3年前に経営危機で消えた銀行を、まるごと飲み込んだ会社があります。
2023年3月、スイスの名門クレディ・スイスが行き詰まり、スイス政府の仲介で同じスイスのUBSに買収されました。日本でも、クレディ・スイスの債券(AT1債)が無価値になったニュースで覚えている方が多いと思います。
その買い手の社長は、今回の決算説明会をこう切り出しました。
「クレディ・スイスの買収は、私たちが受け取った贈り物ではなく、全員で戦って勝ち取らなければならない賞品だ、と最初からはっきり言ってきました」
そして「その努力が、いま実を結びつつある」と続けています。3年がかりの統合の、最後の年の真ん中の決算です。
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※この記事で扱うのは、2026年7月29日に行われた、2026年4〜6月期(第2四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、僕の予測ではありません。次回の決算日は会社の発表待ちです。
💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストに向けて説明し、質問に答える電話会議。発言はそのまま記録に残ります。
その前に——銀行が合併すると、なぜ「コストが消える」のでしょう
「合併で経費が減る」と聞くと、リストラのことだと思うかもしれません。それも含みますが、中身はもっと広い話です。
2つの銀行が1つになると、最初はほとんど全部が2つずつあります。顧客の口座を管理するシステムが2つ、同じ街の支店が2つ、同じ仕事をする部署が2つ。合併した日に、それが自動で1つになるわけではありません。顧客の口座を1件ずつ片方のシステムに移し、移し終わった古いシステムを止めて、初めて費用が消えます。 これに何年もかかります。
2つの家族が1つの家に住むことを思い浮かべてください。冷蔵庫が2台、車が2台、家賃が2軒分。片方を処分すれば出費はぐっと減ります。ただし、処分し終わったら、もう減らすものはありません。 その後で家計を良くするには、収入を増やすしかなくなります。
UBSはいま、まさにその「処分し終わる」直前にいます。今回の説明会では、顧客の移行はすべて終わり、クレディ・スイス側の業務システムの9割以上がもう使われていないと言っています。従業員は11万2,000人で、2022年の水準より約28%少ない。合併による経費削減の目標135億ドルに対して、累計で126億ドルまで来ました(1ドル150円で約1兆8,900億円)。
だからこの会社の決算は、今年の年末を境に読み方が変わります。これまでは「どれだけ削れたか」で利益が伸びてきた。これからは「どれだけ稼げるか」で伸びるしかない。 今回の決算は、その切り替わりの手前で、会社が何を強く言い、何を言わなくなったかが見える回でした。
税引き前利益は45%増。合併前の稼ぐ力に近づきました
- 収益 133億ドル(前年同期比 +16%)
- 基調ベースの税引き前利益 39億ドル(同 +45%・1ドル150円で約5,850億円)
- 純利益 28億ドル、一株利益 0.87ドル
- 投資銀行部門の税引き前利益 12億ドル(前年同期の2倍超)
💡基調ベース(underlying)=統合費用などを除いた、会社独自の集計の数字(non-GAAP)。会計どおりの税引き前利益は36億ドルで、この差には統合費用6億4,500万ドルが含まれます。
利益の伸びは大きいのですが、四半期の一株利益0.87ドルは、市場の予想(0.90ドル前後)を少し下回りました。
社長の言い方では、上期の自己資本利益率は約17%で、「年はまだ終わっていないが、買収前のUBSとほぼ同じ収益力に近づいている」。
💡自己資本利益率(RoCET1)=銀行がいちばん固い元手(普通株を中心とした、損失を吸収できる資本)に対して、どれだけ利益を出したか。銀行版の「元手に対する稼ぐ力」です。
2月に通期で「約13%」と見込んでいた稼ぐ力が、上期は約17%でした
比べる相手は、半年前の2月4日、2025年10〜12月期の決算説明会です。今年1年の約束を数字で並べたのがこの回なので、そこと突き合わせます。
年末の目標について。
2月:「年末までに、基調ベースの自己資本利益率15%と、経費率70%未満に到達する軌道に乗っています」
今回:「2026年の年末時点の利益率目標を上回り、経費率の目標を達成できる位置にいます」
「到達する軌道」から「上回る」へ。財務責任者も締めで「財務目標を達成し、場合によっては上回ることに、ますます自信を深めています」と言っています。2月の時点では、2026年通期の自己資本利益率を約13%と見込んでいました。上期の実績は約17%です。通期の見込みと上期の実績なので、そのまま比べることはできません。それでも、4ポイントの差は小さくありません。
💡経費率(コスト収益比率)=収益100に対して経費がいくら掛かったか。70%なら、100稼いで70を使っている状態。低いほど効率が良い銀行です。今期は70%でした。
金利の収入について。 ここは数字が大きく動きました。
2月:「富裕層部門の金利収入は、前年比で一桁台前半の増加を見込んでいます」
今回:「2026年通期の富裕層部門の金利収入は、2025年比で約10%の増加を見込んでいます」
一桁台前半から約10%へ。質問したアナリストが「市場の予想をかなり上回っている」と言ったほどの引き上げです。ただし理由の1つ目に挙がっているのは、「以前の想定より高い米ドルの金利」です。貸出の伸びと預金の構成も挙げていますが、金利の水準は会社が決められるものではありません。
後片付けの費用について。 クレディ・スイスから引き継いだ、畳むための事業の年末時点の経費は、2月の「約5億ドル」から今回「約4億ドル」へ下がりました。
言葉はどれも、半年前より一段前に出ています。
半年前に数字で言っていた約束が、今回は聞こえてきません
強気の言葉が増えた一方で、2月にはっきり数字や期限つきで語っていたことのうち、手元の記録では今回出てこないものがあります。
1つ目は、アメリカの富裕層部門の人の流出です。 UBSのアメリカ事業では、顧客を抱えた営業担当(ファイナンシャル・アドバイザー)の他社への移籍が続いています。担当が移ると、顧客の資産も一緒に出ていきます。
2月:「2026年の上期までは純新規資産の逆風が続き、その後は移籍による流出の影響が大きく細ると見ています」
今回:「アドバイザーの移動の影響は、時間とともに細っていくと見ています」
「上期の後に」という期限と、「大きく」という程度の言葉が消えて、「時間とともに」になりました。僕が一番気になったのは、この「時間とともに」という一言です。アメリカの富裕層部門が通期で純新規資産をプラスにする、という見通しは維持しています。ただ、いつ止まるのかの言い方は、半年前より柔らかくなっています。
2つ目は、富裕層部門の純新規資産の年間目標です。 2月は「2026年、富裕層部門の純新規資産は1,250億ドルを超えると見ています」と言っていました。手元の記録では、今回の説明会でこの数字を言い直す場面はありませんでした。
💡純新規資産=新しく預けられた資産から、引き出された資産を引いた純額。運用の値上がりは含みません。顧客がどれだけお金を持ってきたかを表す数字です。
公平に書いておくと、この沈黙は悪い知らせとは限りません。会社の発表では、今四半期の純新規資産は360億ドル、上期の合計は730億ドルです。ペースとしては届く位置にいます。届く位置にいるのに言い直さなかった、というのが正確なところです。
3つ目は、投資銀行の売上の倍増目標です。 2月は「市場の支えがあれば、今年末までに、投資銀行のうち企業向け部門(グローバル・バンキング)の売上を、年率換算で2022年の2倍にすることを引き続き目指しています」と言っていました。今回、この部門の売上は前年比33%増の6億9,300万ドルと好調でしたが、手元の記録では「2倍」という言葉は出てきませんでした。
あわせて、アメリカで全国規模の銀行の免許(ナショナル・チャーター)の条件付き承認を得たことを、2月は今後の利益率改善の道筋として語っていました。手元の記録では、今回の説明会でこれも話題に上っていません。
好調の中身と、答えが出なかったこと
今回の好調には、会社の外から来た追い風が混ざっています。会社自身が認めているものもあります。
- アジアの株式売買=今期、アジアの出来高が大きく膨らみました。財務責任者は「第2四半期のアジアの非常に強い出来高が、その水準で続く可能性は低い」と自分から言っています
- 金利=金利収入の見通しの引き上げは、米ドル金利の前提が上がったことが理由の1つ目です
- 株式・債券の発行の活況=資金調達の手伝い(資本市場)の売上は55%増。中でも買収資金などの融資をまとめる部門(LCM)の売上は前年の2倍超でした
- 経費削減=135億ドルで終わる一巡型。残りは約9億ドルです
どれも、会社が説明の中で自分から原因として挙げています。 少なくともアジアの出来高については、続かないと会社が自分で言っています。
答えが出なかったこともあります。アメリカの人の流出は、最初の質問と終盤の質問で、2つの金融機関が同じことを聞きました。終盤の質問は「流出は下期に大きく細る、という前回の見通しは今も有効か」という直球でしたが、返ってきたのは「時間とともに細る」と「1四半期の差を読みすぎないでほしい」で、時期は出てきませんでした。預かり資産が80億ドル減った撤退について、どの地域・どの顧客層かを聞かれた場面では「その撤退の詳細は、改めてお伝えします」で終わっています。
もう1つ、会社の努力の外側にあるものがあります。スイス議会で、海外子会社にどれだけ資本を積ませるかの審議が続いています。 会社は新たに30億ドルの自社株買いを発表しましたが、期限は「遅くとも2027年6月末まで」で、ペースはこの審議の行方しだいだと言っています。2月は「2026年に30億ドル、さらに上乗せを目指す」でした。金額は同じで、期限が半年延びた形です。
利益の出どころは3つ。そのうち1つは、年末で消えます
UBSの今期の利益の伸びには、出どころが3種類あります。1つは合併の後片付けで消えた経費。これは確実で、会社の実力ですが、年末で終わります。2つ目は市況。アジアの出来高、株式発行の活況、米ドル金利。これは会社が決められません。3つ目が富裕層ビジネスの地力です。
3つ目には、確かに積み上がっているものがあります。一任運用(顧客が運用を任せる契約)の比率は過去最高を更新しました。看板の一任運用サービス「My Way」の預かり資産は、2月の「300億ドル超」から今回は「400億ドル超」へ。富裕層部門の売買手数料の収入は、12四半期連続で前年比2桁の伸びです。財務責任者も、純新規資金の中で「市場以外の要因」の比重が増えていると説明しています。
💡一任運用=顧客が「この方針でお願い」と運用を銀行に任せ、毎年決まった手数料を払う契約。相場の上げ下げで売買の手数料が増減するのと違い、収入が安定しやすいのが特徴です。
ただし、1つ目と2つ目が大きすぎて、3つ目がどれくらいの力を持っているのかは、今期の数字からは切り分けられません。だから「目標を上回る」という強い言葉は、1つ目と2つ目が揃っているいまなら言えます。年末に経費削減が終わり、市況が普通に戻った時に、3つ目だけで同じ言葉が言えるか。 それを確かめる回が、まだ来ていません。
そして、3つ目を測るのにいちばん素直な物差しが、純新規資産とアメリカの人の流れです。半年前に数字と期限で語っていたのは、まさにその2つでした。 今回それが言葉から抜けた。僕が「時間とともに」の一言に引っかかったのは、そのためです。
次に確かめること
最初の答え合わせは、2026年10月28日に予定されている2026年7〜9月期の決算です。見る点は2つあります。アジアの出来高が落ち着いた後でも、富裕層部門の売買手数料が伸びているか。アメリカの富裕層部門の純新規資産が、流出の「細り」を数字で見せるか。
その先に、2028年に向けた目標があります。会社はこれを「第4四半期の戦略アップデートで示す」と言っています。年明けに出てくるその回が、この会社の切り替わりの本番の答え合わせになります。
僕の読みは「統合の果実が出そろった、最後の追い風の年」です。これが悪いほうに違っていたと分かる形は、2つあります。
- 2026年10〜12月期の決算で、年末時点の自己資本利益率が15%に届かない、または経費率が70%を超える
- アメリカの富裕層部門の2026年通期の純新規資産がマイナスになる
逆に、良いほうへ外れる形もあります。経費削減が終わった後の四半期で、一任運用と売買手数料の伸びが、アジアの出来高が落ち着いても続いていた場合です。そのときは、強い言葉を支えていたのは市況ではなく、会社の地力だったことになります。
ここに書いたのは、2026年7月29日の説明会までに分かっていることだけです。スイスの資本規制の審議も、アメリカの人の流れも、まだ動いています。
合併の後片付けで伸びる利益は、いつか必ず止まります。その手前の言葉が当たっていたかは、止まった後にしか分かりません。だから同じ会社を、回ごとに前の回と並べて読んでいます。次の決算が出たら、その回をこの記事と並べて書きます。
※この記事は、決算説明会の原文をAIで読み解いて書き、複数の検査(事実照合・表現・法務)を通したうえで公開しています。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。