クアルコム決算の内容:専用AI半導体の出荷は始まったのに、「3月期は増える」はもう言いませんでした【QCOM・2026年7〜9月期】

スマホの半導体で知られる会社が、この10月、大手クラウド向けに作る専用のAI半導体を出荷し始めました。3ヶ月前の説明会では、「ウエハーの製造を始めた」という段階の話でした。

同じ説明会で、別のことも起きています。3ヶ月前に「12月期から3月期にかけて売上は増える」と話していた財務責任者が、アナリストに聞かれて、こう答えました。

「おっしゃるとおりです。3月期の見通しは、いまの時点では出していません」

クアルコムは、スマホの頭脳にあたる半導体を売る事業と、通信技術の特許料を受け取る事業の2本柱で成り立っている会社です。今回の四半期の売上でも、半分近くがスマホ向けの半導体でした。

■ クアルコムの決算説明会の内容(要点)

  • 次回の決算:2027年2月上旬ごろの見込み(会社の正式発表待ち)
  • 今回:2026年7〜9月期・決算説明会は2026年11月4日
  • 結果:売上 103億ドル
  • Appleの穴は50億ドル強、データセンターの目標は50億ドル
  • 売上は前年より7%減、その中で自動車は89%増
  • 「ウエハーを始めた」から「10月に出荷」へ、自動車は見通し70億ドルが実績80億ドルへ
  • 12月期の見通しは、売上が市場の予想より上、一株利益はわずかに下。1年前より約12%少ない売上です
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※この記事で扱うのは、2026年11月4日に行われた、2026年7〜9月期(同社の会計年度では2026年度の第4四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、編集部の予測ではありません。次回の決算は2027年2月上旬ごろの見込み(会社の正式発表待ち)です。

💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストの質問に答える電話会議(カンファレンスコールとも呼びます)。この記事の数字は、断りが無ければ会社が「調整後」と呼ぶもの(non-GAAP)です。

目次

その前に——「カスタムシリコン」って、何でしょう

今回の説明会の中心にある言葉が「カスタムシリコン」です。シリコンと聞くと素材を思い浮かべますが、ここでは半導体そのものを指します。

ふつうの半導体は、メーカーが設計して、誰にでも同じものを売ります。カスタムシリコンは、特定の顧客のために作る専用の半導体です。量販店に並ぶ既製のスーツと、1人の体に合わせて仕立てるオーダースーツの違いに近いものです。

クアルコムの場合、いま立ち上がっている注文主は大手クラウド企業2社で、1社はアマゾンです。AI向けの計算を速くする半導体を、この2社のために作っています(アマゾン向けは、AIに答えを出させる計算=推論の用途です)。

この形には、この先の決算の見え方を変える特徴が2つあります。1つは、2027年度のデータセンターの売上の大半がこの2社に集まること。もう1つは、会社自身の説明で、営業利益率には貢献するのに、粗利率は押し下げることです。

💡粗利率=売上から製造の原価だけを引いて残る割合。営業利益率=そこから研究開発費などの費用も引いて残る割合。

売上は増えても、粗利率はデータセンターの分だけ押し下げられる。この先のクアルコムの決算は、その形で出てきます。

Appleの穴は50億ドル強、データセンターの目標は50億ドル

クアルコムがこの事業を急ぐ理由は、はっきりしています。大口の顧客だったAppleが、半導体の買い手として抜けていくからです。

3ヶ月前の説明会で、あるアナリストが「2026年度のApple向け売上は75億ドルくらいで、その大半が2027年度に消えるという理解でよいか」と計算してみせ、財務責任者は「妥当な範囲の見積もりだと思います」と答えました。2027年度に残るApple向けは、以前の見通しだった20億ドル強を下回るとも言っています。差し引くと、1年で50億ドル強が消える計算です。

一方、2027年度のデータセンターの売上目標は50億ドル。ほぼ同じ大きさです。

今回、財務責任者はこう説明しました。

「スマホ以外の売上は、26年度から27年度にかけて60%超伸びると見込んでいます。ですから、この売上がApple製品の売上の減少を上回ることになります」

スマホ以外とは、自動車、IoT、データセンターの3つです。新しい事業の伸びの多くは、まず穴を埋めるのに使われます。

💡IoT=産業機器やネットワーク機器、ロボット、タブレットなど、スマホと車以外のさまざまな機器向けの半導体。

売上は前年より7%減、その中で自動車は89%増

  • 売上 104.4億ドル(前年同期比 −7%・1ドル150円で約1.6兆円)。会社の見通し97億〜105億ドルの上のほうです。会計基準どおりの売上は103.2億ドルで、差の1.2億ドルは法的和解に関連する顧客への支払いを除いた分です
  • 調整後の一株利益 2.17ドル(−28%)。見通し2.05〜2.25ドルの中ほどで、会計基準どおりの一株利益は1.17ドル
  • スマホ向け半導体 51億ドル(前年同期比 −26%)。見通しは約52億ドルでした
  • 自動車向け 20億ドル(前年同期比 +89%)。会社は「初の20億ドルの四半期」と説明しています。見通しは約60%増でした
  • IoT向け 19億ドル(+4%)

💡前年同期比=1年前の同じ四半期との比較。前期比=すぐ前の四半期との比較。調整後=会社が一時的、または現金の動きを伴わないと考える費用などを除いた数字。会計基準(GAAP)の数字とは別物です。

自動車とIoTを合わせた売上は36%増で、3ヶ月前の28%増から加速しました。特許料の事業は13億ドルで、税引き前の利益率は70%です。

全体が減っているのに、部分は大きく伸びている。主力のスマホが足を引っ張り、自動車が引っ張り返している四半期でした。

「ウエハーを始めた」から「10月に出荷」へ、自動車は見通し70億ドルが実績80億ドルへ

3ヶ月で具体的に進んだところが3つあります。

データセンターは、ウエハーから出荷へ。

3ヶ月前:「近く始まるカスタムシリコンの2件は12月期に売上を生み、ウエハーの製造を始めました」
今回:「カスタムのアクセラレーターは10月に出荷を始め、AWSとの接続ソリューションは今月後半に立ち上がります」
💡アクセラレーター=特定の計算を速くする半導体。AWS=アマゾンのクラウド部門。

12月期のデータセンターの売上は6.5億ドル超、2027年度の終わりには年換算70億ドルの水準に達すると、今回は数字を出しました。3ヶ月前の説明会には無かった数字です。四半期に直すと約17.5億ドルで、1年足らずで2.7倍ほどになる計算です。

新しい半導体技術は、シリコンの段階へ。 メモリーと計算部分を一体にして、データのやり取りの詰まりを解消しようとするHBCという技術があります。3ヶ月前は「多くの顧客は、シリコンを見たがっています」と話していました。ラボでの検証が通った今回、CEOの言葉はこう変わりました。

「パワーポイントの段階と、シリコンがある段階とでは、会話が変わります」

電力の効率は、1ビットを運ぶのに使う電力(小さいほど良い)が設計目標の約0.5に対して、ラボで約0.3です。ただしこれは実験室の数字で、製品の発売は3ヶ月前の説明で2027年半ばです。新たに2社の有力な見込み客が加わったと言いますが、名前も金額も出ていません。そして歩留まりは、用意された原稿では「計画どおり」、質疑では「期待を上回っている」と、同じ説明会の中で言い方が2通りありました。

💡歩留まり=作った半導体のうち、正常に動くものの割合。

自動車は年換算で、見通しを10億ドル上回りました。 その見通しは60億ドル、70億ドルと引き上げられてきて、今回の実績は約80億ドルです。

12月期の見通しは、売上が市場の予想より上、一株利益はわずかに下。1年前より約12%少ない売上です

12月期の見通しは、売上104億〜112億ドル、調整後の一株利益2.15〜2.35ドルです。

💡市場の予想=その会社を調べているアナリストの予想の平均。

決算発表時点の報道では、12月期の売上の予想平均は約105億ドル、一株利益は約2.3ドルでした。会社の見通しの中央は108億ドルと2.25ドルなので、売上は上、一株利益はわずかに下です。1年前の12月期の売上は122.5億ドルで、中央で比べると約12%少なくなります。Appleの売上が大きかった四半期が、そのまま抜ける形です。

内訳を見ると、スマホ向けは前期比で1桁台半ばの減少、自動車とIoTを合わせて前期比でほぼ横ばい。半導体部門で増える分は、データセンターが担います。自動車の89%増は1年前との比較で、この横ばいは自動車とIoTを合わせた、すぐ前の四半期との比較です。矛盾ではありませんが、今回の伸びが次の四半期にそのまま積み上がる見通しではありません。

目標は、2027年度のデータセンター50億ドルも、2029年度のデータセンター150億ドルとスマホ以外全体の400億ドルも、据え置きでした。50億ドルを超える上振れについては、こう言っています。

「50億ドルを超える上振れについては、需要よりも供給が制約になると見ています」

アナリストの集計では、2027年度の売上の予想平均は448億ドルです。2026年度の実績432億ドルに比べて4%弱の増加にとどまります。スマホ以外が60%超伸びても、市場の予想の上では、会社全体はその程度の伸びです。

言わなくなった3月期、下限になった粗利率、「首位」から「最大手の一角」へ

良い話の陰で、言い方が後ろへ下がったところがあります。

3月期の「増える」は、言わなくなりました。 3ヶ月前も正式な見通しではなく、年間の形を説明する中での言葉でした。ただ、はっきり「増える」と言っていました。今回は、12月期が年間のピークにはならないと説明しています。アナリストが、前回は3月期が増えると言っていたと持ち出し、「いまはそれを確約したくない、ということでしょうか」と重ねて聞くと、答えはこうでした。

「ええ、皆さんがこの事業を見てきた見方は、妥当な見方だと思います」

確約するかと聞かれた答えに、「増える」という言葉は入っていません。否定もしていません。

粗利率は「下限」へ。 半導体部門の粗利率の話です。

3ヶ月前:「過去の粗利率のレンジに沿う水準になると見ています」
今回:「基準となる粗利率は、過去のレンジである48〜50%の、その下限に戻ります」

データセンターによる押し下げは、その上にさらに乗ります。3ヶ月前は「1.5〜2%」と数字がありました。今回、データセンターが年度内に3倍近くなる中で粗利率は下がり続けるのかと問われた財務責任者は、数字を出さずに、こう結びました。

「前の四半期にお話ししたことと何も変わりません。計画どおりに進めています」

「下限」という言葉は、3ヶ月前の答えにはありません。値上げの幅も、3ヶ月前は「2桁」と言いましたが、今回は聞かれても踏み込みませんでした。

Androidの規模を取り戻す話と「1.5ドル」は消えました。 3ヶ月前は、メモリー価格の高騰が落ち着けば、Android向けの売上の規模と成長率を取り戻せると話していました。市場が正常に戻れば、一株利益で1.5ドル超の追い風になりうる、とも。今回、この2つは出てきません。今回あったのは、メーカーの在庫の取り崩しが終わるので、2027年度のAndroid向け半導体の売上は市場全体に沿って動く、という説明です。

市場の見立ても動いています。2026年のスマホ市場の減少幅は、3ヶ月前の「10%台前半」が今回は「10%台前半から半ば」に。2027年は「横ばいから微減」を前提にしていて、アナリストからは驚いたという声も出ました。財務責任者は慎重な前提だと答え、CEOはAIエージェントを載せたスマホで高価格帯のシェアは強まると見ています。

💡AIエージェント=人の代わりに調べ物や手続きを進めるソフト。

自動車は「首位」が消えました。

3ヶ月前:「売上で、自動車向け半導体の首位になる軌道に乗っています」
今回:「2027年度に、売上で自動車向け半導体の最大手の一角になる位置にいます」

実績が上振れした回に、言葉のほうは「首位」から「最大手の一角」へ下がりました。期限が付いた分だけ具体的にはなっています。

調整後の数字を一度きりの利益が押し上げたという話は、説明会には出てきません。ただ、良く見える数字がそのまま続くとは言えないものはあります。中国向けAndroidの戻りは、スマホメーカーの在庫の取り崩しが終わったことが大きく、6月期を底にした循環の面があります。自動車の89%増を、財務責任者は第5世代の製品の普及で説明しています。CEOは増加が続くと言っていますが、12月期の見通しの数字は自動車とIoTを合わせたもので、自動車単独の次の伸びはまだ確かめられていません。

未決の話も1つあります。半導体の設計図を提供するArmとの裁判です。陪審はクアルコム側の主張を一部認めました(賠償は名目の計2ドルで、Arm側の勝ちとなった主張もあります)。クアルコムがArmに払う設計図の使用料(ロイヤルティ)を止められるかなどは、判事の判断待ちです。

2社の専用半導体と、車1台あたりの8倍

Appleの穴を埋める主な事業は2つあります。

1つ目がデータセンターです。 2027年度の50億ドルの大半は、2社向けの主要なAIアクセラレーターで、次に大きいのが通信用の接続半導体。買収したAlphawaveの技術が元になっています。AWSとの長期契約については「今後10年で最大600億ドル(1ドル150円で約9兆円)の売上機会がありうる」と言いました。ただし、これは「最大」で「機会」です。しかも、クアルコムは自社の株を決められた価格で買える権利(ワラント)をアマゾン側に渡しています。財務責任者はこの形を例外と説明し、他の顧客とは通常の取引だと話しました。ただし、今後の案件では別の形も個別に検討するとしています。

💡ワラント=決められた価格で株を買える権利。アマゾン側に渡したものは、発行時の株価の水準で買える条件です。

2029年度の150億ドルには、カスタムシリコンと接続半導体の拡大に、CPUとアクセラレーターが加わる計画です。Metaに向けたCPUは予定どおりで、別の大きな見込み客とも話をしていると言います。

2つ目が自動車です。 第5世代の製品の出荷が7〜9月期に始まりました。CEOの説明では、いま路上を走る第3世代の車と比べて半導体の搭載量は8倍です。伸びの大半はシェアの獲得だとも言っています。

もう1つ、地味な話を。Appleは半導体の買い手としては抜けますが、特許料の契約は更新されました。 ファーウェイなども同じです。次の更新の山は2030年度からで、特許料の水準を保てたかと聞かれた財務責任者は「料率とロイヤルティを維持して更新できたと受け取ってください」と答えています。

説明会の当日の朝には、SpaceXのStarlink Mobileが全米の地上5G網にクアルコムを選んだことも発表されました。金額は出ておらず、売上になるのは「どちらかと言えば2028年度」です。

12月期のデータセンターは、6.5億ドルに届くか

確かめる点を、答えが見える順に並べます。

  1. 12月期のデータセンターの売上が6.5億ドルに届くか。カスタムシリコンの売上が初めて計上される回です
  2. 3月期の見通しが数字で出たとき、12月期の中央108億ドルより上か下か。3ヶ月前の「増える」はそこで確かめられます
  3. 2027年度の50億ドルと年換算70億ドルが、言葉として残っているか
  4. 2027年度後半に、基準の粗利率が48%まで戻るか。値上げの効果が出るはずの時期です

逆に、データセンターの目標が引き上げられ、供給の制約が解けていくなら、3ヶ月前より強い立場に立ったことになります。


出荷は始まりましたが、カスタムシリコンの売上はまだ1四半期も計上されていません。

半導体の注文主はついた。残っているのは、粗利率と3月期です。次の説明会でも、同じ問いを前回の言葉と突き合わせて読みます。


※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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この記事を書いた人

圧倒的な熱量で世界の相場を毎日14時間以上監視している専業トレーダーです。トレード、バックテスト、調査で得た学びを初心者の方にもわかりやすく発信しています。

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