%を大きく超える分が中国に集まっています。中国はレアアースの輸出規制もかけています。
だから、この会社の決算で見るべきなのは「アメリカ国内で、掘るところから磁石までが本当につながるのか」です。今回の決算は、その最後の段=磁石が、試験用ではなく販売できる製品として車メーカーへ出ていく直前の回でした。
「出荷を始める予定」が「出荷する」に変わった
3ヶ月前と今回で、経営陣の言い方がはっきり変わったところが2つあります。
1つ目は、GM向けの磁石です。
3ヶ月前:「第4四半期に商業出荷を始め、その後は着実に生産を立ち上げていく見通しです」
今回:「品質認定を完了し、今四半期にGMへ販売可能な磁石の出荷を始めます」
💡品質認定=車メーカーが「この部品なら量産車に使ってよい」と認める試験の合格です。自動車部品は、ここを越えないと1個も売れません。
同じ形で、重希土類も進みました。重希土類はジスプロシウムとテルビウムという元素で、電気自動車のモーターのように熱くなる場所で、磁石の力が落ちないようにするために少量足します。3ヶ月前は「分離の設備を試運転中で、予定どおり」。今回は「ジスプロシウムとテルビウムの商業規模の生産を、今四半期(第4四半期)に始める」と言いました。
2つ目は、需要の話です。 この会社は、もっと大きな磁石工場(社内では「10X」と呼んでいます)を建てる計画で、その能力はすでに100%契約済みだと説明しています。3ヶ月前、CEOはその先の需要についてこう言っていました。
「この工場の需要を埋められるかどうかで、眠れなくなることはありません」
今回は、眠れるかどうかの話ではなく、具体的な数字の問い合わせの話に変わっていました。
「10Xの能力を大きく超える、具体的な見積もり依頼や顧客ごとの必要量が出てきています」「理論上の話だったものが、具体的になりました」
💡見積もり依頼(RFQ)=買い手が「この量をこの仕様で作ってもらうといくらか」と問い合わせること。契約ではなく、問い合わせの段階です。
数字は前の四半期から2割強伸びた。ただ一部は1回限り
伸びを引っ張ったのは、鉱山と分離の素材部門です。
- 連結の売上+PPA収入 1億5,580万ドル(前の四半期比 +23.6%)。1ドル150円で約234億円です
- 素材部門(鉱山と分離) の売上+PPA収入 1億4,160万ドル、調整後EBITDA 4,780万ドル(前の四半期は1億1,320万ドル/3,250万ドル)
- 磁石部門 の売上 1,860万ドル、調整後EBITDA 530万ドル
- 調整後EBITDAは、前年同期より5,370万ドル改善
💡PPA収入=この会社は米国防総省(Department of War)と、NDPRの価格に下限を設ける契約を結んでいます。市場価格が下限より低いとき、その差を政府側が埋める仕組みで、その補填分がPPA収入です。市況ではなく契約で決まるお金です。
💡調整後EBITDA=本業の稼ぐ力を見るために、減価償却や一時的な項目などを除いた利益(non-GAAP)。会計基準どおりの利益とは別物です。
NDPRの生産は、四半期として過去最高でした。前の四半期は840トン(前年同期比+41%)、今回は1,018トン(前年同期比+41%)で、3ヶ月前に生産責任者が示した「第3四半期は1,000トンを超える」見通しどおりでした。第3四半期の一部の期間では、月450トンを超えるペースで動いたと説明しています。説明会では実数を口にせず、決算発表の書面に載せています。
ただし、伸びの中身には1回限りのものが入っています。財務責任者は増収の理由の1つに「1回限りのSEG Plusの売却」を挙げました。SEG Plusは、分離の途中で出る中・重希土類の中間品で、手元に積んでいた在庫の一部を、重要な顧客のために売ったものです。
2027年の磁石の利益は「控えめ」、本番は2028年
今回の説明会でいちばん重い発言は、出荷が始まる磁石事業の見通しでした。財務責任者は、こう言っています。
「磁石の出荷量は徐々に積み上がると見ています。次の2四半期ほどはかなり控えめに始まり、2027年の後半に増えていきます。その頃にはApple向けの生産も寄与し始める見込みです」
「磁石事業全体の調整後EBITDAへの寄与は、2027年も控えめにとどまると見ています。特に上半期はそうです」
「この部門の本当の稼ぐ力が見えてくるのは2028年だと見ています」
3ヶ月前も、財務責任者は「控えめな量から始める」と言っていました。今回はそこに「2027年前半は特に控えめ」「2028年」という時期が加わりました。磁石の販売そのものは最初から調整後EBITDAで黒字の見込みですが、部門としての稼ぐ力が見えてくるのは1年以上先です。
理由として財務責任者が挙げたのは、まずGM側が既存の調達を使い切りながら工場・車種ごとに段階的に切り替えていくこと、次に磁石の前の工程の製品(前駆体)の売上が減っていくことです。前受けで受け取っていた収益の残りは、前の四半期の約4,600万ドルから約2,800万ドルに減っていて、これを今後数四半期かけて減るペースで計上していきます。立ち上げの費用も、少なくとも2027年の上半期までは続くと答えています。磁石の売上が増えても、前駆体の売上が減る分と相殺される、という説明です。
次の四半期(10〜12月期)は、NDPRの販売量と価格が横ばいの見通しです。販売量は第3四半期と同程度の約1,000トン、実現価格も同程度の1キロ約100ドル。1回限りのSEG Plusの売却(約3,160万ドル)は繰り返さない前提で読む必要があります。PPA収入は1キロ約8ドルの見込みで、3ヶ月前に示していた約10ドルから下がりました(第3四半期の実績もすでに約8ドルでした)。設備投資の通期見通し(5億〜6億ドル)は据え置きです。
市場の予想は2027年の売上をおよそ7.9億ドルと見ています。そこに対して、会社が自分から「磁石の寄与は2027年は控えめ」と言ったのは、予想を押し上げる言い方ではありません。2026年通期の売上(PPA収入を含まない)は、第3四半期までで約3.5億ドル。第4四半期が1回限りの売却を除いて同程度なら、市場の予想(約4.5億ドル・記事作成時点の集計)とおおむね並びます。
💡コンセンサス(市場の予想)=その会社を調べているアナリストたちの予想の平均。会社がどれだけ前に進んでも、周りが先にその分を織り込んでいれば、驚きにはなりません。
3ヶ月前に語っていたことのうち、今回は続きが出なかったもの
言い方の変化と同じくらい目立ったのが、前の四半期に具体的に語っていたことの続きが、今回は出てこなかったことです。
追加の顧客。 3ヶ月前は「時間をかけて、追加の顧客の発表をしていく見込みです」。今回、新しい顧客の発表はありませんでした。署名済みの新しい契約や金額の開示もありません。上で書いた見積もり依頼の話は、契約ではありません。
前駆体の利益率。 3ヶ月前は「前駆体の生産は、40%を超える調整後EBITDAマージンを生んだ」と言っていました。今回は言及がありません。前駆体の売上がこれから減っていくと説明した回に、その利益率の数字が消えています。
鉱山の追加の鉱石と、Project Swarm。 3ヶ月前は既存の採掘範囲の中で追加の鉱石がありそうだという初期の掘削結果に触れていましたが、今回は出てきません。Project Swarmについても、3ヶ月前は将来の生産枠を予約する契約(サブスクリプション契約)をすでに複数の参加者と結んだと言っていました。今回は質問に答えて「反響は圧倒的」と述べつつ、防衛の供給網なので「それ以上の進捗をあまりお伝えすることはないと思います」と、契約の数などは出しませんでした。
答えが出なかった質問と、数字に乗っている一時的なもの
質疑応答では、磁石の立ち上げのペースが何度も聞かれました。2028年に工場が設計能力の年約3,000トンで動くのかという質問に、財務責任者は「現時点で具体的な数量の見通しは出しません」と答えています。ペースを決めているのは自社の生産能力や歩留まりなのか、それとも顧客側の受け入れのペースなのか、と聞かれた場面でも「どちらか一方ではない」という答えで、数字は出てきませんでした。磁石がいつ、どれだけ出ていくのかは、今回も未解決のまま残っています。
一方で、はっきり答えた質問もあります。重希土類を十分に確保できるのかという質問に、財務責任者は「いまの工場(Independence)で必要な分は、自社の鉱山からの生産だけで、すべてまかなえると考えています」と答えました。大型工場10Xの分は、外部からの原料の調達と国防総省との提携で備えると説明しています。別の質問では、CEOが車向けの品質で重希土類の必要量を大きく減らしたことも説明しました。
数字に乗っている一時的なものは、次の4つです。
- 1回限りのSEG Plusの売却
- 中・重希土類の異常に高い価格。生産責任者自身が「いまの高い価格がいつまでも続くとは考えていない」と言っています。中国の輸出規制による一時的な品薄です
- PPA収入。市況ではなく政府との契約で決まり、第3四半期の実績は1キロ約8ドル(3ヶ月前の見通しは約10ドル)、第4四半期も約8ドルの見込みです
- 前駆体の前受け収益の計上。残り約2,800万ドルで、減っていきます
CEOは、マクロについても「世界的な金融の後退が本当に起きても驚かない」と、前の四半期より一歩踏み込んだ守りの言葉を足しています(本人は、社内では1〜2四半期前からその可能性に備えてきたと説明しています)。
なぜいま、この会社に磁石の出荷が回ってきたのか
それでも、この会社の位置そのものは今回も動いていません。
電気自動車のモーターに入る磁石は、生産の大半が中国にあります。GMのような車メーカーが中国の外に供給元を求めるとき、原料の鉱山から磁石までを1社でつなげようとしているのが、この会社の立ち位置です。今回の品質認定は、その供給元が実際に車の部品として使える品質に届いたことを意味します。
道筋は、会社の説明ではこう並んでいます。
- 2026年10〜12月期:GM向けに販売可能な磁石の出荷を開始。重希土類の商業生産も開始
- 2027年:NDPRの生産は年5,000トンを超えるペースへ。後半からApple向けの生産が寄与し始める
- 2028年:磁石部門の稼ぐ力が見えてくる年。大型工場「10X」は2028年後半に試運転の予定
ここに、2四半期続けて予定どおり進んできた実績が重なります。GMの品質認定は、前の四半期の車載試験から今四半期の出荷開始へ。重希土類の設備は、前の四半期の試運転から今四半期の商業生産開始へ。どちらも3ヶ月前に言った順番どおりに進みました。手元の現金と短期投資は13.4億ドル(1ドル150円で約2,010億円)あり、設備投資を続ける体力もあります。
つまり、「計画どおりに進むか」については、この2四半期は言ったとおりに進んでいます。分からないのは「進んだ結果が、いつ本格的な稼ぎになるか」のほうで、そこを会社は今回、自分から「2028年」と示しました。
ここに書いたのは、2026年11月5日の説明会までに分かっていることです。次の決算で確かめたいのは、次の3点です。
- GM向けの磁石の出荷が、予定どおり始まったと言えるか。始まったなら、その量を数字で言うか
- ジスプロシウムとテルビウムの生産が、規格どおりの品質で始まったか
- 2027年に年5,000トンを超えるとしたNDPRの生産ペースに、四半期ごとの実数が近づいていくか
次の回で、2028年という時期が後ろへ動くのか、それとも数字で前に出てくるのかを確かめます。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。