ある世界的な決済会社は、AI機能のために使うと約束した金額を、5ヶ月で最初の8倍近くまで増やしました。ある製薬会社は6ヶ月で6倍超。あるテクノロジーインフラの会社は6ヶ月で7倍超です。
語ったのは、アプリやウェブサイトの画面をチームで作る道具の会社、フィグマ(Figma)です。
■ フィグマの決算説明会の内容(要点)
- 次回の決算:2027年2月上旬ごろの見込み(会社の正式発表待ち)
- 今回:2026年7〜9月期・決算説明会は2026年11月4日
- 売上は見通しの上限を超え、次の四半期の見通しは+33%です
- 3ヶ月前は無料だったエージェントが、10月6日から有料になりました
- 実質の値下げで、短期の売上を自分から削りました
- 顧客数の伸びは、説明の中で率から社数に変わりました
日足チャート(価格/出来高/RSI(2)/ニュースセンチ/RSランク)。毎日自動更新。
※この記事で扱うのは、2026年11月4日に行われた、2026年7〜9月期(第3四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、予測ではありません。次回の決算は2027年2月上旬ごろの見込み(会社の正式発表待ち)です。
💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストへ説明し、質問に答える電話会議(カンファレンスコールとも呼びます)。
3社の話に出てくるのは倍率だけで、社名も金額もありません。同じ説明会で、AI機能の寄与がどれだけ見通しに入っているのかを聞かれた財務責任者は、製品の名前と「2.5倍超」を挙げ、金額は言いませんでした。
その前に——「AIクレジット」は、スマホのギガに近いものです
フィグマは、画面のデザインをブラウザ上で何人もが同時に描ける道具です。文書でいえばGoogleドキュメントの、画面デザイン版と考えてください。売上の土台は「席」で、使う人1人あたりの料金です。
そこに今年、もう1本の売上が加わりました。AIクレジットです。
名前にクレジットと付きますが、クレジットカードとは関係ありません。AI機能を使うたびに減っていく利用枠のことです。
席の料金は、人が増えなければ増えません。一方でAI機能は、使われるたびに計算の費用がかかります。席の料金だけで使い放題にすると、たくさん使う顧客ほど会社の持ち出しが増えます。
スマホの料金プランに近い形で解決しています。プランに毎月のギガが含まれていて、超えたら追加で買う。あの仕組みです。フィグマも席ごとにクレジットが含まれていて、今年3月からは全席に上限を設け、超えた分は追加の購入(アドオン)か、使った分の後払いになりました。大口顧客向けには、約束した金額を長い期間で少しずつ使う「ドローダウン」という買い方も加わっています。
この仕組みで、今回の決算の読み方が決まります。売上が人数だけでなく使用量でも動くようになり、その使用量には計算の費用がついて回ります。 だから売上と利益は、同じ速さでは伸びません。
売上は見通しの上限を超え、次の四半期の見通しは+33%です
- 売上 3億9,140万ドル(前年同期比 +43%。1ドル150円で約587億円。見通しの上限を1,640万ドル上回りました)
- 調整後の粗利 3億2,100万ドル(+36%)、粗利率 82%(前の四半期は85%)
- 調整後の営業利益 4,700万ドル(利益率12%。前年同期は3,400万ドル)
- 調整後の一株利益 0.10ドル(前年同期も0.10ドル)
- フリーキャッシュフロー 4,150万ドル(売上に対して11%。前の四半期は14%)
💡調整後=株式報酬などを除いた、会社が定めた数字(non-GAAP)。会計基準どおりのGAAPでは、営業損益は1億1,920万ドルの赤字、一株損益は-0.15ドルです。粗利率=売上から提供にかかった費用を引いて残る割合。フリーキャッシュフロー=事業で稼いだ現金から設備投資を引いて手元に残る分。
伸び率の流れは、3ヶ月前と変わりました。
3ヶ月前:「前年同期比48%の伸びで、3四半期連続の成長加速となりました」
今回:「売上は3億9,100万ドルで、前年同期比43%増でした」
加速の連続は+48%で止まり、+43%を経て、次の10〜12月期の見通しは4億200万〜4億400万ドル、中央で+33%です。
この+33%をそのまま受け取れるかは、まだ分かりません。3ヶ月前に出した7〜9月期の見通しは中央で+36%で、実績は7ポイント上に出ました。ただ今回、財務責任者は「これまでの四半期より、分かっていることが多い状態で入っている」と言っています。見通しの立て方自体は変えていないとも述べました。分かっていることが多い見通しに、前回と同じだけの余白があるとは限りません。
減速の要因として会社が挙げたものの1つは、2025年1〜3月期に行った価格と料金体系の変更です。その効果がまだ抜けている途中で、2027年1〜3月期までに完全になくなると説明しました。今期までの高い伸びには、この値上げの分が入っていたことになります。
通期の売上見通しは14億6,300万〜14億6,700万ドルから、14億9,700万〜14億9,900万ドル(+42%。約2,250億円)へ上がりました。中央で3,300万ドルの引き上げで、前回の4,000万ドルより小幅です。計算すると、このうち約1,740万ドルは、すでに終わった7〜9月期の実績が見通しの中央を上回った分で、この先の分の上積みは半分弱です。
💡見通し(ガイダンス)=会社が自分で出す業績の予想。市場の予想=アナリストたちの予想の平均で、別のものです。
通期の市場の予想は約14億7,000万ドルで、新しい見通しの中央は約2%上です。この予想は決算前の集計とみられるので、参考程度に見てください。
営業利益の変化は、売上より大きいものでした。3ヶ月前は1億2,500万〜1億3,500万ドルで据え置きだった通期見通しが、1億5,800万〜1億6,300万ドルへ上がっています。中央で約3,050万ドル、旧見通しの約23%です。理由として挙げたのは、7〜9月期の上振れ、社内で使うAIの費用の節約の持ち越し、AI製品を提供する費用の改善です。この先の売上が強くなるからという説明ではありません。
3ヶ月前は無料だったエージェントが、10月6日から有料になりました
前の四半期と今回で、いちばん大きく変わった言葉はこれです。
3ヶ月前:「ベータ版でまだ顧客に展開中の製品や機能は、Figmaエージェント、ローカルコード対応のFigma Make、Motion、生成プラグイン、Code Layersを含めて、現時点では有料クレジットを消費しません」
今回:「Figmaエージェントが10月6日に正式提供となり、製品の大半が有料クレジットを消費するようになったことで、これまでの四半期より分かっていることが多い状態でこの四半期に入っています」
無料の試験提供から、お金を取る段階へ移ったということです。
💡Figmaエージェント=指示すると、画面のデザインや繰り返しの作業をフィグマの中で進めてくれるAIの機能。ベータ版=試験提供の段階のこと。3ヶ月前の時点では、ベータ版の利用料は取っていませんでした。
買い方も変わりました。
3ヶ月前:「顧客からは、より長い期間でクレジットを使えるようにしてほしいという声を聞いています」
今回:「ドローダウンを可能にしました。最大規模の顧客向けの、より柔軟な購入の形で、料金改定から10月末までの対象となるアドオン購入の80%を占めました」
要望だった買い方が、料金改定から10月末までの約2ヶ月で、対象となるアドオン購入の8割になっています。冒頭の3社の倍率は、この流れの中で語られました。
- テクノロジーインフラの会社:6ヶ月でアドオンを2回増やした後、ドローダウン契約を結び、約束額は最初の購入の7倍超
- 世界的な決済会社:5ヶ月で8倍近く
- 世界的な製薬会社:6ヶ月で6倍超
大きな倍率ですが、最初の金額が出ていません。財務責任者自身が「たいていのお客様は小さく始めて、そこから増やしていきます」と言っています。最初から大きく契約する例もあるとのことですが、3社については「絞った約束から始め、価値を確かめて増やした」例として語られました。いくらから始めたのかは出ていません。分母が小さければ、倍率は大きく出ます。
利用のほうは数字が出ています。
- 年1万ドル超を払う顧客のうち、Figmaエージェントを毎週使う割合:50%超 → 65%
- 同じ顧客のうち、AIクレジットを毎週消費する割合:約80% → 80%超(ほぼ横ばい)
- 同じ顧客層でクレジットを消費する週次の利用者数:7月初めから10月末で約50%増
- ベータの利用を除いた週次のクレジット消費:正式提供を挟んで10月末までに2.5倍
最後の2.5倍は読み方に注意が要ります。起点の日付は言っていません。正式提供から10月末までは1ヶ月足らずです。しかも計算の上では、無料だった利用が有料の側へ移った分が入ります。伸びの全部が新しい需要とは言えません。
有料になった後も残ったかどうかの数字はあります。組織向けの上位プランでベータのクレジットを使っていた利用者のうち、80%超が正式提供の後もクレジットを使い続け、95%超がサービス自体を使い続けています。
実質の値下げで、短期の売上を自分から削りました
8月、会社はアドオンの料金を改定し、同じ値段で入るクレジットを増やしました。実質の値下げです。その結果、アドオンの利用率は10月末までに平均で40%近く上がりました。
ただ、この値下げで売上を削ったことを、会社は認めています。契約残高を聞かれた答えの中で、財務責任者はこう言いました。
「この四半期に、短期の売上の一部を犠牲にしたのは確かです」
例に挙げたのが8月の料金改定です。
💡NDR(売上継続率)=年1万ドル超の既存顧客が、1年前と比べていくら払うようになったかの割合。131%なら、去年100万円払っていた顧客群が今年は131万円払っている計算です。
既存顧客の支払いの伸びを示すNDRは、136%から131%へ下がりました。130%超は5四半期連続で続いており、水準は高いままです。価格の変更がこの数字に与えた影響を聞かれた財務責任者は、こう認めています。
「ですから、はい、短期のNDRには影響が出る可能性があります」
影響の大きさは言っていません。続けて「長期では、小さく始めた顧客が何倍にも増やしてきた」と述べていますが、短期には不利に働く可能性を質問の場で認めた発言です。
顧客数の伸びは、説明の中で率から社数に変わりました
3ヶ月前、顧客数は伸び率で語られていました。年1万ドル超の有料顧客は前年同期比+34%、年10万ドル超は+46%です。今回の説明では、7〜9月期にそれぞれ600社超、80社超を追加したという社数になりました。
発表資料には、顧客の総数と1年間の増加数が載っています。年1万ドル超は16,566社で3,650社超の増加、年10万ドル超は1,717社で450社超の増加です。ここから計算すると、伸び率はそれぞれ約+28%と約+36%になります。
アナリストの1人は、高い水準からではあるものの「1万ドル超と10万ドル超の顧客の伸びが少し後退した」と指摘し、顧客数が再び加速するのかを聞きました。財務責任者はまず、小口のProではMCPなどを入口に有料プランへ入る顧客が増えていると答えました。そのうえで1万ドル超については、この層が年間継続収入に占める割合を示しました。2025年3月末の64%から70%近くへ上がったという数字で、「私たちが注力してきたのは、すでに使っている多くの顧客の中でどう深く入っていくかです」と続けています。
数が増えるより、1社あたりが深くなる方向です。再加速するかどうかには答えていません。
「コードの次はデザイン」という説明と、崩れていない席の数字
説明会の最初の質問は、地位をどう守るのかでした。コードを書く作業とデザインの作業が重なり、AIの開発ツールが広がっている中での問いです。
CEOの答えは「守っているだけではありません。勝ちにいっています」。会社の説明の筋はこうです。コードを書くことが長年の詰まりだったが、コーディングのモデルが進んで詰まりはそこではなくなった。作れるものが増えるほど、何を作るか、どう見せるかで差がつく。そして複数の案を並べて決める場所としては、一直線に進むコードの画面より、フィグマのキャンバスが向いている。
数字で見ると、守りを支えるのは席です。
- 年1万ドル超の顧客の約3分の2が、前回の更新時よりフルシート(全機能を使える席)を増やしました。前の四半期と同じ水準です
- 解約や減額の分だけを見る総維持率は90%台半ばから後半で、ここも変わっていません
AIに席を奪われるという心配は、この数字にはまだ出ていません。
攻めがAIの利用です。外部のAIエージェントとフィグマをつなぐMCPの接続口は、週の利用者が約100万人になりました。外のエージェントがフィグマの画面に書き込む「書き戻し」の利用は、前の四半期の+75%から、今回は前四半期比で4倍へ。新規のProチームの約半数がMCPを使い、クレジット消費の5%がMCPを経由しています。
💡MCP=AIエージェントと外部のソフトをつなぐ共通の決まり。ほかのツールで動くエージェントからフィグマの画面を読んだり、書き込んだりできます。
使う人の幅も広がっています。リーガルAIのHarveyではデザイナーでなくマーケティングのチームが使い、ある回では36本の動画を69分で作りました。使う人の幅とは別に、作業の短縮の例もあります。Uberでは複数人で数ヶ月かかっていたデザイン部品の文書化を、1人のデザイナーが午後の間に公開できるようになったとのことです。どれも会社が紹介した事例で、契約額は出ていません。
費用の側では、自社モデルの出番が増えました。他社のAIモデルと併用している、フィグマ自身が調整したAIモデルのことです。3ヶ月前、会社はAIの計算費用を抑える手段の1つとして、自社モデルを「持ち込み始めている」と説明していました。今回は7月初めから10月末で、エージェントの仕事に占める割合が2倍超になったと言います。1メッセージあたりの平均費用も下がったと説明しましたが、下げ幅の数字はありません。
AIの額、フルシートへの移行、粗利率。質問が重なったところ
ここからが、説明会で片付かなかった部分です。
- AIの寄与額:見通しにどれだけ入っているかを聞かれ、製品の名前と倍率が返りました。内訳を聞く質問、消費型の比率を聞く質問にも数字はありません
- 値下げ分を取り戻す時期:利用の増加で売上が値下げ前と釣り合うまでの期間を聞かれ、財務責任者は、増えたのはアドオンの利用だという整理と、10〜12月期の案件の見込みが強くなっているという答えを返しました。時期は出ていません
- フルシートへの移行:料金改定の後に、顧客がフルシートへ移っているかという問いです。同じアナリストが「フルシートについては何かありますか」と聞き直しましたが、答えが無いまま次の質問へ移りました
- 契約残高:残存履行義務が前の四半期から少し減ったと指摘され、季節性や月払い顧客の話で説明しました。短期の売上を犠牲にしたという上の発言は、この答えの中で出てきたものです
💡残存履行義務(RPO)=契約済みで、まだ売上になっていない金額。
粗利率については、質問者が「いつも聞いていますが」と断って今後の傾向を尋ねました。3ヶ月前の説明会でも別のアナリストが範囲を聞いています。今回の財務責任者の言葉はこうです。
「私たちがはるかに重視しているのは、粗利の金額と営業利益の金額、そしてその推移です」
「収益化より先に投資する時期は、これからもあります」
次の質問者が、同じ論点をもっと強く押しました。売上は大きく伸びているのに、営業利益率は12.4%から12%へ下がっている、いつ利益率に表れるのか、と。
財務責任者は、今年3月の課金開始の前にも粗利率を下げ、課金後の4〜6月期に粗利の金額の伸びが加速した例を挙げました。
「7〜9月期に行った投資の一部は、10〜12月期に粗利の金額へ変わり始めます」
「私たちの投資の考え方については、長期の視点で見ていただく必要があると思います。これまでに結果で示してきた考え方で、提供にかかる費用の面でも効率を上げられています。ですから、この方針を貫くつもりです」
答えたのは粗利の金額で、利益率がいつ上がるかは言っていません。
粗利率が85%から82%へ下がった直接の理由は、はっきりしています。正式提供の前に、エージェントの計算費用を会社が負担したからです。3ヶ月前の時点で、当面の粗利率は四半期ごとに振れると予告していました。隠していたわけではありません。ただし「収益化より先に投資する時期は、これからもある」と言っているので、今回限りとも言えません。
7〜9月期の数字には、方向の違う要素が入っています。売上の伸びには2025年の値上げが残っていて、これは2027年1〜3月期までに抜けていきます。営業利益には社内のAI費用の節約が入っていて、会社はこれが通期の見通しにも続くと説明しました。逆に、粗利率は正式提供前のエージェントの費用負担で押し下げられ、売上は8月の値下げで削られました。良い方にも悪い方にも動いていて、差し引きがいくらなのかは説明の中で出ていません。
粗利の伸びと、ドローダウンの事例を次に確かめます
次の説明会で1つでもこうなっていれば、有料にしたことがまだ稼ぎにつながっていないと読めます。
- NDRが130%を割る
- 売上の伸びと調整後の粗利の伸びの差が、売上+43%に対して粗利+36%だった今回の7ポイントより開く
- 財務責任者が「10〜12月期の更新で出てくる」と言ったドローダウンで、約束額を増やした事例が語られない
逆に、大きく前へ進む形も1つあります。AIクレジットの売上が、倍率でなく金額か比率で初めて開示されることです。
エージェントが有料になってから、この説明会までまだ1ヶ月足らずです。利用の数字は強く、売上と利益への効き方はまだ数字になっていません。
3社の倍率が、いつ金額に変わるのか。次の説明会でも、今回の言葉と横に並べて確かめていきます。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。